最終更新:ID:ua4BptOMXw 2011年11月30日(水) 22:17:47履歴
「続・新未来7」 BYアヤ
私は走り続けていた。
漆黒の闇の中で、自分の身体の輪郭すら見えない。
暗くて冷たくて、自然と涙がこみ上げてきてしまう。
「ねぇ。誰か〜!」
力一杯叫んだけれど、闇に吸収されて響きもしない。
「アルトくん!!」
大好きな彼の姿も声も何も無い。
「ここは何処なの・・・。」
私はどうしてしまったの?
もしかして、死んでしまったの?
そんなの嫌。
悲しくて寂しくて、見えない手でぎゅっと自分を抱きしめる。
マクロスグローバルの皆やフロンティアの失われてしまった命のことを思えば、怨嗟の声に苛まれても地獄に堕ちたって受け入れる覚悟は出来ている。
けれど、まだ彼の傍に居たいの。
まだ歌っていたいの。
まだ自分の子供を抱きしめてもいないの。
私は走り続ける。
出口を求めて。
「さっさと立ち上がらんか、馬鹿者が!」
座り込んでいた俺を引き上げたのは親父だった。
「・・・親父。」
奥に扉を開いた個室の待合室が見えて、最初から居たのだと分かった。
「お前は妻を支えるべき夫で、もう産まれてきた子の父親なのだ。」
「只、信じてやれ。」
「その通りってね!!」
背中に熱い衝撃を受けて振り返ればミシェルの姿。
思いきり俺の背中に平手をかました所為か、手の平をふるふると振ってにやりと笑っていた。
「「ゼントランの血は柔じゃない。簡単に死んだりなどせん。」BYクラン!」
「ミシェル。」
「男が出来るのは、信じて待つだけだ。しっかりしろよ!新米お父さん。」
家族や仲間がいて、こんなにも心強いものだと改めて感じた。
一人じゃないんだと。
「心配は要らんよ。」
扉の開く機械音がしたと同時に女医者が出てきた。
続いてストレッチャーに乗せられたランカが運ばれてきた。
さっきよりは幾分か頬に赤味が差している。
「出血量は多かったけれど直ぐに処置できたし、バイタルも安定している。何よりアイドル歌手として駆けずり回っていた体力があるんだ。大丈夫!」
俺の肩を叩いて笑う医者の顔に、やっとホッと出来た。
「ありがとうございました。」
深々と頭を下げる。
「少し麻酔を使ったから明日にならないと目覚めないよ。付き添うかい?」
「はい。」
「ふふ。大戦の英雄も奥さんの事になると弱いみたいだね。」
「せっ、先生!!」
赤くなって落ち着きがなくなった俺を見て、女医者は大声で笑った。
「早乙女さんを病室に頼んだよ。」
看護士に声をかけると隣の分娩室へと入って行った。
「アルト。私は孫の顔を見に行く。」
「俺も同じく。お前はランカちゃんに付いていてやれよ。」
「ああ。助かったよ、ありがとう。」
俺は運ばれていくランカに付いて、病室へと向かった。
病室に落ち着いてしばらくした頃、親父が来た。
ランカを親父に任せて、俺は新生児室に向かった。
ミシェルの他に何人か来ているらしい。
「きゃあ。小さ〜い。」
「本当に可愛いわ。」
新生児室に近づくにつれて、賑やかな声が挙がっていた。
新生児室のガラスにへばりついているのは、クラン・シェリル・ナナセ・ルカに娘のジェシカを抱いたミシェルだった。
「お前達・・・。来てくれたんだな。」
「当たり前でしょう?ランカちゃんの為だもの。」
シェリル・・・仕事はどうした?
