僕の国

「あなたがサトチーだって事はすぐにわかったわ」
ベラはそう彼に言いながら(あなたは大人になった。私は昔のまま…)と思う。
「20年振りね。今度来るのも20年後なの?その時サトチーおジイさんね」
「20年後じゃ、おジイさんにはならないよ」
少年だった彼がこの妖精の村を訪れてからもう20年経つ。グランバニアのサトチー王となり、今26才になっていた。
しかし肉体は10代後半である。石像生活8年。その間彼の成長、代謝は止まったままだった。
双子を儲けたが、8才の二人の子を「私の実子です」と人に言う度、(いくつの時の子だよ)と変な目で見られる可哀相なお父さんだった。
石像にされてしまった後、人に鑑賞され喜ばれるだけあってサトチーは素晴らしい肢体をしている。
手足が長過ぎるが、スタイルの良い長身と良く合って欠点とは言えそうにない。そして太腿が妙にセクシーな男である。
ベラは(仲良くしたいの。子供の時みたいに)と思う。サトチーは大人になってしまって、女性ならただ一人フローラを愛していて(いやん)
あんなに好奇心旺盛で多くの物を珍しがってキョロキョロしていた小さな彼ではなくなっていた。(いやよ)
ベラはサトチーの娘と遊んで、フローラの事を彼女から色々聞いた。
「お母さんの事?うーん……サンチョさんや皆に聞いた事しかわからないの。私、赤ちゃんの時から会ってなくて。探してるの」
(あら、大変な事になってるのね)

ベラはモシャスを覚えたので、フローラの姿になりサトチーに会いに行った。
「サトチーさん」
宿屋で彼は寝ていた。遊びたいベラは思い切って彼を起した。
「フローラ?なんでここに」
「不思議ね。私にもわかりません」
(ハハァン、これは夢だな)とサトチーは判断した。(夢だと思ってるのね、サトチー)とベラは感じた。
「抱いて」
夢と思われて居るならと、ベラは大胆になった。
「うん」と低い声で答えると、サトチーは夢の様なフローラを抱いた。
「8年振りだけど、離れていた気がしないな君とは」
「そう…(絆の深い夫婦ってそんなものかしら)」

ベラはサトチーに口付けた。愛しがって何度も吸い付いた。
(ようし、来なさい)
悠々と構える男はキスしながら自分から仰向けに倒れて行った。
サトチーはフローラの服を取ってその豊満な乳房を見た。
思えば…石像になってしまった彼は品物として売買され、買い取られた家の色っぽい若奥さんしかこの8年間、女の刺激がなった。
彼女のパンちら、干された下着、大胆な時の夫婦の営みを見てしまう云々。切ない日々であった。
今正に眼前にある妻の肢体が眩しい。彼の持ち前の余裕は薄れて行った。
「フローラ」
その興奮を、口調だけで伝えられる憎い男である。
「本当に久し振りね…。あなたの自由にして。好きにして欲しいの」
喜びが溢れそうな男からベラは口付けを耳に受ける。
(大人の遊びって気持ち良いのね…)
ベラは熱い溜め息をついた。「ん…」もう乳房に口付けを受けていてベラは声を漏らす。
「…、あん…」
(私から触りたいな…)とベラは思って、彼の背を抱いた。(太腿とか、触りたい…)
(もっと仲良くしたいの、サトチー)
と思うと、ベラはフローラの体のまま性器に愛撫を受けていた。
「ぁ…ぁ…」
切ない程に高い声が出る。(気持ち良い…気持ちいい…)もうどうにか成りそうである。
「フローラ」「サトチー」
ベラと呼ばれない事が、彼女は悲しくなって来た。(なんか、違うよね。こんなの)
ピクッとサトチーは何か感じた様である。隣の部屋から子供達の声がしたのだ。
「起きちゃったか…」「ねぇ、サトチー続きをしようよ」
ベラはもうすっかりフローラに成り済ます事を忘れている。それで良いのだった。なにしろサトチーは(夢だからな)と言う状態で不条理がまかり通る。
「来て」「んん?」
男女はベットから、部屋から出た。
「ベラ、なんて格好だい」
と宿屋の主人にはバレた。(オジサン、だまってて)とベラは主人に会釈だけしてサトチーと共に宿屋を出る。
(ベラだって?あぁ、暗がりで見たら似てるかもなフローラに)そして(まぁ夢だからな)

