最終更新: chorus_mania 2023年02月08日(水) 02:14:15履歴
ソネット集 | ソネットシュウ | 指示 | 速度 | 調性 | 拍子 | |
1 | 風に寄せて その一 | カゼニヨセテ ソノイチ | Larghetto | 付点4分音符=ca.66 | ト長調 | 6/8 |
2 | 風に寄せて その二 | カゼニヨセテ ソノニ | Allegro | 4分音符=ca.138 | ト短調 | 4/4 |
3 | 雲の祭日 | クモノサイジツ | Andante | 4分音符=ca.72 | ヘ長調 | 4/4 |
4 | やがて秋…… | ヤガテアキ | Allegretto | 4分音符=ca.108 | ニ短調 | 3/4 |
5 | 旅人の夜の歌 | タビビトノヨルノウタ | Adagio | 4分音符=ca.58 | ト短調 | 4/4 |
6 | 浅き春に寄せて | アサキハルニヨセテ | Allegro | 4分音符=ca.138 | ヘ長調 | 4/4 |
初演団体:立教大学グリークラブOB男声合唱団・立教大学グリークラブ現役有志合同
初演指揮者:北村協一
初演年月日:1992年8月29日
第13回立教大学グリーフェスティバル(於東京芸術劇場大ホール)
初演指揮者:北村協一
初演年月日:1992年8月29日
第13回立教大学グリーフェスティバル(於東京芸術劇場大ホール)
「やがて秋……」……『暁と夕の詩』(自家、1937年)
「浅き春に寄せて」……『優しき歌』(角川書店の第三次『立原道造全集』編纂にあたって復元されたもの。1947年に角川書店から出版された同名詩集とは別)
残りは未刊詩篇。
「浅き春に寄せて」……『優しき歌』(角川書店の第三次『立原道造全集』編纂にあたって復元されたもの。1947年に角川書店から出版された同名詩集とは別)
残りは未刊詩篇。
さうして小川のせせらぎは 風がゐるから
あんなにたのしく さざめいてゐる
あの水面のちひさいかげのきらめきは
みんな 風のそよぎばかり……
小川はものをおし流す
藁屑を 草の葉つぱを 古靴を
あれは風がながれをおして行くからだ
水はとまらない そして 風はとまらない
水は不意に身をねぢる 風はしばらく水を離れる
しかしいつまでも川の上に 風は
ながれとすれずれに ひとつ語らひをくりかへす
長いながい一日 薄明から薄明へ 夢と晝の間に
風は水と 水の翼と 風の瞼と 甘い囁きをとりかはす
あれはもう叫ばうとは思はない 流れて行くのだ
あんなにたのしく さざめいてゐる
あの水面のちひさいかげのきらめきは
みんな 風のそよぎばかり……
小川はものをおし流す
藁屑を 草の葉つぱを 古靴を
あれは風がながれをおして行くからだ
水はとまらない そして 風はとまらない
水は不意に身をねぢる 風はしばらく水を離れる
しかしいつまでも川の上に 風は
ながれとすれずれに ひとつ語らひをくりかへす
長いながい一日 薄明から薄明へ 夢と晝の間に
風は水と 水の翼と 風の瞼と 甘い囁きをとりかはす
あれはもう叫ばうとは思はない 流れて行くのだ
風はどこにゐる 風はとほくにゐる それはゐない
おまへは風のなかに 私よ おまへはそれをきいてゐる
……うなだれる やさしい心 ひとつの蕾
私よ いつかおまへは泪をながした 頬にそのあとがすぢひいた
風は吹いて それはささやく それはうたふ 人は聞く
さびしい心は耳をすます 歌は 歌の調べはかなしい 愉しいのは
たのしいのは 過ぎて行つた 風はまたうたふだらう
葉つぱに わたしに 花びらに いつか歸つて
待つてゐる それは多分 ぢきだらう 三日月の方から
たつたひとり やがてまたうたふだらう 私の耳に
梢に 空よりももつと高く なにを 何かを くりかへすだろう
風はどこに 風はとほくに けれどそれは歸らない もう
私よ いつかおまへは ほほゑんでゐた よいことがあつた
おまへは風のなかに おまへは泣かない おまへは笑はない
おまへは風のなかに 私よ おまへはそれをきいてゐる
……うなだれる やさしい心 ひとつの蕾
私よ いつかおまへは泪をながした 頬にそのあとがすぢひいた
風は吹いて それはささやく それはうたふ 人は聞く
さびしい心は耳をすます 歌は 歌の調べはかなしい 愉しいのは
たのしいのは 過ぎて行つた 風はまたうたふだらう
葉つぱに わたしに 花びらに いつか歸つて
待つてゐる それは多分 ぢきだらう 三日月の方から
