女王零落

忌まわしきや白き巫女の所為するところ、その詔が衆生を導き、かくも清浄なる気を敷く。
幾星霜を越えし我が身もやがては堅牢のごとき結界に潰え、朽ちゆくが定めならんか。
ひとつふたつと分身たる首を失い、緩々と死を待つのみとなった時──
「誰ぞ…!」
夜遅く、祈祷を妨げる不穏な空気に、巫女はすっくと立ちあがる。
化粧と装束に飾り立てられてはいるが、巫女はまだ十四の齢を数えたばかりの少女である。しかし、その事実を知る者は少ない。彼女は多くの者にとっては間近で見るのも畏れ多い、高貴なる神の御使いにしてこの国を統治する女王だったのだから。
「静寂なる社の拝殿に入り込み、神座を乱すとは…その無礼、分かっておろうかや!」
予兆はあった。紫の光が東の空に閃いた時から、託宣に不吉な陰が現れ始めていたのだ。
「……たわけ。声を張ろうが、従者は来ぬぞ。妾が最初に訪れたのが寝殿だったゆえな」
巫女は、目を疑った。開放された御扉の向こうから現れたのは、巫女装束に煌びやかな冠、あどけない顔ながらも凛々しく化粧を施した少女。紛れも無い、自分自身の映し身に他ならなかったからだ。
「いかな魑魅か、去ね!」
玉串に手を伸ばそうとするも、矢庭に指が、腕が。体全体が、動かなくなる。
「下賎な狐狸物の怪の類いと同等に見たのが浅はかよ。よく眼を開き、見極めるが良い。汝が国作りをする折に放逐した、旧き禍つ神を」
酸漿(ほおずき)よりも赤く輝く眼光。つり上げた口元から覗く、鋭き牙。
「……古えの、蛇神──何故ゆえ!その力、既に封じられた筈…っ!」
「ふふ、正確では無いな。封じるのは妾よ。これより汝の女陰(ほと)を穢し、巫女の力を奪う事で、復讐は成就される」
言葉が終わる前に、背後から伸びた手が巫女の体を組み伏せ、体を開かせる。
「ひっ……!」
見れば、そこには眠りについていたはずの従者達が裸身を晒していた。
「汝が使い物にならなくしてくれた我が首な…あれは正しく云うなら妾の分身。ならば、今はこの者達が朽ちた首の代わりよ。さあ下僕(しもべ)らよ。我が手足となりて主を犯し抜き、思うが侭に気を遣るがよい」
「や、やめよ!やめっ……あ、ふぅ……ふあぁっ!」
四方から何本もの手が伸び、身を捩る巫女の衣装の中に滑りこんで来る。
隆起に乏しい胸を、細い腰を、透けるように白い柔肌を思うが侭に揉み、擦り、弄ぶ。
それも、ただ愛撫するだけではない。
従者の体は汗と、何やらどろどろした粘液にまみれており、それが余すところ無く巫女の肢体をぬめり這っているのだ。不意に、巫女の脳裏に先程の大蛇の言葉が甦る。
──「最初に訪れたのが寝殿だったゆえな」。
「あっ、こ、この者達を……まさか」
「まだ力が足りぬゆえな。結界を綻びさせる為にも、この者達とは交合らせて貰ったわ」
みな、男(おのこ)を知らない純潔だったのだ。それを行きずりのように手に掛けたと云うのか。
「おのれ……おのれぇっ!!」
「ほほほ、らしからぬ科白よな。しかし聞きたかったぞその叫びを──卑弥呼(ひみこ)!」
大蛇は知っていた。慈愛溢れる女王は、同時に、民が思うよりもずっと不遜で気位が高く、それでいてひとたび自分を失うと脆くなってしまう事を。
「いっ……あ、うあ…ああぁぁっ!!」
左右から伸びた手によって幼い膨らみをいいように嬲られ、慎ましく隆起した桜色の頂を細い指が摘み上げる。こりこりと潰されるたびに、紅を引いた唇が艶っぽく喘ぐ。
既に衣類は乱れ、露出した脇腹や腿の上を赤い舌が行き交った。
初めて享受する快楽に、純潔の処女は気が狂いそうに乱れていた。
「そろそろ、妾の最も深き処に隠されし分身で貫いてくれようぞ」
袴を落としたもう一人の卑弥呼、いや大蛇(おろち)が自らの股間を撫でると、肉芽が周辺の柔壁を押し分け、鋭く尖った一物を成す。
それは果たして、薄紅色に濡れそぼつ、爬虫類の生殖器そのものだった。
「い、厭!それは、それだけはぁっ!!」
経験の無い彼女でも、房事を知らないわけでは無い。この上は舌を噛み切って──
混濁する意識で考えるやいなや、従者の一人に両頬を押さえられ、唇を奪われた。
咥内に押し入り、蠢く舌は逃げる卑弥呼の舌に絡みつき、吸われる。
「はぷぁ……んぁ」
誇り高い女王は、体の自由を奪われたばかりか、心までも深々と侵されていった。
「行くぞ」
閉ざされた入り口をかき裂き、ずぷずぷと……破り、埋もれてゆく。
「う……ぅあ……ぅあああ……い……っぁ、あ……!!」
「あ……はぁっ、はぁぁっ!!」
誰も到達する事の無かった女王の、巫女の奥深くに穢れた楔が射ち込まれる。
ふたりの卑弥呼が鏡に映したように背を逸らす。
「よ……よい……何と、心地良いことかっ!」
小柄な卑弥呼の秘所は侵入者を拒むようにきつく締り、人外の逸物はそれを撥ね付けるように荒々しく送り込まれる。
「はーっ、は!はぅ、ひっ!あ、んあっ!」
大きい波と小さい波が休む暇なく卑弥呼を煽った。
半身は粘液に塗れるまま弄ばれ、秘所は蛇のものにかき混ぜられる。
身を庇う事もできず、相手の責め手に抗う事も許されない。
もう、壊れる。壊れてしまう。
「あ、くはっ、あ……うぁ、あ……っ!!」
がくがくと、華奢な体が跳ねる。
惨めにも股を大きく開き、剥き出しの性器から放出した潮を滴らせながら虚ろな視線が宙にそよぐ。
しかし、卑弥呼が達しようとなお責め苦が終わる事は無かった。
むしろ気を遣る度に力を取り戻していく大蛇の逸物は、何度と無く卑弥呼を貫き続ける。
不浄の滴でしとどに濡れた床に、破瓜の血と、一筋の涙が落ちた。

