波風《なみかぜ》 // トリエラ,ヒルシャー,
 // // //Vignette/,Romance/ 14297Byte / Text// 2005-07-18


波風《なみかぜ》


「失礼するよ、ヒルシャーに挨拶したい」

と、言って、作戦2課のオフィスに1課のフェルミがやって来た。

「ヒルシャーは、私ですが。何か用かな」

「作戦1課のピエトロ・フェルミだ。トリエラに面会したいので、一応筋を通したくてね」

「1課の捜査官が何の用だ?」

「別に、ちょっと世間話がしたくてな。単なるご機嫌伺いさ。以前エルザ事件の捜査のときにお知り合いになったってわけだ」

「その手にもっている花束は何だ」

「これか。彼女に今度会いに来るときは持ってくるよう言われてたんでな」

「そ、そうか」

「これだけじゃないぜ」

と、フェルミは背広のうちポケットから小箱を取り出した。

「ちょっとしたプレゼントもな」

「おいおい、それはちょっと・・・」

「トリエラはクマを集めているとは聞いていたんだが、年頃の女の子がぬいぐるみばっかでもね」

「う・・・」

「クマはいつもあんたがプレゼントしてるそうじゃないか。

彼女だってたまには違うものを貰ったっていいだろ?」

「彼女の管理は私の責任だ。変なものじゃ無いだろうな」

「まぁ、心配するようなものじゃないさ。じゃ一応筋は通したってことで、よろしくな」

颯爽とオフィスを出て行くフェルミ。

フェルミに圧倒されて彼を制することが出来ず、唇をかんでそれを見送るフィルシャー。





 フェルミが建物を出たところで、陰からプリシッラが現れた。

「おい、プリシッラ。あれでいいか?」

「ばっちしね、じゃトリエラと楽しくおしゃべりしてきてね」

「ばか、なに言ってんだ。これはもう返すぞ」





 その日の午後、オフィスで執務するヒルシャーは、内心穏やかではなかった。

(1課のフェルミだと。一体トリエラとどうゆう・・・。

これ見よがしの花束とプレゼントとはね・・・。

いやいや、彼女も一人の人間だ。彼女と僕とはあくまで仕事のパートナーだ。

担当官といえども、彼女のプライベートに立ち入る権限まではない。

うーむ。とはいえ、一応彼女は未成年だ。彼女の監督義務は僕にあるのだが・・・。)

 午後いっぱい悶々としていたヒルシャーだったが、

事情を確かめたくて、ヒルシャーは我慢できなくなった。

面と向かってしゃべるのも、少し気詰まりなので、

ヒルシャーは鳥@蔵の部屋へ電話をかけた。

「ヒルシャーだ、遅くにすまない。トリエラと話したいんだが?」

「トリエラ、あなたへ電話よ。ヒルシャーさんから」

電話に出たクラエスはトリエラに受話器を渡した。

「お電話替わりました、トリエラです」

「ヒルシャーだ、少し聞きたいことがあるんだが」

「はい、何でしょう」



「今日の昼頃に、作戦1課のフェルミという男が君に会いたいといってやってきた。

「そうですか」

「き、君は・・・ごほん(咳払い)、フェルミという男と君はなにか関係があるのか?」

「べつに、単なる知り合いですけど」

「単なる知り合いで、花束を贈るのか?」

「えっ、一体何のことです」

「しらばっくれてもダメだ。」

「しらばっくれてなんかいません!」

「フェルミは、君に会うといって花束持参でオフィスにやってきた。

内ポケットには、プレゼントらしき包みも持ってたぞ」

「まぁ、そうだったんですか。嬉しいことです」

「うれしいって、変な男からみだりに物を貰ったりするんじゃないぞ」

「ちょ、ちょっと。ヒルシャーさん。別にフェルミさんは変な人じゃありません」

「変な男じゃなくってもだ。それに、そんなに嬉しがるのも変だ」

「私だって女の子です。花束貰ったら嬉しいのは当たり前じゃないですか!」

「うう・・・」ここで、言葉に詰まるヒルシャー。

「人からプレゼントを貰うのがそんなにいけないことでしょうか」

「・・・」

「だいたい、私はこれまで、ヒルシャーさんからお花なんて貰ったことありません!

