□□□GunslingerGirl 〜ガンスリンガーガール〜 長編劇場 ■■■
−−「Capitano−第7話」終章・帰らざる旅路(前編)−− // ジャン
     //壱拾参−3 ◆NqC6EL9aoU // Suspense,OC// 「Capitano」 //2009/11/28



        追悼。 あるバセットハウンドに捧げる。

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      −−「Capitano−第7話」終章・帰らざる旅路(前編)−−


それから暫くの「太陽のこの季節」、公社を陽動しあざ笑うかの様に、正に
「公然」と公然組織員間の「厚く"熱い"絆」は続いた。
悪いことに非公然の動きを擽るように匂わせながら・・・。

           「何処の三流パパラッチだよ俺たちは!」
          「『公然』猥褻でとっととパクっちまえよ!」

初めは「うほぉ・・・」の一言は飛んでいたものが、もはや義体棟の少女達に
「閲覧禁止」な度外の情事満載の監視映像に、自らの「太陽の季節」を棒に振り、
職業疲労の限界に達した何人かの公社員は切れた。

今や誰もが鼻の下を伸ばす気力すら無くしていた。
・・・サンドロら「趣味的にんげん観察系」を例外としては。

そして名残惜しげな別れの映像を最後に「恋人達」は最重要追跡リストから外された。

「公然組織」の高級幹部絡みである以上、何かしらのチャンスがあれば正に
「三流パパラッチ」な醜聞として流す良いネタにはなる・・・公社員の棒に振った
「太陽の季節」の慰めを言うならば。

                    ***

そんな「太陽が狂わせた日々」が終わっても、スーツもネクタイも外さねば
倒れそうな日差しだった。

だがここは「"社会福祉"の"公社"」でありながら「『社会福祉公社』」だ。
公然とホルスターは晒せないが、丸腰で野外に立つ蛮勇を自分は持てない。
その結果、スーツの中にサングラスを忘れても・・・だ。
そんな矛盾にジャンは苦笑した。

彼女の担当官・・・いや「監視者」が相応しいだろう自分としては、暫く放っていた
クラエスに会うため彼女の畑に行く・・・のは口実で、とにかく外の空気を吸いたかった。

いくら内部は近代的化されているとは言え「昔の貴族の館」を改造した建物には
何かが住み着いている。
ここ暫くの無意義な緊張の疲れはそれを実感させた。
取付かれてしまう前に払い落としておきたかった。

          しかし暑い・・・この太陽が・・・人を狂わせているんだ。

さらにシャツのボタンを外したジャンは思った。
スーツが無いのでホルスターごと押し込み肩に掛けた布の袋は実量以上に重く感じた。

何か水分も欲しい気がした。
どうせ重いならクラエスの分も含めてボトルウォーターでも入れてくれば良かった。
そんなところに全く気も回らないとは・・・。

なりふり構わず「長男」という責任を背負い込む事を言い訳に自分は突き進み、
後ろに全てを置いて来た。
・・・妹も・・・恋人も・・・背負うはずの家族全てを。

結局、背負っていたのは弾丸を発射するものだけ・・・。
それに後から気が付く・・・今も、そして・・・あの日も。
・・・今更できる気遣いでは無いだろう。

         「長男」・・・「"家族"の太陽を継ぐもの」・・・。
              そうだ・・・狂ってるんだ・・・自分が狂ってる。

ふと気がつくと・・・道の真ん中でバセットハウンドが尻尾を振り座っていた。
そんな唐突な出来事にすらジャンは虚ろだった。

バセットは立ち上がると尻尾を高く上げて歩き始めた。
「付いてこい」とでも言いたげに・・・ジャンは・・・迷うことなく黙って彼に付いていった。

そこは孤独に大きく立つ木の下のベンチ・・・涼しい木陰がジャンを誘っていた。
ベンチの前にバセットは座る・・・「とりあえずまあ掛けろ」と言ってるようだ。

布袋を置き、ゆっくりとベンチに腰を下ろすとジャンはバセットの目を見て言った。
「また幻を見ているんですか・・・今日の自分は。」

バセットも暑いのか舌をダランと垂らし、疲れた視線で柔らかくジャンの目を見返す。

「以前の休暇には死んだ妹の幻とも話をしましたよ・・・だが今は・・・自信をもってシラフだ。」
鋭い目つきも何時もの彼の物ではなかった。
疲労の果て、日差しの眩しさが呼んでいるものだった。

           「太陽が・・・人を狂わせているんですかね。」

相変わらずバセットは、のんびりとジャンを見上げていた。

        「何をするために・・・戻られたのですか?この世に。」

独言とも問い掛けとも付かない台詞を残すとジャンはベンチに背を預け大きく空を見上げた。
そこには風にさざめく緑葉と、遮られては差し込む狂った日の光が渦を巻いていた。

