中原中也の詩から・第二 | ナカハラチュウヤノシカラ・ダイニ | 指示 | 速度 | 調性 | 拍子 | 備考 | |
1 | 砂漠 | サバク | 早く、おおらかに | 付点4分音符=約126 | ト短調 | 6/8 | |
2 | 少女と雨 | ショウジョトアメ | ややおそく、しみじみと | 4分音符=約80 | ヘ長調 | 4/4 | Ten. Solo |
3 | あばずれ女の亭主が歌った | アバズレオンナノテイシュガウタッタ | やや早く、やや奔放に | 4分音符=約108 | ト短調 | 2/4 | |
4 | 材木 | ザイモク | やや早く、自然に | 4分音符=約120 | ヘ長調 | 2/4 | |
5 | 子守唄よ | コモリウタヨ | かなりおそく、心をこめて | 4分音符=約66 | ヘ短調 | 4/4 | |
6 | 漂々と口笛吹いて | ヒョウヒョウトクチブエフイテ | やや早く、漂々と | 付点4分音符=約116 | ホ短調 | 6/8 | 口笛又はPiccolo |
「あばずれ女の亭主が歌つた」……『在りし日の歌』(創元社、1938年)
上記以外……未刊詩篇
初出誌は以下。
「砂漠」……『文芸』1949年8月号
「少女と雨」……『文学界』1937年12月号
「あばずれ女の亭主が歌つた」……『歴程』1936年11月号
「材木」……『四季』1937年12月号
「子守唄よ」……『新女苑』1937年7月号
「漂々と口笛吹いて」……『少女画報』1936年11月号
上記以外……未刊詩篇
初出誌は以下。
「砂漠」……『文芸』1949年8月号
「少女と雨」……『文学界』1937年12月号
「あばずれ女の亭主が歌つた」……『歴程』1936年11月号
「材木」……『四季』1937年12月号
「子守唄よ」……『新女苑』1937年7月号
「漂々と口笛吹いて」……『少女画報』1936年11月号
砂漠の中に、
火が見えた!
砂漠の中に
火が見えた!
あれは、なんでがな
あつたらうか?
あれは、なんでがな
あつたらうか?
陽炎は、襞なす砂に
ゆらゆれる。
陽炎は、襞なす砂に
ゆらゆれる。
砂漠の空に、
火が見えた!
砂漠の空に、
火が見えた!
あれは、なんでがな
あつたらうか?
あれは、なんでがな
あつたらうか?
疲れた駱駝よ、
無口な土耳古人よ、
あれは、なんでがな
あつたらうか?
疲れた駱駝は、
己が影みる。
無口な土耳古人は
そねまし目をする。
砂丘の彼方に、
火が見えた。
砂丘の彼方に、
火が見えた。
火が見えた!
砂漠の中に
火が見えた!
あれは、なんでがな
あつたらうか?
あれは、なんでがな
あつたらうか?
陽炎は、襞なす砂に
ゆらゆれる。
陽炎は、襞なす砂に
ゆらゆれる。
砂漠の空に、
火が見えた!
砂漠の空に、
火が見えた!
あれは、なんでがな
あつたらうか?
あれは、なんでがな
あつたらうか?
疲れた駱駝よ、
無口な土耳古人よ、
あれは、なんでがな
あつたらうか?
疲れた駱駝は、
己が影みる。
無口な土耳古人は
そねまし目をする。
砂丘の彼方に、
火が見えた。
砂丘の彼方に、
火が見えた。
少女がいま校庭の隅に佇んだのは
其處は花畑があつて菖蒲の花が咲いてるからです
菖蒲の花は雨に打たれて
音楽室から來るオルガンの 音を聞いてはゐませんでした
しとしとと雨はあとからあとから降つて
花も葉も畑の土も諦めきつてゐます
その有様をジツと見てると
なんとも不思議な氣がして來ます
山も校舎も空の下に
やがてしづかな囘轉をはじめ
花畑を除く一切のものは
みんなとつくに終わつてしまつた 夢のやうな氣がしてきます
其處は花畑があつて菖蒲の花が咲いてるからです
菖蒲の花は雨に打たれて
音楽室から來るオルガンの 音を聞いてはゐませんでした
しとしとと雨はあとからあとから降つて
花も葉も畑の土も諦めきつてゐます
その有様をジツと見てると
なんとも不思議な氣がして來ます
山も校舎も空の下に
やがてしづかな囘轉をはじめ
花畑を除く一切のものは
みんなとつくに終わつてしまつた 夢のやうな氣がしてきます
おまへはおれを愛してる、一度とて
おれを憎んだためしはない。
おれもおまへを愛してる。前世から
さだまつてゐたことのやう。
そして二人の魂は、不識に温和に愛し合ふ
もう長年の習慣だ。
それなのにまた二人には、
ひどく浮氣な心があつて、
いちばん自然な愛の氣持を、
時にうるさく思ふのだ。
佳い香水のかをりより、
病院の、あはい匂ひに慕ひよる。
そこでいちばん親しい二人が、
時にいちばん憎みあふ。
そしてあとでは得態の知れない
悔の氣持に浸るのだ。
あゝ、二人には浮氣があつて、
それが真実を見えなくしちまふ。
