□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
−−「Capitano−第2話」−− //クラエス、ビーチェ、フェッロ、ジャン、
        // 壱拾参−3◆NqC6EL9aoU// Suspense,OC//「Capitano」 //2009/10/24



   □□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
            −−「Capitano−第2話」−−


角を曲がったヒルシャーとトリエラを見送ったバセットはテケテケと
義体宿舎に歩いていった。
入り口を抜け、ある廊下の角が近づいたときだった。

バセットは急に足を止めると、そっと少しずつ進み鼻を高く上げて匂いを
嗅ぎ分けていた。

その足も暫く止まった次の一瞬だった。

               「わん!」

次の瞬間、廊下の向こうからベアトリーチェの

             「あ〜!負けたー!」

・・・という声がした。

バセットは小躍りするような足取りで廊下を曲がった。
「あ〜残念。おいでカピタン。何時もの御褒美。」
ビーチェはそう言って自分の部屋に向かった。

そう、ビーチェは、このバセットと一日一回の鼻勝負をして自分の鼻の感を
鍛えているのだった。

小分けパックの「犬のおやつ」を取り出すとビーチェはバセットに差し出した。
カピタンと呼ばれるバセットはそれをムシャムシャと美味しそうに食べた。

「明日は負けないよ。カピタン。」
そういうベアトリーチェを後ろにバセットはクラエスの部屋に向かい、勝利の旗を
振るように尻尾を高く上げ、ふんふんと鼻息も意気揚々と戻っていった。

「どうやら勝ったようね。」
イスに座ったクラエスは本を置くと彼専用の通用口を抜けて帰ってきた
バセットに微笑んだ。
自慢げに更に大きくバセットは尻尾を振った。

「おめでとう。それで、トリエラとヒルシャーさんは・・・どうだった?」
バセットは暫く考えるような素振りを見せ、その後でパタパタと数回、緩やかに
尻尾を振った。

「そうね・・・貴方の勘を私も信じるわ。今日は大事に至らないわ・・・。
あの人達は・・・無事に帰る。」
少し俯いて無表情にクラエスは呟いた。
ふぅ・・・とバセットも同感を示すように溜息をつく。

「さて・・・」
そう言うとクラエスは本に栞を挟み寝床に置いた。
「私たちの『お仕事』も始めましょうか。」

                    ***

「こんにちわ〜」
そう言って農作業服に着替えたクラエスが食堂の裏口を訪ねたのは、朝の後片づけが
終わり、これから昼の仕込みが始まろうとしているときだった。

「おぉ、いつもの野菜屑だね、クラエス」
そう言って食堂の職員が野菜屑の袋を探しに行く。
野菜屑はクラエスの農園でコンポストに入れられ肥料になるのだった。

別の職員が話しかける。
「順調かい?クラエス。」
「おかげ様で、これからの成物は皆さんの御期待に添えるかと思います。」
「そうそう、また葉物で良いのが出たら分けてね。それにしてもカピタンも
相変わらず元気だな。」
暑さもあるのか舌を出してハッハッと呼吸しているバセットに話しかける。

「ほーい、またトマト期待してるよ!」
奥に行っていた職員が袋を持ってくる。
「いつもお世話になります。」
その野菜屑の袋を手押し車に乗せて進むクラエスの前を、バセットが高く上げた
尻尾を小さく振りながら歩いていった。

