リリカル犬狼伝説1-1話

  • ACT1 『捨て犬』

 あの決定的な政治統合による時空管理局発足からXX年――
 政治的混迷からようやく抜け出し、古代技術の発掘・利用が「高度経済成長」となって実を結びつつある一方で、世界は多くの病根を抱えていた。
 わけても強引な時空管理局創設が生み出した不穏分子の群れと、大量のロストロギアの“出現”を温床に激増した組織的凶悪犯罪は、これに対処する自治体警察の能力を越え、深刻な社会不安を醸成していた。
 軍の内政への介入を抑え、合わせて、世界警察への昇格を目論む自治警内部の動きをけん制すべく、時の政府と時空管理局は第三の道を選択することになる。
 従来の探索・管理を主任務とした古代遺跡管理課を統廃合し、活動範囲を限定しつつ、独自の権限と強力な戦力を保有する時空管理局直轄の実働部隊。
 時空管理局古代遺跡管理部機動一課 通称<機動一課>の誕生である。
 その迅速な機動力と強大な打撃力で、ミッドチルダを舞台に治安の番人としての栄誉を独占し、第三の武装集団として急速に勢力を拡大した<機動一課>。
 しかし当面の敵であった組織された反政府勢力=都市ゲリラにかわり、違法魔導師や暴走した古代遺跡が台頭するに及んで状況は大きく転回することになる。
 個人による古代遺跡<ロストロギア>を使用した犯罪に対し、<機動一課>が行った凄惨極まりない攻撃は激しい世論の指弾を浴びた。
 峻厳な正義の守護者への賛辞は権力の走狗への呪詛に変わり、相対的安定=繁栄への期待向けて流れ始めた世情の中で「機動一課」は急速にその孤立を深めつつあった。
 強化服とデバイス搭載銃火器で武装し、<ケルベロス>の俗称でテロリスト達を震え上がらせた機動一課の精鋭たちも機動六課の活躍により、その歴史的使命を終え、時代は彼等に新たな、そして最終的な役割を与えようとしていた。

 『歴史の清算が叫ばれ、新たな価値を求めて人々が足並みを揃え始める一方、その流れに取り残されあるいは抵抗する少数のものが容赦なく圧し潰され、そして忘れ去られようとしていた時代』

