灰色(後)

くちゃくちゃと抜いて、男女は仕切り直しをする。またお互いが座り向き合い、男に背を抱かれ彼女は少し仰け反った。その黒い乳房に丸く浮き立った乳首を兄に咥えられた。
くちゅくちゅと彼の口の中、唇と舌で転がしたり、吸ったり、舌だけで弾き、舐めたり、キスもした。
「あぁん……」
音はわざと聞かせているらしい。たまに当たる歯も、彼女を快感でドキッとさせる。「…!…」
この男には負けた…男女関係で負けるのはこれで最後にしたいと、バリーは思う。
「強くなりたい…」
乳首で狂いそうな快感を得て、息切れしているバリーは言った。母に、妻になった後、間男が現われ、負ける様では愚かしいとバリーは思う。(そんなの大変…)
「そんなに強くなくても良いよ。強過ぎる力は、まぁ……悪だ。お前まだまだこれからだ。今日始まったばかりじゃないか」
銀色の髪越しに黒い額にサイモンはキスした。その後彼女の瞼にキスした。その後又唇を合わせた。
「あ…ん」
(凄いんだものキスが…)抵抗出来ないわ…と彼女は思う。抵抗する気はないが。       

確かに勇者としての彼女は、今日始まった。その始めさせてくれた人間とこうしている訳である。
(襲名の挨拶…)彼女の頭によぎる。そのわりにはスキンシップが過ぎる…。
「あ−−−−−っ、あぁっ」
亀頭が彼女の襞を撫でる様に、滑り、押す。赤児が不快を知らせる様にバリーは鳴いた。これから挿入すると言う思わせ振りがたまらなかった。声が出たのは快感に違いないが、その後を思うと快感が過ぎるので、彼女はちょっとだけイヤなのである。体が(今の段階では)少し嫌がっている。
する、ると又入ってしまった。バリーは眉間に皺、奥歯を人知れず噛んだ。
(あ−−−…生きが良くなってる…)
膣がである。濡れた温かい肉がである。男をぱくぱくと咥えて来る。
(…可愛いな…)
優しくぐにゃりと女に腰を押した。「んっ」女は目を閉じて、明らかに喜んでいる。
「可愛い…嬉しいよバリー…」
中年にしか許されないセリフと声だった。バリーは息が苦しくなる。鼓動が速くなって止められなかった。どんな顔をして良いかわからず、しばらくうつむいて、顔を上げ、彼の大きな鷲鼻に軽くキスした。そのすぐ下には唇がある。
彼女、この男とのキスは快感が過ぎるので、加減を考えたい。ちょっと控えたいのだが、彼女から唇を押し当てて、又ゆっくりゆっくり舌も唾液も一つになっていった。
色々な体位を両者快感と共に経て、今バリーは仰向けになっている。
彼女が彼に背中を向ける形の時には“自分をこの男に捧げている”と言う感覚を彼女は得た。
後背位。足を開き、乳房は肌は、男に触れられるのを待つかの様に揺れて……。(切なかった…)
男に腕を引かれ彼女の上体が持ち上がり、男の胸と女の背が近くなった時、彼女は動く兄を見た。大男が打ち付けている。
少し顔を落して、辛そうな息を途切れ途切れに上げている。(あぁ、兄さん…)
兄は彼女を激しく欲している。そんな兄を彼女は初めて見た。……少し恐い。恐い…と言う様に、兄と言えど腹違いのこの男にバリーはよく“他人”を感じる時がある。その時に彼女は甘い息が漏れる。“瑠璃さん”であり“サイモンさん”であり、いやらしい年上の“男”である。
(……あんた、良い…)
彼は彼女の背を抱いて、両手で両の乳房を掴んだ。(憐れ)男はぎゅっと乳房を握る。彼は兄に揺らされている妹の乳房を憐れと思った。
近親相姦の最中だが、彼には普通の人間には解り難い、伝わり難い、大きな特徴がある。
その特徴は……考え様によっては、この男バリーの兄では無い。サイモンではもう無いのだ。
彼の下で仰向けのバリーは小さな息を上げている。
(いい子だ…)
兄としてのどかにも、卑猥な男の打算としてもそう思った。(我侭聞いてくれるし、美味しいし…)
美味しいとは精神的にではなく、肉体的にである。つまり(気持ちいい、気持ちいい子…)である。
この女の濡れた体が美味い。(あっぁ、いきそうだっ)
男は喘いで天井を仰いだが、彼は遅漏の上我慢する。快感を引き戻す。こうして何度女を喜ばせて来たか…。(ハハ…)中年の美声は卑猥に勝ち誇る。(でもバリーが最後だ…)
彼はそんな(のどか、卑猥等の)自分の気持ちとも別れ。最後と言うこの彼女の前からも消える。
(バリー……)この黒く艶めかしくうごめく体を前に、彼の低く澄んだ美声も心の中で甘く掠れている。
自分の父[そしてバリーの父]にそっくりな彼女の銀色の髪を撫でてやりたくなった。しかし見つめるだけで触れなかった。
そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、バリーはうっとりした顔で彼の頬にキスして来た。唇の感触、音と共に、濡れた声も彼の耳の側で聞かせてくれた。彼がこの時得た感情は欲情と言う深い愛である。

