COSCA 第三章 就職面接 // トリエラ、ジャン、オリジナルキャラクタ
    // HamDemon著(USA) // 訳143 // オリジナル設定 
    // http://www.fanfiction.net/s/5163477/3/Cosca




COSCA 第三章 就職面接


 白一辺倒の清潔な廊下にさりげなく寄りかかり、真剣な面持ちでジャンは待っていた。ドアの向こうでは、ビアンキ医師がトリエラに対し、永劫に続くかのような緻密な心理学検査を行っている。

 食堂へ向かう途中の彼女を呼び止め、おまえだけにしか話せない極秘事項があるのだと声を潜めて告げた時、案の定トリエラは怪しんでいたが、それでもジャンに従ってビアンキのオフィスまでついてきた。道中、ジャンは頑なに、彼女の質問について一切の回答を拒んだ――ここで言えないようなことなら私はもう朝食に行きたいのですがと脅迫された時でさえ。

「強情なやつだ、それは認めてやる」 思い出して腹が立ってきたので、ジャンは静かに一人ごちた。廊下にはまったく人の気配がなく、誰かに聞かれる心配はない。「あれだけ頑固なら実際、やり通せるかもな」

 一時間ほど待たされた後、ついにドアが開いてビアンキが出てきた。以前に比べてやや恰幅がよくなったが、依然として穏やかで温和な雰囲気を纏っている。

「どう思う?」 ジャンは静かに、声を低めて尋ねた。

 医師が答えた。「残りの寿命についての懸念はあるが、トリエラはまだまだ精神的に強靭だよ。確かにアンジェリカのような健忘症の兆候は多少ある、でも彼女の場合は遥かに軽度だ。肝心だったことや重要な情報の記憶は保っているし、以前戦った相手のことも思い出せる」

「そうか」 不安が緩和された。「使えるようだな。すぐに取り掛かれそうか?」

 ビアンキが頷いた。注意深く。「トリエラが年のわりに驚くほど成熟してるのは周知の事実だが、担当官としての訓練を受けてるわけでもなければ、そんな条件付けもされてない。ただ自分の担当官に従うだけのことしかしてきていないわけだし、その点については心配だね」

「彼女は他の義体の面倒をよく見ている」

「助けの必要な友達に個人的な世話を焼くのと、他の義体を現場に出れるように鍛え上げるのとじゃ、まるで違うだろ。ジャンよ、おまえには父と、兄と、教官であることを同時にこなす難しさなんて説明する必要ないよな?」

「担当官にはそれぞれ違ったやり方がある」 ジャンは焦れて、ビアンキに無言の圧力をかけようと、より厳格な声音で言い放った。ドアノブを握って付け加える。「もしトリエラが結果を出せば、後任の専属担当官が訓練におけるヘッドスタートを切れる。もし彼女が失敗すれば…… その時は、そのことを後任に伝えて、最初から訓練し直すまでだ」

 ジャンはドアを開け、ビアンキのオフィスに頭を突っ込んだ。中では、トリエラがマジックミラーに向かって自分の歯をチェックしていた。背後のドアが開けられたことに気付いたとき、出し抜けに彼女は飛び上がって振り返り、さらにジャンの姿を見てまっすぐに硬直した。

「トリエラ」 ジャンが命じた。「ついて来い」

 技術部の診療所に向かって消えていく二人の背中を見送りながら、ビアンキは頭を振った。一体これから、我らが公社のプリンシペッサはどうなるのやらと訝りながら…… 






「セレスティーナとカテリーナ・アルヴィーゼ、アマチュアマフィアの頭領だったピオ・アルヴィーゼの娘たちだ」 公社内のどこに行ってもあるような変わり映えしない廊下を大股で歩きながら、ジャンはトリエラに要点をまとめて聞かせた。「ファミリーの生業は主に人身売買、麻薬の取引、強請りなど。双子はテルニにある屋敷で生まれ育ち、噂によれば自宅から外へ一歩も出たことがない。家族は全員、一晩で皆殺しにされている。現場に死体がなかったのと、外敵侵入の痕跡がなかったことから、犯人は父ピオの右腕だったリノ・バルダザーレという男だと考えられている」