 たまには、ヒルシャーさんだって花束くらいくれたらいいんじゃないでしょうか」

「よーし、分かった。今度君に、花束をプレゼントする。必ずだ。」

「急に理由《わけ》も無く、花束なんて貰ったって・・・。

  どういう理由で私に花束を贈りたいのでしょうか?

 理由も無くプレゼントは受け取れません」

「おいおい。変な意地を張るんじゃないよ、トリエラ」

「意地なんか張っていませんけど」

「特に用が無いのでしたら、もう、私寝ますから、電話を切ります」

「ちょ、ちょっとまて、トリエラ」

拗ねてしまったトリエラは、ガチャン、と、電話を切ってしまった。

「もしもし、もしもし・・・、くそっ」

ヒルシャーは、通話の途切れた受話器を見つめ、思わず悪態をついてしまった。



(「いったい、どういうこと? だいいちフェルミさんになんか会っていないのに・・・。

ふう・・・(た め い き)。

ああ、また、ヒルシャーさんと気まずくなってしまったわ。明日会うのが憂鬱・・・」)



(「いったい、トリエラはどうしたんだ。フェルミなんて奴に優しくされて舞い上がって

いるんじゃないだろうな」)



悶々として眠れないトリエラ&ヒルシャー組であった・・・。そして、夜は更けていく・・・。

 翌日、トリエラ&ヒルシャー組は、公社の外に出かけた。

軍施設での訓練のためだった。

車の助手席に座ったトリエラは、憂鬱そうな顔をしてそっぽを向いている。

そんなトリエラを見てヒルシャーは、昨夜思わず冷静さを失ってしまったことを反省していた。

しばらく車を走らせたとき、ヒルシャーはトリエラに話しかけた。

「うぉっほん、トリエラ。昨夜は済まなかった」

「いえ、ヒルシャーさん。気にしないで下さい」

「いや、反省してるんだ。君のプライベートに立ち入りすぎてはいけなかったと」

「いえ、それが担当官の義務ならやむを得ないことだと思っていますから」

「・・・」

「それより、・・・今日の訓練で成績がよかったら、ご褒美を下さい」

「ごほうび?」

「ええ、私、ヒルシャーさんから花束をもらいたいんです。

 いえ、花束でなくても、一輪の花でもいいんです。

(本当にヒルシャーさんが私にあげたいと思ってくれたのなら)」

「ああ、いいとも。楽しみにしててくれ(トリエラがおねだりするなんて・・・)」



「ところで、ヒルシャーさん」

「うん?なんだ?」

「わたし、たしかに昨日花束をもらったんですけど、

 あれは、プリシッラさんが下さったんです。」

「へっ、プリシッラだって?」

「花束と一緒に、お願いしていたこの汗止めを受け取りました。」

「なんだ、そうだったか・・・。・・・それじゃ、フェルミとは会っていないのか」

「ええ、そうです。フェルミさんとは、

エルザ事件の捜査ということで一度お会いしましたが、

それ以来、一度電話でフラテッロに関して質問があったきりです。

最近では、会ったことありません。」

「そうか・・・。なら、安心した」



「あのー・・・。その、もしかして、ヒルシャーさんは、

フェルミさんに嫉妬してるんですか?」

「な、なにをばかなことを言い出すんだ。」

「だって、昨夜のヒルシャーさんは普通じゃなかったですもん」

「それはだ、僕はあくまで君の担当官としての監督義務があるから・・・」

「あるから?」

「監督義務があるから、君に変な下心を持って近づこうとする輩は排除しなければならない。」

「下心って何のことでしょう?」

「えーとだな、下心とはな、下心だよ」

「きちんと説明して下さい、ヒルシャーさんは私の先生なんですから」

「うーん。つまりだ、君はどちらかと言えば、美人だ。

君を一人の女性と見なして親しくなりたいと思う男もいるだろう。

例えば君と恋人になりたいという意図をもって、君に接近しようと

するようなことを言うんだ・・・。これで分かっただろう」

「分かりましたけど。他の人がそういう行動を取ったら、ヒルシャーさんは

不愉快なんですよね。・・・あの、もしかしてそれって・・・」

「話はこれまでだ、さあ、とりえら。着いたぞ。訓練だ、車を降りるんだ。」

「あ、あの・・・。・・・ふーう。はい、わかりました。」



