初演データ
初演団体:関西学院グリークラブ
初演指揮者:北村協一
初演年月日:1995年6月17日
第44回東西四大学合唱演奏会(於昭和女子大学人見記念講堂)
※「白鷺」のみ、メンネルコール広友会 第13回定期演奏会(1995年2月11日 於簡易保険ホール「ゆうぽーと」)のアンコールとして先行して初演された。
作品について
タイトルは詩集の一項より。
『黎明』には“印度画趣”、『数珠かけ鳩』には“唐画”の副題が添えられている。
黎明
白き鷺、空に闘ひ、
沛然と雨はしるなり。
時は夏、青しののめ、
濛濛と雨はしるなり。
早や空し、かの蓮華色。
二塊の、夢に似る雲。
くつがへせ、地軸はめぐる、
凄まじき銀と緑に。
白き鷺空に飛び連れ、
濛濛と雨はしるなり。
珠数かけ鳩
珠数かけ鳩はむきむきに
落ちし杏をつつくなり。
しめりまだ乾ぬ土のうへ、
杏はあかし、そこここに。
珠数かけ鳩の虔ましさ、
脚にひろひぬ。飛び飛びに。
空に杏の葉はにほひ、
羽根に雫の色涼し。
珠数かけ鳩は行き過ぎて、
あかき杏につまづきぬ。
白牡丹
白牡丹、大き籠に満ち、
照り層む内紫、
豊かなり、芬華の奥、
とどろきぬ、閑けき春に。
蝶は超ゆ、この現より、
うつら舞ふ髭長の影。
昼闌けぬ。花びらの外、
歎かじな、雲の驕溢を。
白牡丹、宇宙なり。
また 薫す、専なる白、
この坐、ふたつなし、ただ。
位のみ。ああ、にほひのみ。
鮎鷹
鮎鷹は多摩の千鳥よ、
梨の果の雫く切口、
ちちら、ちち、
白う飛ぶそな。
鮎の子は澄みてさばしり、
調布の瀬瀬のかみしも、
砧うち、
砧うつそな。
鮎鷹は初夜に眼の冴え、
夜をひと夜、あさりするそな。
ちちら、ちち、
鮎の若鮎。
水の色、香る泡沫、
眉引のをさな月夜を
ああ、誰か、
影にうかがふ。
註 多摩川のほとりには梨畑多し
老鶏
さわさわと起つ風の
音響けば、
鶏は羽ばたきぬ。はたはた、ああ、はたはた、
白檮の、葉広檮の
かがやく陽を目ざして。
鶏冠や、猛猛し
眼の稜稜、
尾羽、翼、はららぎぬ、はたはた、ああ、はたはた、
岩根の、白羽蟻の
吹雪と舞ふ柱を。
力よ、荒魂
飛び搏くと、
勢ひ蹴るひと空や、はたはた、ああ、はたはた、
光の、陽のしじまの
耿たる幅乱すと。
凄まじ、身は重し、
青の夏を、
朱の古りし鶏よ。はたはた、ああ、はたはた、
すべなし、飛び羽うつと
いくばくも飛ばず落ちぬ。
白鷺
白鷺は、その一羽、
睡蓮の花を食み、
水を食み、
かうかうとありくなり。
白鷺は貴くて、
身のほそり煙るなり、
冠毛の払子曳く白、
へうとして、空にあるなり。
白鷺はまじろがず、
日をあさり、おのれ啼くなり、
幽かなリ、脚のひとつに
蓮の実を超えて立つなり。