仰向けの彼女の唇を、大きな男の唇は上から包んで、頬張る様に重ねた。女の肌がシーツに擦れるサラサラと言う音と、唇同士が立てる唾液のぴちゃぴちゃと言う音が不調和である。
唇の触れ合いは、両者の下半身をズッシリと刺激した。気が付けば性器同士は濡れたままに離れつつある。又彼の先と彼女の入口がぐりっと重なり、少しだけ入る。
「んーーーーーっ、んん」
口が口で塞がれ、口付けで目を閉じたまま、バリーはサイモンの背を慌てて抱く。彼女は快感と、又じらされて唸った。
「…入って…」
潤んだ目で息切れしながら彼女は言った。
「そ、うか…入れるぞ…」
男も短く息切れしている。
彼女は男に聞かれるとは思っていなかった。その音、雰囲気だけを伝える為に小声で言ったのが聞き分けられてしまった。それを恥ずかしがっている暇もなく自分の内側に男を感じた。
「うんっ…」目を閉じ、顔を背けた自分の唇をもてあそぶ様に、掴む様に、彼女の指は甘く動いた。

「ああっ、もう、だめっ…」
男が上の正常位。バリーは苦しそうにサイモンの肩を少し叩いた。甘え切った声。男が挿入に時間を掛けたからだった。一時の事だが、激しくじらされるのでもうしないで欲しいと言う意味だ。彼女はその欲望に満ち満ちた思いを、緩やかな腰の動きでも男に伝えた。…この兄から彼女は又挿入される事があるのだろうか。
「んっ…」「は…ぁ」
男の腰につられて、小さく鳴いている女の腰もゆらゆら動く。……男の動きは激しくなってベッドが壊れんばかり。濡れて擦れ合うベッドの上は傍若無人な男の自由になっている。実際バキッとどこか壊れてしまった。
男の腰の動きは力強く、摩擦が大きい時などは[根元から先まで滑らせ、濡れた快感に両者は鳴く、喘ぐ]女の体が男の動きに合わせポンポンとベッドで跳ねる。
「あぁ−−っ」「あああっ!」
彼女は少し、助けを求める様な声色だった。勿論兄に助けを求めている。矛盾している。
彼女の膝を外側から鷲掴みにし、好きな様に振り動かし、まるで主の様に、夫の様に彼女の上に男は居た。
「強、い…」「ああっっ」
ふるえる甘い声で男を刺激しながら彼女の顔は動く。その度、彼女の肩や首の艶めかしさが目立った。
甘い香りの濡れた所もきゅっと引締まって来る。バリーは彼女を襲う様な兄の腹筋に触れ、
「兄さんっっ」
揺れて喘ぐ。声も出なくなり彼女又いきそうになって、体の生理でとっさに、男に割られている膝を閉じようとする。勇者の力も中々…だがこの兄は武闘家。手の平で丸い膝をそれ以上の力で押す。彼女は閉じると言うよりも、兄の手の平に抵抗する事で力の発散となった。
つまり逆に、必要以上に股を開かされ兄に見られ放題である。
もう、いく…と言う自分の濡れたままの花弁を、
(やだ…兄さん、見てる…)その視線の刺激のまま
「あんっ…あっ…」
彼女はとても高い声でいった。兄に強く膝を押され(自らも膝で兄の手の平を押し)足の筋が少し痛くなりながらだった。
膝の力は緩み、彼女の体は大きく短く痙攣し、二度目の短い痙攣の時ふるえたままに兄に肩を掴まれベッドに押され更に激しく突かれ続けた。
(あぁーーーー!)
彼女この瞬間は“死”を意識した。心が落ち着いてから心の中で叫んだ。

