最終更新:ID:ua4BptOMXw 2011年11月12日(土) 10:49:38履歴
「続・新未来5」 BYアヤ
今でもあの時の事を夢に見る。
ほの暗い冷たい星の海。
バジュラ達と共に旅をした。
コミュニケーションはとれても、人間は俺一人。
温もりを求めても俺は一人。
酷く落ち込んだり、悲しみや寂しさに負けて狂いそうになる。
そんな時ほどランカの歌が聞こえてきた気がした。
ランカの歌声が俺を包んで、狂い出しそうな俺を繋ぎ止める。
「ランカ・・・。」
太陽と青い海、緑の大地。
皆の笑顔と、花嫁姿のランカの笑顔と涙。
全てがぐるぐると廻って、何もかもが夢の様だ。
「夢?」
どっちが?
分からなくなる。
沈んだ意識が急浮上すると同時に瞼が押し開かれる。
酷く呼吸が乱れて、汗が首筋を伝って枕に吸われていく。
長かった髪はもう短い。
腕の中には妻となったランカ。
ああ、今日もまた。
「大丈夫。ココに居るよ。」
魘された後は、何時だってランカが強く抱きしめてくれる。
私も俺も、ココに居る。
ランカだって過去を思い出しては苦しんでいる。
なのに、笑うんだ。
「アルトくんがいるから大丈夫。」
二人で支え合う為に夫婦になった。
なのに、妻に甘えきっている自分が情けないと思う。
傍にいると守ると誓ったのに大事な時に傍にはいられないのか・・・。
「対特務部隊戦闘訓練?」
「そうだ。」
執務室のデスク前にて俺とミシェルの二人がこの部屋の主であるオズマと対面していた。
「地球軍の特務部隊は知っているだろう。」
愛読している銀河航空ジャーナルにも度々特集は組まれてはいるが、結局のところ特務部隊だけあって全容は知れない。
ただ、地球軍の中でもずば抜けた戦闘能力を有している事は広く知られているのだ。
「各船団から選抜されたメンバーが地球軍特務部隊との戦闘訓練に参加できる。」
「フロンティアの民間軍事プロバイダからはミシェルとアルトの二名が選ばれた。これは地球からの名指しでの選抜だ。」
名指しでの選抜とくれば戦闘能力の高さが認められたことになる。
飛行機乗りとして認められるという事はかなりの名誉である。
「期間は?」
「3ヶ月間。今から二ヶ月後には出発してもらう。体の良い当て馬ってところだがお前達のスキルアップには必ず役立つだろう。」
「俺達に参加の是非は?」
「無い。・・・と言いたいところだが強制では無い。ミシェルもアルトも家族と良く話し合ってこい。」
三ヶ月間は長い。
だけれど、体の奥から湧き上がってくる高揚感があった。
オズマの執務室から出るとミシェルが問いかけてきた。
「アルト。お前は行くのか?」
「お前こそどうなんだよ。」
ミシェルは歩き出すと軽いため息を吐いて、髪を掻き揚げた。
「クランとジェシカから離れるのは正直辛い。が、クランは行けって言うだろうな。まあ、俺も行きたいとは思ってるし。お前だって行きたいんだろ?」
「・・・ああ。」
確かに湧き上がる高揚感は確かだ。
自分の力を試せるチャンスをそうそう逃せない。
逃せないのだが・・・。
「ランカちゃんか?たかが三ヶ月、されど三ヶ月だしな。」
まだまだ新婚で、傍にいると誓ったばかりだ。
共に働いて多忙を極めれば、すれ違ってしまう日だってあるのは当然の事。
けれど、数日会えないのと三ヶ月会えないのでは雲泥の差だ。
8年間行方不明になっていたのは、まだ数年前の話。
期間限定と言えども、またランカに心配をかけてしまう日々が続く事になる。
「そろそろ子供の事だって考え始めてるんだろ?辛いね〜新婚さんは!」
「ミシェル!!」
「夫婦になったんだから、勝手に決めずにちゃんと話し合えよ!」
俺の背中をバシバシと容赦無く叩いて、ミシェルは帰路に着く為に通路の奥に消えて行った。
「ただいま。」
定時に仕事を上がって家に帰れば、旨そうな匂いが玄関まで漂っていた。
今日はランカの方が先に帰って来ていた様だ。
「お帰りなさい。アルトくん。」
パタパタとスリッパを鳴らして抱きついてくる。