「綺麗だなぁ。変わってないやここは」
妖精の村の森の中、星空を見てサトチーは言った。
「ここが…好き?」「うん」
20年前と変わらない池もある。ベビーパンサーだったゲレゲレが落っこちたものだ。
モンスターの彼はこの池の水が痛痒くて仕方なかったらしい。ギャアン、ギョォンと言いながら、あっぷあっぷと溺れていた。
「ゲレゲレ!今助けるぞ!」
6才のサトチーはボチョンと飛び込み、足が吊って一緒に溺れた。
「ひゃー。ゲレゲレぇ、でもボクにつかまれぇ」
「ギニャー」
この時はベラに助けられた。そして濡れ鼠の男達の友情が何やら深まった。
そのゲレゲレも恐るべきデカさとなって格好の良い男となっている。
「雪の女王は強くてひっくり返ったよ」
幼いサトチーはその氷の館で滑って滑って本当にひっくり返っていた。ずっと滑ってゲレゲレと共に壁に激突していた。
そしてその頃は、家に帰ればあの人が居た。
(父さん…今天国のどの辺ですか?)
空は大きいのでどこを向いたら父が居るかな…と顔を上げて彼は思う。
父は彼の目の前で、敵に攻撃を続ける事なく死んで行った。
「一歩でも動いて見ろ。息子の命はないぞ」
と言われて、体の動きが止まってしまったあの時の父の気持ちが、父親になった今とても良くわかる。
(もう一度、会いたいです。夢でも幻でも良いから)
「そう言えば、夢でもフローラとは会えたね」
(違うのよサトチー、私は…)
父を心配する事は、サトチーは無かった。父が死んだ今でも。きっとまだどこかで自分を見守っていてくれてる気がする。
(僕は甘えん坊だ)
父の存在は絶大であった。サトチーがどんな所でも生きた目の強さ輝きを褒められるのは、あの父に育てられたからだと思う。
(母さんに似た目らしいけどね…)あの父が居なければ彼の瞳の魅力は半減したろう。
「父さんが守りたかったものを、僕も守りたい」
「サトチー…私…」
「フローラ、今度会う時は夢じゃないと良いね」
今度はサトチーからキスされた。ベラは思った(私どうしてこの人の家族じゃないの?)
そう思うと…甘んじてキスを受けて…森の中で自分から服を脱いで行った。

「あぁぁ…」
体の全てで、ベラは彼を感じた。自分の奥で彼は脈打っている。
切り株の上に腰掛ける形の男に、挿入されたベラは何度も突き上げられた。
「あぁん、ぁあぁん、私の事…、忘れない、で」
(何言ってるんだフローラ)
夢と言うのはハチャメチャだと思う夫である。しかしこのはっきりとした快感は異常だなと思い始める。
男は紫色のマントを脱ぎ出した。快感が高まって来るととにかく脱ぎたくなる男である。
メダパニで混乱しても「あっつ!」と服や鎧を脱いでそれをぶっ飛ばす。
脱ぐ物が何もない場合、自分の黒髪を結んでいる紐を解いたり、結んでいない場合は逆に結び直したりする。
とにかくなんかする。彼がイきたくなった証拠である。
「ハァ、ハァッ」
と息を乱していると、目の前で跳ねている女の乳房が少し浅黒くなってる事に気付く。フローラよりも小振りだが、至極形が良く、自分の目の前でプルンプルン元気に跳ねている。
(ん!?)
しばらく乳房ばかりを見ていた青年だが…ソロリと彼女の顔を見てみた。
「ベラ!」
「サトチーっ、好きだよぉ」
「え!?、なにこれ!?夢!?」と、サトチーはベラの腰を掴んでその動きを制しようとする。
「夢じゃ、ないの…あぁ…気持ちいい…」
ベラは彼の手に負けず、丸い腰をクルンクルン回し、そして上下に動かし彼に吸い付き続ける。
女性器が、人間じゃない。ひだひだと細かな凹凸の応酬。
そして小さな蛇の様な物が中に居て、彼の敏感な部分に巻き付いて来たり、滑って優しく愛撫して来たりする。
「ベラッ」
サトチーは彼女を咎めようとしたが「フッ」と鼻から艶めかしい空気が抜ける。
「もう、駄目だ」
「気持ちいいよぉ、サトチーっ」
とベラは彼の頭を掻き抱いて、その男の顔に自分の乳房を軽く押し付けた。浅黒い乳房が男の顔に擦れて跳ねた。
彼女の中に何か注ぎ込まれる。「あん…熱い…」
男が女の中でズルリと滑る。「あぁ…」
「ハッ…ッ…ベラ、ベラなのか?」