「「早乙女くん(アルト先輩)、おめでとうございます。」」
ルカ・ナナセ・・・赤ん坊に釘付けになってないでこっち向いて言え。
「それで、ランカは?」
良かった・・・クランはいつも通りだった。
「落ち着いている。麻酔使ったから目が覚めるのは明日になるそうだ。」
「らんかちゃん、いたい?」
ズボンを引っ張られて下を見れば、小さなジェシカが泣きそうになって俺を見上げていた。
いつの間にかミシェルに降ろしてもらったらしい。
屈んで目線を合わせると、頭を撫でてやる。
「大丈夫。すぐ元気になる。うちの子が大きくなったら遊んでくれるか?」
「うん。あそぶ〜。」
「アルト。まだ子供抱いてないんだろ?もっと近くで見せてくれよ。」
「ああ。」
ミシェルに急かされて新生児室に入ると、再び白衣を着せられて消毒された。
看護士に抱かれた産まれたばかりの赤ん坊をそっと渡された。
まだ軽いはずの赤ん坊はずしりと重いような気がした。
初めて抱く赤ん坊。
安心しきったような顔で眠る我が子。
これが俺の子・・・俺が父親。
まだぎこちない抱き方で、皆が居るガラスのほうへ身体を寄せた。
すやすやと眠る赤ん坊を見ていると目頭が熱くなる。
皆の前だというのに流れ出る水滴を止められなかった。
早くランカに抱かせてやりたいと、そう思った。
駆けつけてくれた皆や、親父はまた明日にでも出直して来ると言って帰っていった。
遅れて駆けつけた矢三郎兄さんやオズマとキャサリンはしばらく様子を見ていたが、渋るオズマの首根っこ掴んで赤ん坊の顔を見て病院を後にした。
今は、規則正しいバイタルサインの機械音とランカの寝息だけ。
大丈夫だと医者にも看護士にも散々言われたのに、ランカの目が覚めるまでは本当に安心できなくて。
真夜中を過ぎて空が白み始めても、ランカの手を握ったまま動けなかった。
俺が行方不明になっていた8年間。
こんな不安な夜をランカは何度も過ごしていたのかと思うと苦しかった。
手から伝わるランカの温もり。
俺はあの星の海で、ランカの歌に温もりを感じていた。
そう思ったら歌が自然に喉を震わせていた。
「アルトく〜〜ん!!」
何度も転がりそうになりながら走って、精一杯叫んだ。
まるで子供の様に泣きじゃくって、とうとう座り込んでしまう。
そのまま闇の中にずぶりと引き込まれてしまいそう。
「ほら、ランカ。そっちじゃないでしょう?困った娘ね。」
「何時までも迷子癖は直らないなぁ。」
記憶の彼方にあった懐かしい声がした。
その声は・・・お母さん?・・お父さん?
両手に伝わる二人の温もりに導かれて、私は歩き始める。
私もう小さな子供じゃないよ?
「あら、何時までも私達の可愛い娘よ。」
「お前の兄さんも痺れを切らしているぞ。」
突然の光の中、二人の笑顔がとけていった。
「あんな男は止せと言ったのに。頑固な妹だな、お前は。」
消えようといている両親の温もりの上から優しい手が重なった。
「ブレラ・・お兄ちゃん!!」
「血の通わないサイボーグだった俺を兄と呼んでくれるのか。・・・ふっ。何時まで経っても泣き虫だな、ランカ。」
「皆で泣き虫なんて言わないで〜。」
涙が止まらなかった。
大切な私の家族。
「ほら、あの男がお前を呼んでいる。聞こえるだろう?」
男の人の声でアイモの歌が響いてくる。
「あの歌・・・あの声、アルトくん!」
「ランカ。これだけは覚えておけ。俺も母さん達もお前を愛している。だから、お前は笑って生きていけ。」
「お兄ちゃん!!」
温かな手が私の背中をそっと押したんだ。
アイモ。アイモ。
お前は優しい緑の子。
カーテンの隙間から光が差し込んで夜が明けた。
うっすらと目の下にクマを作りながら、アルトはアイモを歌っていた。
「やっぱり何時も助けてくれるのは、あなたなんだね。」
瞼が震えて紅玉の瞳を開いた。
