『闇』 //トリエラ、ヒルシャー、ロベルタ
        // 『』 // Suspense,Death,Dark// 2010/06/30


『闇』


何気ないフリをして私は訊く。

「ヒルシャーさん、この休みはナポリへ行ってきたんですよね?」

「ん?、ああ、そうだよ」

(・・・・・・)

「・・・あの検事さんにも会ってきたんですか?」

「ロベルタのことかい?、君にもよろしくって言ってたよ」

(・・・・・・)

「ああ、彼女、再来週に出張でローマへ来るそうなんだ。
 君も食事に一緒にどうかって言ってたよ」

「私は・・・・・・」

彼への返事が言葉にならない。


彼は私ことをとても大切にしてくれている。
彼にとっては私が何にも代え難いものだ。それはマリオ・ボッシから聞いた話でも分かる。

彼にとって私は「大切な娘」・・・ってのは、ヒルシャーさんに失礼かナ、
私は「大切な妹」なのだろう。
だから検事さんとのことも、特に私に隠すでもない。

けれども私にとって彼は「兄」ではない。
私にとっては・・・・・・。


でも義体の私に何が出来るわけでもない。
私は彼の足かせになっているだけだ。その事実は彼が何と言ってくれようと変わらない。
彼に安らぐことが出来る場所が出来たことは、私にとっても嬉しいこと。

そう思ってるはずなのに・・・。
はずなのに・・・。


・・・心の奥底で何か嫌な感じのものが蠢き始めているのを私は感じてしまった。
底の見えない真っ暗な深い淵を覗いた気がした・・・。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
<二週間後>


私はにっこり微笑む。

「こんばんは、グエルフィ検事」

違う、お願い、誰か私を止めて。

「トリエラさん、こんばんは。あら?、ヴィクトルは?」

(・・・・・・)
この人はなぜだか分からないけど私にも大切に思える人。
こんなことはしてはいけない、したくない。
逃げて、検事さん!

そんな私の心を、あっという間に漆黒の闇、もう一つの私の心が覆い尽くしていく。

「えっ!?」
何を見たのか咄嗟に分からないような表情が彼女の顔に浮かび、小さな声を上げる。。

バシュッ、バシュッ


後ろも振り返らず、私はその場を駆け出す。必死に走る。
走りながら、涙が瞳からこぼれ落ち頬を伝う。

私は一体何をしているんだ、何てことをしてしまったんだ。
取り返しのつかないことを・・・。


彼の元にたどり着いた。微笑む彼。

「どこへ行ってたんだ、トリエラ。走ったのか?」

罪悪感にさいなまれているはずなのに私も微笑みを浮かべてしまう。
本当の私の心は違うはずなのに。

・・・違う?、本当にそう?

「いえ、ヒルシャーさん、何でもないです。すみません」

まだ何も知らない彼。
彼は私の彼への想いも気づいていないのだろうか?・・・


待ち合わせの場所へ向かう私たち。
しばらく待つものの、彼女は現れない。当然だ。

電話をしてみる彼。しかし繋がらない。
心配になりあたりを探し始める彼。私もそれに続く。

そして・・・、ついに、警察や救急車が集まり、
亡骸となった彼女が運び出されようとしている現場にたどり着いた。

彼の表情が固まる。しかし公社の一員という立場上、進み出るわけにも行かない。
彼が、悲しみと憎しみが入り交じった表情に変わっていくのを見上げる私。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ニュースによれば、警察は五共和国派による犯行の線で捜査を開始したらしい。
彼もまた復讐に取り憑かれた人間となってしまうのだろうか・・・。

だがやがては真相が明らかになるだろう。たとえそれが公表されることはなくとも。

真実を、私が行ってしまった過ちを知ったとき、彼は私をどうするのか。


私には彼しかいない、彼がすべてだ。

たとえ私が邪悪な心であろうとも、あなたは私だけのものでいて欲しい。
私は地獄に堕ちてもいい。
ヒルシャーさん・・・。


<<FIN>>







トップページ

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

編集にはIDが必要です