お互いの最も敏感な部分は何度擦れ合い、激しく打ち合わさったか…。息苦しい程の快感の熱さ。
彼女はもう快感に舞い戻っている。彼女は少し腰を曲げ、力を込めて彼の肩に触れ目を閉じた。
今までの兄からの恩恵に彼女は感謝した。正直卑猥な事で有難迷惑の時もあったが、
(迷惑でも良いよ…)(…兄さんもいって…私で)
「何で、俺と!」
彼の体は快感にさまよって欲望の命じるままに動く。その只中に心中で、妹を抱いた自分の勝手を悔やみ、自分の前で涙を見せた彼女を責め、しかし次の瞬間バリーを思うと(俺の、女)快感で脳味噌は動物並になった。
女の息を止めさせる激しいキスと、男の摩擦は今までに無い強さと激しさ。キスのぐちゅと言う音。肌と肌が当たる音、男が女をかき回した時に鳴るぐちゃぐちゃと言う音は確かに鳴っているが、ベッドが床に叩き付けられている騒音に掻き消されている。

バリーはこの兄、この男の(出来れば全てを)慰めたかった。自分を求めてくれるなら(それが彼女の望みでもあるが)その、自分の体で。
「あ、、好きなのっ、!」「あぁっっ!」
兄の問いに答えたバリーの声、語尾は叫びとなっていた。
男の下半身の肉は、皮は、体内から引き千切られる様な感覚を得て、体は一時燃え上がる。男の首が、顎が、龍の様に上がり、下がった。
この世で最強の種族は龍らしい……事を、バリーはフッと思った。兄の三つ編みが龍の様で強そうだと思った事がある。強過ぎる力は“悪”と言っていた兄の言葉も思い出した。
「…あぁっ、ぁっ…」
切ない声を上げる男である。
「んんっ……んっ、」バリーはそれに答える様に甘く鳴き、ベッドの上、彼女の顔の側にドサッとついた兄の逞しい腕にキスした。その間彼女は快感に居ながらも、目を開け、唇を離さず、兄を見ていた。
「ああっ…んっ」
男の絶頂に女は甘く鳴いた。緩やかな男の腰と共に、熱く迸るものが彼女の中で踊った。

