白き異界の魔王16話

アンゼロット城:フェイト・T・ハラオウン
フルマラソンを完走したかのような柊蓮司を前にアンゼロットは優雅に紅茶を一口飲み、全員を見回した。
「では、そろそろ本題に入りましょう」
「ああ、そうしてくれ」
全くである。
「柊さん。新しい任務です」
「待ってください!柊さんは今、私たちのお仕事とを・・・」
フェイトが抗議の声を上げるが、視線1つで後を続けなくなる。
この少女はやはりただ者ではない。
「話を続けます。今、世界は重大な危機に見舞われようとしています」
少女の言葉は重大性にフェイトは息をのむ。
さっきの嘘や冗談の延長かとも思ったが、声に宿る威厳がそれを消していた。
世界の危機。
その言葉でフェイトは10年前の海鳴市で合った事件を思い出した。
あれと同じようなことがまた起ころうとしている。
高まる動悸を押さえることができず表情で平静を装うのが精一杯だった。
フェイトは視線だけを動かし隣の柊蓮司を見た。
彼も自分と同じようなのではないかと思ったからだ。
だが、柊蓮司はそれがいつものことであるかのように
「今度は何が起こっているんだ?」
と、返答した。
その余裕はフェイトに平静を取り戻させるのに十分なものだった。
「世界結界が著しく弱体化しています。その影響はすでに出ており、その対応に全世界のウィザードがおわれています」
「具体的には何が起こってるんだ?」
「エミュレイターの活動が活発化しています。また、世界結界の弱体化に伴いそれらエミュレイターの力が増しています。さらに、すでに倒したエミュレイター、封印された魔王の復活も確認されています」
フェイトは再び息をのむ。
魔王の復活。
ベール・ゼファーやアニエス・バートンのような者達が世界中で活動を始める。
それは、フェイトの想像を超えていた。
「この事態を引き起こし、さらに進行させている者はベール・ゼファーであると判明しています。しかし彼女がなにをしているののか、またどこにいるのか。それはわかっていません。柊さん。あなたには魔王ベール・ゼファーの陰謀を暴き、阻止していただきます」
アンゼロットの声が部屋に響いた。

アンゼロット城:柊蓮司
柊蓮司は口の端を少しあげた。
ニヤリ、という笑いだ。
「ああ、そのベルの陰謀ならもう解ってるぜ」
「へ?」
アンゼロットが妙に抜けた声を上げる。
「ベール・ゼファーは魔王アニエス・バートンの復活を狙っているみたいだな。世界結界の弱体化もそれに伴うものなんじゃないか。あいつらの居所もすでに見つけてるぜ」
してやったりだ。
アンゼロットは大げさなリアクションをしている。
たまには、こう反撃してもいいだろう。
いつもやられてばかりではないのだ。
「すでにそこまで調べているなんて!柊蓮司のくせに生意気ですよっ!」
「なんだよそれは!」
「まさか、ここまでやっていようとは・・・うかつです。全くうかつです」
拳を握りしめてふるわせている。
「そこまで悔しがることはねえだろうが。なんかこー、ちょっと傷つくぞ」
「そうですね」
いきなり居住まいを正す。
控えてきた執事が音もなくアンゼロットの横につき、櫛で少し乱れた髪を整えた。
「これは喜ぶべき事かも知れませんね」
「そうだろうな」
「今まで柊さんに過酷な任務を与え、鍛えてきたかいがありました」
「絶対、鍛えるという目的はなかっただろう」
「柊さんにもようやく非正規とはいえロンギヌスの一員としての自覚が出てきたようですね。喜ばしいことです」
「俺はそんな怪しい組織に所属した覚えはねーよ」
「なんですって!!」
アンゼロットは魔王の陰謀を聞いたとき以上にオーバーアクションで驚く。
「次の社員旅行には柊さんも行くようになってるんですよ!」
「行くか!そんなもん」
「宴会部長にもすでに任命済みなのに!!!」
「かってに任命するなぁああ!」
フルマラソン2回目終了。

