リリカル魂5話

「異世界から、か。確かに珍しいことだな」
食後のコーヒーを啜ってからシグナムは納得顔をする。
「ええ、私も最初はびっくりしました。しかもあんな子までいるなんて」
彼女に相対して話をしているのはフェイト。そう言うと彼女はチラと視線を移す。

「このっこのっ!」
「へっへー、まだまだ甘いんだよ!そらぁ!!」
カチャカチャと必死にコントローラーを操る者が二人。
ソファー越しのフェイトの視界には赤毛の三つ編みと一本のツノが見える。

『YOU WIN!!』
「やっりぃ〜!」
テレビ画面の中で格闘家風の男が勝利のポーズを決めた。
それと同時にヴィータは拳を振り上げて喜ぶ。
その横には、
「だぁーくそ!!もう一回だもう一回っ!」
ジタバタと手足をバタつかせるメタビーがいた。
つもる話。二人は格闘ゲーム、略して格ゲーをしていたのだ。
「いいぜー、何度でもボッコボコにしてやんよ」
「なめんなっ!オレは同じ相手に負けで終わったことはねぇんだよ!」
面を付き合わせて火花を散らせる両者。
既に5対戦ほどしているのだが、今のところヴィータの5連勝中である。
そして、いざ第6試合目が始まろうとしたとき――

「こ ら ー ! ! いつまでやっとるんや二人とも!!」 ガチッ! ゴツッ!
「「痛ってぇ〜っ!?」」

いつの間にか後ろにいたはやてからゲンコツの雷が落ちた。


第五話 「ダベリ DE 八神家」

しばらく時間を戻すと――
なのは、フェイトに連れられ八神家を訪れたイッキとメタビー。
クロノとリンディは「少し仕事があるから」とアースラへ出かけていった。
昨日のように光に包まれて、いわゆる『転送』されていったのである。

家主であるはやての出迎えを受け、玄関をまたぐ。
「まずはみんなに紹介するさかい、リビングに行こか」
「みんなって?」
わりと大きな家だ。いったい誰と住んでいるのか気になったイッキが聞くと
「そら、もちろん・・・」
家族に決まっとるやん、と笑ってこちらを見るはやて。
そう言ってあるドアを開くと中へ入っていった。
彼女に続いてなのは、フェイトもドアをくぐる。イッキたちが部屋に入ったところで、
「みんな、お客さんやで〜」
「ん?誰だよはやて、うちに客なんて」
テーブルではヴィータが朝のホットミルクを飲んでいた。
床に足が届いていないため、足をぶらぶらさせている。彼女はドアの方向を見ると、
「・・・な〜んだ」
なのはとフェイトじゃねーか、と再びマグカップに口をつけた。
件の闇の書事件以来、八神家の面々――特に守護騎士たちは管理局への協力も
しながら、一方では至って人間らしい生活を過ごしている。
騎士の一員であるヴィータも、なのはたちと対立していた時から比べれば幾分は
大人しくなったのだが、口の悪さはそうそう治らないようだ。

「こらヴィータっ、失礼な言い方するんやない!」
「だってよぉ〜」
腰に手をあてて注意するはやてだが、ヴィータはお客の二人を見て気だるそうに言う。
「なのはとフェイトがうちに来るなんて珍しくねぇじゃんか」
「ははは・・・まぁそうなんだけど」
彼女の物言いに苦笑いを浮かべるなのは。この子の扱いは難しいなと内心で思ったりする。
「今日はちょっと用事があって来たんだよ。ね、はやて」
話を進めようと目配せするフェイトに、はやてはそうそうと頷くと、
「実は二人以外にもお客さんがおるねん。それとヴィータ、口の利き方は気ぃつけや」
「はぁ〜い」
「ところで主、その客人の姿が見えないのですが?」
気の抜けた返事を返すヴィータにはやては再び睨みを利かすが、シグナムが疑問を
口にしたために、え?と後ろを振り返る。

「あれ?ちょっとイッキくん、どこにおるん?」
「ここにいるけど」
「おい、もう慣れたけどオレのことも忘れんなよ!」
なのはとフェイトの後ろから件の二人の声がする。
残念なことにイッキは彼女らよりも身長が低かったようだ。
まして約1メートルのメタビーは言うまでもなく完全に死角に隠れていた。
その二人を、ほらと前に押し出してあげるフェイト。
あれ、デジャヴか?さっきもこんなことがあったような・・・

