選集『猿蓑』のこと③ - 古池や蛙飛こむ水のおと

芭蕉一門の新スタート

＊病鳫(やむかり)の夜さむに落(おち)て旅ね哉

>一羽の雁が仲間についてゆけずに空から落ちて湖水の蘆むらで病の身を休めている。
>晩秋の後の月は冷やかに射す。「夜さむに」とはこの月の光の冷やかさでもある。

長谷川櫂さんの｢病鳫｣の句の解釈にも曙光が見えて感動してますわ。
於多福姉も導かれるまま・思うままに・感じたままに述べましょう。
なにもかも暗い情報ばかりでも、地獄にさえ光は届いているのです。
松尾芭蕉はやる気満々で、まさに飛び立とうとしている時の句よね。

正確な｢病｣の情報がないままの悲観的な決めつけに同意しませんわ。
たしかに｢病｣の宣告を受けて多くの日本人は生きる力を失いがちね。
庶民・芭蕉はそんな軟弱な人たちと同じな虚弱体質だったのかしら。
櫂さんは俳聖・芭蕉が｢痔｣程度で大騒ぎしたって仰るのでしょうか？

私は、芭蕉が｢落｣の字を希望の中で使い・詠んだと断定できますわ。
そうでなければ｢旅ね｣なんて勇気がいる事を芭蕉がするでしょうか？
【風雲の中に旅寝するこそ、あやしきまで、妙なる心地はせらるれ】
｢旅寝は素晴しい気分になるよ｣これ｢おくのほそ道｣の一節ですね？

｢夜さむ｣それは雁にすれば、とっても素敵な季節の始まりなのだわ。
晩秋の月に照らされて雁が棹になって飛んでくるのが見えるようね。
｢おくのほそ道｣の経験からも進むべき道筋はしっかり見えているの。
愈々・自分たちが飛びまわる世界の始まりだって聞えてくるようね。

先頭を飛ぶべきリーダーの雁は既にもう・スタート台に立ったのよ。
我が家族の雁たちよ、飛びたつ仕度は出来てるか、遅れを取るなよ。
甲高い雁の鳴き声が夜さむの空へ・弟子たちへ届けられる勢いの句。
もちろん、芭蕉から信頼できる弟子たちへの合図ではありますわよ。

即ち、お多福姉が素人読みをしてみますね。
『さあ！わたしたち、芭蕉一門が自由に詠んで、羽ばたく時が来た、
　リーダーの芭蕉は今・先頭位置について、栄光の朝を眺めている、
　芭蕉の心を理解できない頼りない弟子たちは放って出発しますぞ、
　みな様方も、再会の日の楽しい夢を・しっかり見てくだされやぁ。

こう詠む時は｢病鳫の｣は実に芭蕉俳句の出発宣言の重い意味をもつ。
芭蕉の夢を信じない弟子たちは｢芭蕉は病んでる｣と思ったかもです。
リード上手な長谷川櫂さんって、きっとよくご存知なんでしょうね！
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