 ミッドチルダ首都。
 深夜の地下工業区画は赤く燃えていた。
 この日、違法遺跡物売買及び魔術的生成薬物密造の一斉摘発から端を発したイザコザは戦闘へ発展していた。
 犯罪組織のダミー会社が所有していたビルを包囲したミッドガルド自治警察警視庁機動隊にペットボトルが投げ込まれる。
 ペットボトルは地面に落着した途端に爆発し炎上。
 俗に言う火炎ビンの、衝撃による化学反応で発火するペットボトル版であるが、500佞陵椴未任賄底考えられない威力である。
 ナパーム効果を持たせられていたため、近くの機動隊員が炎に包まれる。
 待機していた同僚が即座に消化剤で消すが火傷は免れない。
 機動隊防護服といえども隙間が存在するからだ。
 魔導師の防御魔法でも使わなければ防ぎえるものではない。
 負傷した隊員は仲間に引きずられて後方に下がる。
 機動隊員から怒声が飛ぶ。
「医療班急げ!」
「ただの火炎ペットボトルじゃねえぞ」
「どこから投げ込まれたんだ!狙撃部隊の奴ら昼寝でもしていたのか!」
 ミッドガルド首都の地下工業区画は環境と景観対策で作られた。
 観光案内のパンフレットには良く整備された工場地帯が写っている。
 確かにそれは事実だが、中央からはるかに離れたこの場所では乱雑に建築物が建っており、倒産し稼動していない工場も多くある。
 犯罪者にとってはうってつけの隠れ家である。
 そのうちの一つのビルに男達が集まっていた。
 普通の犯罪者なら警察から逃げようとするはずである。
 しかし、彼らは明確な意思の元、その警察に攻撃していた。
 バンダナをつけた男が階段からペットボトルが詰まった箱を持ってきた。
「特性のマジカルカクテルだ。いくらでもあるぞ!それから、こいつは頃合を見て使え!」
 男は中身が詰まったバックを持ってきた。 
 機動隊になおも火炎ペットボトルの攻撃が続く。
「包囲網を後退させて車輌を前面に押し出せ」
「SWATは何をしている?投擲位置がわからないのか?無線が妨害されているでは理由にならん!」
 こういう捜査には慣れたいた機動隊員たちは混乱していた。
 見通しの悪い環境に加え、相互の連携を阻止する妨害電波が発せられていた。
 これは明確な軍事的攻撃である。
 怒鳴り散らす機動隊指揮官と隣り合わせていた時空管理局古代遺跡管理部機動一課副長のハジメ・ハンダが口を開く。
「やめた方がいいな。いま後詰めの部隊を下がらせると突破された時に潰走するしかなくなる」
「無線妨害されているこの場に筋金入りのプロがいたのでは火に油だ!それとも他に策でもあるか!」
 機動隊指揮官を半ば無視し、ハンダは燃え盛る炎を分析した。
「あの燃え方……マグネシウムやナパームジェリーを混合したやつじゃないな。おそらく魔導師が精製したマジック・マテリアルを使用しているんだろう。素人がおいそれと手にできるしろものじゃない」
「あの中に魔導師のメンバーが!?」
「とはいえ攻撃の効率から見て全体としては烏合の衆。撃って出れば一度の突撃で蹴散らせる。検挙の網に一人でも引っかかれば儲けものか。時機を失えば突撃の効果も薄れる。撃って出るなら今だ」
「一課との共同捜査とはいえ現場の指揮権は我々にある!これ以上の口出しはやめて貰おうか!」
 その時ビル影から工事ヘルメットを被った男が飛び出してきて、雄叫びとともにバックを投げる。
 近くの工場の屋上に待機していたSWATの狙撃主が、投げた男の腕を狙い阻止射撃したが間に合わなかった。
 機動隊の前面にバッグが落ち、爆発した。
 近くの隊員を宙に舞い上げる。
 人間が地面に落ちても、防盾はまだ飛んでいた。
 吹き飛ばなかった隊員にも被害が出る。
 バッグには爆薬と一緒に釘でも混ぜていたのか、防護服に無数の金属片が突き刺さっていた。
 機動一課副長のハンダは凄惨な光景を見ても全く表情を変えずに言った。
「投擲爆弾だ」
 機動隊指揮官が直に命令した。
「発砲許可!突っ込めーー!」
 拡声器を大音量で直接命令。
 SWATと機動隊が周囲の制圧を始める。
 武装した者が居れば容赦なく発砲して良い許可が出たがその数は少ない。

 地下水路。
 騒乱の上部をよそに、先ほどまで攻撃していた者達が排水路を通って移動していた。
「3ブロック後退だ。急げ!」
 リーダーらしき男が指示する。
 手には手製の短機関銃他、携帯ロケットさえ持っていた。
 犯罪組織とは最早言えない重武装である。
 彼らの素性を知れば納得するだろう。
 反政府武装ゲリラ「セクト」の一部隊である。
 慎重に先導したがライト付きメットを被った男が、異変に気付いた。
 水路の闇に灯る紅い目。
「機動一課だ!荷を捨てて逃げろ!」
 待ち構えていたのは、見るものに心理的圧迫感を与える風貌の強化装甲服を身に纏った機動一課突入小隊。
 無警告射撃開始。
 常人ではとうてい出来ない重機関銃の立ち撃ちである。
 チェーンソウのような金切り声を上げ、重機関銃のマズルフラッシュが水路一帯を照らす。
 ゲリラ側に反撃など不可能であった。
 8人のゲリラの内、5人が高速のライフル弾の連続命中で胴体や手足頭を引き千切られ、汚水に自身の中身をばら撒きながら沈む。 
 瀕死の一人が水中に倒れた中で、隠し持っていたスイッチを押す。
 大型のバックの中身が一斉に炸裂し、地下水路はおろかその上部の区画丸ごと陥没させた。
 大爆発で大騒ぎになった周囲の状況を無視するように、ハンダの元に念話による連絡が入る。
「殲滅完了。部隊の損害ゼロ」
 あの爆発で死者が一人も出なかったのは、強化装甲服に加え、重機関銃にオプション装備されたデバイスによる防御魔法の即時展開が可能だったからこそである。
 これこそが機動一課の異常性を物語っていた。
 それは、一人一人が訓練された魔導師であると同時に冷酷無比な銃火器のスペシャリストであることなのだ。


<続く>

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2007年08月01日(水) 11:12:31 Modified by beast0916




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