こういう所は変わらない。
「あのね、アルトく・・・ん?どうかした?」
「ん?」
「何かあった?」
「否、良い匂いだな。」
「すぐご飯できるからね。」
「じゃあ着替えてくるな。」
ランカの頭を撫でて、寝室に向かった。
ジャケットを脱いで、ジーンズとTシャツに着替えた。
ジャケットをハンガーに掛けながら視線を変えれば、開かれたアルバムがベッドに広げられていた。
「結婚式のか。」
ミシェル、クラン、ルカ、ナナセ、シェリルからのプレゼントだ。
ランカと俺の誓いの口付けの瞬間やら、ブーケトスの写真。
確かナナセがブーケをキャッチして、ナナセとルカを皆でからかったな。
それから披露宴でのランカの着物姿。
俺の親父から贈られたもので、俺の母親が愛用していたものだ。
その着物姿と満足気な親父の笑顔。
いろんな笑顔と共に、学生時代の隠し撮りショット等など。
ニヤけた顔の俺と出前に来たランカとの写真など恥ずかしくて仕方ない。
ミシェルに言わせれば、この頃から良い雰囲気だしときながら今になってやっとランカを手に入れた超鈍感男だそうだ。
「アルトくん!ご飯出来たよ〜。」
「今行く!」
アルバムを閉じて、寝室から出・・・。
「おっと。」
躓いてパコンッとフローリングの床にプラスチック製のゴミ箱が倒れてしまった。
少し散乱してしまったゴミの中に見慣れない白い箱。
「ん?これは・・・。」
「どうだった?」
「ああ、旨かった。また腕上げたんじゃないか?」
「ふふっ。お粗末さまでした。」
ランカが作った和食のご飯は全部胃の中に納まって満腹だ。
食後のお茶を啜りながら、職場から持ち帰った書類を食卓に出した。
「ちょっと話があるんだ。」
「三ヶ月・・・。」
例の三ヶ月間の戦闘訓練の話をランカは真剣な顔で聞いていた。
話終えた俺の目を見て、少しの沈黙の後にふわりと笑った。
「大丈夫だよ?連絡が一切取れない所へ行くわけじゃないんだし。」
「三ヶ月間だぞ?」
「・・・行きたいんでしょ?何時も読んでる銀河航空ジャーナルにその手の特集よく出てたし、付箋付けてたもんね。」
気付いていたんだ。
俺が愛読している雑誌にランカが興味引かれるものなんて載って無い。
「ふふ。夫婦だもん。気付くよ?・・・そりゃあ寂しいとは思うけど私がアルトくんの帰る場所なんでしょ?だから待ってるから。」
「ランカ。」
言葉にしなくても感じ取って貰えてる事が嬉しくて、俺の我侭を許してくれるランカに感謝した。
が、結論はコレの意味を聞いてからだ。
「じゃあ、ランカも話そうな。」
「えっ?」
ポケットに突っ込んでおいた白い箱をテーブルに出した。
「あ〜、コレ!!」
「ゴミ箱倒しちまって見付けた。箱には何て書いてある?」
笑顔でズイッと白い箱をランカの目の前に突き出して、指差した。
「・・・ニンシンケンサヤクです。」
「ランカ、さっき帰って来た時何か言いかけてただろ?・・・夫婦なんだからちゃんと話そうな!」
「はうっ・・・ちょ、ちょっと待ってて。」
ランカはキッチンに駆け込むと戸棚の引き出しを開けて戻ってきた。
テーブルに出されたのは白いスティック。
表示部分には赤い線が入っていた。
「生理遅れてたし、ちょっと微熱があってもしかしてって。さっき検査薬使ってみたら陽性だったの。」
「じゃあ、何で長期訓練に賛成したんだよ!これから大変になるんだぞ!」
「言ったらアルトくん絶対行かないって言うでしょ!それにまだ、はっきりしたわけじゃないもの。」
涙目になっているランカを見て、軽いため息を吐いた。
「暖かい上着着て来い。」
「へ?」
「軍病院ならまだ診てもらえる。話はハッキリしてからな。」
ランカに暖かい上着を着せると、病院に向けて車を走らせた。
病院では出発前に連絡を入れていた為、ランカの主治医でもあるカナリアが準備して待っていた。
ランカが診察室に入ってほんの数分だろうか。
すぐに俺も入るように呼ばれた。
そんなに直に判明するものなのか?
