本家保管庫の更新再開までの暫定保管庫です。18歳未満立ち入り禁止。2013/2/15開設

見開いている漆黒の瞳が明らかに戸惑っていた。
「えっ…」
「何だよ今更」
「だって、そんなつもりじゃないから…」
本気で怯えているのか、少女の唇が微かに震えているのが分かった。

時は昼休み、場所は屋上。
ほんの少し一緒にいて雑談を交わしていた中で何となくいい雰囲気になったので、男鹿は躊躇
することもなく邦枝にキスをした。それぐらいならやや驚きながらも頬を染めて受け入れていた邦枝
だったのだが、それ以上のことはさすがに想定外だったらしい。
「いきなりなんて絶対嫌。心の準備ってモンがあるでしょ…」
嫌よ嫌よも好きのうち、という言葉もある。だが間近に見た長い睫毛の端に涙がうっすらと滲んで
いるのはどうも興醒めだった。ここまで完全に拒絶している女に強要するのは、この機会を二度と
失うのと同じことだ。
好意そのものは以前から感じていたからといって、今日は調子に乗ってやり過ぎたかなとも思って
いる。
「そうだな、悪かったよ」
意を汲む振りであっさり引き下がると、何故か邦枝は瞳に残念そうな色を宿した。それでも口調は
変わらない。
「そうよ、ベルちゃんも見てるじゃない」
「あー、コイツはあんま関係ないんだけどさ」
「そんな訳ないじゃない、もうっ」
わざと怒ったようにむくれる顔は可憐な少女そのものだ。これでかつては烈怒帝瑠の総長だった
から世の中分からない。女という生き物の多面性と複雑さは、別にヒルダだけじゃなく人間の邦枝
にも確実にあるものなのだろう。
なら女によっても異なるその不可思議な面を、もっと見たいと思うのも当然のことだ。

ヒルダの端麗な横顔が午後の窓辺の光景に映えていた。今日も静かに本を読んでいたらしい。
帰宅した男鹿の姿を確認するなり、相変わらずの憎まれ口を聞くのはいつものことだ。本から顔を
上げるなり鋭い皮肉交じりの言葉を投げてくる。
「遅いぞ、坊っちゃまに対して何か粗相はなかっただろうな」
「あるかよンなモン」
「ほう…」
片眉を上げる表情は、最近見慣れたものだ。この女のわずかな変化を楽しんでいるのはなかなか
の悪趣味と分かっていながらも、止められない。

「貴様の存在意義は何だ」
「そりゃ、ベル坊の親…だろう」
「分かっているのであれば、おのずから察して行動しろ。まずは御機嫌伺いからだ」
何を無茶なことを、と言う間もなく背中に張りついていたベル坊がヒルダの手に渡った。
「さ、坊っちゃま。人間の世界など些細なものは所詮手の内でございます、早く大きくなって下さい
まし。ヒルダはこの命賭けても御助力致しますから」
豊満な胸に抱かれ、ベル坊は昼寝もさせていなかったこともあってすぐにうとうととし始める。その
姿を見つめる眼差しはまさに慈愛に満ちていた。
「見ろ。何という可愛らしくも威厳に溢れたお姿。やはりこのベルゼ様こそが大魔王様の後継者と
して相応しいではないか」
「はーへー…」
男鹿にとっては全部どうでもいことだ。元々ベル坊もヒルダもある日突然目の前に現れただけの
ことで、魔界だの後継者だのという事情などは面倒臭いからあまり深入りはしないようにしていた
のだが、最近何かと怪しい。
この間は柱師団とかいう魔界からの襲来者たちに人類を滅亡させはしない、と啖呵を切ってしまった
ほどだ。魔界の権力争いなど心底どうでもいいのだが、もうそんな呑気なことは言ってられなくなって
いる。
「貴様も、坊っちゃまにお仕え出来ることを光栄と心得ることだな。人類なぞ今後存続しようが滅亡
しようが一向に構わんが、それは大魔王様の一存だ。もし貴様が人類を守りたいと思うのであれば
せいぜい啓蒙するがいい。いずれ焔王様ではなく坊っちゃまが大魔王となった暁に全てが決まるの
だぞ」
眠りこけるベル坊を誇らしげに抱きながら、ヒルダは眼差しをぴったりと男鹿に据えた。またあの
何とも言えない感覚がつられて湧き上がってくる。
「あーそーだなー」
面倒事には関わりたくないのに、気持ちとは逆に引きずり込まれてしまうのは何もかもヒルダの
せいだ。この女の血も肉も全てが淫なるもので構成されていて、触れたら最後人間などの自制心
では到底抗いきれない。
自分の中の半端な良心も本能も全部一緒くたにされて、快楽という暗黒のるつぼにブチ込まれる
感覚はどうにも不愉快であるのだが、同時にこの女に関わり続けたらこの先どうなるのかをつい
期待してしまうのだ。喧嘩などでは到底味わえない未知の危険な領域に足を踏み入れ始めている
ことが、男鹿を更に無謀にしている。
これほどに火花を散らすほど相反するものを同時に感じているなど、誘惑に応じてしまったあの日
までは全くなかったことなのだ。他の女ならどうなのだろうと邦枝に良からぬことをしかけたのも、
そこに起因しているのだろう。
「ふ…」
そんな男鹿の心中の変化を見透かしてでもいるように、ヒルダは妖艶な笑みを口元に浮かべて
いた。

