COSCA 第一章 強奪者 // オリジナルキャラクタ //オリジナル設定 
    // HamDemon著(USA) // 訳143 //
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COSCA 第一章 強奪者


 わたしは天に昇るための名前を付けられた。月、太陽、星、そのすべてを冠する名前を。
 液体のように肌の上を滑る白いシルクの夜着姿のまま、10の歳を数える小柄な少女は、己の名前と存在意義について熟考を重ねていた。アネモネ、アスター、グラディオラスなどの花々に囲まれた彼女の、腰まで届く豊かな金髪は、月光の反射で銀色に輝いていた。紺碧の瞳はさながら、星々からの点灯を受けて燃える蒼い炎だ。透き通る肌は暗闇を青白く照らし、か細いが引き締まった身体の輪郭を空間に浮かび上がらせていた――でも、一体どこの悪魔が、自分の娘に天国に行くための名前をつけるっていうの?

「セレスティーナ」 柔らかな声が、歌うように少女の名前を呼んだ。「こんな夜中に外で立っていたら、お父様がお怒りになるわ。いくらお母様のお庭でもよ」

 水晶のように澄んでよく通るその声の主は、何もかもが――着ているものに至るまで――セレスティーナと瓜二つだった。見分けをつけるには、セレスティーナのうなじにあるほくろを探すしかない。よくよく注視して比べれば、二人の性格の違いが多少なりとも外見上に見て取れるのだが――大人しく控えめなセレスティーナに比べて、二番目の少女の仕草は傲慢そのものだ。それは投げ出すように横に突き出した腰に、そこに呆れたように当てられた手に、ふんぞり返るようにまっすぐ上げられた頭にも現れている。彼女のつんと尖った、妖精にも似た顔立ちは悪戯な屈折に満ち、その目はまるで、彼女の美貌に釘付けになるすべての人間への侮蔑が込められているかのように、絶えず僅かに細められているのだった。

「カテリーナ……」 セレスティーナがぼんやりと呟いた。

 カテリーナは双子の姉に向かって手を差し出し、宥めるように言った。「ほら、早くベッドに戻りましょ」

 セレスティーナは妹の手を取り、花を踏まないようにそっと花壇を歩き抜けた。月明かりの中庭を後にし、豪奢な邸宅へ戻る――天高くそびえる梁と支柱と控え壁に彩られた、暗くて嫌な予感を禁じ得ない、壮麗な屋敷へ。玄関の扉は巨大すぎて、特にこんな静かな夜には、内側に踏み込むたびに投獄されたような気分になる。双子の少女たちは、この感覚を、自分たちに実際に起きている現実だと受け止めていた。

 二人は凝った装飾の施された、人工的な明かりのない廊下を歩き進んだ。月光が窓から差込み、おそろしげな長い影を屋内に落としかけていた。彼女たちの足音が壁にぶつかり、虚ろにこだました――二人で一つの、完璧なユニゾンの足音。手に手を取り、お互いの横に並んで歩く。ふいに、セレスティーナが消え入りそうな声で呟いた。「カテリーナ……」

「なに?」 妹が答えた。

「わたしたちが大人になったら…… お父様の後を継ぐのかしら」

「きっとそうなるでしょうね。でもねセレスティーナ、まだまだ先の話よ。結局のところ、お父様はコスカ・ファミリーをご自分で仕切りたいのだもの」

 セレスティーナは何もはっきりと答えず、おぼつかない呟きを訝しげに発し続けている。 

 姉の不安を感じ取り、カテリーナは続けた。「加えて、お父様はまだそこまでの御歳じゃないし、リノみたいな人たちに守られてもいるのだしね。わたしたちがコスカ・ファミリーの仕事に関わる日は当分の間来ないわよ」

「わたし、リノを信用してないの」 セレスティーナは静かに言い放った。「それに、ファミリーの一員になるまでの日がどれくらいあるかを心配しているわけではないの。一員になる日が来て欲しくないのよ。マフィアになるなんてそんなの、自分の子供に歩ませたくない人生だわ」

 カテリーナが姉の手をぎゅっと握り締め、安心させるように言った。「分かってるわよセレスティーナ、分かってる。でもそれってどうにもならないことじゃない? わたしたちはコスカの実権を握って、お父様の罪悪を繰り返すために生まれたのだもの。でもそんな遠い将来のことなんて、わたしにはちっとも気にならないけどな」

 双子は、ドアの隙間から光が漏れる部屋の前まで来ていた。他の物すべてが暗闇に包まれている屋敷の中ではまるで、その部屋の中にだけ陽光が差しているかのようだ。二人は握り合っていた手を離し、カテリーナが重く大きな樫材のドアを開けた。そして得意のちょっと気取ったお辞儀をし、姉に先に入るように合図した。