「ごめん」
しっとりと男の美声は謝った。
強姦の様相は有った。激しく求められ、攻められ、若い体を自由に扱われたバリーは兄のものを初めて受け取った。兄は熱く、彼女は嬉しかった。
男は半分以上膣外で射精。(妹に出し切るのはどうも……)それも有るが外部から花弁にかけたいその有り様を見たい彼の趣味だ。激しい音を立てて抜きさり、襞が、桃色のヴァ○ナが白く染まった。
我侭な兄の激しさが、バリーの内でまだ燻っている。自分の中にまだ停滞していて脈打っている気がする。
「兄さん」
柔らかい笑みでおとなしく(力無く)男にすがる。サイモンは胸を彼女の頭部に貸した。
外敵から身を守る為、絶頂が終われば正常以上に正常となる“男”と言う元来戦う生き物の性であるが、更にサイモンは闘士。武闘家。五感も六感も研ぎ澄まし事有らばいきなり闘える。だが女と弛んで居るのが常である。
そして今回はバリー。彼女の体は興奮の種。自分に無い肌の色も惹かれる。
目を閉じている彼女の肩に触れると大きな息をして動いている。余りに簡単に新たに湧き出る欲望を“ぐっ”と抑えて(俺も若いね…)サイモンは言った。
「2才のお前色っぽくて」
小ぢんまりした“色気”をずっと見ていたく思ったと、裸で寝転ぶむせかえる様な色気のバリーに言った。
15年前、2才のバリーもサイモンの三つ編みが好きだったらしく、無心にずっといじって居たり、
「にぃに……にいさ…」
覚えたての単語“兄”と彼を呼んで、おぼつかない足取りで寄って来た。
彼はこの時の、自分から湧き出る類の無い愛情を忘れていない。しかし兄らしく振る舞った後彼は唐突に、自分の肩に座る小さな女の子に下方から甘いキスをした。
そして今、(あの子に出してしまった…)
激情の様な興奮を得る自分は卑猥であると彼は思う。色々な所がバリーは大人になっていて
(見てしまった……入れてしまった…)その上舐めた、触った…。彼はゾクゾクとする。
(あああ、親父、ごめん)
オルテガが一番大切にしていた少女を無惨にも…である。(ごめん結婚する訳でも無いのに)
しかし彼は、言い訳にならないかも知れないが
「お前の事好きだったよ」
十五年来の事を口にした。(変態)自分でそう思った。
しかし男は“だった”と言った。二人の男女関係はこれで終わりの様である。
「私も好き…」
実は二才の頃からである。
十五年前キスした後のこの男の笑い声が好きで、このデカイ男の人はどうしたら又笑ってくれるのか2才の頭で懸命に考えていた。
それは彼女の記憶の奥の奥に沈み、ついに生涯思い出す事は無い。彼の笑い声がなぜか懐かしく感じるだけである。