すやすやと眠っているベル坊の髪を撫でていた片手が、男鹿の頬にかかる。
「貴様は面白い男だな」
「そんなん言われてもあんま嬉しくねーな」
「気にするな、只の戯言だ」
見つめてくる眼差しは強く、どこか挑むようなものになっている。隠微さをも含む視線に射抜かれて
くらくらと酩酊する感覚は以前と同じだ。ヒルダははっきりと欲情を表している。以前なら何も感じ
取ることすら出来なかったが、経験が知覚を押し上げている。
指がつつっと顎を撫でた。
「試しの期間はとうに終わった。貴様もまた坊っちゃまの為に命と運命を捧げることになる。普通で
あれば王族の御方に尽くすなど無上の光栄と心得て無私無欲となるべきところだが、貴様は欲に
まみれた人間だからな」
「だからどうした」
「坊っちゃまにお尽くしするという点で立場を同じくする私が、貴様の欲を全て請け負ってやろうと
いうのだ」
「へーえ…」
綺麗なアーチを描く唇の端が不自然に上がる。嘲笑、自嘲、諦観、それらの入り混じった感情が
そこに見えるような気がした。ヒルダもまた、男鹿と関わったことでの変化を自覚しているのだろう。
ベル坊が男鹿に懐いた日から、人間の手を借りなければ自らの生きる道はないことにはずっと
葛藤があったに違いない。その葛藤についてとりあえずこんな形で自分なりの結論を出したつもり
でいる。
嫌な女だと今でも思ってはいるが、気の毒な女でもあった。
だからといって、別に同情するつもりもない。
「つまり、ヤり放題ってことだな」
顎に触れていた手を取って股間に押し当てると、細い指が心得たように布の上から握り込んで
きた。了承を確認するまでもなく白い顎を掴んで唇を奪ったが、接近した視線はそれでも決して
閉じることなく挑発的で淫らな光を宿すばかりだ。
「私と貴様は、言わば一蓮托生。坊っちゃまの輝ける未来の為の礎なのだ」
唇が離れた先から、ヒルダは相変わらずの口を叩く。
「言いも言ったり、ってトコだな」
「まあ、如何様にも解釈するがいい」
薄く笑う唇がまた奇妙に歪んだ。

