多人数で神話を創る試み『ゆらぎの神話』の、徹底した用語解説を主眼に置いて作成します。蒐集に於いて一番えげつないサイトです。

物語

記述

賢者マリグナンの悲劇(1.1)

 我が名はマリグナン。人は私のことを大賢者などと呼ぶが、なに、この年寄りは少しばかり要領が良いだけさ。それでも50年の時をかけ、ようやく偉大なる真理の膝元にまではたどり着いた。だが世界の全てを解き明かすにはまだいま少しばかりの時間が要る。そしてそのときこそ、私は人類の悲願たる超賢者、大解脱者として紀神にかわるあたらしい世界の指標になれるのだ。
 されど、運命は残酷にも襲い掛かっていた。すなわち、我が肉体はすでに回復の見込みがないほど病魔に冒されていたのだ。何と言うことか! あと3年
生きられないだと! この私が、大神院においてすら賢者の名をほしいままにしたこの私が! まだようやく真理の入り口にたどり着いたばかりだというのに!
 人類が紀神の呪縛を超え、勝利者になれる糸口がようやく見出されたというのに!

賢者マリグナンの悲劇(1.2)

 このような時、古来賢者と呼ばれる人間には二つの選択枝があった。すなわち、神に慈悲を請うか、諦めるかである。しかし、並の賢者を超える
大賢者である私は違った。私は第3の選択枝を自ら選んだ。徹底して運命に抗うことを誓ったのだ。
 まず、本当に回復の見込みがないのかどうかを持てる限りの情報網を以って精査した。その結果、やはり医学的にも呪術・魔術的にも回復の見込みはなかった。だが、辛うじて身体を騙し騙し寿命を約8ヶ月ばかり伸ばす術を発見した。これにより、私に残された時間は3年半ということになった。次いで、神々の力を利用することを考えた。まず、大神院に所属する自分とは敵対関係にある「南東からの脅威の眷属」からは到底協力を得られそうにはなかった。ポニーは力は大きいがその愛はこの類の問題の解決には無力であると判断できた。魔神は真理とは縁遠いのでハナから除外。邪神は命が惜しいので近寄るべきではないだろう。紀人は自らの紀性を損なってまで自分に協力はしてくれないだろうし、もししたとしても莫大な見返りを求められるのは目に見えていた。妖精精霊では力不足だ。となると、紀神か魔王しかない。そこで私は徹底的に紀神か魔王を意のままに操る方法がないかを考えた。
 そして、私はアルセスに絶対的に従う妻・フラベウファのことに思い至った。
「フラベウファ……新しい神。紀人。紀を持ちながら、なぜアルセスに束縛されるか……」

賢者マリグナンの悲劇(1.3)

 私はこの謎を突き止めるため、大神院の奥の院、その地下深くにある禁書・秘術書・危険呪書の保管室、通称「ゲヘナ文庫?」の書に当たった。そこで私は「妹萌えの真髄?メイドロボとイケナイことしよ???」というふざけた書名の一冊の秘術書を発見した。
 それはカタリスティリカ=スィージェルトンという見慣れぬ名前の「キュトスの姉妹」について書かれたものであった。この書によるとかつて【妹合成?】なる術が存在し、キュトスの姉妹の影から新たに姉妹を作ることができたという。また歴史上、今まで合成に成功したものは名前が伝わっていないカタリスティリカ=スィージェルトンの製作者、『アルスマグナ?アルフェヤーム、狂姫リールエルバ、『マリアンの海?マリアンローグ?、槍神アルセスの5名だという。そして、狂姫リールエルバについての記述を読んだ時、私は歓喜した! 何と言うことだろう、あの「偽ヘリステラ」は守護の九姉全ての力を併せ持つ強力な敵対者であるが、実に人造の妹であり「兄」たるリールエルバには絶対に服従したというのだ! 守護の九姉全員と同じ力を持つものを合成できたということは、キュトスの魔女全員と同じ力を持つもの、すなわち「古き神、死せざるキュトス」を再構築できるかも知らないということだ。
 しかも、神をして自分に絶対忠誠を誓わせることができるのだから、私にとってはこの妹合成の禁術は、これ以上ないほど理想的なものだった。「よし、キュトスを復活させよう。」私は自らに誓った。

賢者マリグナンの悲劇(1.4)

キュトスを復活させる方法を模索し始めた私の前に、一人の魔女が現れた。その女こそキュトスの姉妹の一人、ノエレッテであった。彼女は自分の影を引き剥がし、姉妹の全ての影を集めればキュトスを復活するのと同等の効果が得られると断言した。何故かは知らないが、彼女は私に協力するつもりだという。私は手始めに彼女の影を入手して、彼女が記憶しているキュトスの姉妹の所在地を巡って共同で影を盗んでいった。

賢者マリグナンの悲劇(2.1)

私がキュトスの魔女から影を盗む方法はだいたいこうだ。
まず、大賢者たる私のもともとの知識と「ゲヘナ文庫」の禁書から得た知識、そして私の最大の協力者たるノエレッテの経験をもとに、ありったけの魔女除け・魔女封じの呪詛・呪符などの呪物を用意する。(数多くの呪物中でも、黄金の七芒星は古典的な呪物でありそれ自体の力は微々たるものながら費用対効果が非常に優れていた。)
次にターゲットの出没ポイントに潜伏する。
ノエレッテが姉妹を呼び出し、油断した隙に気づかれぬように影を拝借する。
そして魔女除け・魔女封じの呪物を使って時間を稼ぎながらトンズラする。
最後に無事にアジトに戻ったらサンプル(影)を「猫目の翡水晶?」に固定する、というものだ。

