作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「ソネット集・第二」(作詩:立原道造)

ソネット集・第二ソネットシュウ・ダイニ指示速度調性拍子備考
1夢みたものはユメミタモノハAdagio付点4分音符=60 ca.ニ長調6/8
2夕映の中にユウバエノナカニAndante4分音符=72 ca.ト長調4/4Tenor Solo
3ひとり林に……ヒトリハヤシニ……Allegro Vivace4分音符=152 ca.ハ短調2/4
4或る風に寄せてアルカゼニヨセテLarghetto4分音符=63 ca.ヘ短調3/4
5わかれる昼にワカレルヒルニAllegro Vivace4分音符=152 ca.ハ短調2/4
6民謡――エリザのためにミンヨウ-エリザノタメニAndantino4分音符=80 ca.ヘ長調3/4Baritone solo

作品データ

作品番号:T84:M66n
作曲年月日:200?年?月?日

初演データ

初演団体:信州大学グリークラブ現役OB合同
初演指揮者:桑原茂夫・奥田晃央・西川素平・山下貴幸・清水弘樹・中村雅夫 ※楽章ごとに指揮者が交替した
初演年月日:2007年1月20日
信州大学グリークラブ第45回定期演奏会〜男声合唱の調べ〜(於長野県松本文化会館大ホール)

楽譜・音源データ


男声合唱組曲「ソネット集・第二」

作品について

信州大学グリークラブの創立50周年を記念して委嘱された作曲者最新の男声合唱組曲です。
信州にゆかりのある詩人ということで、立原道造の詩がテキストに選ばれています。
立原の詩をテキストとした作品としては、「優しき歌」(1968)、「ソネット集」(1991)に次ぐ3作目となるそうです。
「詩の向こうに見える詩人の『高原の落葉林のように変化する詩風』を、モノトーンのア・カペラ男声合唱組曲にまとめた。」(作曲者)とのこと、
「夢みたものは」「或る風に寄せて」など立原を代表する詩にどんな多田節が付けられたのか楽しみですね。(パナムジカ新刊案内より)
詩の出典
「夢みたものは」……『優しき歌』(角川書店、1947年)
「夕映の中に」「民謡――エリザのために」……未刊詩篇
「ひとり林に……」……『優しき歌』(角川書店の第三次『立原道造全集』編纂にあたって復元されたもの。1947年に角川書店から出版された同名詩集とは別)
「或る風に寄せて」……『暁と夕の詩』(私家、1937年)
「わかれる晝に」……『萱草に寄す』(私家、1937年)
歌詞について
「夢みたものは」中「幸福」は、シアワセという読みで作曲されている。
「夕映の中に」中「抱くだろう」は、初演音源ではダクダロウと歌われているが、メロス楽譜からの出版譜では譜割りが変更されたうえでイダクダロウという歌詞に変わっている(おそらく出版にあたっての訂正)。
「ひとり林に……」中「すぎるのだらう」は、初演音源ではスギルダロウと歌われている。メロス楽譜からの出版譜では譜割りが変更されたうえでスギルノダロウという歌詞に変わっている(上に同じ)。

歌詩

夢みたものは……
夢みたものは ひとつの幸福
ねがつたものは ひとつの愛
山なみのあちらにも しづかな村がある
明るい日曜日の 青い空がある

日傘をさした 田舎の娘らが
着かざつて 唄をうたつてゐる
大きなまるい輪をかいて
田舎の娘らが 踊をおどつてる

告げて うたつてゐるのは
青い翼の一羽の小鳥
低い枝で うたつてゐる

夢みたものは ひとつの愛
ねがつたものは ひとつの幸福
それらはすべてここに ある と
夕映の中に
私はいまは夕映の中に立つて
あたらしい希望だけを持つて
おまへのまはりをめぐつてゐる
不思議な とほい人生よ おまへの……

だがしかしそれはやがて近く
私らのうへに花咲くだらう と
私はいまは身をふるはせて
あちらの あちらの方を見てゐる

しづかだつた それゆゑ力なかつた
昨日の そして今日の 私の一日よ
心にもなく化粧する夕映に飾られて

夜が火花を身のまはりに散らすとき
私は夢をわすれるだらう しかし
夢は私を抱くだらう
ひとり林に……
だれも 見てゐないのに
咲いている 花と花
だれも きいてゐないのに
啼いてゐる 鳥と鳥

通りおくれた雲が 梢の
空たかく ながされて行く
青い青いあそこには 風が
さやさや すぎるのだらう

草の葉には 草の葉のかげ
うごかないそれの ふかみには
てんとうむしが ねむつてゐる

うたうやうな沈默に ひたり
私の胸は 溢れる泉! かたく
脈打つひびきが時を すすめる
或る風に寄せて
おまへのことでいつぱいだつた 西風よ
たるんだ唄のうたひやまない 雨の晝に
とざした窗のうすあかりに
さびしい思ひを噛みながら

おぼえてゐた をののきも 顫へも
あれは見知らないものたちだ……
夕ぐれごとに かがやいた方から吹いて來て
あれはもう たたまれて 心にかかつてゐる

おまへのうたつた とほい調べだ――
誰がそれを引き出すのだらう 誰が
それを忘れるのだらう……さうして

夕ぐれが夜に變るたび 雲は死に
そそがれて來るうすやみのなかに
おまえは 西風よ みんななくしてしまつた と
わかれる晝に
ゆさぶれ 青い梢を
もぎとれ 青い木の實を
ひとよ 晝はとほく澄みわたるので
私のかへつて行く故里が どこかにとほくあるやうだ

何もみな うつとりと今は親切にしてくれる
追憶よりも淡く すこしもちがはない靜かさで
單調な 浮雲と風のもつれあひも
きのふの私のうたつてゐたままに

弱い心を 投げあげろ
噛みすてた青くさい核を放るように
ゆさぶれ ゆさぶれ

ひとよ
いろいろなものがやさしく見いるので
唇を噛んで 私は憤ることが出來ないやうだ
民謡――エリザのために
絃は張られてゐるが もう
誰もがそれから調べを引き出さない
指を觸れると 老いたかなしみが
しづかに歸つて來た……小さな歌の器

或る日 甘い歌がやどつたその思ひ出に
人はときをりこれを手にとりあげる
弓が誘うかろい響――それは奏でた
(おお ながいとほいながれるとき)

――昔むかし野ばらが咲いてゐた
野鳩が啼いてゐた……あの頃……
さうしてその歌が人の心にやすむと

時あつて やさしい調べが眼をさます
指を組みあはす 古びた唄のなかに
――水車よ 小川よ おまへは美しかつた

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