最終更新:ID:bquMVGw66A 2012年11月03日(土) 21:42:39履歴
小話「続・長期出張中」 BYアヤ
病院に置いてある様な、硬そうなベンチの背もたれに、身体を預けきった男が一人。
「お疲れ、早乙女。ほら、よ。」
目の前に差し出されたのは、暖かそうな湯気を上げたコーヒー。
自動販売機のものにしては、かなり良い匂いがしている。
「うす。お疲れ、っす。」
紙コップを受け取ると、隣に隊長がどかっと座った。
隊長と言っても、オズマではなく対特務部隊戦闘訓練の隊長である。
ここは、地球軌道上を周っている宇宙ステーション。
各船団から選抜されたパイロットの戦闘訓練所だ。
受け取ったコーヒーを一口飲めば、かなり美味いコーヒーだった。
「・・・美味い。」
「当たり前だ!本物のコーヒー豆の上物だぞ。」
そんな貴重なものが、何故ここにあるんだ?
「俺が責任者の間は、ステーション内好きにカスタマイズさせて貰うさ。」
職権乱用だが、な。
そう言って笑って、コーヒーを飲む隊長は、やはり童顔だ。
俺やミシェルと比べても、違和感の無い容姿をしているのに、もうすぐ40歳だという。
「それにしても、騒がしかったなぁ。」
「あんたも、でしょうが。」
ランカが俺の嫁だと、つい先刻バレた。
ランカとの通信が終了すると同時に、通信室から屈強な男どもに引っ張り出された。
「おいっ、あれは本物なんだよな?」
「どこで捕まえたんだよ!!」
「羨まし過ぎるぜ、早乙女〜!!」
野太い声の男達が、ピーチクパーチク五月蝿い事。
覚悟はしていたが、こうも五月蝿いとは。
「ランカちゃんの抱き心地は、どうなんだよ!この色男、がっ!」
「誰が言うか、馬鹿野郎!お前らだってほとんど妻帯者だろうが!」
「「「それとこれとは別だ!」」」
そういって、あれこれと質問攻め。
下世話な話に、いい加減にキレそうになった頃。
「黙れっ、この馬鹿共が〜!!」
隊長の怒声が、宇宙ステーションを震わせた。
「た・・隊長?」
「この件に関しては、重要秘匿情報である。一言でもこの件が漏れた場合は・・・。」
「「「場合は・・・?」」」
ゴクリと、皆が生唾を飲み込む。
「反応弾で、俺様直々に蒸発させてやる!」
最高の凶悪顔だった。
「「「・・・・・。」」」
「分かったな?ん〜?」
「「「イエッサー!」」」
静まり返った中で、一人呆然としていた。
てっきり隊長も騒ぎ出すものと、思っていたからだ。
「実は隊長、・・・ランカ・リーのファンクラブ会員なんだぜ。」
隊長と長く飛んでる、古株の男が耳打ちしてきた。
「早乙女がどうなろうと知ったこっちゃないが、ランカ・リーに迷惑がかかる事だけは、絶対に許さん!」
そう言い切った隊長は、オズマを彷彿とさせた。
隊長職の人間って、似るものなのか・・・?