 軍施設での訓練の間、トリエラは無口だった。

黙々と、スケジュールに従って、トレーニングをこなしていく。

ヒルシャーもいつも通り、トリエラに近寄らずに、遠くから見守っている。

訓練を終えたトリエラとヒルシャー。

ヒルシャーは、町へ向かってメルツェデスワゴンを走らせ、街角の花屋で、車をとめた。

「ヒルシャーさん、ここは・・・?」

「さあ、今日のご褒美だ。好きな花を選んでくれ」

「ありがとうございます、ヒルシャーさん」

「でも、私車の中で待っていますから、ヒルシャーさんが選んで下さい」

「えっ」

「私は、ヒルシャーさんが選んでくれたものが欲しいんです」

「そうか・・・。よし、待っていてくれ」

ヒルシャーは一人で花屋へ入った。

しかし、普段こんなものに縁の無い無粋なヒルシャーは、

何を選んでよいのか分からなかった。

仕方なく、無難なところで、と白いバラを選び、花束にしてもらった。



花束を抱えて車に戻ったヒルシャーに

トリエラは、ちょっぴりほほを染めて

「ありがとうございます、ヒルシャーさん」

と礼を言った。そして、花束を受け取ると、

「わがままを聞いて下さって、すみません。

ヒルシャーさんが選んで贈ってくれる物がいただけて嬉しいです」

「喜んでくれて僕も嬉しいよ。トリエラのためなら、お安い御用だ」

「いままで、トリエラは、そういう風に僕に甘えることが無かったからな。」

「これからは、たまには僕に贈り物をおねだりとかしてくれていいんだ。」

「えっ。」

「そんな風に君に何かしてあげる事が、僕にとっても喜びだ。」

「まあ、ヒルシャーさんったら・・・(ぽっ)」

と、さらに頬を染めるトリエラ・・・。

二人はしばらく見つめ合っていたが、

ふっと、ヒルシャーは視線をずらし前を向いて車のハンドルを握った。

「さあ、帰るぞ」

「待ってください」

と、トリエラは、ハンドルを握るヒルシャーの腕に手をかけた。

「あの、あの、ヒルシャーさんは、私のことをどう思っているんですか?」

「どう思っていっても・・・、もう言っただろう?君は大切なパートナーだ」

「パートナーって仕事の上だけですか?」

「いや・・・、そうともいえなくなってきたと思っている」

(ここで、ヒルシャー&トリエラ二人とも赤面。)

「ヒルシャーさん、私」

そういって、トリエラはヒルシャーの胸に顔を埋めた。

「トリエラ!」

「ほんのちょっとの間でいいんです。こうしていてください」

「あ、ああ」

「私、自分の気持ちがよくわからないんです。」

「ヒルシャーさんにある種の愛情を感じていることが、

条件付けのためなのか本当の自分の気持ちなのかわかりません。

でも、最近、ヒルシャーさんの傍にいることが、一番嬉しいと感じてしまうんです。」

「ああ、僕もだ。君と一緒にいること、それだけで嬉しい」

そういって、ヒルシャーはトリエラの頭をやさしく撫でた。

夕闇が迫っていたが、公社へ戻れない二人だった・・・。

 夜になって、訓練から戻ってきた二人をプリシッラが見つけた。

車から降りてきたトリエラは大きなバラの花束を持っている。

プリシッラは、二人に近寄ると

「まあ、素敵な花束ねぇ。何かあったの?」

と、聞いた。

「えっ・・・、こ、これは・・・」

「これは訓練の成績優秀のご褒美だ」

と、二人はプリシッラの前で頬どころか耳まで真っ赤になっている。

「訓練のご褒美でその花束ですか? うらやましいなぁー」

と、わざとらしく嘯くプリシッラ。

「もう遅いから、部屋に帰ります」

と、トリエラは逃げるようにして去っていった。

「僕も今日の報告をしないといけないので失礼するよ」

と、ヒルシャーも足早にオフィスに向かった。



二人を見送るプリシッラ。

「ふふ、ちょっとした波風があの二人には効いたようね。

まずは、作戦大成功? ワインで祝っちゃおう!

他人の恋愛感情が私のエネルギー源なんだからねー。

さあて、次はどんな作戦立てよっかな!」



今日も一波乱あった社会福祉公社でした。



<了>

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