出演:木村日鞠(大林花苗役)/白鳥玉季(阿部りら役)/
ログ
(タクシー乗り場)
阿部りら役:「もうだるいって!」
阿部りら役:「離せよ腕!もう!」
阿部りら役:「運転手さん乗ります!」
(車内)
阿部りら役:「ありがとう」
阿部りら役:「助かった」
阿部りら役:「石巻ののぞみ野まですぐに出して」
(車内)
阿部りら役:「ありがと」
(公園)
阿部りら役:「え?」
阿部りら役:「えっ誰?」
阿部りら役:「覚えてない。タクシーは乗ったけど顔とか覚えてなくない?」
阿部りら役:「ちょっと!行っちゃうじゃん。どうすんの?王子たまにしか来ないんだよ」
阿部りら役:「すごい変な目で見られいた。最悪!知り合いかと思われた」
阿部りら役:「キモいキモいキモい」
阿部りら役:「怪しいわ!」
阿部りら役:「なんでよ」
阿部りら役:「いつの話?」
阿部りら役:「そっか」
阿部りら役:「一度しかやんないからよく聴いて」
(回想・部屋)
大林花苗役:「・・・」
(公園)
阿部りら役:「ギャラくれ」
阿部りら役:「うっそ〜!」
阿部りら役:「私無意識でしょっちゅう口ずさんでるんだろうな。でも曲名知らないんだよね」
阿部りら役:「どこで?」
阿部りら役:「待って。おじさん今から連れてってほしいところがあるんだけど」
阿部りら役:「大船渡」
阿部りら役:「はぁ?そこはタダでしょ」
阿部りら役:「曲のこと知りたいんでしょ?」
阿部りら役:「もらえない。うち離婚して父親だけ。もう2年口利いてない」
阿部りら役:「知りたいんでしょ?往復7万、安いもんじゃん」
阿部りら役:「はい決まり!タクシーあれ?」
(食堂)
阿部りら役:「ん〜!」
阿部りら役:「やばくない?めちゃくちゃうまいでしょ」
阿部りら役:「いっぱいご飯食べさせてもらったよね」
阿部りら役:「え〜!私の?」
阿部りら役:「私今ブラバンでクラリネット吹いてる」
阿部りら役:「望むところです」
阿部りら役:「こういう曲、子ども心に染みるんだよね。窓の雨だれが一つになって流れてくみたいにさ。優しくて、一人で吹いてると鼻にツーンときたりしてさ。だから私、これは好きな曲だったんだ。あっ、私今エモいこと言ったね」
(庭)
阿部りら役:「クラリネットのほかはたぶんピアノ?」
(車内)
阿部りら役:「おじさんってずっと運転手やってんの?」
阿部りら役:「へぇ〜。じゃあなんでタクシー?」
阿部りら役:「それさ、だいぶ効率悪くね?」
阿部りら役:「はい、ドヤ顔のかわいいりらちゃんでーす。えっ、じゃあ運転手辞めんの?」
阿部りら役:「どういうこと?」
阿部りら役:「おじさんってだしぶ前向きな人だね」
(路地)
阿部りら役:「じゃないかも」
阿部りら役:「いやいいよだるいだるい」
阿部りら役:「私が連れてけって言ったんだよ」
阿部りら役:「じゃあやめ」
阿部りら役:「もういいから!そんなことしたらほんとにこの家出てくから」
阿部りら役:「おじさん帰んなよ。こんなのと話てたら頭おかしくなるよ」
(公園)
阿部りら役:「今から話すことは信じてもいいし、信じてくれなくてもいい」
阿部りら役:「おじさんはさ、たまたま私がタクシーに乗ったと思ってるでしょ」
阿部りら役:「私は、誰かに導かれるみたいにいろんな場所に連れて行かれることがあるの。頼まれてその場所に行くこともある。体の中にそういう風が吹くことがあるんだよ」
阿部りら役:「あの夜は、女川のあいつといて急に行かなきゃってなった。そしたらおじさんがいて、タクシーに乗ってすぐ、ああなんか繋がりがあるんだなってわかった」
阿部りら役:「ああいうときにさ、風がいろんな記憶を落っことしていくの。風邪になった人の記憶をさ。例えば、おじさん震災前の女川によく海水浴に言ってたでしょ。早苗ちゃんと花苗ちゃんと。帰りの車で花苗ちゃんが吐いちゃって。渡波の病院に駆け込んだらお菓子の食べすぎだって」
阿部りら役:「パパの枕くさいって言われて、花苗ちゃんに言われて、おじさんは枕カバー毎日交換するようになって、早苗さんはあきれてた。あとおじさんはパンツを履くとき前と後ろを間違える。ゲロ」