「ん?おぉーーーー!!!!」
いきなり大声を出したのはさっきまで気だるげだったヴィータだった。
「な、なんやヴィータ。驚くやんか・・・」
急にテンションの上がった彼女にはやては言うが、当の本人はその横を通り抜け、

「す っ げ ぇ ー ー ! ! 本物だ動いてる〜!!」

電光石火のごとくメタビーの至近距離まで近寄り、キラキラと目を輝かせた。
頭の発射口から爪先のさらに先まで舐めるように見回す。心底楽しそうだ。
しかし見られている方は気味の悪いことこの上なく、
「お、おい・・・何なんだよお前・・・」
当然の反応だ。メタビーは思わず後ずさる。が、
「おーーー!!?すげぇ喋ったーー!!」
声を出したことが逆に引き金になったらしく、更にマジマジと見られることになった。
もともとロボットが好きなヴィータのことだ、実際に動いて喋るロボットが
目の前に現れれば、はしゃぐのも無理はないのだろう。
「はいはい、ヴィータ、お客さんが困っとるやろ?」
「あ!何すんだよはやて〜」
ネコのように首根っこを?まれて引き離されたヴィータはジタバタと暴れる。
一方でメタビーはホッと息をついた。
「あら。はやてちゃん、騒がしいけど何してるんですか?」
キッチンで洗い物を済ませたらしく、エプロンを外しながらシャマルが出てきた。
「あ、シャマルもちょうどいいとこに来たわ。イッキくん自己紹介してくれへん?」
「え、ああ。えーっと俺は――」

かくして八神家の面々に対しての自己紹介を済ませ、イッキはテーブルに座り、
はやてを中心に色々と話をしていた。
メタビーはというと、案の定と言うべきかヴィータのおもちゃ状態にされ、
あっちこっちのパーツを触られたり背中のメダルハッチを開けられそうになったり・・・
「ぉーいイッキ〜、こいつをなんとかしてくれぇ〜」
まさに『揉みくちゃ』にされているメタビーが悲痛に助けを求める。が、
「そっちでなんとかしろ〜、俺はこっちの話で忙しいの」
にべもなく突き放されてしまった。実に不運だ。

と、見かねたシグナムが
「ヴィータ。一応は客人だ、あまり主に恥をかかせるな」
「ちぇ」
はやての名前を出されたこともあり、ヴィータは渋々ながらメタビーを開放した。
「はぁ〜、助かったぜ・・・」
再びホッと息をつくメタビー。
それからテーブルへと向かい、ヴィータははやての、メタビーはイッキの横に座る。

「それにしても、本当によくできたロボットやなぁ」
まるで人間みたいや、とはやてが純粋に興味を示す。
彼女にとってロボットといえば、ヴィータがよく見ている巨大ロボや合体マシンなど、
いわゆる人間が操るタイプがほとんどだ。
しかし、目の前にいるのは人間のように自分で行動したり会話したりしている。
「そうそう!あたしも最初に会ったときはすごくビックリしたんだよ!」
なのはも砂漠で初めて会話したときのことを思い出した。
レイジングハートやバルディッシュのようなインテリジェントデバイスも
高度なコミュニケーション能力を持っているが、やはりどこか機械的な部分がある。
自分の相棒と比べても、メタビーの存在は驚きに値するものだった。
「それに、新聞も読んでたよね」
「え?それホントなのフェイトちゃん」
うん、と昨日のことを思い返しながら返事を返すフェイト。
確か昨日は4コマ漫画に没頭していたっけ、と思い出し笑う。

それらの感想に対してメタビーは首を捻る。
「別にオレだけじゃねーさ。他のメダロットもみんなそうだったぜ?」
「え?メダロットってメタビーだけちゃうん!?」
元いた世界ではあっちこっちにメダロットがいたためメタビーは意識せずに言ったが、
そんなことを知らないはやては柄にもなく驚いた。
そして、それはなのはとフェイトも同じらしく、目を丸くしていた。
「じゃあ、他にもそういうロボ・・メダロットが沢山いるの?」
「ああ。ほとんどの子どもには俺みたいにメダロットがいるんだぜ」
フェイトの質問に対して、イッキはごく当たり前のように答えた。
こいつは特に人間臭いんだけどな、と付け加える。

それを聞いたなのは・フェイト・はやての頭の中では、町の至るところを
沢山のメダロット(ただし架空の)が闊歩し始めた。
「なんだか、想像したらちょっと怖いね・・・」
眉を八の字にするなのはと、
「そうかな?私は面白いと思うけど」
その表情を見て意外そうな顔をするフェイト。
「うん、うちもそんな世界に行ってみたいわ!」
そして3人の中で一番楽しそうに笑うはやて。
ちなみに各々の反応の違いは、それぞれが想像したメダロットの違いだと思われる。

「それで、みんながメダロット持ってるってのは分かったんやけど、
何のために持ってるん?」
ここまで聞いてはやての頭に浮かんだ、『メダロットを持つ意味』への質問。
「え?何でかって言われると・・・」
それに対してイッキは腕組みをして考え込む。
なんでメタビーと一緒にいるんだろ?