佳い香水のかをりより、
病院の、あはい匂ひに慕ひよる。
おれを憎んだためしはない。
おれもおまへを愛してる。前世から
さだまつてゐたことのやう。
そして二人の魂は、不識に温和に愛し合ふ
もう長年の習慣だ。
それなのにまた二人には、
ひどく浮氣な心があつて、
いちばん自然な愛の氣持を、
時にうるさく思ふのだ。
佳い香水のかをりより、
病院の、あはい匂ひに慕ひよる。
そこでいちばん親しい二人が、
時にいちばん憎みあふ。
そしてあとでは得態の知れない
悔の氣持に浸るのだ。
あゝ、二人には浮氣があつて、
それが真実を見えなくしちまふ。
佳い香水のかをりより、
病院の、あはい匂ひに慕ひよる。
立つてゐるのは、材木ですぢやろ、
野中の、野中の、製材所の脇。
立つてゐるのは、空の下によ、
立つてゐるのは材木ですぢやろ。
日中、陽をうけ、ぬくもりますれば、
樹脂の匂ひも、致そといふもの。
夜は夜とて、夜露うければ、
朝は朝日に、光ろといふもの。
立つてゐるのは、空の下によ、
立つてゐるのは、材木ですぢやろ。
野中の、野中の、製材所の脇。
立つてゐるのは、空の下によ、
立つてゐるのは材木ですぢやろ。
日中、陽をうけ、ぬくもりますれば、
樹脂の匂ひも、致そといふもの。
夜は夜とて、夜露うければ、
朝は朝日に、光ろといふもの。
立つてゐるのは、空の下によ、
立つてゐるのは、材木ですぢやろ。
母親はひと晩ぢふ、子守唄をうたふ
母親はひと晩ぢふ、子守唄をうたふ
然しその聲は、どうなるのだらう?
たしかにその聲は、海越えてゆくだらう?
暗い海を、船もゐる夜の海を
そして、その聲を聽届けるのは誰だらう?
それは誰か、ゐるにはゐると思ふけれど
しかしその聲は、途中で消えはしないだらうか?
たとへ浪は荒くはなくともたとへ風はひどくはなくとも
その聲は、途中で消えはしないだらうか?
母親はひと晩ぢふ、子守唄をうたふ
母親はひと晩ぢふ、子守唄をうたふ
淋しい人の世の中に、それを聽くのは誰だらう?
淋しい人の世の中に、それを聽くのは誰だらう?
母親はひと晩ぢふ、子守唄をうたふ
然しその聲は、どうなるのだらう?
たしかにその聲は、海越えてゆくだらう?
暗い海を、船もゐる夜の海を
そして、その聲を聽届けるのは誰だらう?
それは誰か、ゐるにはゐると思ふけれど
しかしその聲は、途中で消えはしないだらうか?
たとへ浪は荒くはなくともたとへ風はひどくはなくとも
その聲は、途中で消えはしないだらうか?
母親はひと晩ぢふ、子守唄をうたふ
母親はひと晩ぢふ、子守唄をうたふ
淋しい人の世の中に、それを聽くのは誰だらう?
淋しい人の世の中に、それを聽くのは誰だらう?
漂々と 口笛吹いて 地平の邊
歩き廻るは……
一枝の ポプラを肩に ゆさゆさと
葉を翻へし 歩き廻るは
褐色の 海賊帽子 ひよろひよろの
ズボンを穿いて 地平の邊
森のこちらを すれすれに
目立たぬやうに 歩いてゐるのは
あれは なんだ? あれは なんだ?
あれは 單なる呑氣者か?
それともあれは 横著者か?
あれは なんだ? あれは なんだ?
地平のあたりを口笛吹いて
ああして呑氣に歩いてゆくのは
ポプラを肩に葉を翻へし
ああして呑氣に歩いてゆくのは
弱げにみえて横著さうで
さりとて別に惡意もないのは
あれはサ 秋サ たゞなんとなく
おまへの 意欲を 嗤ひに 來たのサ
あんまり あんまり たゞなんとなく
嗤ひに 來たのサ おまへの 意欲を
嗤ふことさへよしてもいいと
やがてあいつが思ふ頃には
嗤ふことさへよしてしまへと
やがてあいつがひきとるときには
冬が來るのサ 冬が 冬が
野分の 色の 冬が 來るのサ
歩き廻るは……
一枝の ポプラを肩に ゆさゆさと
葉を翻へし 歩き廻るは
褐色の 海賊帽子 ひよろひよろの
ズボンを穿いて 地平の邊
森のこちらを すれすれに
目立たぬやうに 歩いてゐるのは
あれは なんだ? あれは なんだ?
あれは 單なる呑氣者か?
それともあれは 横著者か?
あれは なんだ? あれは なんだ?
地平のあたりを口笛吹いて
ああして呑氣に歩いてゆくのは
ポプラを肩に葉を翻へし
ああして呑氣に歩いてゆくのは
弱げにみえて横著さうで
さりとて別に惡意もないのは
あれはサ 秋サ たゞなんとなく
おまへの 意欲を 嗤ひに 來たのサ
あんまり あんまり たゞなんとなく
嗤ひに 來たのサ おまへの 意欲を
嗤ふことさへよしてもいいと
やがてあいつが思ふ頃には
嗤ふことさへよしてしまへと
やがてあいつがひきとるときには
冬が來るのサ 冬が 冬が
野分の 色の 冬が 來るのサ
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