「うん。そうなの…あん…(抜かないで…)」
「…どうして…」「…っ」と、男は女から自身を抜き去った。
「あなたと…もっと仲良くなりたかったの」
フゥと男は自分の黒髪の中に手を突っ込んで目を閉じた。
(ごめんなさい。サトチー…)
その時、
「お父さぁん、お父さぁん」
サトチーの息子と娘が、彼を探しに来た。
(こんな夜中に、あの子らはっ)
しかし今自分はだらしなく下の服を脱いで、色っぽい太腿が最高に色っぽい体液達によってメトメトになっていた。
(子供に見せられるか!)
親父は走る。そして長い腕と足を美しく伸ばして真夜中の池に飛び込んだ。
子供達はザァァンと言う激しい水の音を聞く。二人が池に到着すると服を着たベラが下半身を池に浸からせていた。
「ベラさん、さっき音…」
「そうなのよ。お父さんが落ちてしまって」
ベラは大人の理由で慌てふためいていたが、子供達に“お父さんが池に沈んだからびっくりしてんだ”と思い込ませる事が出来た。
「お父さぁん」「お父さんっ」
「やぁ」ザッと、父は池から顔を出した。
「大丈夫?」「うん。落ちてしまえば気持ちが良いぞ」
彼はいつも誰かの為に池に落ちている。

屋外で交わってサトチーはとっても(激しかった…)
子供の時と変わらない部分を持ちながらも男らしく求めて来た彼に、ベラはとても満足し興奮した。
(ベラに…あぁ…)男は悶々とした羞恥で顔が赤くなってしまう。
あんなに互いの“あの箇所”を熱くし、剰(あまっさ)え射精とは。
「大丈夫かい?ベラ」
人間との交渉は平気なのかサトチーはベラを心配した。
「大丈夫…」
ポッと頬を染めながらベラは頷いた。
次にサトチーは目を閉じて
「ベラ」
彼女を叱った。

「ごめんなさい…」
それは宿屋の中での出来事だった。外に出て居た娘に宿屋の中の彼が窓から見えた。
(お父さん誰かを叱ってるわ)
父が叱る時、おっかないのであった。誰が叱れているのか彼女にはわからなかった。

妖精の村からサトチー達は出発する。その道すがら、森の中で娘がボソと言った。
「あ…ベラさん泣いてる」
その言葉に息子も「…そうかも知れない」と言う。
大人になってしまったサトチーには妖精ベラの声は聞き取りにくくなっていた。
息子も父サトチーも妖精の村を振返ったままなので、娘は父がどんな顔をしているか見えなかった。
息子が歩み出しても、父はまだ村の方を向いたままだったので子供達は心配そうに黙って父が歩み出すのを待っていた。
その雰囲気にサトチーはハッとして踵を返し歩み出す。
この子供ら二人は、人から変な目で見られてちょっと困っている若い父をとても心配してくれていた。
(僕は父さんを心配した事なんてなかったっけ…)
サトチーの父パパス。小僧の神様だった。

幻でも良いから会いたいと願ったパパスにサトチーはその後会う事が出来た。
時を越えて、亡くなる少し前の彼と、6才の自分に会いに行けた。
「僕です。サトチーです」
パパスはなんと、それを信じている様だった。言葉では、
「勇者の父になった?未来から来た?ハハハ、わかった。そなた予言者だろ」
と言っているが、大人のサトチーをサトチーとして信じてくれていた。(父さん…)
父はそれでも、自分の体と心の信じるままに。不自然な事はしない男である。
「父さん」
「私の妻に…よく似た目をしている。私の身を案じてくれた忠告は憶えておこう」
「そのしるしに挨拶をしような」
とパパスは剣を抜いた。サトチーは杖を取った。
「忘れないぞ」「僕もあなたを忘れません」
「泣くな、命懸けの約束の合図だ」「はぃ…」
「金打!」
声を揃えて、男二人は武器を打ち合った。

