リリカル龍騎9話

「あれ?」
 管理局本部のとある場所で、局員がある事に気付く。
「どうした?またネットオークションでいい物でも見つけたか?」
 別の局員がその局員に聞く。
仮に気付いた方を「局員A」、質問した方を「局員B」としておこう。
「いや、今回の事件の事で何か参考になるかと思って、過去の事件の記録調べてたんだけど…」
「事件?ああ、海鳴市とかいう所で怪物が出たって言うあれか。で、それがどうかしたのか?」
 局員Aが言いにくそうに口を開く。
「P・T事件でジュエルシードっていうロストロギアが回収されたよな?そのジュエルシード…全部回収されてないみたいなんだ」
「…なんだって?」
 局員Bが信じられないというような面持ちで局員Aのパソコンに駆け寄った。
「ほら、ジュエルシードは全部で21個だろ?
そのうちこっちで回収できたのは12個、決着ついてから奪還したのが8個。
…つまり20個しか回収できてないんだ」
「それって…どういう事だよ?」
 分かっているのに局員Bが聞く。そして予想通りの答えが返ってきた。
「その最後の一個は、プレシア・テスタロッサが持っているのかもしれない」
「…だ、だけど見つからないだけかもしれないし、仮にそのプレシアが持っていたとしても、奴は虚数空間に落ちたんだろ?
ならあいつが帰ってこない限り悪用されることも無いんじゃないのか?」
 局員Bがまるで心配事を打ち消そうとするようにまくし立てる。
「…だといいんだけどな」

「つまり、そのカードデッキさえあれば、アリシアを生き返らせる道が開けるという事?」
『そうだ。だが、今は13個全てがそれぞれの人間に与えられた後だ』
「…ならどうすればいいのよ?」
『簡単なことだ。他のライダーから奪えばいい』
 そして神崎は一枚の紙を渡す。一通り目を通してみると、それは名簿のようだ。
『ライダーの名簿だ。それに載っている人間からカードデッキを奪え』
 プレシアが長いこと黙りこくっている。『殺人』を犯す覚悟をしているのだろうか。
やがて、神崎の方を向き、覚悟を決めた表情で答えた…
「…ええ。カードデッキを奪い、その戦いに参加させてもらうわ」
『…覚悟は出来たようだな』
「アリシアを生き返らせる…そのためなら、私は人殺しにもなるわ」
 そう言ってその部屋を出て行った。ちなみに、その部屋は少し前まで真司が住んでいた部屋である。
…言い忘れたが、ミラーワールドは海鳴市にしか存在しない。
そして、ミラーワールドの存在と化した神崎が姿を現せるのも海鳴市のみ。
つまり、プレシアは虚数空間から海鳴市に飛ばされたのだ。
『プレシア・テスタロッサ…どれほど場をかき回してくれるか…』

第九話『ライダー交代』

 そして半日ほどたった現在、プレシアはある男と遭遇していた。
その男の名は高見沢逸郎、仮面ライダー『ベルデ』である。
そして名簿を取り出し、問う。
「あなたは…仮面ライダーベルデ、高見沢逸郎ね?」
「(ライダーの事を知っている?何者だこいつ…)
…ええ、そうですが…何のご用でしょう?」
「意外ね、こんなに早く見つかるなんて。
早速だけど、あなたの持っているカードデッキ、頂くわ」
あまりにも唐突である。高見沢も面食らっているようだ。
「…どういうおつもりで?」
「ライダーには叶えたい願いがある。そうでしょう?」
「というと…って、別に気取って話す必要もねえか」
 突如、高見沢の雰囲気が変わった。
「おいアマ、神崎士郎に何言われたか知らねえが、てめえ如きにこのデッキはやらねえ。
俺はこいつで力を得る。誰もお呼びもつかねえような超人的な力をな」
「なら、あなたの持っている会社は力ではないのかしら?」
「会社?ハッ、あんなもん屁みてえなもんd(ズゴォッ)…何のつもりだ?」
 話が終わる前に、プレシアの攻撃魔法『フォトンバレット』が火を噴いた。
だが、高見沢はすんでの所でそれを避ける。
「話に夢中になっている間に倒して奪おうと思っていたのだけれど…やっぱりそう甘くは無いわね」
 確かにこの方法ならほとんど労せずしてデッキを奪えるだろう。だが、やり方がせこい。
それが高見沢の逆鱗に触れたのか、鏡へとデッキを向けて変身した。
「てめえ、生きて帰れると思うな!」

