最終更新:ID:ua4BptOMXw 2011年11月22日(火) 10:32:59履歴
「続・新未来6」 BYアヤ
幸せって本当は怖いものなんだね。
最近、私は朝一番に必ずする事が出来た。
それは、日々大きくなっていくお腹を撫でる事。
特別夢に魘されるわけじゃないの。
只、目覚めたら全てが夢なんじゃないかって怖くなるだけ。
大きく膨らんだお腹を撫でて、すぐ傍にアルトくんの体温を感じてやっと安心する。
無意識に私の肩やお腹を撫でていくアルトくんの手。
少しごつごつしていて、優しい大人の男の人の手。
何でだろうね?
愛しいって気持ちが溢れて止まらない。
「ただいま戻りました〜。」
立派な門を潜って、純日本家屋の戸をからりと開けた。
玄関でヒールの無い靴を脱いでいると、奥からお義兄さんが来てくれた。
「早乙女嵐蔵」を襲名しても、マメな人だ。
「お帰りなさい。ランカさん。」
矢三郎さんが見かけによらない強い力で身体を支えてくれる。
大きくなったお腹を抱えて、日本家屋の段差は少々厳しい。
さりげなく手助けしてくれる矢三郎さんには感謝しているの。
「お茶入れますから、ひと休みしてくださいね。」
「ありがとうございます。」
臨月を迎えて私はアルトくんの実家にいる。
アルトくんが仕事で出ている間の安全確保の為。
過保護だなと苦笑しながら、この家に暖かく迎え入れて貰えて嬉しく思う。
長期訓練から帰って来たアルトくんは、お腹が膨らみ始めた私のお腹を見て感動してたっけ。
お腹を赤ちゃんがぽこぽこと蹴りだしたのが楽しいらしいの。
しばらくは、私のお腹を触るのが癖になってたな。
悪阻はすごく軽くて、仕事もエルモ社長が色々と手を回してくれて早々に産休に入った。
エルモさんには、本当に良くしてもらっている。
「プロダクションと歌手は一心同体デス。何にも心配イリマセン。」
派手な眼鏡をキラリと光らせて、ニカリと笑って言ってくれた。
復帰したら、もっと頑張らなくちゃ!
産休の間も新曲の作詞はしてる。
でも、赤ちゃんの影響かな?
歌詞が今までとは少しづつ変化してるみたい。
「お義父さん。ただいま戻りました。」
「お帰り。」
縁側に座っていたお義父さんの隣に腰を下ろした。
「順調かね?」
「はい。標準より赤ちゃんが小さいらしいんですけど、元気に育ってます。もうすぐ予定日だから楽しみです。」
お腹を撫でながら話す私の隣で、お義父さんはふっと微笑んでくれた。
「あれの母親も君の様に大きく育っていくお腹を撫でては笑っていた。」
「最初こそ不安気な顔をしていたが、次第に母親の顔へと変わっていった。」
写真でしか会った事の無いお義母さん。
同じ様に新しい命を抱き締めて、同じ様に不安と戦っていたんだと知ってちょっと嬉しい。
「美与は体が弱く、出産も危険なのだと言われていた。それでも私は美与を連れて地球を出た。」
「その所為で命を縮めてしまった。芸一筋の不器用な男と一緒になって悔やんでいたかもしれんな。」
お義父さんは、寂しそうに目を閉じた。
「・・・お義母さんは幸せだったと思いますよ。」
「何故?」
「梨園の御家の為、身体の弱い自分と縁を切られてもおかしくはない。それでも自分を連れて傍に置いてくれた。其処にある「愛」に気付かないお義母さんじゃないと思います。」
「そうかね。」