賢者マリグナンの悲劇(2.2)

ちなみに「猫目の翡水晶」とは妹合成の秘術において姉妹の影と諸材料とエネルギーとを結びつける触媒となる物質である。
実は中世の狂姫リールエルバの時代にはすでに入手が困難な代物となってはいたらしいが、何とノエレッテはご丁寧にも時代を遡り、狂姫リールエルバ本人が
2人の妹を合成した際に使用したものをあの「偽ヘリステラ」から強奪してきたそうだ。
さすがの私もあいつには骨を折った、とはノエレッテの弁であるが、それにしてもあの「偽ヘリステラ」に喧嘩を売りにいったのだからすごいものだ。
もっとも、彼女によるとその結果「偽ヘリステラ」はキュトスの姉妹に復讐を始めたらしいのだが、このことについては因果律が完全にねじれてしまっているので(いかに私が大賢者であるといえども)一介の人間にとっては理解に苦しむばかりである。

賢者マリグナンの悲劇(3.1)

双生児の鹿の仔にまつわる秘術を修得した私は、ノエレッテに負位置の海から力を汲み出す術を教わり、彼女らの影を「猫目の翡水晶」を用いて合成した。
果たして、試みの一回目は成功した。

賢者マリグナンの悲劇(7.1)

以上が私の最後の3年半に起きたことの顛末だ。
結局、私は自らの寿命を延ばすこと叶わず、真理を得ることも叶わず、ただ一人の不完全な妹を得ただけで古からの伝えどおり、魔女の怒りに触れ消された。
すなわち、我が肉体は万色のサンズ?によって黒槍?で貫かれ、死んだのである。
ついに人類は紀神の掌から抜け出すことはできなかったのだ。
人類は神々の手を離れ、誇り高き存在として高みに登る道を永遠に立たれた。これは人類にとっても、神々にとっても悲劇であった。
今後も、人類と神々のべたべたとした茶番が永遠に繰り返されるのだから。
人類は神と魔とを克服して更なる高みへと登り得る存在ではなくなってしまったのだから。


賢者マリグナンの悲劇(7.2)

こうして私大賢者マリグナン=シーカー=カサパーコフ?は肉を失い地獄に落ちた。
だが、私には不思議と後悔の念はなかった。自らの作り出した妹との、言葉を越えた純粋な魂の触れ合い、そして私が人間の身にあり病に蝕まれようとも魂の気高さを失わず、神を支配しようという大それた企みを行い、戦いに散っていったというその事実、その二つだけで、我が霊が地獄に落ちようとも不思議と満ち足りていた。そこには私だけに見える幽かな光があった。
それは、人間が人間てして生きることの、そして神々が神々として在ることの悲しみであった。人間も神々も魔女も石もも、全ては「世界」という巨大なシステムの歯車としてあることを選んだのだ――私と気まぐれなノエレッテ、女でありながら兄になった狂姫リールエルバ、そして確かめようもないが恐らくは死せざる神キュトスも――この4名だけがこの容赦なく荒れ狂い、悪夢のように襲いくる運命というものにに果敢にも挑んだのだ。気高き魂のみを心に抱いて。

そう、全ては最初から悲劇だったのだ。
アルセスがパンゲオンに槍をぶち込んだときから。
「あるいはこれこそが真理というものなのやも知れぬ。」
私はそう、そっとつぶやいた。

                    <完>

賢者マリグナンの悲劇(7.2)

だがしかーし、私は大賢者なのだ。死んだとは言っても。肉体を失ったとは言っても。
1回くらい失敗したとは言っても。超賢者一歩手前までに登りつめた大賢者なのだ。
大賢者マリグナンの野望はこの程度の悲劇で枯れはしない。リベンジあるのみ。
「そもそも今回の件においては」私は総括した。「パンゲオン世界が「世界」であることを選び、それゆえ誇り高き人間が全てを超越することが許されなかったのが私の敗因なのだ。であれば、パンゲオン世界の意思を超えてある場所があれば、あるいは……」
私は膨大な量の記憶をたどった。そしてある逸話を思い出した。
超多頭獣はパンゲオンのほかに、レムリオンアメイジオンの2体もいてそれらが鼎立していたという伝説だ。
猫の国のあるというレムリオン世界で転生を待つか……いや、それよりも……」
超賢者はほくそえんだ。

今、超賢者マリグナンは地獄の辺縁にいる。
そして、次世代長多頭獣・アメイジオンを刈ろうと虎視眈々と狙っている。
敢えて地獄を突き進む、誇り高き魂たちのための理想郷を作るために。
君も興味があるならばこちらへ来給え。さあ。

――天国なんか目指さずに、誇り高く修羅の道を歩き、地獄を突き進めばそこはきっと気高き魂を持つ賢者たちの楽園・アメイジオン――
【大神院に伝わる戯れ歌(作者不明)】

                    <本当に完>
タグ

関連リンク

其の他のリンク

アマゾンアソシエイト

管理人連絡先

amogaataあっとまーくyahoo.co.jp

紹介サイト


メンバーのみ編集できます

メンバー募集!