最終更新:ID:ua4BptOMXw 2011年06月30日(木) 20:54:58履歴
「新未来2」 BYアヤ
俺がランカに会えたのは、フロンティアで目を覚まして3日後の夜。
子守唄が聞こえて夢の世界から少しずつ浮上して薄らとまぶたを開いた。
子守唄の音源を捜せばすぐにその姿を見つけられた。
16歳だったランカの面影が重なって消えた。
短かった髪は長く背中に垂れて、すらりとした肢体は少女のものでは無く大人の女性らしい曲線を描いている。
そして深みを増した澄んだ歌声。
ふと歌が途切れると振り返ってランカがふわりと笑った。
「ごめんね。起こしちゃったね。」
ランカはこんな風に綺麗に笑う娘だっただろうか。
いつも傍にいた一番身近だった元気な女友達。
過ぎ去った年月の空白に少し戸惑った。
「忙しくてこんな時間しか取れなかったの。」
俺が枕を背もたれにして起き上がると、備え置かれていたベッド脇のパイプ椅子にランカは座った。
「アルトくんの体調はどう?」
「俺は大丈夫だ。お前は忙しそうだな。キツクないか?」
「全然。ゼントランのクォーターだからね。」
「そうだったな。」
「皆には会えた?」
「ああ。入れ替わり立ち代わりで忙しかったよ。」
重い瞼を押し開いて見えた世界は一変していた。
漆黒の宇宙空間を、進展地を目指すバジュラ達と銀河を渡っていたはずだった。
なのに、気づけば無機質な白い空間に俺は横たわっていた。
白い天井から目線をずらせば、あの日別れたシェリルにミシェルやルカをはじめとするSMSのメンバー達。
俺を勘当した親父や兄さんまでもが俺を見下ろしていた。
「あの・・・シェリルさんには・・・」
「会った。婚約したのも聞いた。幸せそうで良かったよ。」
号泣され、ごめんなさいを連呼されたあと婚約したのだと告げられた。
「ごめんなさい。シェリルさんの背中押したのは私なの。」
「それも聞いた。シェリル自身も悩んでランカに相談したんだ。お前は最良のアドバイスをしたさ。シェリルとは生きて会えるとは思ってなかったし、俺自身帰ってくるなんて想像もしてなかったからな。」
シェリルの病気のことも余命も知っていた。
死ぬのなら舞台の上で、と言ってのける芸に生きる女。
だからこそ生きて芸以外の幸せを手に入れた事に心から俺は喜べた。
不思議と心乱れる事は無くて内心驚いた。
シェリルへの気持ちが消え去ってしまった訳じゃあない。
只それだけの月日が経っていたって事だ。
兄さんと親父も来ていて正直驚いた。
勘当されてから一度も連絡取らなかった親父。
「この親不孝者が・・・。」
厳しい芸一筋の顔しか見せなかったその親父が泣いていた。
「有人さん。無事の帰還お待ちしていましたよ。」
「親父・・・兄さん・・・。」
何か言わなくちゃいけないのに声が出なかった。
兄さんは小さくなった親父の肩を抱いて病室から出て行った。
オズマ隊長やミシェルにルカ。SMSの主だった隊員達からは「この大馬鹿者が〜。」と、揉みくちゃにされた。
近況として今もSMSとして活躍していること。
オズマ隊長がキャシー中尉と結婚してもう二児の父親になっていることにはヤッパリな、思った。
まあ、あのランカを育てたのだから良い父親なのだろう。
ルカがランカのマネージャーのナナセを長期計画で口説き落としたことにはハッキリ言って驚いた。
あのベビーフェイスでもイタリア男だと豪語するだけあったんだな。
ミシェルとクランが結婚したことに驚きは無かった。
あの仲の良さを見せ付けられていれば自然とそうなるだろう事は分かっていた。
俺の知らない8年間。
年月の隔たりをモロに感じた。
最後まで残ったミシェルとは面会時間ギリギリまで話しをした。