                    ***

「恐らくこの団体のDグループが今回、接触をすると思われますが、
現時点で彼らに全く・・・」

フェッロの報告を聞きながら、ゆっくりと窓に近づき外を見たジャンは、
今日ならばこの時間に窓の下を通るクラエスとバセットを目で追っていた。

「失礼ですが・・・現在は作戦行動中です。」
フェッロがジャンに負けない程の鋭い上目遣いで見る。

「聞いている・・・続けたまえ。」
相変わらずジャンは窓の外を見て答えを返す。

「集中していませんジャンさん。困ります。」
フェッロは溜息を付いて書類に目を落とした。

「『なぜかDグループに全く動きなし』か。この辺で少し休もうか、フェッロ。」
そういってジャンは何処でもない外の空を見ながら話した。

「・・・あの時の話、今も思い出しますか。」
「本当に忙しいのは張り付きのアルフォンソ達から連絡が入ってからだ。丁度
良い息抜きだろう・・・」

                    ***

「『彼』を飼いたいのですが。」
そうクラエスがバセットハウンドの子犬を抱いて来たのは何時頃だったろうか。

ある日、実験用のビーグルの納入があったが、一匹、何故かバセットハウンドが
混入した・・・そして、どういう経緯か逃げ出し、食堂の厨房裏口付近に、
いつの間にか来て、更に・・・野菜屑を貰いに行ったクラエスが第一発見者だった。

「・・・暫く預かる。」
ジャンがそう判断するのは無理もなかった。

「犬を処分しクラエスの『条件付け』を行うのが・・・」
「犬一匹で貴重な実験義体の試験回数を減らすのか?」

時間を置いた別室でフェッロの提案にロレンツォ課長は即座にそう答えたのだった。

バセットにはスキャンや生体検査など社会福祉公社の技術・開発部門が持ちうる
あらゆる検査が行われた。

「どうしますか。データで見る限り何も怪しい点はありませんが・・・でも私は・・・」
「君の勘は解るが・・・やむを得まい。」

フェッロの不安な顔を背に感じながら、ジャンは窓の外、この時間に野菜屑の
袋を手押し車に乗せて、一人で野菜畑に向かうクラエスを見ていた。

                    ***

「名前は決めているのか。」
それから数日後、バセットをクラエスの腕に渡したジャンは彼女にそう質問した。
「はい、もう既に。」
微笑みながらクラエスは答えた。

              「大尉(Capitano)です。」

        ジャンとフェッロの顔から一瞬にして血の気が抜けた。

「・・・なぜ、その名前にしようと思ったのかな。」
そう聞き返すジャンにクラエスは答えた。

「彼が将来、そんな風格を備えるような気が今からするもんですから。
何か問題が有るのでしょうか?」
「『大将』でも『大佐』でも良いとは思わないか?」
「そこまでの位を上げるのは彼が遠慮するでしょう。」

無邪気な微笑みを前に、後ろ手でジャンはフェッロに動揺を抑えるように
ハンドサインを送り続けていた。

「君が前線に出る可能性は恐らく無いが、私らは我が国の他の軍や警察などの
本物の『大尉』と多く接する。混乱する可能性があるので他の名前にしてほしい。」

        「ではフランス語の『カピタン』では宜しいですか?」

ダメなのかな・・・そんな諦めを浮かべるクラエスの目を見て、自らの動揺を
抑えながらジャンは返した。

「・・・仕方なかろう。許可しよう。」

                    ***

「あれからクラエスにもカピタンにも別にこれと言った変化は無く、彼女の畑は
ますます繁盛、そこのトマトは幹部の食卓を飾ることすらあります・・・ですが。j

「君も言いたいのだろう?

               『生まれ変わり』と。

ならばカピタンは真っ先に私の寝首を取りに来るだろう・・・増してバセット・ハウンド
なんて暢気な姿で甦るとは・・・」

そういってジャンはフェッロに振り返った。

               「とても思えない。」

「ですが・・・」
フェッロは再び鋭い目つきを引き締め返す。

 「バセット・ハウンドは、そうやって獲物を油断させて
             追い込む目的で品種改良されたとも聞きます。」

更に彼女は、少し目線を逸らして言葉を続けた。
「痕跡を執着して捜し求め、ゆっくりとした体力戦の足取りで何処までも
追いかけるそうです。」

「ならば仮にそうだとしても・・・」
ジャンは苦笑いのような微笑みすら浮かべて答えた。

           「怪談にしても酷すぎる・・・そう思わないか。」

    「ズー 作戦本部!遊軍班ニハッドです!ウロチョロしてたんで
       囮と思っていたFグループの下っ端がDグループの幹部と
       公然組織員同士で接触をしています!意図が掴めません! ピロ」

「・・・『怪談にしては』切りの良いところですね。」
「実に・・・さあフェッロ。作戦モードだ。」


                【第2話−END→3話へ続く】→「Capitano−第3話」

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