たつたひとり やがてまたうたふだらう 私の耳に
梢に 空よりももつと高く なにを 何かを くりかへすだろう
風はどこに 風はとほくに けれどそれは歸らない もう
私よ いつかおまへは ほほゑんでゐた よいことがあつた
おまへは風のなかに おまへは泣かない おまへは笑はない
羊の雲の過ぎるとき
蒸氣の雲が飛ぶ毎に
空よ おまえの散らすのは
白い しいろい絮の列
帆の雲とオルガンの雲 椅子の雲
きえぎえに浮いてゐるのは刷毛の雲
空の雲……雲の空よ 青空よ
ひねもすしいろい波の群
ささへもなしに 薔薇紅色に
ふと蒼ざめて死ぬ雲よ 黄昏よ
空の向うの國ばかり……
また或るときは蒸氣の虹にてらされて
眞白の鳩は暈となる
雲ははるばる 日もすがら
蒸氣の雲が飛ぶ毎に
空よ おまえの散らすのは
白い しいろい絮の列
帆の雲とオルガンの雲 椅子の雲
きえぎえに浮いてゐるのは刷毛の雲
空の雲……雲の空よ 青空よ
ひねもすしいろい波の群
ささへもなしに 薔薇紅色に
ふと蒼ざめて死ぬ雲よ 黄昏よ
空の向うの國ばかり……
また或るときは蒸氣の虹にてらされて
眞白の鳩は暈となる
雲ははるばる 日もすがら
やがて 秋が 來るだらう
夕ぐれが親しげに僕らにはなしかけ
樹木が老いた人たちの身ぶりのやうに
あらはなかげをくらく夜の方に投げ
すべてが不確かにゆらいでゐる
かへつてしづかなあさい吐息にやうに……
(昨日でないばかりに それは明日)と
僕らのおもひは ささやきかはすであらう
――秋が かうして かへつて來た
さうして 秋がまた たたずむ と
ゆるしを乞ふ人のやうに……
やがて忘れなかつたことのかたみに
しかし かたみなく 過ぎて行くであらう
秋は……さうして……ふたたびある夕ぐれに――
夕ぐれが親しげに僕らにはなしかけ
樹木が老いた人たちの身ぶりのやうに
あらはなかげをくらく夜の方に投げ
すべてが不確かにゆらいでゐる
かへつてしづかなあさい吐息にやうに……
(昨日でないばかりに それは明日)と
僕らのおもひは ささやきかはすであらう
――秋が かうして かへつて來た
さうして 秋がまた たたずむ と
ゆるしを乞ふ人のやうに……
やがて忘れなかつたことのかたみに
しかし かたみなく 過ぎて行くであらう
秋は……さうして……ふたたびある夕ぐれに――
降りすさんむでゐるのは つめたい雨
私の手にした提灯はやうやく
昏く足もとをてらしてゐる
歩けば歩けば夜は限りなくとほい
私はなぜ歩いて行くのだらう
私はもう捨てたのに 私を包む寝床も
あつたかい話も燭火も――それだけれども
なぜ私は歩いてゐるのだらう
朝が來てしまつたら 眠らないうちに
私はどこまで行かう……かうして
何をしてゐるのであらう
私はすっかり濡れとほつたのだ 濡れながら
悦ばしい追憶を なほそれだけをさぐりつづけ……
母の あの街の方へ いやいや闇をただふかく
私の手にした提灯はやうやく
昏く足もとをてらしてゐる
歩けば歩けば夜は限りなくとほい
私はなぜ歩いて行くのだらう
私はもう捨てたのに 私を包む寝床も
あつたかい話も燭火も――それだけれども
なぜ私は歩いてゐるのだらう
朝が來てしまつたら 眠らないうちに
私はどこまで行かう……かうして
何をしてゐるのであらう
私はすっかり濡れとほつたのだ 濡れながら
悦ばしい追憶を なほそれだけをさぐりつづけ……
母の あの街の方へ いやいや闇をただふかく
今は 二月 たつたそれだけ
あたりには もう春がきこえてゐる
だけれども たつたそれだけ
昔むかしの 約束はもうのこらない
今は 二月 たつた一度だけ
夢のなかに ささやいて ひとはゐない
だけれども たつた一度だけ
そのひとは 私のために ほほゑんだ
さう! 花は またひらくであらう
さうして鳥は かはらずに啼いて
人びとは春のなかに笑みかはすであらう
今は 二月 雪に面につづいた
私の みだれた足跡……それだけ
たつたそれだけ――私には……
あたりには もう春がきこえてゐる
だけれども たつたそれだけ
昔むかしの 約束はもうのこらない
今は 二月 たつた一度だけ
夢のなかに ささやいて ひとはゐない
だけれども たつた一度だけ
そのひとは 私のために ほほゑんだ
さう! 花は またひらくであらう
さうして鳥は かはらずに啼いて
人びとは春のなかに笑みかはすであらう
今は 二月 雪に面につづいた
私の みだれた足跡……それだけ
たつたそれだけ――私には……
タグ
コメントをかく