「存分におのが運命を呪え。巫女に生まれ、女王に生まれ、そして妾に仇成したその所業を。然れば、我が力は復活するのだ」
完全に意識を喪失した卑弥呼をなお上下に揺すり、上気した頬を拭う大蛇。
もはや、彼女は大蛇であり、新たな卑弥呼であった。
接合部は、既に溶け合い始めている。取り込まれているのだ。
(この国を蹂躙し…長しえを得たと思うかや、穢れし蛇神よ)
「!」
大蛇の脳裏に、一体化しつつある卑弥呼の意思が流れ込んでくる。
(だがそうはいかぬ。妾にはみえるぞ、解き放たれた歴史の奔流は、やがて外界より異形を招き寄せる。愉しみぞ、汝のごとき旧き血がその流転の渦中で淘汰される様がな。所詮、旧き御世に縋る我等なぞ遠からず……滅ぶが……必じょ……)
それが卑弥呼の最後の言葉だった。今やこの地で卑弥呼を名乗るもの、それは禍禍しき蛇神。蛇神の名は──ヤマタノオロチ。
「得意の託宣もこれまでよ…ならば、来る者は悉く我が七つの顎に掛ければ良いだけの道理であろ?危惧せず、早急に冥府を下るが良いわ」
2008年04月11日(金) 17:31:17 Modified by dqnovels




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