最終更新:ID:ua4BptOMXw 2012年05月08日(火) 21:52:22履歴
小話「父親の苦悩」 BYアヤ
「ねえ、パパ!」
「ダメだ。」
「ヤダ!」
「ヤダじゃない。ほら、手を動かせ。」
ユウとミユキに子供用のエプロンを着けてやって、一緒にキッチンに立つ。
ユウが手伝いをしたがれば、ミユキもついてくる。
踏み台と椅子に立たせてやって、二人は真剣になってカタンカタンとお手伝いだ。
その合間に、ユウのお願い攻撃が入る。
が、俺はユウのお願いに賛成できない。
「あっママだ!」
「ママ〜。」
小さい子供は気配に聡いものだ。
それが自分の母親ともなれば特別かもしれないが。
「ただいま〜。」
ガチャガチャと鳴らせて玄関を開ける音がした時には、子供達の足音が玄関に向かっていた。
「「ママ!おかえり〜!!」」
「ただいま!二人とも今日はコックさん?」
「そう!お料理したんだ。」
「したの〜。おほしさま〜。」
「??」
子供達の後ろで型抜きのジェスチャーをすれば、通じたらしい。
今日はカレーだ。
子供達に包丁を持たせることはまだ出来ない。
そこでプラスチック製の型抜きを渡して、輪切りにした人参やパプリカをお星様に。
「そっか〜。お星様いっぱいできた?」
「もうちょっと、作らないとな。ミユキ出来るか?」
「うん。やる〜。」
ミユキを抱き上げて、キッチンに向かう。
「ねえ、ママ。・・あのね。」
「なぁに?ユウ。」
後ろではユウが、今度は母親であるランカにお願いを始めた。
いつかこのお願いをされる日が、来るんじゃないかって思ってはいたんだ。
それが、今日だっただけなんだが。
頭がイタイ。
世間の休日と俺の休日が偶然合って、子供二人を連れて実家に来ていた。
ランカは、泣く泣く仕事に出掛けてった。
まあ、泣く泣くは冗談だ。
親父と一緒に昼食を食べて、ミユキを昼寝させたトコ。
「ミユキ、おじいちゃんと〜。」
親父の膝の上で、はしゃぎながらご飯を食べてた。
昔だったら怒ったトコだろうに、親父も孫娘には甘いらしい。
そういえばユウの姿が見えない。
勝手に外に出てく事もないから安心はしている。
兄さんの邪魔になってないと良いが。
確か、新しく公演が決まって、稽古場ではまだ稽古が続いてるはずだ。
「呼びに行くか。」
そして俺は、アレを見たんだ。
指先までぴんと伸びた手。
傾けた首の角度。
足の運びもしっかりと、クルリと周り決めたポーズ。
幼い頃の自分を見ている様で、何とも言えない気持ちになる。
大人の稽古を除いただけで、一丁前に舞ってしまうその才能。
やはり「血」なのか。
歌舞伎役者の血。
稽古場の前の廊下で、ユウは見よう見真似で舞っていた。
稽古場の中では、早乙女嵐蔵として兄さんが弟子に厳しく稽古をつけている。
普通なら、廊下に居たって怖いだろうに。
それでも、ユウは舞っていた。
「あっ、パパ!」
キラキラと瞳を輝かせて、俺を見るユウ。
息子が言い出す言葉は、もう分かってた。
「僕も歌舞伎やる!」
皆で夕食をとり、ユウのお願いを何とか落ち着かせて、寝かしつけた。
今はリビングで、ちびちびと酒を飲んでいた。
父親として、息子の応援をしてやるべきなのは、分かっている。
だけど、素直に応援できそうも無い。
俺自身が、十分苦しんだから。
誰だって同じ苦しみを、味あわせたくは無いだろ?
「アルトくん。眉間にシワ!」
いつの間にか、隣に座っていたランカ。
シワ消えなくなっちゃうよ〜、なんて言いながら俺の眉間を擦ってる。
「どうしてもダメ?」
「分かるだろ・・・。」
「だけど、どの道を選んだって苦しまないなんて、無いんじゃないかな?」
「選び取った今だって、楽しいばかりじゃないんだし。」
そう、俺は飛ぶことを選んだ。
選んでからも、それなりに悩んで苦しんで。
今だって、まだ悩む。
その苦しみは自分のものであって、ユウにはユウの人生がある。
深い溜息しか出ない。
「応援してやるしか・・・ないんだろうな。」
「うん。まだまだ先は長いんだもの。」
大人になって、俺の様に違う夢を追い駆けるかもしれない。
そのまま、まっすぐ歌舞伎の道を進むのかもしれない。
「躓いてしまったら、一歩を踏み出す手助けをしてあげれば良いんじゃないかな?それが親である私達の仕事。でしょ?」
「ああ、そうだな。」
ランカの肩を抱き寄せて、残ってた酒を一気に煽った。
ユウもミユキも大人になるまで、まだまだこの先長い。
いろんな事が起こるんだろうと、想像するだけで頭が痛い気もする。
一気に煽った酒のせいだと思いたい。
「しっかりしてね。お父さん。」
「サポートは任せた。お母さん。」
「了解!お任せあれ!・・なんちゃって。」
強く抱き締めたランカから、痛いよ〜なんて声がするけどまだ離せないな。
俺の人生にランカが一緒にいて。
この道を選んで、本当に良かったと思う。
きっとこの先もずっとだ。
END
このページへのコメント
はじめまして、アルラン大好きです。
お父さんになったアルトとお母さんになったランカと子供達和みました。
歌舞伎やりたいって強気なユウくん可愛いですね。
おはようございます♪紫陽花です♪
見てない間に進んでいてびっくりです。
アルトも苦悩していますね。隣にランカちゃんがいてよかったですね
やはり父親になると、苦労するんですね。自分の道について、一番いい事はランカちゃんと一緒になれたことですね
これからも悩みながら、ランカちゃんと歩んでほしいです♪
いつもアルラン小説、ありがとうございます♪