あっけなくランカの妊娠が告げられた。
「おめでとう。安定期に入るまでは無理は禁物だからな。アルトに長期訓練の話が入っているだろ?二人で良く話し合え。」
「ありがとうございます。」
妊娠初期の注意等を聞いて、二人で病院を後にした。
駐車場まで来ると俺はランカを思い切り抱きしめた。
「アッアルトくん?」
「やったな、ランカ!よくやった!」
「喜んでくれるの?」
「バカ。当たり前だろ!お前は嬉しく無いのかよ。」
「嬉しいに決まってる!アルトくんが喜んでくれて凄く嬉しいよ。」
涙声でぎゅうっと抱きついてくるランカが愛しい。
ランカのお腹に二人の子供が宿っているなんてまだ不思議な気もするが。
問題は先の話。
「なあ?安定期過ぎるまで俺は帰って来れないんだぞ。本当に大丈夫なのか?」
ランカはかなり頑固だ。
妊娠が決定しても俺に行けと言うだろう。
「周りに経験者がいっぱいいるし、お兄ちゃんもお義父さんも居る。私一人じゃないよ。」
「そうだな。・・・毎日連絡する。怪我もしない。無事帰ってくるから留守とお腹の子供のこと頼むな。」
「はい。」
綺麗に笑うランカに唇を落とした。
「それで?決まったか?」
オズマの執務室で再びミシェルと二人オズマ隊長の前に立った。
「「はい。行きます。」」
「分かった。そう返答しておく。」
これで決まった。
もう一つ伝えなければならない。
「あぁ〜・・義兄さん。」
「おい。・・・背中がぞわっとしたぞ。」
「・・・俺もです。」
「?」(ミシェル)
「その呼び方するって事はランカか?」
「ランカのお腹に子供が出来ました。」
「何っ!!」
「ヒュ〜。仕事速いねぇ。」
「俺にどうしても行ってこいって言ってくれたから。安定期過ぎるまで帰って来れないので、よろしくお願いします。」
あの後、祝杯だといってブリーフィングルームのバーに連れ込まれてしこたま酒を飲まされた。
オズマ隊長には怒りとも喜びとも取れる愚痴を散々聞かされた。
そうして二ヵ月後。
俺とミシェルは地球に向けて愛機を飛ばした。
「留守頼むな。お腹の子供もな、奥さん。」
「了解!無事に帰ってきてね、旦那様。ふふっ。」
見送りにきたランカを抱きしめながら隣を盗み見れば、クランと子供を抱きしめて話さないミシェルの姿。
あのミシェルも、家族の前ではただの良い家庭人だった。
俺もそうなっていくんだろう。
LAIの新型機のおかげで地球までフォールドすれば本当に短時間。
俺はランカを守って包み込んでいてやりたいと思ってる。
なのに、気付けば守られて甘やかされてるのは俺なんだ。
まだまだ、チカラが足りない。
精神的にも、もっとチカラをつけなければ。
再びランカを抱きしめる為に無事で帰ってこなければ。
ランカが俺の翼で、帰る場所なのだから。
続く
このページへのコメント
はじめまして!いつもアヤさんの小説楽しみにしてます!アヤさんの小説とても素敵です!!わたしもアヤさんの様にいつか素敵なアルラン小説を書けたらと思います。大変でしょうが、続きも頑張ってくださいね!応援しています。
はじめまして☆
タヌ吉と申します♪
アルランが大好きで『続・新未来』の小説が大好きで見ています☆話の続きが楽しみです♪♪♪
コメントありがとうございます。やっぱりコメントが入っていると頑張って書くぞ〜って思いますね。拙い小説ですが続きも読んでいただけると嬉しいです。続き頑張って書きますね〜。
初めまして。紫陽花と申します。このアルラン小説が好きで、読ませて頂いています。ランカに支えられてますね、アルトはお互い、支え合っていける二人が好きですどんな話になっていくのか、楽しみです大変でしょうが、頑張って下さいね