作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「達治と濤聲」(作詩:三好達治)

達治と濤聲タツジトトウセイ指示速度調性拍子
1不知火かシラヌイカAndantino4分音符=84ca.ト短調4/4
2すみれぐさスミレグサAndantino4分音符=80ca.ホ短調4/4
3荒天薄暮コウテンハクボAllegro4分音符=126ca.ニ短調4/4
4紅花一輪コウカイチリンAndantino4分音符=84ca.ニ短調3/4
5九十九里ヶ濱クジュウクリガハマAllegretto付点4分音符=108ca.ヘ短調12/8

作品データ

作品番号:T109:M91n
作曲年月日:2014年12月?
東西四大学合唱連盟による委嘱

初演データ

初演団体:東西四大学合唱連盟合同
初演指揮者:山脇卓也
初演年月日:2015年6月28日
第64回東西四大学合唱連盟合唱演奏会(於すみだトリフォニーホール)

楽譜・音源データ

立ち読み可
出版譜は初演会場で先行発売された。

作品について

2015年6月28日 第64回東西四大学合唱演奏会合同演奏にて初演された。多田武彦が長年取り組んできた三好達治の詩による作品の集大成。「濤聲」とは波の音。時に激しく時に静謐な、海を舞台とした達治の詩による5曲は力強く聴く者の胸に迫る。グレード:中級 演奏時間=約20分10秒(カワイ出版より)
詩の出典
「不知火か」「九十九里ヶ濱」……『定本三好達治詩全集』(筑摩書房、1962年):『百たびののち』の項に収められている。
「すみれぐさ」「荒天薄暮」……『故郷の花』(大阪創元社、1946年)
「紅花一輪」……『艸千里』(四季社、1939年)

歌詩

不知火か
――不知火か あらず 漁り火
夜もすがら 漁り火を見る 夜もすがら
天低うして風は死し
はてなき時の脈搏のみ
こなたに やをら うちかへす闇の起き伏し
まどかなるそが胸に かがやかに 遠くはるかに
――不知火か さなり 虚しく
おきつらねたるものを喪ふ
さらばこの暗遒列擇現个任燭謌稽錣
夜もすがら 漁り火を見る
遠くはるかに かがやかに さては八束に
肩の邊に いまわが見るは
短夜を 昨日を今日に 漁り火の かの不知火の 點じ出でたる闇なるか
明日の來て 誰れびとの手がかぐるものぞ かくはてしなき遍在を
師よ 友よ 海さか越えて われもまた卿らの方に歩むものなり
厩舎の戸ぼそ曳き出でて かの轡づら
解き放ち放つごとくに 家畜らを ひろ野の牧に
己が影を かい放ちやり……
すみれぐさ
春の潮相逐ふうへにおちかかる
落日の ――いま落日の赤きさなかに
われは見つ
かよわき花のすみれぐさひとつ咲けるを
もろげなるうなじ高くかかげ
ちひさきものもほこりかにひとり咲けるを
われはいづこに歸るべきふるさともなき
落日の赤きさなかに――
荒天薄暮
天荒れて日暮れ
沖に扁舟を見ず
餘光散じ消え
かの姿貧しき燈臺に
淡紅の瞳かなしく點じたり
晩鴉波にひくく
みな聲なく飛び
あわただしく羽うちいそぐ
さは何に逐はるるものぞ
慘たる薄暮の遠景に
されどなほ塒あるものは幸なるかな
天また昏く
雲また疾し
彼方町の家並は窓をとぢ
煤煙の風に飛ぶだになし
長橋むなしく架し
車馬影絶え
松並木遠く煙れり
――景や寂寞を極めたるかな
帆檣半ば折れ
舷赤く錆びたるは何の船ならむ
錨重く河口に投じ
折ふりしにものうき機關の叫びを放てり
まことにこれ戰ひやぶれし國のはて
波浪突堤を沒し
飛沫しきりに白く揚れども
四邊に人語を聞かず
ただ離々として艸枯れて砂にわななきわれひとりここに杖を揮ひ
悲歌し感傷をほしいままにす
紅花一輪
なつかしき南の海……
かつかしきは伊豆の國かな
二日三日 わがのがれきて
ひとり愁ひを養へる
宿のうしろのきりぎしの
ほのぐらき雜木まじりに
ひともとたてるやぶ椿
いま木洩れ陽のかげうごく
ふとしも見れば
ここだくの花は古りたる もも枝の
そのひと枝ゆ
この朝さきしばかりの 新らしき紅花一輪
廊わたるわれにむかひて眼くばせす
神在す――
わが心既におとろへ 久しくものに倦んじたり
神在すとは 信うすきわれらが身には 何の證しもなけれども
われは信ず
ただにわづかに
われは信ず
かの紅花一輪 わがためにものいふあるを
如何に 如何に
人人百度もわれをたばかりあざむく日にも
われは生きん
われは生きん
――かの一輪の花の言葉によりてこそ
九十九里ヶ濱
…………………
時劫の風のかまよひに
さやさや騷ぐ草の穂か
昨夜甘かりし追憶よ

高くひそかに熟れにけむ……
ひと夜ひそかに 甘き果實は堕ちにけり
時滿ちて ほつねんと 砂の上に
國のはてなるいと熱きいと涸きたる眞砂の路に堕ちにしか

ひと世ははやく經たりけり
空の空
空なればこそ消ちがたき
理は誰かは得知る

さあれあれ なべて内部なるものの香に
ものの音いろに 色鳥に
日をなほひと日うち騷ぐ
木梢の夢に醉はしめよ

彼方積亂雲高し
海坂こえて 世をこえて
安達太郎は音聲に
この夏の日のまつ晝ま

風は輕らに眼瞼を
人の命に痩けし頬を いま吹きかよふ
大海の風よりもなほ輕らかに
彼らの歌を飛ぶ鷗

來れかし 來れかし
來れかし 二つなき名といはじかし いまは影のみ
ゆるゆるめぐる水ぐるま
白金光の蓋に……

來りて人に倚りそへよ
時は重たき肩の上に
輕き頬もて枕せよ
この星になほうら若く降りたちて

晝未來遅刻の歩みのほかに輝かな
君が宮居の廣前に
獻げものすずろかにささぐるごとく
ゆくりかにさらば語らん

空の空
空なればこそ在りは在り
林檎の蟲はひややかに熟えたる彼の部屋籠り
森の小鳥は巢をすてて空のさかなに死ぬといふ 死の物語

天にむかひて砂原はつらなりめぐりはろばろと
陽ははや正午 神ここにましますさずけり
さればこそしまき煙らふ大海をただむきにこそ抱くらめ
目路のはて安達太郎はたたら踏む 九十九里ヶ濱

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