「あれから大変だったんだぜ。この惑星の開拓事業に生態系の調査とか、やる事てんこ盛り。でも、仲間内で一番大変だったのはランカちゃんだろうな。」
ミシェルは一瞬押し黙るが、躊躇しつつも口を開いた。
「あの日から彼女変わったよ。あの甘えたお子様だった娘が一気に大人になっちまった。」
自分の事は二の次で身を削ってシェリルの治療をして、チャリティーコンサートに復興事業に駆けずり回ってオズマ隊長が強制休暇とらせるくらいだった。
「ランカちゃん泣かないんだ。あの日から8年間だぜ。目覚めたばかりのお前に頼むこっちゃないが・・・泣かせてやってくれよ。」
「ミシェル。俺は・・・。」
「別にランカちゃんとどうこうなれなんて言わないさ。只、彼女にとって日常の象徴ってヤツがお前なんだ。安心させてやれよ。」
精一杯気を張ったランカちゃんがいつか壊れてしまいそうで見ている方は辛くてな。
そう言ってミシェルは帰っていった。
消灯時間が過ぎてもミシェルの言葉が頭から離れることは無かった。
「ランカ。お前の8年間はどうだったんだ?辛くは・・なかったか?」
「もしかして、ミシェルくんあたりが何か言っていた?」
「否・・そうじゃないけど。」
「フフッ。ずっと走り続けてあっという間だったよ。」
「お前、見違えた。そんな風に綺麗に笑う様になったんだな。」
「もう24歳だもの。」
「あの頃のお前は表情がころころ変わって、泣き虫だったのにな。」
「・・・アルトくん?」
「ランカ。もう走らなくていいんだぞ。」
ランカが俯いてスカートを握り締めるのが見えた。
「あの時・・・もう二度とココには戻ってくることは無いと思っていた。」
「うん。何となくそうなんじゃないかなって思ってた。」
「そうか。だけどな。途方も無い時間の中、お前の歌が聞こえていた気がしたんだ。」
ランカの歌が俺を繋ぎ止めていたのかもしれない。
そして、俺はココにいる。
「だからかもな。帰ってきちまったな。俺。」
「馬鹿〜。」
ランカはベッドに横たわる俺に抱きついて泣いた。
8年ぶりに子供の様に泣いた。
「お前、頑張りすぎなんだよ。」
「だって、アルトくんに合うとき胸を張れる自分でいたかったの。」
「もう会えないかもしれなくても、会えるのが天国って所だとしてもアルトくんに褒めて欲しかったから。」
「ランカ・・・よく頑張ったな。」
「アルトくん、ココに居て。ココで笑っていて。ココで生きて。」
「せっかく帰ってきたんだ。ココで生きていくさ。大気のある空も満喫したいしな。」
アルトはランカの長くなった髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
ランカは嬉しくて涙でくしゃくしゃになった顔で笑った。
「お帰り。アルトくん。」
「ただいま。ランカ。」
未来の俺たちがどうなっていくのかなんて分からない。
でも、ここからまた新しい未来が始まっていくのを二人で感じていた。
続く
このページへのコメント
すてきです
続き楽しみです
こんな物語が読めるとは・・
うれしいよ〜
作者様ありがとうございます
私の妄想にありがたいコメントいただきありがとうございます。読んでくれる人がいるんだと思ってすごく嬉しいです。アルランでハッピーエンドが目指すトコなので頑張って続きを書きたいと思います。
こんな素晴らしいアルラン小説書いてくださって(しかも「あの」劇場版END後の設定)、アヤさま、本当にありがとうございました!劇場版ENDを無視したって言われても、私はこの展開の可能性が低くないと思いますけど。これからアルラン二人がどうなるかなってすごく気になりますね。わがままな注文分かっていますが、どうかハッピー・エンドよろしくお願いします!