 戦いはベルデの方が有利に進んでいた。
バイオワインダーにクリアーベントを組み合わせた戦法が功を奏し、さすがのプレシアも攻撃を当てることが出来ない。
それでも命中の直前に防御魔法を使っているので、何とかダメージは受けていなかった。
(ライダーの力がこれほどだったとは…あれを使っても問題はなさそうね)
 プレシアが何かを取り出す。それは…
「あ?何だあの青い石…宝石か?」
「一応、警告はしておくわ。今すぐ降参して、デッキを渡しなさい。
今なら…殺さなくて済むわ」
 この女は何を言っている。ここまで有利に戦いを進めているのはベルデの方のはずだ。
当然聞き入れず、バイオワインダーで長距離攻撃を仕掛けるベルデ。だが、それが命取りになった。
「そう、残念ね…さよなら」
 ズゥン…
 轟音が鳴り響く。音とともに煙が巻き上がる。
煙が晴れたとき、そこにいたのはプレシア一人だけだった。
誤解の無いように言っておくが、決してクリアーベントで姿を消しているわけではない。
その証拠に、服のポケットにベルデのデッキがしまわれている。
「待っていて、アリシア…必ずあなたを生き返らせてあげるから…」
 そう言うと、プレシアは去っていった。
後に残っていたのは、高見沢逸郎『だったもの』だけである。

仮面ライダーベルデ:高見沢逸郎…死亡
プレシア・テスタロッサ…二代目仮面ライダーベルデとなる
残るライダー・・・13人

 その晩、北岡弁護士事務所にて。
「先生、夕飯出来ました」
 助手の由良吾郎が北岡に夕食を渡す。ちなみに今日の夕食はスパゲティだ。
それをフォークで巻き取り、口へと運ぶ。
「…うん、吾郎ちゃんの料理最高だよ」
 いつもの事ながら、大絶賛である。
と、事務所の電話に着信が入った。
「はい、もしもし。北岡弁護士事務所です…え?何ですって?」
 北岡がかなり驚いている。何があったのだろうか。
「はい…はい…では、その話は後日お伺いして、そのときに改めて…ええ、では」
 北岡が電話を切る。そして吾郎に内容を話した。
「はー…参るよ。高見沢グループの社長さんが死んで、俺との契約何とかしたいってさ」
「え?あそこの社長さん、死んだんスか?」
「ああ、そうだよ…知り合いみたいな口ぶりだね」
「ええ、まあ…死んだ今になったら無意味でしょうけど、先生への伝言預かってたんスよ」
「伝言?何よ?」
「『いつか倒しに行く。待っていろ、仮面ライダーゾルダ』…そう言ってました」
「へえ…あの人ライダーだったの?」
『そう、仮面ライダーベルデだ』
 その声に驚き、北岡・吾郎ともにその方向に振り向く。
そこにはいつの間にか、神崎士郎がいた。
「…いつからいたのかは聞かないよ。で、何か用?」
『高見沢逸郎とお前は知り合いだったようだからな、話しておいたほうがいいだろう』
 そう言うと神崎は、プレシア・テスタロッサのことを話し始めた。そして話し終えると、この言葉を残して消えていった。
『勝ち残るつもりなら急いだ方がいい。でないと、次に消えるのはお前になる』

「やれやれ、神崎士郎も人が悪いよ。あんなこと聞かせて発奮でもさせようって言うのかね?」
 神崎が去った後、北岡がそう呟いた。
「先生…」
「だーいじょぶだって。まだ時間はあるしさ」
 北岡の中にある病、それが彼の命を喰らい尽くすにはまだ時間はある。
それまでに終わらせないと、その病が北岡を消す…神崎はそう言ったのだ。
「大丈夫、俺は死なないよ。俺が死ぬより先に、この戦いに勝ち残るからさ」
 北岡はそう言って、残りのスパゲティを完食した。

  次回予告
「あ、ごめん。でも大丈夫だよね?」
「これが我々の作った擬似ライダー、オルタナティブです」
「僕は…いや、僕達は英雄になる」
「おま、そんなの有りかよ!?」
仮面ライダーリリカル龍騎 第十話『香川研究室』

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2007年06月15日(金) 17:42:32 Modified by beast0916




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