バリーは弱々しくグショグショ。彼女が「自分でする…」と言うのにサイモン、無理矢理彼女についた自分の精液を拭く。「やぁん……」「変な声を出すな」
「いや…あぁっ…」
男はうっかり、バリーを見ながら拭いてしまった。襞が潰されたり、ク○トリスが押されてずれたり
(おぉ…)いたる所に誘惑はある。彼、熱くなりかなり硬くなる。彼女の小さな勃起が可愛かった。
バリーは少し疲れ、髪も乱れ、少し潤んだ目で“いつでも会える所に居て”と兄に言った。
「祠の牢獄が別れだ」
兄は何故ここまで言い切るのか。バリーは返事に窮する。
「お前は俺の後継ぎだ。元気に返事しろ。さっきの俺の目も修行と思ってくれ」「恐かったろ?」「うん…」
「よしよし、しかしお前は度胸が良かったな。あの目の生き物見たらもう近付くなよ」
(さっきはこいつを脅した……)
彼のあの目は、生物相手には絶対的な権力を持って相手を敗北させる。確かに修行のつもりはあった、しかし終わってみると(脅して犯しただけじゃないか……卑怯だな)
やりたがり、他の事(特に男)を考えている様子の彼女が癇に障った事は…彼も内心認める所があるからだ。
「服着ろよ」
と兄はすでに上着を着ている。服さえ着れば何とでも言い訳は付く。兄妹が一つ部屋に居るのは不自然ではない。
そして昼前に城で入れてもらった香料の風呂のお陰で、噎せ返るような甘い香りが二人の体から放たれ部屋中に充満し、SEX独得の匂いも消している(と思う…)男はどちらの匂いにも鼻が慣れて判別しにくい。
「兄さん…(着れない)…」
サイモンの指がバリーの銀の髪の中に這って、その頭を掻き抱いている。上着を着るのは無理だ。
「元気で…」
抱いた男である。最後にこうしてバリーに触れ、その頬にキスした。男を見つめバリー興奮と幸せ。快感だった。
「兄さんおぐしが…」「あ、どうも」
肉付きの良い指で、兄の髪の乱れをバリーはせっせと直した。その時に、緊張の緩んだ乳首を先端に頂く黒い乳房がフルフルと揺れた。(うわ……)男はもろに見た。
吸い付けばすぐにでも、その淡い蕾はそそり立つだろう。そしてバリーは
「まだ、着たくない…」
と、隆々としたしなやかな裸体を所々男に見せながら、形ばかりシーツに包まっている。
(まいったね…)
せっかく萎えて来たのに、男は期待と不安で又立ってしまいそう。
「俺が服着れば良いか…勇者として一応さ…名を惜しむ位しようぜ…」
サイモンは二年程前バリーの腰に惹かれたが、イシスで初めて彼女の全裸を見た時、まずその乳房に撃沈した。
[しだいに彼女の体全てに沈む]今、そのさまよう様にふるえる乳首を(咥えるだけ、吸うだけっ……いやいや)そんな事を言い出したら、(先っぽだけ)になり止まる筈も無く、(そのうち又二人で愛してるの愛してねぇのってハァハァと…)第三者が止めるまで延々抱き合ってしまいそうだ。
(代々の血と言うやつかなぁ……これ以上はまずい)サイモンここに来てやっと良識。
その第三者である。二人だけの部屋に風呂上がりのブラックと言う戦士がズカズカ入って来た。ここは彼の部屋だった。サイモンは二ヶ月振りにこの宿屋を[前後不覚、欲情しながら]訪れ部屋を間違えた。
サイモンは小さな目を無理矢理の様に開き、ギョロギョロ動かせ、半開きの厚い唇は今にも唸りそうだ。
一回り年下の仲間が借りた部屋に闖入し、その仲間がメチャクチャに惚れている女、自分の実の妹と抱き合う彼は余りにらしくない。他者先行も、影も形も無い。
サイモン元々不気味な顔が真っ青になっている。グレーのサイモン、憐れ目も当てられない。武闘着をはおり、膝から下が裸の立ち姿で戦士に殴られた。焦っているサイモン弱い。戦士の一撃に上体が反れた。
(白か黒かはっきりしろ)
クール、博愛の普段と奔放、隙の無い本性の間に居る様な今のサイモンは無惨であった。戦士は所属をはっきりして欲しいものだと思う。(俺の拳でしっかりしてくれるだろうか)ブラックは彼の為に殴ったのである。
(狂ったら…)
頭を叩く事をサイモンは思い出す。エジンベアでジパングで、サイモンはそうした理由でブラックを殴って来た。イシスではサイモンがブラックに殴られた。(あの時も…俺はやっぱり狂ってたかな……)
そう思う彼は殴られてすっきりしたのか、拳で戦士を殴った。
「部屋出るくらいしろよ」
又、サイモンは戦士がトロイので妹の勇者とこうなってしまったと言う。
[つまり戦士に対し少し叱咤激励の意味も込めて殴った]戦士その一撃だけで膝が落ち、足にきている。
(人の所為にしやがった、)[激励は少し嬉しいのいだが]
戦士今度はただもう腹が立って殴る。しかしやはりサイモンは強い。まるで効いていない。
男二人は言い合った。はっきり口にはしないが内容は、
<しっかりしろよ、バリーの事は>
<子供作り過ぎなんだよ。親父に碌に会えないガキの気持ちが解るのか>
この様である。両者、「半端なチン○」「チン○だけ」のセリフで相手にその思いを伝えた。

ブラックは恋人と別れる時揉めたと言う。
「お前が愛され過ぎるんじゃないの?」昔、一部始終を聞いた瑠璃(サイモン)は羨みつつ言った。
勇者サイモンの結婚は儀式である。愛情は後からついて来た。子供も愛しながら元々は儀式の産物。
「(あんたの)子供達可哀相…」昔、酔った戦士はボソリと言った。父になかなか会えない子達(酷い人数)を哀れむ孤児の彼の言葉は、父と生き、父と旅したサイモンには迫力が有り過ぎた。

