Xデーまでこうした技術を独占していた全世界英雄協会は召喚する英雄について諸々の基準をもうけていた。
「
万民友和」思想に基づく秩序を容認するか、召喚された他の英雄と殺し合わないか、等である。
異なる価値観、生前に抱えていた確執や感情、こうしたものがある以上、一定の基準をもって召喚する英雄を選別するのは当然の事とされた。
万民友和思想は民主主義を内包するため、これを理由に召喚される事を拒否する君主系の英雄もいた。英雄召喚技術を降霊術と認識し宗教上の理由で召喚を拒否する者もいた。
その場合、協会は条件を呑むことを要求することはせず、準備に莫大な費用がかかっていてもそのまま召喚を取りやめた。
協会的には相容れるかどうかがわかることが最大の収穫であり、無理に召喚して叛意を抱いてもらうのも困る、というわけである。
召喚する英雄の選別は協会が最も力を注ぐ分野であり、そのためだけの大規模施設も多数建設された。
こうして選別され、召喚された英雄たちは「全世界英雄協会」の采配のもと、世界の安定と平和に貢献してきたが、問題もあった。英雄も心を持つ存在である以上、召喚されたあとに考えを変えることがある。
それでも万民友和を容認すらしなくなれば「あちら側」に送り返されたり、緊急時にも被召芯という絶対的な手段もあったため、英雄たちの反逆と言う事態はXデー前後まで表面化することはなかった。
だがXデー、すなわち英雄召喚技術と被召芯製造、制御技術の流出により、これは一変する。「協会」に従わなくてもよくなったこと、万民友和を否定しても活動できる場が存在するようになったこと、そしてそうした状況を提供する反「万民友和」の者達の影響により、英雄たちの側から離反者が相次いでしまう。
召喚技術の流出はまた「最初から万民友和を否定し、妥協して黙認することすらもしない英雄」達の出現を招いてしまう。こうした英雄たちと反「万民友和」勢力の結びつきにより、世界各地により万民友和を前提とする体制や法制度が覆されていった。
そのためにはテロといった実力行使も行われ、連鎖的に発生したこの事態は「英雄危機」と呼称されるようになる。