阿部りら役:「やめてよ!どうかしちゃったんじゃないの?」
阿部りら役:「早苗さんの記憶なの。それが見えちゃうの。それが私の能力」
阿部りら役:「見えるときもあるし、体の中に入ってきて話をすることもある」
阿部りら役:「違う。十何年前の霊は話さないし、形だって溶けてうっすら見えるだけ」
阿部りら役:「だから、もしおじさんのタクシーに乗ったっておじさんにはわかんないと思う」
阿部りら役:「あのさ、霊なんてそんないいもんじゃないんだよ。勝手に人の体に入ってくるわ、ちょっと口にできないものを見せてくれるわ。私ほんとはうんざりしてる。早苗さんは感じがよかっただけ」
阿部りら役:「そうだよ。嘘」
(路地)
阿部りら役:「そういえばさ、あの楽譜結局なんの目的で書いたのかわかった?」
阿部りら役:「それじゃない?」
(リビング)
阿部りら役:「最低だね」
(回想・リビング)
大林花苗役:「ダメだよ。聴いちゃダメ」
大林花苗役:「ダメダメ」
(リビング)
阿部りら役:「外にいるほうが不審じゃん」
阿部りら役:「へぇ〜、初めまして」
阿部りら役:「何がよくてこんなおじさん選んだ?」
阿部りら役:「散骨?津波があったのに?」
阿部りら役:「そこの泣きむしおじさん、いつまでメソメソしてんの?」
阿部りら役:「じゃなくて。誰かに演奏してもらったら?ピアノ譜起こしてもらってさ、菊池先生に編曲頼も」
阿部りら役:「聴きたくない?早苗さんがおじさんのために作った曲。早苗さんが思ったとおりの四重奏で。ちゃんとした完成形、で、演奏。なんで黙ってんの?」
阿部りら役:「いるじゃん私が。私は聴きたいよ。なんで一人だけなんで大人だけが悲しんでると思ってるの?なんでうちらはなんも感じてないと思ってるの?おのころに早苗さんが一生懸命おじさんのために書いてさ。花苗ちゃんも歌ってさ。喜ばせようと思ってたんじゃん。あのときいなくなった人たちが、あのときまさかいなくなるとは思わないままに作ってた曲がさ、往復7万かかる街さ流れ着いて、小学生の私の脳みそペったり張り付いて」
阿部りら役:「私あのころ寂しくってさ。早苗さん救ってもらったんだよ。私が聴きたいんだよ」
阿部りら役:「そうやって、あの町で、みんなに、弾かれたり、吹かれたり、聴かれたりしながらこの曲、やっといじさんのところに帰ってきたんじゃん。旅をさ、長い旅をしてきたんだよ。13年がんばってきたこの曲がさ、おじさんがメソメソ泣くためだけにあるってもったいなくない?てか、ありえないでしょ」
阿部りら役:「もう涙拭け!悪いけど私、そういう涙見飽きてんだわ。そろそろハッピーに行こうよ」
阿部りら役:「風だけどね」
阿部りら役:「キモ」
ログ
(タクシー乗り場)
阿部りら役:「もうだるいって!」
阿部りら役:「離せよ腕!もう!」
阿部りら役:「運転手さん乗ります!」
(車内)
阿部りら役:「ありがとう」
阿部りら役:「助かった」
阿部りら役:「石巻ののぞみ野まですぐに出して」
(車内)
阿部りら役:「ありがと」
(公園)
阿部りら役:「え?」
阿部りら役:「えっ誰?」
阿部りら役:「覚えてない。タクシーは乗ったけど顔とか覚えてなくない?」
阿部りら役:「ちょっと!行っちゃうじゃん。どうすんの?王子たまにしか来ないんだよ」
阿部りら役:「すごい変な目で見られいた。最悪!知り合いかと思われた」
阿部りら役:「キモいキモいキモい」
阿部りら役:「怪しいわ!」
阿部りら役:「なんでよ」
阿部りら役:「いつの話?」
阿部りら役:「そっか」
阿部りら役:「一度しかやんないからよく聴いて」
(回想・部屋)
大林花苗役:「・・・」
(公園)
阿部りら役:「ギャラくれ」
阿部りら役:「うっそ〜!」
阿部りら役:「私無意識でしょっちゅう口ずさんでるんだろうな。でも曲名知らないんだよね」
阿部りら役:「どこで?」
阿部りら役:「待って。おじさん今から連れてってほしいところがあるんだけど」