「はい。ふふっ。やっぱり親子ですね。お義父さんの不器用さは、アルトくんにしっかり受け継がれてますよ?」
「そうか。」
初めて見た声を上げて笑うお義父さんの姿。
その目尻には光るものがあった。
「そんな話をしてたのか。」
お義父さんとすっかり話し込んで、アルトくんが帰ってきて慌ててお台所へ。
矢三郎さんの夕ご飯作りを手伝って、楽しい夕ご飯もお風呂も済ませて実家のアルトくんの部屋でもう寝るだけ。
畳に布団を敷いてアルトくんと色んなお話しをする。
眠る前の二人の会話が同棲してた頃からの習慣。
お腹が邪魔して向かい合わせでは腕枕には乗れないけれど、顔を合わせてお話をする。
「親父には厳しく芸を仕込まれた思い出しかないから意外だ。でも、最近はいい感じで話すんだぜ?ランカのおかげだな。」
「私の?」
「ああ。お前は人を和ませるからな。」
「それなら嬉しいな。」
そろそろ寝るか、とアルトくんが枕元の小さなライトを消した。
大きなお腹を支えながらアルトくんに背中を向ける。
背中からアルトくんが私を抱きしめて頭を腕に乗せてくれる。
アルトくんの体温が気持ちよくて、安心して眠りにつけるの。
「アルトくんは子供にどんな風に育って欲しい?」
「そうだな・・・。元気で真っ直ぐに育ってくれたら良いんじゃないか?」
「もし男の子で、歌舞伎役者になりたいって言ったら?」
「途中で逃げた俺は何も言えないな。でも、本人が望むならそれも有りだろ?」
「そっか。じゃあ、お義父さんには長生きしてもらわないとね。」
「そうだな。」
その時、少しお腹に違和感があった。
何となくお腹が痛い?
お腹を撫でてみたけれど、違和感は一瞬だったみたい。
「ランカ?どうかしたか?」
「ううん。なんでも無い。お休み、アルトくん。」
「お休み、ランカ。」
何でもないよね?
目を閉じたら、直ぐに夢の世界に沈んでいった。
「はぁ〜。今日はヒドイ目にあったな。」
「ああ。同感だな。」
SMSのシャワールームに水滴と共に落ちる溜息。
熱い湯を頭からかぶりながら、頭をがしがしと洗うミシェルとアルトの姿があった。
「ルカの奴、うまく逃げたよな。」
「先にオーダー表見て、あっさり指示役に収まっちまいやがって。」
「サウナの中で仕事する趣味はないぞ。ったく。」
久々に運送事業の配達に借り出されたスカル小隊の三人。
一般企業の倉庫移転に伴う必要書類や備品の運搬で、難なく終わる仕事のはずだった。
しかし、問題はその場所だった。
仮倉庫だったらしく、窓は無いし通気も最悪。
身に着けているもの全てが汗でじっとりと湿るほど、本当の意味で汗水流して働いた。
一番先にオーダー表を見たルカは、知らない間に指示役に収まり涼しげな顔で取引先の上役らしい男と談笑中。
親友であろうとも、こればかりは恨めしい。
「アルト先輩!!」
機会音と共に駆け込んできたのは、噂をすれば影。
「ルカ〜!!お前って奴は!」
「今日は許さないからな!」
「ははは・・・二人とも落ち着いて。・・ってそうじゃなくて大変なんですよ。」
「「??」」
「ランカさんが産気づいたって病院から!」
「何っ?!」
確か予定日はまだ来週だったハズ。
「予定は未定ってね。予定通りにいくほうが珍しいんだよ。早く着替えろ。送って行ってやるから。」
動揺した男の運転じゃあ危なっかしいと。
経験者は語る、か?