「俺が悪かったよ、奢っていた…」
(何故…)奢ったのかと思いながら戦士は
「俺も偉そうな事は言えない。先に手は出すし」と濡れ髪で煙草を吸う。
戦士の繰り出した打撃一度目は右アッパー。二度目は左ストレート。一度目のアッパーでさえ、サイモン(だけ)の為ではなかった。ブラック、サイモンに妬かない訳はない。しかも(俺が一人で寝てたベッドで……)戦士は苦しい。少し怒りを抱いた。
しかし今立ち姿で、黙って煙草を吹かしている。男に抱かれた後で衰弱している、少し疲れているバリーの色気を堪能したかった。バリーはブラックを力無く見つめ黙っている。
(俺は変態だ…)
若い男の下半身が熱い。彼女は座り、シーツで体を隠しているが、乳房が片方隠れていない。黒い乳房戦士を見ている。戦士に見られている。
それを形が変る位強く握って襲う様に口を吸い、彼も、サイモンによって壊されたベッドの上で構わないから彼女が欲しい。しかし、
「バリー、俺が要るか?」
勿論戦士として聞いた。サイモンの居る今、自分がバリーに必要とは思えなかった。
彼女は男に自分と結婚して欲しいそうだ。
(え、どっちとっ?)後の夫のブラックは思った。
ブラックはバリーの妊娠を喜び、二人を責めなかった。サイモンとの別れに驚いていた位だ。

真実を映すラーの鏡は、サイモンが元あった場所に封印した。人間に当ててはいけない鏡だ。
カンダタに当てれば彼は女になってしまうかも知れない。同性愛嗜好で実の父サイモンに焦がれている。
女勇者に後を継がせたサイモンとは、遠い所に長男カンダタは居る。サイモンの知らない、これも真実だ。
サイモンがラーの鏡を覗けば骸骨が映るだろう。
サイモンにとって父オルテガを追いかけるのを邪魔したのは死だ。
奢りは死者の奢りだ。
彼は死霊だ。
バリーにだけ見せた生気の無い目も、死から生者を呼んでいる目であり、
テドンの幽霊達に仲間扱いされ、人として頭数に数えてもらえなかったのもこの為だ。
死が彼の“特徴”であって、エジンベア辺りから薄々「俺は普通じゃない」と思っていた。
サマンオサでサイモンの名を思い出した時、自分は実体化したただの魂でしか無い事を理解した。

号泣するオルテガのベホマも、賢者のザオリクも効かなかった代りに、ここまで生身と変らずに蘇っている。ボストロールが半人半妖だったからだ。(あいつのお陰だ……)
サイモンは自分の心臓辺りの胸に手を当て、自分を殺した男に対してそう思った。
彼とはサイモン、殺し殺され合った永遠のライバルである。
あの戦場、王の寝室で一番昂揚していたのは実はブラックだった。
「何で殺した!」
ブラック血反吐を吐きながら上手く喋れなかった。彼の表情、声色は怒りよりも驚愕、焦りに近かった。
サイモンの子供の様な存在の孤児がボストロールだ。そして戦士は彼の死までの数ヶ月、ずっと側に居た。
「あんたら敵同士か?認めねぇ」
その運命を背負おうかと言う風だったサイモンを前に、ブラック今度はその嗄れた声ではっきりその勇者に伝えた。
サイモンはボストロールをあの体にした者を意地でも探し出したかったが、ブラックに任せた。
この戦士はボストロールの死に痛いほど悲しい顔をした。この数ヶ月、二者の親密の深さが測れる。
(いや---…よかったよかった、バリーもくれてやるよ)兄の立場としての所有権で思った。
「あいつ、俺が自分の親父じゃないかって……」
ボソと戦士は言った。“お父さんの様だ”とサイモンはボストロールに言われた事が無い。
正直者のボストロールは時に残酷。
(あぁぁ…バリーもボストロールもこの男にとられたっ)

三人パーティーは祠の牢獄へ向かう。戦士は舟の甲板に居るが少し遠くで男の低い、
美しく通る声がめでたい歌を歌っていた。(巧い、上手い)戦士は聴いた。

サイモンは義弟にペコリと頭を下げた。その頭を上げた時、
「女が居るのか?」
「居ないよ」
「昨日偉そうな事を俺は言えないって言ってたから、お前がやましく思う事は女かなと……」
今、戦士は間違いなくバリーだけである。
ただ、数ヶ月前、つまりサマンオサ到着前は少し違った。ある女性を愛した。それがただならぬ女性である。
「あれは女じゃない」
戦士のこの言葉に真実は無いのである。
2008年04月25日(金) 00:35:33 Modified by dqnovels




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