「そういや、あんた知ってたんですね。」
「お前の嫁がランカ・リーだってことか?」
最初こそ驚いていたものの、その後は落ち着いて黙している状態だった。
「まあ、生身の人間預かってここの隊長やってるんだ。預かっている人間の情報は、頭に入れてるさ。」
「それにしたって・・・。」
「戦いに情報は必要不可欠だぞ。情報量が戦術を確かなものにするんだからな。」
まあ、俺みたいに何でもかんでも情報集めちまうのは、最早病気の域だけどな、と大いに笑っていた。
「それにしても、お前がランカ・リーと結婚ねぇ。」
「結局隊長も、か・・・。まあ、あんたにならいいですけどね。」
「で?」
好奇心旺盛な、こって。
「ランカとは、学生の・・あいつがデビュー前からの馴染みなんですよ。」
シェリルがフロンティアに来艦した時から、俺達の生活は変わった。
良くも悪くも。
バジュラとの旅で8年を費やし、俺はフロンティアに戻った。
「じゃあ、嫁さんを8年もまたせたのか?」
「まあ、そうなりますが。でも、彼女と付き合い始めたのは、再開してからですよ。」
「・・・ああ、シェリル・ノームか。」
「あんた、どこまで知ってるんだ?」
「さあ、な。」
食えない童顔のオッサンだ。
握った紙コップの茶色い液体に移る自分の顔を、じっと見つめながら考える。
俺を待たなくても、きっとランカには良い出会いが合ったはずなんだ。
俺はあの時、ランカではなくシェリルを選んだ。
そんな俺なんか、さっさと忘れても良かった。
もう帰らない決意もしていたんだから。
なのに、あいつは俺の為に歌っていた。
その歌声に導かれて、俺はフロンティアに戻ってこれた。
「今になって気付くことが、結構ある。」
ランカはいつも俺の味方で、俺とシェリルの想いを読み取って背中を押してくれていた。
ランカの想いを告白されて、やっと知った様な俺の為に。
「8年。俺はあいつに何もしてやれなかったのに、あいつは待ってた。・・・たまんないです。」
もしも、俺がランカ以外の誰かを選んでしまっていたら。
それでも、何も言わずに友人として傍に居たんだろうか。
「そう思うのも、今が幸せだからだろ。もしもとか考えたって、考えるだけ無駄ってもんだ。」
そう言って、残っていたコーヒーを飲み干していた。
「まあ、嫁さん泣かすな。その為にも訓練に励め。」
「・・・?」
「パイロットが、一番に考えなきゃいかんものは、何だと思う?」
「敵に勝つこと。」
「そりゃ、そうだ。だが、違う。・・・生きて帰ることだ。」
敵を倒し、味方を助け、艦を守り死んでいく。
それで終わりだが、パイロットとして本望だろう。
しかし、俺達には帰りを待つ人がいる。
生きて帰る為の力。
それが、パイロットとしての必須条件ということか。
「その為の力は、みっちりしごいてお前達にやる。覚悟しておけ。」
「・・・イエッサー。」
そろそろ寝るかなと、紙コップをダストボックスに放り投げ、隊長は背中を向けた。
「そうそう。お前が死んだら、ランカ・リーは俺が貰ってやるから安心しろ〜。」
「誰がっ!?」
恋人がいるくせに、何言ってやがる。
誰が、そうやすやすと死ぬものか。
手の中で潰れた紙コップが、コーヒーを滴らせて。
「だぁ〜。俺も寝る。」
すぐにまた、ランカと話したくなった。
「・・・ねえ、アルト君?」
「何だ?」
「また、公開中なの?」
3日後の定期通信日。
画面の向こうでは、ランカが眉を八の字にして、困っていた。
「後ろのは、全て無視しろ。ただの置物だ。」
「無理だよぅ。アルト君〜。」
後ろでは、口外しなければ問題無しと、瞳を輝かせたムサイ男共。
ミシェルは有る事無い事、喋り回っている。
ある意味カオスだ。
「頼む。ガマンしてくれ。」
「アルト君のバカ〜。」
米神をヒクつかせながら、早く帰りたいと思うアルトだった。
END
このページへのコメント
隊長って顔に似合わず中身はオズマみたいに屈強なんではと久々に読んで思いました。
しかし、ランカちゃんのファンクラブ会員で情報知りすぎとか、アルトが悩みそうです。
でも『変わりにランカを嫁に貰ってやる』なんて言われたらアルトが、余計にやる気出すと思います。『ランカを手放してたまるか』みたいな
童顔の隊長、情報知りすぎる。
嬉しいコメントありがとうございます(^O^)
TV版最終回後のお話しは前から書きたいものがあるんですがなかなかまとまらないので気長に待っていただけると嬉しいです(^◇^)┛
他にもちょこちょこ書けたら投稿したいと思うのでよろしくです。
最高です!アヤさんの話を見るたびピクシブでアルラン絵の投稿頑張ろうって思います!
アヤさん
もう1個
お願いしてもいいですか?
本当に出来ればなんですけどTV版の最終回後のアルラン書いてもらえませんか?
アヤさん自分に希望をください(新未来のランカセリフ)ww