 部屋の中は蝋燭の明かりだけで照らされていた。この屋敷の中で蛍光灯が設置されているのは、浴室と図書室と娯楽室だけなのだ。数人の男が中央のデスクを囲んで立っており、その向こうには、初老に差し掛かった頑健そうな男が座っている。デスク周りの男の一人が怒鳴り声を上げるのを聞き、少女たちは歩みを止めた。

「俺たちの縄張りが荒らされんのを黙って見てろってのか! 相手はただのチンケなネズミの集まりじゃねえか!」
 叫んだのはリノだ。怪物じみた大柄で、猛々しく、高価な絹地の黒スーツに硬く筋肉の盛り上がった手足を包んでいる。短い黒髪をぴったりと後ろになでつけ、ネアンデルタール人にも似た刺々しい表情を怒りに歪ませている。

 デスクに座る初老の男の顔に疲労が滲んだ。「リノ、同業だからといって、なにも縄張りを通り過ぎただけの無法者を始末する必要もないだろう。もっと重要な案件が山ほどある――例えば、おまえには我々の新しい”羊飼い”に関する調査を任せたはずだが、報告はどうした? それだけじゃないぞ。我々はその”チンケなネズミの集まり”どもの牙が意外に鋭いことを認識せざるを得ない。甘く見るな」

「それってのは」 リノが声を低めた。「あんたに、奴らの侵入を取り締まる力がねえってだけのことじゃねえのか」

「取り締まるだって?」 デスクの男が懐疑的に言った。「可能だとは言えん。ファミリーを総動員して、警察みたいに通りを歩き回らない限りはな」

「甘く見てんのはあんたの方だ。奴らはそのうち、本物の集団になって襲い掛かってくる。用心に越したことはねえ」

「これもビジネスのうちだ。保護された取引なんだ。リノ、今必要なのは――」

「その”保護された取引”とやらが今、破り捨てられようとしてんだよ! ピオ、もし俺たちがその取引とやらを保護する力がないと分かれば、奴らはみかじめさえ払わなくなる、そう言ってんだ!」

 ピオ――デスクの男は、深々と嘆息して手を払った。「今日はこれで十分だ、リノ。もう遅い、帰って休め」

 リノの表情が凍りつく。「おい、俺を無視すんじゃねえ――」

「十分だと言ったはずだ」 ピオは厳格に要点を繰り返し、有無を言わせない視線で男たちを睨み付けた。

 リノは歯を軋ませ、残りの男たちを引き連れて、扉に向かってずかずかと歩き出した。そして、セレスティーナとカテリーナに横に退く余裕も与えず、二人を掻き分けるようにして部屋から出て行った。

「お父様」 カテリーナは心配して声をかけた。「リノは何をあんなに怒っているの?」

 ピオの疲労の色が幾分か増した。「何でもないよダーリン、彼は最近働き詰めだったからな。それだけだ」

 双子はデスクの両側から回り込み、同時に父の頬にキスし、そして同時に「おやすみなさい、パパ」と挨拶した。

 ピオは立ち上がり、娘たちの頭を撫でながら、二人をドアの外に導いた。歩きながらセレスティーナが呟いた。「パパ、わたし、リノが怖いわ」

「訳の分からないことを言うものじゃないよ、私の宝物」 ピオは娘の髪を弄びながら言った。「リノは我々の友人だ。もっと彼を信用しなさい」

「でも、彼は最近癇癪を起こしすぎよ」 カテリーナが助け舟を出した。

「それに、彼が誰にも聞こえないようにぶつぶつ言ってることがすごく怖いの」 セレスティーナが便乗した。

 ピオの声音が険しくなった。「いいかおまえたち、リノはここに何年もいる。我々を守り、助けてくれている。彼の働きがなければ、私はここまでコスカ・ファミリーを大きくすることはできなかっただろう。だから彼を右腕にしたんだよ」

「彼は忠実なの、パパ?」 セレスティーナが尋ねた。

「またおかしな質問だな」 ピオは娘たちに微笑んだ。「もちろんだとも。今は少しストレスが溜まっていて、解消が必要なだけなんだ。ほら、もう心配するのはやめて早く寝なさい」

 父が与えようとしている安心にも関わらず、セレスティーナの胸からざわめきが消えることはなかった。それはカテリーナも同様だった――そうよ、リノだって、リノの部下たちだって、お父様に忠実に決まってる。そのはずよ……







 妙な物音に気付き、二人は同時に目を覚ました。何度も繰り返されるドン!という音が微かに聞こえる。分厚い壁とドアに阻まれて聞き取りにくいが、少女たちはその物音を感じ取ろうとして、眠気を押し殺してじっと固まった――突然中断された夢の中の音を、いまだ耳の内側で引きずっているのかどうかも分からないままに。そのうちついに、物音ははっきりとしつこくなってきた。誰かが彼女たちの寝室のドアをノックしているのだ。