「坊っちゃま、しばらく良い子でいて下さいましね」
再び髪を撫でると、すっかり寝込んでいるベル坊は側のベッドに寝かされた。
「私もこの男もあなた様の為におりますので、立派に御成長下さい」
一瞬だけ慈愛に満ちた眼差しで見つめ、すぐに男鹿に向き直った時には見慣れた表情に戻って
いた。
「ふふっ…」
薄く笑いながら擦り寄る女の手が、再び股間を握った。触れる感触からそれが兆しているのを感じ
取ったのか、ズボンのファスナーを開いて直に扱き始める。技巧に長けた手にかかっては簡単に
反応を返すしかない一物が、ぐんぐんと頭をもたげてきた。
あまりにも簡単に扱われる腹立たしさもあって、ついぼそっと吐き出す。
「んな急がなくても」
「貴様の欲を埋めるのだ、私の欲も埋めて貰うぞ」
返すヒルダの声が甘く掠れた。目眩がしそうになる頃、床に膝をつくなり勃ち上がった一物の先端
をぺろりと舐められる。
「ちょっ、待てってば!」
貪欲なこの女のペースに呑まれたらとんでもないことになる。分かってはいても一度快感を知った
からには逃れられない。
「そうだ、もっと感じろ…」
手で巧みに扱きながらも、緩く鈴口を舌先でつつく女の声がとろりと潤んだ。どこをどうすれば男を
追い上げられるのかを知り尽くしている遣り方だ。それだけに、あまりにも呆気なく達したら沽券に
関わるとばかりに、男鹿はひたすら耐える。
「てめーなんかに、負けるかよっ…」
「ふふっ」
そんな我慢も面白いと感じているのか、ヒルダの舌技は更にダイレクトな快感を煽ってきた。一度
根元から舐め上げてからカリの形をなぞるように舌が絡みつく。こんなことでイってたまるかと別の
ことでも考えて気を紛らわそうとした瞬間、熱を帯びた口腔内にすっぽりと含み込まれた。
「おい待てって!」
咥えられた途端に口腔全体での膣壁を思わせる激しい締め上げを味わい、咄嗟に爆発した射精感
を堪えることが出来なくなった男鹿は慌ててヒルダを引き離すと、直後にありったけの精液を放出
してしまった。
「…っくっ…」

勢い良く解き放たれた白濁液が美しいヒルダの金髪や滑らかな頬にかかって、どろりと重く垂れ
落ちていく。一瞬恨みがましい目つきになった後、女の指が頬に散った精液を掬い取ってわざと
見せつけてくるように一舐めした。
ちろちろと唇の間から覗く舌の動きが一層卑猥に見える。
「元気なものだな、貴様は」
「うっせーよ」
もし口の中に出していたとしても、この女なら平気で飲み下していたに違いない。射精の瞬間に
咄嗟に引き離したのは簡単に翻弄されるのが癪だったからだが、その為にこんな扇情的な姿を
見られたことで再び一物が硬く持ち上がっていく。
まだ膝まづいているヒルダがそれに気付かない筈もなく、ぎらぎらとした目つきで目の前にそそり
勃つものに再び手をかけてきた。そして空いている片手で躊躇もなくゴスロリ服の胸元をはだけ、
豊満な輝くばかりの乳房を露出させた。
「貴様も相当乗ってきているようだな。では遠慮なしでいくぞ」
一度目の射精を終えたばかりでべっとりと精液まみれになっている一物に怯むこともなく、清めて
でもいるようにゆっくりと舌を這わせて来る。今度は簡単に射精をさせまいとしているようだ。形を
楽しむようにじっくりと根元から筋の浮き出た竿を舐め上げ、カリを通過して鈴口に舌先を戯れる
ように滑らせていった。片手はしっかりと握りながらも緩やかに扱き上げ、もう片手はその下にある
袋を揉んでいてその性技には微塵の隙もない。
この女に秘められたものには決して底などないかのようだ。どこまでも淫らで、それでいて常に
取り乱さない。それがまたそそられてしまうのだから厄介だ。そして面白い。
「自分ばっかしてんじゃねーよ、入れさせろって」
「…まあ待て。ものは段取りだ」
見上げてくる目が悪戯っぽく細められた。先走りの液を舐め取ってから柔らかな乳房の間に押し
付け、何度も擦りつける。滑らかな肌の上をすべる感触に一物が敏感に反応して、さっき以上に
熱く硬くなっていった。
「人のモンで遊ぶんじゃねーよっ」
もちろんそんな声で反応するヒルダではなかった。
この女にかかると情けないほどあっさり反応してしまう。それはやっぱり腹立たしいし決して愉快
でもないのだが、同時に危険な領域を覗いている気になる。相反する感情が早くも心地良くなって
きているのが自分でも不思議だった。
悪魔の女とは誰でもこうなのだろうか。
それとも、女は種族に関係なくこうだから男は理屈抜きに魅了されるのか。
それはまだ分からないままだ。

