キャビア総合エロパロ保管庫 - 閉じた記憶の中で(回想/カイムside)
心の奥底で埃を被った記憶が、ふと頭をかすめる。
憎悪を抱きながら少女を連れて辿った旅の日々。



   〜閉じた記憶の中で〜


破壊しつくされた村々。息も絶え絶えなボロ屑のような人間。
誰もが、目を背けたくなるような現実。

それでも俺はマナがその現実から目を背けることを赦さなかった。
死よりも苦しい、生きて贖罪させるという生き地獄を味あわせてやろう。

彼女の罪―――ただ渇望した一握りの愛のために、神に付け込まれたことで犯した罪でも。
俺は、赦さない。


旅の初めの頃は、新しく村を訪ねる度にマナは嫌がり、泣き叫び、私を殺してと懇願した。

俺は、彼女に惨たらしい光景を見せつけ、その罪の深さを思い知らしめる。
逃げ出そうとすれば、殴り、引きずりさえもする。
許しを請うても救われず、打ちひしがれる憎むべき存在の姿に、俺は歪んだ心地良さを感じていた。
…そうして、マナへの激しい憎悪と憤怒をなだめていたのだ。


―――――――――――――――――――――――

ある村に立ち寄った時のことだった。
無残に潰れた廃屋。弔われること無く晒され、冷たく光る白い髑髏。
乱暴にマナの手をぐいと引っ張り、彼女を俺の前に立たせた。
彼女は息を呑み、怯えた表情で目の前に拡がるその光景を見渡す。
「……」
マナをちらりと見やる。
すると彼女は涙をポロポロと零し、その場でしゃがみ込み、泣き崩れていた。
「……ごめんなさい…」
何度も何度も、しゃくり上げながら。

その言葉に、何を今更、と俺はマナを睨み付けた。お前に許しなど永遠に無い、と。

だが、俺はその時初めて気がついた。
ずっと彼女の小さな背中が震えているのを。

―――そんなことをしても、俺はお前を赦さない。認めない。

しかし、俺はその日、マナの震える小さな背中を忘れることができなかった。


そして月日は流れた。

いつしか彼女は、俺の後をちょこちょことついて来る様になっていた。
引き摺ることの無くなった、柔く握られた手。
時折、俺が振り返るとマナはハッとした表情で俺を見上げる。
泣きはらして、潤んだ瞳。
許しを求める、怯えた瞳。

その見上げる顔に、俺はあの光景を思い出していた。
…何故だか、分からないが。

フリアエの、俺に向けられた瞳。
自分を受け止めてくれと、求めた瞳。
困惑の色と、絶望と、一筋の希望と、悲しみの色と、あらゆる想いの込められた瞳。

――俺はその瞳を受け止められなかった。直視できなかった。逸らしてしまった。
  そしてフリアエは、俺の前から消えてしまった。永遠に。


ふいに、握られた手に僅かに力が込められたことで、俺は我に返った。
震えた声で、マナが言う言葉は。

「私が―――」

俺はマナの声を遮り、無意識に左手につけていたブレスレットを外す。
マナの前に屈みこみ、彼女の左手をそっと掴む。
か細い、弱々しい腕だった。

フリアエと、揃いのブレスレットを、フリアエと同じ、左手に。

驚きと困惑の表情で、されるがままにマナは黙っていた。
俺も、何故こんなことをしたのか、分からない。

だが、何かが、そうさせたのだ。この俺に。

そして、俺はまたマナの手を引き、旅を続けたのだ。


あの日が、来るまでは。




―――愛を求め、重き罪を背負う少女に託した想いは何だったのか。今は、知る由もない――――

                       (了)

閉じた記憶の中で(回想/マナside)