アルセス・ストーリー(1-1)
「アルセス。こちらにいらっしゃい」
呼んだのは
ラヴァエヤナだった。知の神、書の守、ラヴァエヤナ。
槍の神のアルセスはゆっくりと振り返る。
「なんだい、ラヴァエヤナ。今日もまたおつかいかい?」
「いいえ、今は別の用事よ。あなたの槍を私にお見せ」
アルセス・ストーリー(1-2)
アルセスは槍を掲げた。
紀元槍、世界の中心。
ラヴァエヤナは静かにじっと槍を見つめる。
「やはりそうだわ。この槍は死んでいる」
「死んでいる? 槍が?」
「その証拠に刃の輝きが褪せているわ。
あなたは槍の所持者として、輝きを取り戻さないといけない」
「それは、一体どうやって?」
「もう一度、紀元槍へ向かいなさい」
アルセス・ストーリー(1.1)
「アルセス、餞別にこれを渡しておくわ」
帰りがけ、ラアヴェヤナは袋を差し出しました。
「ミリョ餅かい?」
「ただのミリョ餅ではないのよ。
トルソニーミカ特性の【
都合のよいミリョ餅?】なの。
危ないと思ったときにこれを使えば、何かとても『都合の良いこと』が起こるはずよ」
「それは有難い。ぜひとも袋ごともらっていこう」
アルセス・ストーリー(2)
アルセスは旅の仲間を求めて同胞を訪ね歩いた。
まずは猫の戦士
シャルマキヒュに助けを請うた。
「ねえ、シャルマキヒュ。僕と一緒に紀元槍まで旅をしないかい?」
シャルマキヒュは猫の耳をぴくぴくと動かした。
「お子様のお守りかい? そんなことなら願い下げだよ」
「そういうつもりはないけどさ。僕は喧嘩が弱いから、守ってもらうことはあるかもね」
「坊や、あんたはもう少し逞しくなった方がいい。私抜きで行っといで。
それに私は、可愛い
ジャスマリシュ?たちにここで稽古をつけてやらないといけない」
そう言われては仕方がなかった。
アルセスはシャルマキヒュの練兵所を去った。
アルセス・ストーリー(3)
次に向かったのは
ピュクティエトだった。だがアルセスが口を開くや否や、
ピュクティエトはその豪腕でアルセスの頬を思い切り引っ叩いた。
「この、軟弱者がっ! 安易に人を頼ろうとするな、
そんなことだから貴様はいつも最弱と指を差されるのだ」
「いたた・・・、そんな事を言われても、実際僕は弱いし」
「最初から諦めてどうする!
まったく、貴様が嘲られる度に、私が一体どんな思いをしていると・・・・・・」
最後のほうの声は掠れてよく聞き取れなかった。怪訝に思ってアルセスは訊ねた。
「え? 今なんて言ったの? 聞こえなかっ」
「ええいさっさと一人で行かんか馬鹿者め!
一人旅でもすれば貴様とて多少は見れる男になろう!」
ピュクティエトはアルセスの背中を思い切り蹴飛ばした。
アルセス・ストーリー(4)
「ねえ、
ペレンケテンヌル?」
「うっさいなー勝手に行けよこのバカチン」
「……」
「うっざーうっざー。消えろ消えろ」
「……」
λ......
アルセス・ストーリー(10)
アルセスは結局、一人の共連れも見つけることなく里を出た。
アルセス(12ー2)
犬「アルセスさん、お腰につけた
ミリョ餅?をひとつ私にくださいな」
アルセス・ストーリー(14)
アルセスは巨大化・凶暴化した犬にミリョ餅を投げつけた。
ミリョ餅は光り爆ぜ、犬の身体を白煙で包む。
後には何も残らなかった。地面に焦げ跡が残った程度だ。
「今のがラヴァエヤナの言ってた刺客か。やれやれ」
アルセスは何事もなかったかのように再び歩みはじめた。
アルセス(88)
そこでアルセスはポンと手を打って言った。
「なるほど、この山の向こう、古き大谷の外れに
竜と娘が住んでいるんですね」
老人は黙ったまま頷き、アルセスに古びた革袋を差し出した。
独特の光沢を放つその浅黒い
ビテロ?の鞣し革には、三つ叉の穂先の意匠、
遥か過去に絶えた
聖花都?の貴族の紋章が入っている。