「…待たせたな、ではいくぞ」
散々遊んだ後、口元をだらしなく濡らしたヒルダが誘惑するように先端を一度舐めた。やはり興奮
しているのか、ほんのりと頬が染まっているのがエロティックで美しさがより増している。
「そこに寝ろ」
命令する口調が低く掠れていた。
「うるせーな、分かってんよ」
ベッドの上ではベル坊が眠っている。寝入ったばかりなのでまだ当分起きる気配もないようだ。
内心ほっとしながら男鹿は床の上に横たわる。
「…よし」
満足そうな声が降ってくる。ヒルダは用を成さなくなったゴスロリ服をするりと身体から抜いて脇に
蹴飛ばし、おもむろにしなやかな脚を開いて跨ってきた。午後の日差しに晒された真っ白な身体が
ハレーションを起こしそうなほど輝いている。
黒い長手袋に包まれたままの指が屹立する一物を捉え、位置を整える。その真上に据えた腰が
的確に落とされていった。
絶え間なく先走りを零している先端を焦らすように膣口を擦り、互いの粘膜の感触を馴染ませて
から頃合を見計らってゆっくりと沈ませていく。
「ぅあ…っ」
入れただけで、耐えられない。
あらん限りの力と感覚で男の全てを搾り取ろうとでもするような、淫らな膣壁に強く擦られて思わず
声が上がる。まだ奥まで到達していないというのに、この女の身体はやはりとんでもない。うっかり
すればまたあっさり射精してしまいそうで、鉄の意志をもって堪え続けた。
「…あぁ、いいぞ」
ヒルダの方はといえば、一旦根元まで咥え込んでから恍惚として腰を動かし始めている。やはり
男に合わせるよりは自分が主導でするのが性に合っているのだろう。乗っているのが膣内の脈動
でも分かる。
些細なことも決して逃すまいと、動きを変えたり加速させる度に内部の襞のひとつひとつが絡み
ついてくるのだ。
「ち、くしょう…」
まるで好き勝手に犯されているようで、男鹿は悔し紛れに吐き出す。ふと目を開けると淫蕩な笑み
をうっすらと浮かべて激しく腰を振るヒルダの、こんな時でも怜悧な眼差しと目が合った。
その時。
にやり、と赤く色づいたアーチの唇の片端が酷薄に歪む。

激しく擦り合わされている互いの粘膜の間から、愛液が流れ出て床に溜まりを作っていた。それ
ほどにヒルダの快味は深く、快感を絞っている腰の動きが自由自在に弱く強く緩く激しくと気紛れ
なほどに間合いを変える。
麗しく実った乳房が、その動きに合わせるようにゆさゆさとリズミカルに揺れている。
「ン…」
漏らす声音が媚薬のように甘く滴っていた。金髪を振り乱し、隅々まで優美に形作られた身体を思う
さまエロティックにくねらせて、ヒルダは歓楽の只中で舞う。
『貴様の欲を全て請け負ってやろう』
そう言ったばかりだというのに、自分の欲を最優先しているから勝手なものだ。しかしその身勝手さ
は既に不愉快なものではなく、この好意の中でのプレイの一環としか思えなくなっている。
「あ、あ…貴様、は」
「何だよ」
床の上で拳を固めていただけの男鹿の手が、真上で揺れている両乳房を鷲掴みにした。その手
をヒルダの手が掴んで更に強く押し付けてくる。
「やはり…坊っちゃまが選んだだけの男だ…」
「ヘッ」
ヒルダはもう相当感じているようだ。同時に男鹿もこれほどまでの妖艶極まる肉体を手中にして
ひとたまりもなく陥落しようとしている。ただ、今度は絶対に男としてこの女より先にイッてしまい
たくはなかった。
その為に、今までずっとマグロのように横になっているだけだった男鹿も動き出した。自由に跳ねて
いる腰を掴んで、下から突き上げ始める。
「ひぁっ…?」
突然の反撃に驚いたのか、ヒルダが一瞬動きを止めた。が、すぐに例の怜悧この上ない美しい
眼差しに戻る。
「…良かろう。一緒に愉しもうではないか」
膣内が燃え盛っているようだ。互いの熱が格闘する如くぶつかり合って、新たな熱を生む。女の
身体を激しく跳ね上げ、膣内を掻き乱しながらも男鹿は存分にその媚態を愉しみ、一層増幅して
いく快感を味わっていた。
信じられないほど強く内部が絞られ、擦られる速度もまたぐんと速まっていく。ヒルダはもう限界を
迎えようとしていた。
「ぁあうっ…いい、ぞっ…」