阿部りら役:「大船渡」
阿部りら役:「はぁ?そこはタダでしょ」
阿部りら役:「曲のこと知りたいんでしょ?」
阿部りら役:「もらえない。うち離婚して父親だけ。もう2年口利いてない」
阿部りら役:「知りたいんでしょ?往復7万、安いもんじゃん」
阿部りら役:「はい決まり!タクシーあれ?」
(食堂)
阿部りら役:「ん〜!」
阿部りら役:「やばくない?めちゃくちゃうまいでしょ」
阿部りら役:「いっぱいご飯食べさせてもらったよね」
阿部りら役:「え〜!私の?」
阿部りら役:「私今ブラバンでクラリネット吹いてる」
阿部りら役:「望むところです」
阿部りら役:「こういう曲、子ども心に染みるんだよね。窓の雨だれが一つになって流れてくみたいにさ。優しくて、一人で吹いてると鼻にツーンときたりしてさ。だから私、これは好きな曲だったんだ。あっ、私今エモいこと言ったね」
(庭)
阿部りら役:「クラリネットのほかはたぶんピアノ?」
(車内)
阿部りら役:「おじさんってずっと運転手やってんの?」
阿部りら役:「へぇ〜。じゃあなんでタクシー?」
阿部りら役:「それさ、だいぶ効率悪くね?」
阿部りら役:「はい、ドヤ顔のかわいいりらちゃんでーす。えっ、じゃあ運転手辞めんの?」
阿部りら役:「どういうこと?」
阿部りら役:「おじさんってだしぶ前向きな人だね」
(路地)
阿部りら役:「じゃないかも」
阿部りら役:「いやいいよだるいだるい」
阿部りら役:「私が連れてけって言ったんだよ」
阿部りら役:「じゃあやめ」
阿部りら役:「もういいから!そんなことしたらほんとにこの家出てくから」
阿部りら役:「おじさん帰んなよ。こんなのと話てたら頭おかしくなるよ」
(公園)
阿部りら役:「今から話すことは信じてもいいし、信じてくれなくてもいい」
阿部りら役:「おじさんはさ、たまたま私がタクシーに乗ったと思ってるでしょ」
阿部りら役:「私は、誰かに導かれるみたいにいろんな場所に連れて行かれることがあるの。頼まれてその場所に行くこともある。体の中にそういう風が吹くことがあるんだよ」
阿部りら役:「あの夜は、女川のあいつといて急に行かなきゃってなった。そしたらおじさんがいて、タクシーに乗ってすぐ、ああなんか繋がりがあるんだなってわかった」
阿部りら役:「ああいうときにさ、風がいろんな記憶を落っことしていくの。風邪になった人の記憶をさ。例えば、おじさん震災前の女川によく海水浴に言ってたでしょ。早苗ちゃんと花苗ちゃんと。帰りの車で花苗ちゃんが吐いちゃって。渡波の病院に駆け込んだらお菓子の食べすぎだって」
阿部りら役:「パパの枕くさいって言われて、花苗ちゃんに言われて、おじさんは枕カバー毎日交換するようになって、早苗さんはあきれてた。あとおじさんはパンツを履くとき前と後ろを間違える。ゲロ」
阿部りら役:「やめてよ!どうかしちゃったんじゃないの?」
阿部りら役:「早苗さんの記憶なの。それが見えちゃうの。それが私の能力」
阿部りら役:「見えるときもあるし、体の中に入ってきて話をすることもある」
阿部りら役:「違う。十何年前の霊は話さないし、形だって溶けてうっすら見えるだけ」
阿部りら役:「だから、もしおじさんのタクシーに乗ったっておじさんにはわかんないと思う」
阿部りら役:「あのさ、霊なんてそんないいもんじゃないんだよ。勝手に人の体に入ってくるわ、ちょっと口にできないものを見せてくれるわ。私ほんとはうんざりしてる。早苗さんは感じがよかっただけ」
阿部りら役:「そうだよ。嘘」
(路地)
阿部りら役:「そういえばさ、あの楽譜結局なんの目的で書いたのかわかった?」
阿部りら役:「それじゃない?」
(リビング)
阿部りら役:「最低だね」
(回想・リビング)
大林花苗役:「ダメだよ。聴いちゃダメ」
大林花苗役:「ダメダメ」
(リビング)
阿部りら役:「外にいるほうが不審じゃん」
阿部りら役:「へぇ〜、初めまして」
阿部りら役:「何がよくてこんなおじさん選んだ?」
阿部りら役:「散骨?津波があったのに?」