 二人は立ち上がり、眠気でよろよろしながら、真っ暗な部屋の中を歩いてドアまでたどり着いた。セレスティーナが鍵を外すと同時にノック音は止まり、支離滅裂な囁き声に取って変わった。胸騒ぎに駆られ、双子は襲い来る不安に躊躇った――しかしとにかく、ドアを開けてみなくては。

 即座に、前触れなく伸びてきた力強い手に掴まれ、二人は廊下へと引きずり出された。華麗な装飾が目を楽しませるはずの、慣れ親しんだ場所だったはずのそこは、いきなり悪夢の舞台へと姿を変えた。

 捕獲者は二人を階下まで引きずり下ろした――無明の闇が鎮座する廊下から、明るく照らされた大広間へ。そこで少女たちは固い石床に投げ出され、雁字搦めに縛り上げられた。お互いの顔しか見えない。並べて寝かされ、身動き一つ取れない――首さえ自由に回せない姿勢で固定されている。双子の耳に、父の叫び声だけがはっきりと届いた。何を言っているのかすべてを理解することはできなかったが、「離せ」「娘たちを」「人殺し」といった語彙と、多岐にわたる罵詈雑言は聞き取ることができた。どうやら父も拘束されているようだ。彼が抵抗する音が聞こえる。そのたびに人を殴りつける音が聞こえる――なにか金属のものが、肉体を強く殴打する音が聞こえる。

 聞き覚えのある声。威嚇的な嘆息。二人のすぐ近くにいる――リノだ。
「なあ、俺はもう疲れちまったんだ」 セレスティーナが日頃から怖がっていた、ピオの背後で陰謀を企てているときの声音だ。「あんたを説き伏せんのにはな。じいさんよ」
 リノの歩みの音が行ったり来たりする。明らかに父の目の前でうろうろしている。父は痛みに喘ぎ、息切れを起こしていて、すっかり静かになっている。
 リノは続けた。「あんたがファミリーを守りたくないってんなら、コスカは俺のものだ」

「リノ」 ピオが必死に声を絞り出した。「薄汚い裏切り野郎め。おまえが私に何をしようと最早構わん。だが頼む――娘たちだけは離せ」

 リノは残酷に笑った。「ガキどもも計画の一部なんだよ。くそ長え間地味な仕事ばっか押し付けやがって、今そのツケを払わせてやる。おまえの女房は既に殺ったからな、今度はこいつらだ。目の前で料理してやるぜ」

 セレスティーナとカテリーナは、思わず息を呑んだ。父が泣いていた。リノが軽蔑的な野次を飛ばした。「女房が枕の下の銃を抜いたりなんかしなきゃよかったのにな、神父さん。あんたがよく言って聞かせとくべきだったんだ」

 双子に近づく足音がする。「さあ」 悪戯を滲ませたリノの声がする。「どっちにする?」 ホルスターから拳銃を抜く音がする。スライドを引く音がする。伸ばした腕が空気を揺らす音が、セレスティーナとカテリーナの間を行き来する。

「え、選ぶもんか! 選べるもんか! やめろ!」 泣き叫ぶピオの哀れな声。
 
「どっちにするかって聞いてんだよ、じいさん。さもなきゃ、二人とも殺される以上の苦しみを味わうことになるぜ」 リノの部下の男たちの笑い声。ピオの啜り泣き。

『パパ!』 震えから絞り出すように、二人は同時に叫んだ。恐怖で涙が溢れた。

「急ぎな。何秒も待てねえ」 リノが嘲った。
 
 ピオは頭を振り、考えようとした――そんな時間がないことは分かっていた。彼は、選んだ。思考をすべて止めて。
「カテリーナ」 彼は叫んだ。頭の中までずたぼろだった。「何よりもおまえを愛してる――」

 別れの言葉は銃声に遮られた。セレスティーナの息が止まった。目の当たりにしたのだ――妹の目が虚ろになり、人形の美しい顔に二粒の大理石が嵌め込まれたように、彼女が白目を剥くのを。体中の力が抜けた。カテリーナの口の端から一筋の血が零れた。言葉も、涙も出なかった。ただ、魂の半分がもぎ取られた感覚だけが残った――精神が闇に侵食され、何も感じられなくなった。

 ピオは、最後の力を振り絞る手負いの獣のように、戒めを破ろうと猛烈に抵抗した。彼は力の限り暴れたが、その元雇用主の哀れな姿は、リノのふざけた嘲笑を引き出しただけだった。

「やめて欲しいか?」 リノが含みを込めて笑った。

「やめてくれ」 ピオの悲痛な叫びは、もうほとんど言葉になっていなかった。

「終わりにして欲しいか?」

「そうだ、頼む、もう…… もう……」

「それじゃ神父さん、あんただけな」

 セレスティーナは銃声を聞いたが、何も感じなかった。既に彼女は暗闇の底にいるのだ。これで静かになる。眠りにつける――




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