極まりゆく、高く細い声が上がった。今だ、とばかりに男鹿は渾身の力を込めて柳のように揺れる
女の身体を引き寄せて強引に何度も突いた。その度にぐちゅぐちゅ、と淫らに散る水音がやけに
耳につく。いつもは冷静で残酷な女のこんな姿を誰も見はしないのが、更に心地いい。
程なくして膣内が恐ろしいほどに締まる。
髪がふわりと舞い上がった。
「ぅぁあぁあっ…!!」
今まで聞いたこともない声音で、ヒルダが啼いた。
感極まっただろう瞬間、天井を振り仰いだこともあって肝心の顔は見られなかったが、結合して
いる内部の感覚がそのままダイレクトに伝わってきたので不満はない。傲慢で、貪欲で、誇り高い
この女を先にイかせたことが何よりの悦びだった。
頭を垂れたせいか乱れた金髪が胸に乱れかかってくる。
「ん、ぅ…」
直後の倦怠感に襲われているのかぐったりと力のなくなった身体を抱き締めると、男鹿は繋がった
ままで体勢を入れ替え、ヒルダを床に引き倒した。うっすらと汗を掃いた肌は金粉をまぶしたように
光っている。
「貴、様」
急に予期しない動きをされて、ヒルダがぎりっと睨んできた。しかし先程までの痴態を見ている
こともあり、もう何の牽制にもなっていない。
「てめーだけ終わっていいと思ってんのかよ。俺は…まだだぜ?」
先にヒルダにイかれて放っておかれた形になっている一物は、まだ膣内で限界を知ることもなく
硬度を増している。何度か煽るように擦ってやると、再び膣壁が淫らに蠢動を始めた。
「そうだな、望むところだ」
魔界の女が再度禍々しさを取り戻し、唇に昏い笑みを浮かべる。続きを促すように腰をノックして
くる踵のリズムが加減のない淫心を刺激してきた。
「手加減は、しねーからな」
「それはお互い様だ…私を存分に堪能するがいい」
この期に及んでも挑み合うような視線の交錯が心を揺さぶる。そうだ、この女とは別にいつまでも
慣れ合わずにこのままこんな関係でいていいのだ。
いつ終わるとも知れない今日の交歓の中、男鹿は種族を問わない女という生き物の本質をわずか
だが知ったように思った。
それが気のせいでも良かった。
どのみち女は誰でも、心や本性の全てを見せる訳ではないのだから。


翌日、屋上に昇るとやはりそこには邦枝がいた。
柵にもたれて空を眺めている。
人の気配で振り返って男鹿を見ても何も言わない。
季節外れの強い風に長い黒髪が吹き上げられているのが、彼女の内心の葛藤を表しているよう
でもあった。
「日に焼けるぞ」
「…うん、別にいいの」
今日も快晴でやたらと暑い。こんなところにいたらあっと言う間に日焼けしてしまうだろう。女なら
それだけは絶対に避ける筈なのに、何故か邦枝は昼休みになってすぐから、ずっとここにいた
ようだった。
しかし。
「男鹿」
意を決したように、邦枝は柵を背にして恐ろしく真面目な顔になる。
「いい加減なの、嫌いだからね」
そう言ってスカートの端をおずおずと持ち上げた。目が痛くなるほどの真昼の日差しの下で、白い
レースのショーツがスカートの奥から覗いていた。

女にはきっと千も万もの顔があって、それが彩りのように折々に形を変え、色を変えていく。
邦枝は、一体どんな面を見せるのだろう。




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