アンゼロット城:フェイト・T・ハラオウン
何事もなかったかのように再びアンゼロットは話し始めた。
「再び話を戻しましょう」
この切り替えはある意味すごいかも知れない。
「アニエス・バートンですか・・・よもや復活を試みるとは」
アンゼロットは一度目を閉じ、再び開ける。
「アニエスの片目は秘術を用いて壊されました。それ以来、復活は不可能になったはずです。今回、どのような方法を用いているのかは解りません」
「アニエスってのはどんなヤツなんだ」
「あらゆる物を食べる魔王です。動植物はもちろん土や金属、プラーナや魔力も。そして・・・世界結界も」
柊蓮司の喉が動くのが見えた。
世界結界の意味はわからないが、重要性は彼の様子が物語っている。
「アニエスは食べた物を自らの力とします。それは、彼女の眷属の蝗が食べた物も同様です。蝗が食べた物もアニエスの力となるのです」
アンゼロットが紅茶で口をしめらす。
「これで解りました。世界結界の弱体はアニエスとその眷属が世界結界を食べているのでしょう」
アンゼロットは目を柊に向ける。
「柊さん、そこまで調べているにもかかわらずアニエスを倒していないのはどういうわけですか?」
「結界が破れなかったんだよ」
「結界?」
「ああ、二重に結界を張っている。1つは月匣だ。ただし、こいつは本体を迷彩に過ぎねえ。問題はその中にあるもう一つの結界だ。こいつが破れないんだが、破る当てはある」
「どのような?」
柊蓮司がフェイト達の方を見る。
「あの結界は、こっちのフェイト達の世界の物なんだ。1人では無理みたいなんだが、一緒に来た仲間の助けがあれば壊せるみたいなんだ」
フェイトは体を少し前に傾ける。
「時空管理局機動六課のフェイト・T・ハラオウンです」
今度はフェイトが残りの2人に目を向ける。
「エリオ・モンディアルです」
「キャロ・ル・ルシエです。こっちは、フリードです」
キャロがフリードを机の上に置いた。
「フェイトさんの世界、と言うことはフェイトさんは異世界の方なのですか?」
「はい。ミッドチルダから来ました」
「いつ頃こちらに?」
「昨夜です」
フェイトはアンゼロットの深く、黒い瞳を見る。
奥にあるなにかに気圧されそうな自分をとどめる。
今、言わなければならない。
この人に頼むには今しかない。
「アンゼロットさん、柊さんに聞きました。あなたなら私たちの仲間を見つけられるかも知れないと。ですから、私たちに力を貸してください。世界を守るためにも私たちに協力してください」
アンゼロットは執事に合図を送る。
口に手を当て、なにかを伝えたようだ。
「柊さん。このフェイトという方は信用できますか?」
「ああ、フェイト達は信用できる。間違いなくな」
柊蓮司は即答する。
フェイト達は思わず、柊蓮司と目をあわし微笑む。
それを見たアンゼロットは執事に再び合図を送り、なにかの報告を受けた。
「いいでしょう。フェイトさんの仲間と思われる方々はすでに補足しています。現在、絶滅社の対エミュレイター部隊との戦闘に入っています」
フェイトは立ち上がる。
椅子を蹴倒してしまった。
「落ち着いてください。絶滅社には攻撃中止を要請します。しかし、戦闘はすぐには終わりません」
「みんなを助けに、戦闘を止めに行きます。行かせてください!」
「わかっています。近くへ続くゲートに案内させます」
「ありがとうございます。エリオ、キャロ行くよ」
「はい」「はい」
立ち上がる二人に続いて柊蓮司も席を立つ。
「柊さんも行かれるのですね」
「あたりまえだろ」
4人は互いに顔をあわせた。
「では、また後ほど」

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2007年08月13日(月) 08:12:40 Modified by beast0916




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