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言葉
言語

地上で最も習得が困難とされているのが、ミュトリュア山に住むヌト族の言葉である。
 大気の精霊の術を生活の基礎に置くヌト族では、気温を表す語彙が実に90を越える。こうした細分化された温度の認識が格変化や活用に深く関わっているため、せいぜいが暑いか寒いかの区別しか持たない外部の者には、極めて運用は難しい。
 温度計を持ち込めば済む話ではない。およそ12.4〜14.2度の温度帯をカテェット、14.0〜14.9度をカテェタケトと呼ぶが、湿度が70前後からは9.8〜17.6度あたりがまとめてシェイェンティケとなるのである。さらには、特異なことにヌトの言葉には固定した時制が存在しない。あるのは風向きと風速とから導かれる流動的な時間である。たとえば、南西11カウス、南南西16カウス、南西11カウスと風が変化した場合、言葉の上では最初と最後の時間が区別されない。文脈からその違いを読み取るよりほかないのである。どれだけ道具を用意しようと、得られた情報を複雑に変化する語と照らし合わせてネイティヴの会話を追い掛けるなど実質不可能である。
 ヌト語の特殊な時制は哲学にも影響を与えている。ヌトにおいては、時間はわれわれが一般に考えるように直線的に進むものではなく、円環派のように円を描いて繰り返されるものでもなく、風のように何度もやってきては過ぎ去っていくものである。昨日の南西11カウスのときに起きたことと今日の南西11カウスのときに起きたこととをまったく同じ時間の出来事と捉える、そうした意識のあり方がそこにはある。風のない屋内では一時間、二時間が経とうとなお、ヌトにとっては時間の外の出来事である。「風のない」と「死んでいる」とが同じ語によって表されるヌト族において、風のない場所で起きることはすべて、夢や神秘の領域にある事柄なのである。
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