5月7日は特別な日。

照明が落とされた田中家のリビングにいつもの仲良し家族が揃い、席について食卓を囲んでいる。
その食卓には乗り切らないほどのご馳走が並び、真ん中には沢山のイチゴと数本のロウソクが乗った大きなケーキが。


「「Happy birthday to you〜♪ Happy birthday to you〜♪」」


父母…いや『チチとハハ』による、娘を祝う歌がリビングに響く。


「「Happy birthday, dear 優樹ぃ〜♪ Happy birthday to you〜♪」」


「…フゥー!」

唄い終わりと同時に優樹はロウソクに息を吹きかける。
去年までは消すのに手こずっていたのに、いつの間にか大きくなっていた一人娘は一度に全ての火を吹き消してみせた。

「「おめでとう〜♪いぇーい!」」

リモコンでリビングの電灯をつけ、れいなとさゆみは持っていたクラッカーを鳴らすと、中から飛び出たカラフルなリボンが優樹の周りを飛び交った。

「ありがとぉ〜!…いひひひ…w」

嬉し恥ずかしといった表情の優樹。可愛い娘がまた一つ歳を重ねたことに喜びを隠さない夫婦の顔も緩みっぱなし。

「さゆ、ちゃんと練習通り唄えてたっちゃよw」
「本当?何気にドキドキしちょったんやけどw」
「ハハおうたじょーずだった〜w」
「ありがと♪それで優樹は何歳になったの?」
「うんと、5歳!」
「はぁーもうあの優樹が5歳やって。再来年には小学校とよ?信じられんばい。」
「おんぶしてレジ打ちしてたのが昨日のことみたい…」
「れーなもおんぶして彫ってたとよ?優樹は覚えとう?」
「おぼえてな〜いw」
「だろうねw」
「あの頃はよしざーさんとかてんちょさんとか沢山の人にお世話になってたと。」
「さゆみの場合ちょっと無理しちゃってお仕事休んじゃったけど…」
「まさきのこと たいへんだった?」
「大変は大変だったけど、楽しかったよ。ね?」
「うんうん。今ではいい思い出ばっかりたい。」

れいなが優樹の頭を撫でると気持ち良さそうに笑う優樹。

「ふくちゃんと知り合って仲良くなれたのも優樹と遥クンのおかげだし、今沢山仲間がいるのも優樹のおかげなの。」
「そういえばそうやねー。」
「まさのおかげ?いひひひっw」

今ではかなりの大所帯となったマンション仲間とのきっかけや繋がりの中心には、いつも優樹を始めとする子供たちがいた。

「明日の夜、みんなが集まってお祝いしてくれるって言うし…」
「ちょっ!さゆそれ内緒やろ…?」
「へっ?そうやっけ?!」
「ハハおっちょこちょ〜w」
「ごめん、今のは聞かんかったことにして?ねっ?」
「どうしよぉ〜かな〜w」

小悪魔のような企み顔でニヤリと笑いながら母親のさゆみを手玉に取る優樹が面白くて家族揃って大爆笑。

「はぁーお腹いたいw」
「れーな笑いすぎだからw」
「まさ 5さいのオトナだから わすれてあげるぅ〜!」
「ありがとw あとでみんなに謝っておかなきゃ…w」
「笑ったらお腹が空いてきたけん、早く乾杯してご馳走食べよ?w」
「んふふっw そうねw」

「あー!」

「急にどうしたの?」
「プレゼント〜!」
「プレゼントはご飯を食べたらにしない?」
「そっちのプレゼントじゃなぁ〜い!」

そう言って優樹は子供用のイスから飛び降りて一目散に寝室へと駆けていく。
頭に?を沢山並べる夫婦の元に、優樹は普段幼稚園に行くときにいつも背負っている通園リュックを持ってきた。

「なんなん…?」
「さぁ…?」
「えーとね〜…」

ゴソゴソとリュックの中に手を入れ探る優樹。

「あった!はいこれチチの!こっちはハハの!」

急に手渡されたのは折り紙で作った少し不格好な折り鶴。
れいなの手には水色、さゆみにはピンク色。
そして、

「これがまさ!」

優樹はもう一つ取り出したのは一回り小さなエメラルドグリーンの折り鶴。

「これ優樹が作ったと?」
「そう!」
「ちょっと前まで折り紙とか全然やりたがらなかったのに…」
「よーちえんのせんせいに おしえてもらってつくったの!」
「へースゴいやん。…でも、なんでぇ?」
「そのツルさんのなか みてみて?」
「開いちゃうのもったいないの…」
「あとでもう1かいおるから みてぇ!」

急かす優樹に従って折り鶴を開いていく二人。すると中にはミミズがのたくったような字でこう書かれていた。

 
 
『チチへ

 まさは つよくて うたがじょうずで おはなしがおもしろくて

 ハハのことを せかい1あいしてる チチが

 だいすきーーーーーーーー\(^o^)/』


『ハハへ

 まさは せかい1かわいくて がんばりやさんで せくしーで

 これからもずーっと チチひとすじな ハハが

 だいすきーーーーーーーー\(^o^)/』



そして最後、『ばぁ〜い 田中優樹』という一文で、小さな小さな手紙は締めくくられていた。
 
 
 
「きょうは チチとハハが いっしょになったひなの〜!」
「………」
「………」
「おめでとぉ〜!イヒヒヒヒッwww」
「………」
「………グスッ」
「な、なにれーな泣いて、んの?…だらしない、わねぇ………スッ、スンッ!!」
「しゃゆのほうこしょ…ぼろぼろ、泣いとーやん………ングッ!!」

抑えようにも、抑えようがない涙、涙。

「チチもハハも かなしぃの…?」
「ちがうにょ…ハハたちゎ、うれしくてないてんにょ…」
「しょおったいっ…」
「じゃあまさもなくぅ〜! うわぁーーーーーん!!!」

さっきまで笑いが絶えなかった家族が、今度は三人揃って号泣する。
なんだかそのギャップがおかしくって。でもそれがすごく嬉しくって…。
似た者同士の家族の涙が治まるまでしばしの時間がかかった。

「はぁ泣いちゃった…」
「最近涙腺が弱くなって困ると…」
「うわぁーーーん!」
「「もういいから!」」
「ふぇ?そうなの?」

思いっきり泣いていたのに瞬時にケロッとする優樹にまた小さな笑いが起きた。


「…そうやったね、今日は結婚記念日でもあったと。」
「籍を入れる前からずっと一緒だったからさゆみも感覚がマヒしてたのかもw」
「チチとハハのおたんじょうびなの」

れいなは右手、さゆみは左手。永遠の愛を誓った二人の手でキラリと光るシルバーリング。
優樹の言葉を聞いて自然と目があった夫婦は同じことを考えながら優しく微笑みあう。

「…じゃあそろそろ乾杯する?優樹と、私たちに。」
「チチおねがいしまぁ〜す!w」

3つのワイングラスに注がれたオレンジジュースを手に持って。

「オッホン!!……では、5歳になった優樹と、愛するさゆと、れーなに…」

「「「かんぱーい!!!」」


チンッ♪♪♪





田中家の日常 娘と夫婦の誕生日編 おわり
 

 

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