サトチーは大人になった。大人の目でパパスを始めて見た時、
あんな男が小さな村に来たらそりゃ騒がれるだろうと思った。格好良いのである。
父を第三者の目でも見る事が出来るようになっていた。
それでも、その上でも、母マーサの血を受け継いでいるサトチーはパパスの事が大好きだった。そこも母に良く似た。
パパスはグランバニアの王だった。妻のマーサをモンスターに攫われてしまい、一介の戦士となってモンスターと、天空の勇者の世界に挑んで行った。
マーサを救えるのは天空の勇者だそうで、パパスの旅はマーサと勇者を探す旅となる。自分が勇者だったら…と彼は期待する。
(私がマーサを救い出す。必ず)
エルヘブンの民でありその地の偉大な能力者であった(その為にモンスターに攫われた)マーサと、よそ者のパパスの結婚はエルヘブンに酷く反対されていた。
「良くないよ」「不幸が起こってからでは遅いよ」と言われた。なる程、現にマーサは攫われた。
(しかし妻にも息子にも、我々の結婚は後悔させない)
その為に自分のありったけの能力と、人生を掛けても惜しくない妻である。その子である。
彼は王位を弟に渡した。若くして勇退である。弟オジロンは慌てふためいた。
「陛下、陛下」
「私と、マーサが居てそれで些か…、それで小さな国だったのだ。その国を守れなくて大国を守れようか」
不安そうな弟の為に、パパスは人知れずグランバニアにチョコチョコと使いを出す事になる。
「サトチー殿下」
父は息子を呼ぶ。「ぁっ、ぁっ」
「私のそばが安心だぞ。参ろうか」「ぅぁー」
赤子の息子を抱いて、パパスは召し使いのサンチョと旅立った。
父はそれから6年間、自らの言葉に恥じない力で息子を安心させ、守り抜いた。

グランバニアの王として返り咲く事のなかったパパス。
しかしマーサとサトチーと言う小さな国を守る王としては、亡くなった今もなお君臨し続けている。
息子と妻に“「私達生き抜こう」と思う強い力”を、死して面影となった今も与え続けている。
「どんなに辛い事があっても挫ける事はないよ。君にはいつでもお父さんが居る。ゲレゲレも」
「うん。ボク負けないよ。ゲレゲレ行こっ」

自分同士、精悍で優し気な青年と強くて可愛い6才の戦士はこうして別れた。
彼は未来に戻り、小さな彼は妖精の村へゲレゲレと忙しそうに征く。

可笑しな者、可愛い者、凛々しい者、賢い者。モンスターも様々だ。
ゲレゲレは野生的だが優しい男だった。ちょっとセクシー。色気はベビーパンサーの時からである。
サトチーがフローラと結婚した当初、(なんでビアンカじゃないんだ)と大人の目線をサトチーに投げ掛けて来た。
(わざわざ女を“これ”と思って選んだのか。“男”として。フフ…)
(やめろゲレゲレ)子供の頃から爽やかな友達だったゲレゲレにHな目線を投げ掛けられるのは恥かしくて仕方無い。
(ゲレゲレめ、あー恥かしい奴だ)(そっちがね)
フローラはキラーパンサーゲレゲレのしなやかな肢体と精悍な(精悍過ぎる)風貌に溜め息ものである。
ゲレゲレは“人間の女”に対するちょっとしたHな挨拶や悪戯もフとした時にフローラにやってこなす。
「やぁん、ゲレゲレさん」「ガオッ」
気品ある男なのでなんとも許されてしまう。そしてゲレゲレは
(サトチー)(おや)
フニャアア……と彼に甘える時がある。デカイ体で。
沢山のモンスターと旅して、サトチーは皆と一緒に眠った。共に戦った。
これはパパスにもマーサにも出来ない事である。
サトチーの守っている小さな国。それは少しパパスの物より定員が多い。人間も居る。モンスターも居る。
(これは僕が父さんより頼りないって事も、一因してるな)
守るべき者に、守られる率は高いからだ。
しかしパパスの魂に「お前は私と、マーサをも超えた」と言わしめ、
仲間の皆は彼を父と慕った。「坊ちゃん」と呼びつつサンチョまでも。

フローラはサトチーの普通の夢にちゃんと出て来た。もうすぐ再会が叶うのだった。
ほのぼのとして、面白い彼女。不条理な夢の中でもやはりフローラはフローラだった。
しかしその夢の中でHな事は出来なかった。男は少々身悶え。
男サトチーはフと、父の女関係に思いを馳せた。
女友達に上手い事されて“そんな事”になってしまったり、上手くかわしたり、「私には妻が居るのだ」と言ってその女達を叱る事くらい……あったかも知れない。

(父さんごめんなさい)
息子は謝った。余りに妄想がリアルに展開したからだった。男の性がわかる今、当時の父の気持ちが良くわかる。
そして一人の女性だけを愛する楽しさと喜びも痛い程に。

妖精の、長生きのベラ。彼女に取ればサトチーはあっと言う間に死んでしまうのだろう。でも、
(僕の国に君の席がある。自由に来て欲しい。僕に取っては君も家族だ。そう思わせて欲しいよ)
寂しくて一人泣いていたベラの元に、その彼の思いは温かく届いたようだった。
2008年12月27日(土) 05:45:46 Modified by test66test




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