無題(何よりも嫌い) //トリエラ,ヒルシャー,
  //栢 //Snippet/,General,Serious,hate /4956Byte/Text //2006-06-18


無題(何よりも嫌い)


ヒルシャーさん、と、いつものこちらを伺うような声音で呼ばれる。

返事をするのに間が空いた。

何を考える必要がある?義体と担当官だろう。

確かに私は、彼女との関係を良好に…などと、くだらないことを意識していた。

今思い返せば、実にくだらない。

築きあげなければならない関係は「義体と担当官」であって、

個人同士の親密さではない。



周りを見る。どの義体も素直だ。

己の感情に素直であったり、己の存在意義に素直であったり。

それすらも紛い物かも知れないのに、事実それしかない彼女たちは

義体であることに疑問を持たない。今実在する体と意識が全てなのだ。

担当官の名を呼ぶ度に、複雑な顔をする義体はいない。

「義体と担当官」「義体としての自分」について悩み、顔色を伺う義体などいない。

私の義体だけだろう。



義体には人格や個性は無いなどと、馬鹿げた事を言うつもりはない。

だが、些か参っている。私と彼女はどこから間違ったのだろう。

今では、その責めるような、困ったような、戸惑うような…。

視線を向けられただけで、心がスッと冷めるのが自分でも分かる。

会話が面倒な方向へ向かうと、わざと相手を苛立たせ、

切り上げてしまう自分がいる。

情熱はあったのだ。担当官として、義体を指導した。

一人の人格と向き合い、自分も戸惑い、悩み、

ついには担当官であることに疑問を持ってしまった。

今も、私の在り方は間違っているのかも知れない。

その不安定な空気を察して立ち回ろうとする彼女の存在も、私を追い詰める。



ヒルシャーさん、と、今日も私の義体はその揺れる眼差しで私を見つめる。

彼女が悪いわけではない。

最初に、間違えたのだ。間違いを正せないから、どんどん拗れていったのだ。





「なんだい、トリエラ」

以前よりも、さらに作り物めいた顔で私は微笑む。

そして、それに気付いた彼女は少し俯きながら用件を述べる。

私たちの仕事は、表面上上手くいっている。私たちが上手くいかないだけだ。





君を、嫌いになりそうだよ、トリエラ。

そして、そんな自分が何よりも嫌いだ。







終わり

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