阿部りら役:「そこの泣きむしおじさん、いつまでメソメソしてんの?」
阿部りら役:「じゃなくて。誰かに演奏してもらったら?ピアノ譜起こしてもらってさ、菊池先生に編曲頼も」
阿部りら役:「聴きたくない?早苗さんがおじさんのために作った曲。早苗さんが思ったとおりの四重奏で。ちゃんとした完成形、で、演奏。なんで黙ってんの?」
阿部りら役:「いるじゃん私が。私は聴きたいよ。なんで一人だけなんで大人だけが悲しんでると思ってるの?なんでうちらはなんも感じてないと思ってるの?おのころに早苗さんが一生懸命おじさんのために書いてさ。花苗ちゃんも歌ってさ。喜ばせようと思ってたんじゃん。あのときいなくなった人たちが、あのときまさかいなくなるとは思わないままに作ってた曲がさ、往復7万かかる街さ流れ着いて、小学生の私の脳みそペったり張り付いて」
阿部りら役:「私あのころ寂しくってさ。早苗さん救ってもらったんだよ。私が聴きたいんだよ」
阿部りら役:「そうやって、あの町で、みんなに、弾かれたり、吹かれたり、聴かれたりしながらこの曲、やっといじさんのところに帰ってきたんじゃん。旅をさ、長い旅をしてきたんだよ。13年がんばってきたこの曲がさ、おじさんがメソメソ泣くためだけにあるってもったいなくない?てか、ありえないでしょ」
阿部りら役:「もう涙拭け!悪いけど私、そういう涙見飽きてんだわ。そろそろハッピーに行こうよ」
阿部りら役:「風だけどね」
阿部りら役:「キモ」
出演:木村日鞠(大林花苗役)/白鳥玉季(阿部りら役)/
白鳥玉季ちゃんのログ
(ラーメン店)
「そっか。クラリネットは?」
「は?あんた?急に距離詰めてきたね」
「やば。何勝手に決めてんの?」
「私にメリットなくない?」
「私が演奏したい、絶対参加したいと思えるようなメリット作ってもらわなきゃ無理ですね。あっチャーシューおいしいですね」
(公園)
「ねえ、やっぱやめようよ」
「わかるでしょ。音がレベチだし、絶対音大生だし」
「音がさ、うちらみたいな素人じゃないんだよ」
「ちょ…」
「ぶ〜」
(病室)
「失礼しまーす」
「お母さんがライラックから取ったって言ってました」
「めっちゃいい!」
「やった、そろった。あとは演奏するだけじゃん」
「楽しそう。おじさんがんばろうよ」
(公園)
「この間のおじさんと音楽祭をやります。よかったら協力してもらえませんか?」
「海が相手ならあがらずに弾けるってことですか?」
「人の心にずかずか土足で入っていくっていう意味ではそうです」
「いつも、ガン見しちゃってるから」
「おじさんから楽譜のことは聞いたよね」
「わかんないけど、王子みたいな人が演奏すべきだと思う」
「そこスルーして」
「それは知らない。でも、みんな人のためじゃなくて自分のために演奏しようとしてる。王子も利用しちゃえばいいと思う」
「消防士だった人だよ。今は海にいるんだって」
「その人、王子の演奏ずっと聴いてたんじゃん?もう運命じゃん」
(車内)
「それからずっと東京?」
「わかる。さすが王子いいこと言う!」
(室内)
「みんなごめん。私全然ダメだ」
(電話)
「どうした?」
「お願い迎えに来て」
「迎えに来てってば!」
(堤防)
「タクシーなんか乗らない!」
「は?鬼?失恋で死にかけてる女から金取んの?」
「最低!」
(車内)
「りらがそれになりたかった」
「ねえ聞いてよー。年上なんだって。銀座の画廊に務めてるんだって。絶対美人だよね。ブランド物できっちり固めてくる女だよね。その人音楽祭見に来るんだって。私もう演奏したくなーい!」
「いつの話してんの?もうとっくに別れたし」
「だと思いますねー。父親が勝手に美化してるだけで娘なんてみんなこんなもんですー。もういい。歩く、さよなら」
(居間)
「そんなこと求めてないよ」
「震災が起こってから俺はがんばった苦労したって。あとはお母さんの悪口ばグジグジグジグジ。だからこんな家さいたくないんだよ!」
(室内)
「あれから父親と話して母親に来てもらうことにした。もちろん父親にも」