「助かるよ。頼む。」
「了解。・・ルカ?」
「ハイハイ。報告書は僕がやらせて頂きます。」
「「当然!」」
「もう、早く行ってくださいよ!僕も後で行きますからね。」
ざっと水気を拭って、早々と着替えてルカの声を背中で聞きながら駐車場へミシェルと駆けた。
病院へ着くと直ぐに分娩室へと案内された。
隣接する部屋でも新しい命が産み出されようとしているらしく、赤ん坊の父親らしき男がうろうろと動物園のライオンよろしく行ったり来たり。
出産中の女性の悲鳴が聞こえてきて、俺も一緒になってビクリと震えてしまった。
それに比べて、ランカが居るはずの部屋は静かだった。
「早乙女さんのご主人ですね。」
「はい。」
いつの間にか隣に来ていた看護士の女性。
「奥様頑張ってますよ。もうすぐ産まれます。立ち会われますか?」
「お願いします。」
即答すると看護士はニコリと笑って、中へ案内してくれた。
消毒済みの白衣と帽子を被せられて、更に消毒されて分娩室内に通された。
激しく上下する胸と肩。
荒い呼吸と、くぐもった力み声。
分娩台の上で、ランカは痛みと戦いながら命を産み出そうと頑張っていた。
「早乙女さん。ご主人いらっしゃいましたよ。」
「ランカ。大丈夫か?」
「はっ・・はっ・・・アルト・・くん。」
額に浮かんだ珠の汗を拭ってやると安心した様に微笑んだ。
「大丈夫よ。・・頑張って産むからね。見ていて。」
「ああ。傍にいる。頑張れ。」
こんなにも強かったのかと思うほどの力で、ランカの手が繋いだ俺の手を握り返してきた。
流れる汗を拭ってやりながら傍に立つ事しか出来ない。
どれほど時間が経ったのか分からないが、ふっと手を握ってくる力が弱まった。
かと思えば、直ぐに赤ん坊の泣き声が分娩室に響いた。
取り上げられた紫っぽい色した赤ん坊は、見る見る間に真っ赤になった。
「小さめだから心配したけど、元気元気!心配無しね。」
少し年配の女医さんが、取り上げた赤ん坊を見て笑った。
膝から力が抜けてしまいそうなくらいほっと安心した。
知らない間に涙が溢れてきて、ランカの手をもう一度ぎゅっと握り締めた。
「頑張ったな、ランカ。ありがとう。」
「・・・。」
ランカは、涙を流しながら瞳を閉じて微笑んでいた。
「ランカ?」
涙を拭ってやっても、反応が無い。
若干顔色が悪い気もする。
「先生!血圧が下がっています。」
「出血が止まりません!」
「ランカ!目を開けろ!」
アラーム音と共に騒然となった。
「輸血パック持ってきなさい。処置に入る。ご主人には出てもらって!」
赤ん坊は、新生児室に運ばれて行った。
俺は押し出される様にして分娩室から出された。
今度こそ膝の力が抜け落ちて、ズルズルと冷たい床に座り込んだ。
俺は良い。
いざとなればバルキリーを駆って戦場に出る以上、死ぬ覚悟は出来ている。
実際あの戦争でも戦場を駆け抜けたのだから。
なのに、ランカが血の気を失っていくのを見ただけでこのザマか。
俺は失うのか?
「ラン・・カ。」
冷たい床に、アルトの声が吸い込まれていった。
続く
このページへのコメント
ランカ臨月→出産ですか☆
私も出産経験者だからランカの気持ち分かるな★
あれは相当に痛い★
しかもランカが〜(ノ>д<)ノ
ガンバレ〜不死鳥のごとく蘇れランカ〜!!!!(o_ _)o
続きをみたいですが無理せず小説ガンバって書いて下さいね〜♪
番外編も見たいです(出来れば二人の赤ちゃんが少し大きくなってアルトがデレデレしています的な)☆
コメントありがとうございます。いきなり時間経ってる形で書いてます。間の話しも書こうかと思ったんだすが、ぐだぐだになりそうだったので番外編みたいな感じで書けたらな〜とは思ってます。続きも読んでいただけると嬉しいです。頑張って書きますね〜。
こんばんは。紫陽花です。いつも読ませて頂いています。あっという間に臨月になって、びっくりです!お義父さんとは、いい会話をしてるランカちゃんがいいです。やっぱり和ませる雰囲気があるんですね。とっても気になるところで、続きになってしまったので、気になって仕方ありません!是非とも早く読みたいので、よろしくお願い致します。ではまた。