若しもかの星に | モシモカノホシニ | 指示 | 速度 | 調性 | 拍子 | 備考 | |
1 | 若しもかの星に | モシモカノホシニ | ややおそく、孤独感に満ちて | 4分音符=約76 | ニ短調 | 4/4 | |
2 | 光 | ヒカリ | おそく、幻想的に | 4分音符=約66 | ハ短調 | 4/4 | High Bariton or Tenor Solo |
3 | 樹のぼり | キノボリ | はやく、素朴に | 4分音符=約120 | ト長調 | 4/4 | |
4 | 母の夢 | ハハノユメ | おそく、しみじみと | 4分音符=約69 | ロ短調 | 4/4 | Tenor Solo |
5 | 海景 | カイケイ | やや、はやく、抒情的に | 4分音符=約104 | ホ短調 | 4/4 | |
6 | 遠いところで子供達が歌つてゐる | トオイトコロデコドモタチガウタッテイル | 中庸の速度で、さわやかに | 2分音符=約88 | ト長調 | 2/2 |
「若しもかの星に」「遠いところで子供達が歌つてゐる」……『ぬかるみの街道』(大鐙閣、1918年)
「光」……『最初の一人』(短檠社、1915年)
「樹のぼり」……『ぱいぷの中の家族』(金星堂、1931年)
「母の夢」……『何もない庭』(椎の木社、1927年)
「海景」……『風車』(新潮社、1922年)
「光」……『最初の一人』(短檠社、1915年)
「樹のぼり」……『ぱいぷの中の家族』(金星堂、1931年)
「母の夢」……『何もない庭』(椎の木社、1927年)
「海景」……『風車』(新潮社、1922年)
もしもかの星に、
夜の空の遠い一つの星のなかに、
取残された一人の人間が居るならば、
そしてもし彼がそこから吾々のこの世界を見るならば、
吾々の、この賑やかで樂しげな地上の世界をみるならば、
おゝおそらく彼は孤獨に狂ふだろう、
聲はり上げて叫ぶだらう、
絶望の叫喚を投げるだらう、
彼はそこから飛び降りたく思ふだらう、
が、彼はなほそこに止まらねばならぬ、
して、日夜、
彼はたゞ獨りこの繋がりなき距りを見ねばならぬ、
そこに彼は生きねばならぬ、
あゝ若し吾々の一人がかゝるおそろしい絶望のうちに生きるならば、
おゝ然して彼が尚ほ生きるならば‥‥。
夜の空の遠い一つの星のなかに、
取残された一人の人間が居るならば、
そしてもし彼がそこから吾々のこの世界を見るならば、
吾々の、この賑やかで樂しげな地上の世界をみるならば、
おゝおそらく彼は孤獨に狂ふだろう、
聲はり上げて叫ぶだらう、
絶望の叫喚を投げるだらう、
彼はそこから飛び降りたく思ふだらう、
が、彼はなほそこに止まらねばならぬ、
して、日夜、
彼はたゞ獨りこの繋がりなき距りを見ねばならぬ、
そこに彼は生きねばならぬ、
あゝ若し吾々の一人がかゝるおそろしい絶望のうちに生きるならば、
おゝ然して彼が尚ほ生きるならば‥‥。
自分はのぼつてゆく。
何処までもつゞく階段、
黄金の階段。
自分はのぼつてゆく。
光は遠い、
真実の太陽の光。
自分はのぼつてゆく。
何処までもつゞく階段。
光は遠い、
しかし光はそこに溢れてゐる。
光はそこにあふれてゐる―――
何処までもつゞく階段、
黄金の階段。
自分はのぼつてゆく。
光は遠い、
真実の太陽の光。
自分はのぼつてゆく。
何処までもつゞく階段。
光は遠い、
しかし光はそこに溢れてゐる。
光はそこにあふれてゐる―――
櫻んぼの熟つてゐる樹の下で
僕は村の子供達と遊んだ。
僕の好きな女の兒の髪は
熟れた麥のやうな匂ひがする。
梯子をのぼつてゆくその兒の後から
僕も下手な樹のぼりをして行つた。
皆が下の方で囃してゐる。
僕は僕の採つた櫻んぼをその兒の笊に入れて遣る。
櫻んぼの熟つてゐる樹の上で
僕はその兒と仲よしになつた。
その兒の髪は熟れた麥のやうな匂ひがした
どうやらその時から僕の頭髪も熟れた麥の匂ひがする。
僕は村の子供達と遊んだ。
僕の好きな女の兒の髪は
熟れた麥のやうな匂ひがする。
梯子をのぼつてゆくその兒の後から
僕も下手な樹のぼりをして行つた。
皆が下の方で囃してゐる。
僕は僕の採つた櫻んぼをその兒の笊に入れて遣る。
櫻んぼの熟つてゐる樹の上で
僕はその兒と仲よしになつた。
その兒の髪は熟れた麥のやうな匂ひがした
どうやらその時から僕の頭髪も熟れた麥の匂ひがする。
馬車は巌ばなをまがる、
馬車は壊れかゝつた燐寸函で
馬車は手毬のやうにはずむ。――
大玻璃の
海景は折れまがり、
しづかな波、
ちらばふハンカチのやうな舟舟
外洋の壮大と広潤は失はれて
ぽつかりとした日だまりの海がそこにある
馬車は日かげの巌の下をゆく
馬車は壊れかゝつた燐寸函で
馬車は手毬のやうにはずむ。――
馬車は壊れかゝつた燐寸函で
馬車は手毬のやうにはずむ。――
大玻璃の
海景は折れまがり、
しづかな波、
ちらばふハンカチのやうな舟舟
外洋の壮大と広潤は失はれて
ぽつかりとした日だまりの海がそこにある
馬車は日かげの巌の下をゆく
馬車は壊れかゝつた燐寸函で
馬車は手毬のやうにはずむ。――
遠いところで子供達が歌つてゐる、
道路を越して 野の向うに
その声は金属か何かの尖端が触合つてゐるやうだ。
一団になつて子供達が騒いでゐるのだ、
戦さごつこか何かをしてゐるのだ、
追つたり、追はれたり、
組んだりほぐれたりして
青い草の上でふざけ合つてゐるのだ。
おゝ晴れわたつた空に呼応して、
子供達の声が私の空にきこえてくる、
遠い世界のものゝやうにひゞいてくる、
私の魂はそれに相応ずる、
そのひゞきの一つ一つをきく、
はるかに支持し合ひ
保ち合ふ人生がきこえる、
おゝ私はその声をきいてゐる。
道路を越して 野の向うに
その声は金属か何かの尖端が触合つてゐるやうだ。
一団になつて子供達が騒いでゐるのだ、
戦さごつこか何かをしてゐるのだ、
追つたり、追はれたり、
組んだりほぐれたりして
青い草の上でふざけ合つてゐるのだ。
おゝ晴れわたつた空に呼応して、
子供達の声が私の空にきこえてくる、
遠い世界のものゝやうにひゞいてくる、
私の魂はそれに相応ずる、
そのひゞきの一つ一つをきく、
はるかに支持し合ひ
保ち合ふ人生がきこえる、
おゝ私はその声をきいてゐる。
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