「わかんないけど、気持ちにケリがつきそうな気がする」
「演奏会の日だけは、その日だけは私の日」
「歌うまくなってきたじゃん!」
(室内)
「おじさんはいいの?」
「じゃなくて、ピアノのパートは早苗さんのパートでしょ?それが聴きたかったんじゃないの?」
(楽屋)
「迎えに行こう」
「先生も誰かに聴かせたいんじゃない?亡くなった旦那さんとか」
(駐車場)
「先生、何そのお召し物めっちゃきれい」
(楽屋)
「弾けたじゃん」
(墓地)
「聞こえない。消えたんだあの能力」
「大人になったからじゃん?」
「うわっ、父親気取りだるっ」
「菊池先生も最近やたらスパルタだしね」
「はは、後悔してるみたいな言い方しないで」
白鳥玉季ちゃんのログ
(ラーメン店)
「そっか。クラリネットは?」
「は?あんた?急に距離詰めてきたね」
「やば。何勝手に決めてんの?」
「私にメリットなくない?」
「私が演奏したい、絶対参加したいと思えるようなメリット作ってもらわなきゃ無理ですね。あっチャーシューおいしいですね」
(公園)
「ねえ、やっぱやめようよ」
「わかるでしょ。音がレベチだし、絶対音大生だし」
「音がさ、うちらみたいな素人じゃないんだよ」
「ちょ…」
「ぶ〜」
(病室)
「失礼しまーす」
「お母さんがライラックから取ったって言ってました」
「めっちゃいい!」
「やった、そろった。あとは演奏するだけじゃん」
「楽しそう。おじさんがんばろうよ」
(公園)
「この間のおじさんと音楽祭をやります。よかったら協力してもらえませんか?」
「海が相手ならあがらずに弾けるってことですか?」
「人の心にずかずか土足で入っていくっていう意味ではそうです」
「いつも、ガン見しちゃってるから」
「おじさんから楽譜のことは聞いたよね」
「わかんないけど、王子みたいな人が演奏すべきだと思う」
「そこスルーして」
「それは知らない。でも、みんな人のためじゃなくて自分のために演奏しようとしてる。王子も利用しちゃえばいいと思う」
「消防士だった人だよ。今は海にいるんだって」
「その人、王子の演奏ずっと聴いてたんじゃん?もう運命じゃん」
(車内)
「それからずっと東京?」
「わかる。さすが王子いいこと言う!」
(室内)
「みんなごめん。私全然ダメだ」
(電話)
「どうした?」
「お願い迎えに来て」
「迎えに来てってば!」
(堤防)
「タクシーなんか乗らない!」
「は?鬼?失恋で死にかけてる女から金取んの?」
「最低!」
(車内)
「りらがそれになりたかった」
「ねえ聞いてよー。年上なんだって。銀座の画廊に務めてるんだって。絶対美人だよね。ブランド物できっちり固めてくる女だよね。その人音楽祭見に来るんだって。私もう演奏したくなーい!」
「いつの話してんの?もうとっくに別れたし」
「だと思いますねー。父親が勝手に美化してるだけで娘なんてみんなこんなもんですー。もういい。歩く、さよなら」
(居間)
「そんなこと求めてないよ」
「震災が起こってから俺はがんばった苦労したって。あとはお母さんの悪口ばグジグジグジグジ。だからこんな家さいたくないんだよ!」
(室内)
「あれから父親と話して母親に来てもらうことにした。もちろん父親にも」
「わかんないけど、気持ちにケリがつきそうな気がする」
「演奏会の日だけは、その日だけは私の日」
「歌うまくなってきたじゃん!」
(室内)
「おじさんはいいの?」
「じゃなくて、ピアノのパートは早苗さんのパートでしょ?それが聴きたかったんじゃないの?」
(楽屋)
「迎えに行こう」
「先生も誰かに聴かせたいんじゃない?亡くなった旦那さんとか」
(駐車場)
「先生、何そのお召し物めっちゃきれい」
(楽屋)
「弾けたじゃん」
(墓地)
「聞こえない。消えたんだあの能力」
「大人になったからじゃん?」
「うわっ、父親気取りだるっ」
「菊池先生も最近やたらスパルタだしね」
「はは、後悔してるみたいな言い方しないで」
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