                 「復讐ですか。」

そのままの格好でジャンは言った。

「『痕跡に執着し体力戦の足取りで何処までも追いかける』そうですね・・・貴方の今の姿は。」

直前まで吹いていた風は止まったが、余韻で未だ揺れる木々の葉で光の世界が踊っていた。

         「ならば・・・もう十分でしょう。ケリを付けませんか?」

その時、ゆっくりと降られていたバセットの尻尾の動きが止まった気配をジャンは感じた。

「五共和派、協力者や関わった者・・・そんな奴らを殺し続けて百人になるのは近いでしょう。」

ジャンは横に置いた布袋の中に手を入れて、拳銃のトリガーに手を掛けた。

「でも・・・出来ればもう少し待って頂きたい。自分は未だ『あいつ』さえ討ち取っていない。」

キラキラと踊る光は続いていた・・・。
だがバセットが喉を狙って飛びかかる蹴り足を聞き取るには静かだ。

          ・・・目を瞑りジャンは耳に全神経を集中させていた。

           「その百人とやらに俺が入っているのか?」

驚いて跳ねるように立ち上がったジャンはバセットの顔を目玉を剥かんがごとく見た。
だがバセットは何事もなく自分の鼻先を一舐めして舌を出しハッハッと息をしていた。

誰だ!ジャンは辺りを見渡したが人影は無かった。
四方八方、あらゆる所を見回した・・・窓、屋根、樹上・・・空までも。何処だ!?誰だ!?

             「落ち着けよ。俺は只の犬だよ。」

懐かしい声が再び足下からした・・・ジャンはバセットを震えながら見下ろした。

           「エンリカに続いて・・・やはり貴方もですか!」

相変わらずバセットは暢気に尻尾を振り他人事のような顔をしてジャンを見上げていた。

感じた事のない恐怖にジャンはベンチに座り込んだ。
あの日のエンリカの"何かしら"とは状況が違う。
「自分が手に掛けた者」が確かに甦り現れたのだ。

「死んだ魂達は、なぜ黙っていてくれない!いったい自分に何をして欲しいのですか!?」

ジャンは引き吊った指が勝手にトリガーを引かないようにするだけでも必死だった。

             「そんな事を犬に聞いてどうする。」

懐かしい声は再び、その口から発せられた。

             「・・・やはり貴方なのですね。ラバロ大尉!」

             「ラバロ?誰の事だ?さっぱり判らんぞ。」

驚きと恐怖の目で問うジャンに、とぼけた顔はバセットハウンドそのものの犬は
見事なほどアクセントに口を合わせて答えた。

「ですが・・・言葉を話せる犬には初めて会います!その声は貴方なのでしょう!?大尉!」

そんなジャンに構うことなくバセットはトコトコと歩み寄った。
「お前がそう思うならそうじゃないのか?」

そう言ってバセットはベンチを上りジャンの隣に座るとフガフガと鼻を寄せた。
「だが俺は只の犬だよ。この姿形は犬だろう?」
「しかし・・・そう言われても・・・」

そう言うジャンに"伏せ"に座り直し上目遣いでバセットは答えた。
「まず物騒な物を置け。そして俺を撫でて見ろ。」

恐る恐るジャンは拳銃を置きバセットの頭を撫でた。
・・・気持ちよさげに薄目をして撫でられる"それ"は犬そのものの感触だった。

これが真実なのか・・・落ち着きを取り戻したジャンはバセットに静かに話しかけた。
「ならば・・・自分はこれから貴方にどう接したら・・・」

「今のとおり簡単だ。犬への接し方なんて子供でも知ってる事だぞ。」
何事もなくそう言うバセットハウンドの目の中にある渦巻く光をジャンは見つめていた。

「そうではなく・・・自分が過去、貴方にしたことを・・・どうやって・・・償なって・・・」

ふ〜ん・・・と溜息を吐くとバセットはそれに返した。

                 「何度も言わせるな・・・」

目の中の光は、ますます大きく自分の前に迫った。
まるで先ほど見た頭上の木の葉が光と織りなす明暗の交響の様だった・・・。
ジャンはその光に自ら飲み込まれて行くのだった。

                「それは犬に聞く事じゃない・・・」

                    ***

                   |||||

   −−「よく聞け・・・ジャン・クローチェ・・・

         俺がお前に『人として出来る』最後の答えだ。

              失った時間は取り戻せない。もう二度と。
 
                        それを決して忘れるな。」−−

                   |||||

             【第7話−END→8話へ続く】 →「Capitano−第8話」

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