彼にとってメダロットが欲しかった当初の理由は、「みんなが持っていたから」だった。
親にせがんでも「自分で買いなさい」と言われ、必死でお小遣いを貯めたのだ。
たまたまアリカを助けるために中古のボディを買って・・・

それ以来、自分の横にはいつも生意気な、でも大切な相棒がいる。
おそらく、俺がメダロットのメタビーと一緒にいるのは――

「「友達だから」」

イッキとメタビーは同時に、そう言った。
「え?」
「ん??」
思わず顔を見合わせる。
どうやら互いに同じことを考えていたらしい。が、そのことに気恥ずかしくなり、
「おい、マネすんなよメタビー!」
「バカ言ってんじゃねーよ!イッキこそマネすんなっ!」
なぜかケンカになる二人。「ふんっ」と同時にそっぽを向く。
この急展開になのはとフェイトは一瞬ポカーンとするが、すぐにクスッと笑い、
「つまり、メタビーとイッキはすごく仲がいい友達同士なんだよね」
「うんうん!ケンカするほど仲が・・・」
「「よ く な い ! !」」
なのはの言葉を遮り、背中を向け合っていた二人は力の限り叫んだ。

「そんでさ!そんでさ!メタビーはゲームとかできんのか!?」
互いにふんぞり返るイッキとメタビーを見てクスクスと笑うはやての横から
ヴィータが身を乗り出した。
「あ?ゲーム?」
突然聞かれたメタビーは聞き返した。
「ゲームっていうと、あれか?テレビに繋いでするやつ」
「そうそう!一緒にやろうぜ!」
「おっ、あるのか!? へへっ、やるやる〜♪」
さっきのご機嫌斜めはどこへやら、メタビーは椅子から勢いよく飛び降り
ヴィータと共にソファーへ走っていってしまった。
「ヴィータ〜、ゲームは一日1時間やで〜!」
「はーい」
どこの家庭でもよく聞かれるような台詞だが、ここ八神家でも漏れなく使われて
いるようだ。
生返事をしたヴィータはイソイソとケーブルをテレビに繋げている。

「なんか、はやてってお母さんみたいだな」
自分も母・チドリから散々言われた経験からか、イッキは率直にそう思った。
メタビーと張り合ってゲームに熱中しては、怒られていた記憶が甦る。
(といっても、チドリの場合はとびっきりの笑顔で怒るので余計に怖い)
「え、うちってそう見えるんか?」
言われたはやては微妙な顔をする。
普通は小学4年生が言われるような台詞ではないので、当然っちゃ当然だが。
「確かにはやてちゃんは、八神家の母親役ですものね〜」
「私も同感です。特にヴィータの相手をしているときなどは・・・」
シャマルがふふっと笑い、シグナムは同意を示すように頷く。
(外見は)妙齢のお二方がそんなことを言うのも問題ありな気がするが、まぁいいか。

「なんや、二人までそないなこと言うて〜。あ、ザフィーラはどう思うん?」
会話に参加せず床に寝そべっていた青い毛並の守護獣は、ふと顔を上げると
「・・・・(コクリ)」
無言で頷いた。肯定か否定かはっきりしないが、流れからしておそらく前者だろう。
「満場一致みたいですね」
「はぁ〜、知らんかったわ・・・」
シャマルが口元に手を当てて笑うと、はやては首をカクッと落とす。
その様子にテーブルの上はひとしきり笑いで満たされた。

それからしばらく、イッキたちは元いた世界のことなどについて色々と談笑し、
メタビーとヴィータは白熱した格闘戦を繰り広げていた。
まぁそれも、見かねたはやてのゲンコツによって強制中止になったわけだが。