「ランカ!!」
「アルトくん。・・・ごめんね。ちょっと迷子になってたみたい。」
「迷子?」
「お母さんとお父さん。それに、ブレラお兄ちゃんがココに帰してくれたの。」
「アルトくんのアイモが聞こえたよ。」
「そうか。ランカ、よくがんばったな。」
「ただいま、アルトくん。」
「お帰り、ランカ。」
アルトはランカをぎゅっと抱きしめた。
あれから直ぐに診察を受けて、念願の赤ちゃんをこの腕に抱いた。
ほえほえと泣き声を挙げる赤ちゃんが、私の腕の中で大人しくなって大きなあくびを一つ。
私の事、ちゃんとお母さんだって分かるんだね。
「アルトくん。この子の名前・・・。」
「ああ。「ユウ」だ。」
早乙女ユウ。
二人で決めた男の子でも女の子でも使える名前。
漢字はアルトくんの「有」を貰った。
愛も友情も、優しさも強さも。
色んな素敵なものを「有」する子になりますように。
「ねえ、アルトくん。赤ちゃんって希望をこの手に握り締めて産まれてくるんだって。」
「へえ。でも、その内手を開いちまうだろ?」
「そう。だから新しい希望を掴むために生きて行くんだって。ユウは何を掴むのかな?」
初めてのお乳をあげながら涙が溢れる。
もう私達は、お父さんでお母さんなんだね。
アルトくんが歌うアイモの歌が聞こえている。
まだ覚醒しない頭で、突っ伏していたテーブルから頭を上げた。
「ユウ?」
薄暗い部屋には私一人。
全部夢?
でもリビングには赤ちゃん用の玩具が転がっていて。
確かユウをあやしながら作詞していたはず。
「大変っ?!」
そっと明かりが漏れているキッチンを覗いた。
アルトくんの大きな背中とぐつぐつと煮込まれている鍋。
器用に片足でユウのゆらゆらと揺れるスイングベッドを揺らしていた。
お父さんと子供とお母さんが揃った幸せな家庭。
記憶に微かに残っているお兄ちゃんと私。
二人で覗いたキッチンの両親の姿。
同じ様に暖かかったね。
「ランカ?起きたのか。」
「ごめんね〜。寝ちゃってた。」
私に気付いたアルトくんが振り返って笑った。
「ユウが泣いてても起きないくらいだからな。疲れてるんだろ?」
「えっ?・・大丈夫だよ。」
あたふたと寝癖を手櫛で直す。
「夜中も数時間おきにユウに起こされて大変なんだからゆっくりしていて良いぞ。」
「でも〜。」
「子育ては二人で、だろ?」
「はい。でも目が覚めちゃったよ?」
「じゃぁ、ユウだけ頼む。夕飯は俺が作ってるからちょっと待ってろ!」
「うん。おいで〜ユウ。」
初めての子育てに悪戦苦闘だけれど幸せだと思う。
お母さん。
お義母さん。
お母さん達も同じ気持ちを抱いていたの?
続く
このページへのコメント
アルトとランカちゃんの子供は有(ゆう)ちゃんですか、私の名前にも同じ有が入っているのでランカちゃんが無事で良かったと感慨深いです。
この二人が両親なら素直に真っ直ぐな子に育つと思います。
コメントありがとうございます(^O^)続・新未来は次で最終回にして番外編的な小話をちょこちょこと投稿できたらな〜と思ってます。まだまだアルラン熱が醒めないのでTV版最終回後の話しとかetc…、もう少し投稿続けさせて下さいませ。
アヤさん素敵です!!涙が出ました〜続き楽しみにしてます
タヌ吉です☆
早い小説の更新ありがとうございます♪
ランカが無事でよかった〜(;_:)
アルト、ランカが8年間心配した気持ちが分かったかバカ!(-_-メ)と小説読んでて思った私★
名前は有(ユウ)ですか☆可愛い名前ですね♪続きが楽しみです☆
こんばんは。紫陽花です。続きが気になって、仕方なかったので、早く読めて嬉しいです。無事助かってよかったです!アルトも仲間がいて、よかったですね。ランカも両親やブレラに愛されてますね。ユウちゃんはどちら似でしょうか?気になります♪続きを楽しみにお待ちしております。