【魔法の手】 // オリガ、アンジェリカ
        // 【】 // General //2012/09/28



   【魔法の手】


 おばあちゃんの手は魔法の手だった。
何の変哲もない二本の棒がおばあちゃんの手の先で交差するたびに、
古い毛糸玉が次々に新しい服に生まれ変わっていった。
 床まで届くお手製の膝掛けをかけ揺り椅子に座ったおばあちゃんは、
手の先で魔法をかけながら私に不思議な話をしてくれた。
幸せを運ぶ妖精ドモヴォーイ、働き者を手伝ってくれるキキーモラ。
サウナに住むヴァンニクは人が使い終わった後に蒸気を落とさずにおけば
他の妖精を連れて来てくれる――。
 母はまたそんな迷信を子供に吹き込んでと眉をひそめていたが、
赤々と燃える暖炉の前で薪のはぜる音と共に聞くおばあちゃんの話が
私は大好きだった。
 おばあちゃんの手は時にはリンゴにも魔法をかけた。
この方が合理的だと六ツ割にしたリンゴを縦に剥く母を見て、
若い人は忙しいねと穏やかに笑いながら丸いリンゴをくるくると回して剥いてしまう。
そして長い紐のようになった皮を乾燥させては、それを詰め物にして
甘い香りのするちいさなクッションを作ってくれたものだった。


「オリガさん、またちぎれちゃったの」
「急がなくていいのよ、アンジェ」
 故国から遠く離れた地で、私はあの頃の自分より少しだけ大きい年頃の少女に言う。
「ナイフの刃はリンゴに当てるだけでいいからね」
「こう?」
「そうそう。そして左手でリンゴをゆっくり回していって」
「うん……あ、できた!」
 アンジェリカがその名の通り天使のような笑顔で歓声を上げる。
魔法を教わる前に祖母は亡くなり、私にとって編み物は未だに不思議のままだ。
唯一覚えたリンゴの皮むきはちょっと練習すれば誰にでもできるものだったけれど、
こうしてこの子に教えてやれる事があるというのは楽しくまた嬉しい。
 ぎこちない手つきでリンゴを剥きながら少女がたずねてくる。
「ねえオリガさん、パスタ王子のお話のつづきはいつ?」
「そうねえ。アンジェがおりこうにしてたら、じきにね」
 この子に聞かせる御伽噺にロシアの妖精は出てこない。
けれど皆で作ったその物語に、あの頃私が感じ今も覚えているあの暖かな想いを
彼女が感じていてくれればと願っている。
アンジェリカを愛する人々の手で彼女のために作り出されたそれは、
きっとこの子の心を支える柱のひとつになるだろうから。


<< конец >>






トップページ 保管作品名一覧

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

×

この広告は60日間更新がないwikiに表示されております。

Wiki内検索

編集にはIDが必要です