12時が近くなると、あっと思い出したようになのはが立ち上がり、
「イッキくん、お昼からはアリサちゃんとすずかちゃんに会いに行くんだよ」
「んぁ?誰だよそれ?」
またもや知らない名前を出され、聞き返すしかないイッキ。
「なのはのお友達だよ。二人ともいい子だから、きっと友達になれるよ」
帰り支度をするフェイトが説明してくれた。
と言っても、会ってみなければどんな人なのかは分からないわけで。

「二人とは町のデパートで会うつもりだから、ついでにお買い物もしよっか」
財布の中身を確認するフェイト。
おかしなことに、小学生にしては大そうな金額が入っている。
「ええっ!?なんやそのお金・・・まさかフェイトちゃんのお小遣いか?」
ちらっと中身を拝見したはやてがその金額に驚きの声を上げるが、
「ち、違うよ!リンディさんから貰ったんだよ、その・・・『服代だ』って」
慌てて否定するフェイトの様子と『服代』の単語にピンときたのだろうか。
はやては、ちらとイッキの服装を見る。ところどころに土汚れがついていた。
「そっか、イッキくん一張羅なんやろ?それ」
「え、あ〜そうだな。コレのまま飛んできちゃったみたいだから」
自分の赤いシャツをつまむ。お気に入りだったからまぁいいけど。

そういうことなら、とはやては何かを思いついたようだ。
「よし!うちも一緒に行くわ。そんで、新しい服を選んだる!」
「はやてちゃん?」
「ええやろシャマル?そろそろ買出しもせなあかんかったし、一石二鳥や」
「う〜ん、そうですねぇ・・・」
いきなりの提案にシャマルはひとまず考える。と、その横から
「いいのではないか? 子どもたちだけで行かせるのが心配なら、大人のお前がついて
やれば無難だろう」
シグナムが口を挟む。
「な?シグナムもああ言うてることやし、行こ!」
「ん〜・・・じゃあシグナム、留守番お願いね」
「ああ、任せろ」
リーダーの承諾を受け、はやてとシャマルは出かける準備を始めた。

買い物組の準備が整ったところで、一つの疑問がなのはの頭に浮かぶ。
「そういえば、メタビーくんはどうするの?」
こちらの世界ではメダロットは存在しない。
というか、そんな高性能なロボットが街中をうろつく習慣がない。
そんな中を普通にメタビーが歩いていれば、当然なんらかの騒ぎが起きるだろう。

でもアリサちゃんとすずかちゃんにも会わせるって言っちゃったしなぁ、と悩むなのはに、イッキはさも当然のように言ってのけた。
「ん?そのアリサってやつらと会うときだけ転送すれば大丈夫だろ」
「え、転送?」
「ああ、メダロッチですぐ呼び出せるし、こっちに送り返すこともできるぜ」
白いメダロッチが見えるように左腕を上げる。
「・・・そんな便利な機能がついてたんだ、それ」
一見すると腕時計にしか見えない代物を眺めるなのは。
あのメタビーといい、メダロッチといい。いったいどこまで文明が進んでいるのか・・・・

「じゃあみんな、行ってくるわ〜」
「はい、お気をつけて」
「行ってらっしゃい、はやて!」
靴を履き立ち上がった家主を、シグナムとヴィータは見送る。
「メタビー、俺が呼び出すまで大人しくしてろよ?」
玄関をまたごうというときにイッキが相棒に振り返ると
「へんっ、言われるまでもねぇさ」
手を頭の後ろに乗せてメタビーは素っ気なく応えた。
「お邪魔しましたー、じゃあねヴィータちゃん!」
「おう、また来いよな」
ヴィータの返答になのはは思わず笑ってしまう。朝に会ったときは気だるげだったのに、
今は「また来い」だなんて・・・やっぱりこの子は面白いな、と内心で呟く。
「シグナムも、またね」
「ああ・・・」
打って変わって、こちらはごく静かに別れた。

その後。玄関を閉め、なのは・フェイト・はやて・シャマル、そしてイッキの5人は
最寄のデパートへ歩き出す。

「よし、はやても出かけたことだし・・・続きやるかメタビー!」
「おう!今度こそ俺が勝つからな〜!」
意気揚々とリビングへ戻った二人の目に、キレイさっぱり片付けられたゲーム機が映った。
その横にはザフィーラが寝転んでおり、一言。
「ヴィータ、主の代わりに俺がもう一度言ってやろう――」

『 ゲ ー ム は 一 日 1 時 間 ま で だ 』

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2007年08月12日(日) 11:04:57 Modified by beast0916




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