 トリエラはジャンの歩調に合わせるのに必死だった。「公社が双子の義体ですか? それが私に何の関係があるんです?」 

「許せ」 ジャンが珍しく謝った――無感情に。「こうするのは仕方がなかった。事件は先週だ。アルヴィーゼ家から被害者が運び出されたのは、犯行時刻から一時間以内。瀕死だった双子はここへ運ばれて義体化され助かったが、ここで担当官候補が素体を選んでから義体化するという普段のプロセスとは逆のことが起こった。二人が素体として完璧な条件を揃えていたためだ。家族もなく、友人もなく、外界との接触もない」

「そのバルダザーレという男がいるのでは?」 トリエラが小走りで追いついてきた。

「そいつはいわゆる雑魚だ」と、ジャンは冷淡に答え、「話を戻すぞ。公社は三日前、二人の担当官候補に目星をつけた。面接を経て採用通知を出したのが昨日のことだ。そいつらが昨夜、飲酒運転で事故を起こして死んだ。二人ともだ」

 唐突にトリエラが歩みを止め、ジャンの背後に取り残された。そのため、ジャンも歩くのをやめて振り返らなければならなくなった。
「それで……」 彼女が尋ねる。答えを聞くのが怖かったけれども。「私に、何をしろと仰るんですか?」

「双子の担当官だ。専属が見つかるまでの間だがな。マルコーが既に候補として挙がっているが、今は休暇でいない」

「ジャンさん、あの――」 トリエラが抗議した。公社が彼女をそんな役目に見出したことが信じられず、思考が停止していた。「担当官なんて、私には向いていません。私は兄というより姉ですから」

「トリエラ」 ジャンは論破を試みた。「これをやれるのはおまえだけだ。課長と俺とで他の可能性を探したが、結局おまえにやらせるのが最良の選択だということで合意したんだ」

 トリエラは数瞬考えた。クラエスと哲学的思考に磨きをかけ合うのは問題ない。ヘンリエッタと恋愛話で盛り上がるのだって何の問題もない。しかし、誰かの正式な保護者に――担当官に――なるだなんて、あまりにも手強すぎるコンセプトだ。それでも、と、彼女は自分に言い聞かせた。見捨ててはおけないじゃない。その双子のためになるならやってみよう。
「私がしなければいけないことは何ですか?」 言外に了承の意を含ませ、彼女は尋ねた。

 いつもの無表情の裏に安心を隠し、ジャンが答える。「担当官として、すべての責任を負うことだ。もちろん条件付けすること以外のな。双子の条件付けで済んでいるのは、職務に関するところまでだ。そんな状態だがおまえには、訓練の指導、武器の選択、評価と監査、それと任務結果の報告をしてもらう」

「に、任務結果の報告ですって?」 己の耳を疑い、思わずトリエラは叫んだ。「正規の担当官が来て私の手を離れるまで、お目付け役をすればいいだけじゃないんですか!?」

 ジャンの答えに温度はない。「独特のフラテッロになるだろうな。双子を一緒にしておけば、他の義体にない能力を発揮するかもしれん。役に立つならもちろん、有効に使え」

「ですが…… ですが……」 感情のまま畳み掛けそうになったが、敢えて深呼吸し、破裂寸前の風船の空気をしぼませるのに似た感覚で、トリエラは言葉を切った。そのまま二人で、診療所に向けて再び歩き出す――目的地が近いため、今度はゆっくりと。
 考えていた――課せられた義務について、ジャンと口論しても無駄なのだということを。だから彼女は気を取り直し、別の問題を追及することにした。「彼女たちの条件付けについて、さっき何て仰いました?」

「二期生のほとんどは、担当官の手に渡る前に既に、職務に関する情報、担当官についての情報、そして使用武器に関する情報が脳に植えつけられている。しかし二人の担当官候補は死んで、だからこそ武器の選択もまだだ。二人は職務に関する情報のみ条件付けされている」

「というと彼女たちは、本当の担当官にそうするみたいに、素直に私に従ってはくれないってことですか?」

「その通りだろうな。しかしトリエラ、これだけは言っておくぞ。条件付けに頼らなくても、有能な担当官は忠誠心と服従心の両方を義体から引き出せる。忠誠心は単純に、担当官と義体がお互いを理解することで得られるものだ。訓練以外の時間を一緒に過ごせばそれだけ、双子はおまえに対して忠実になるだろう。難しいのは服従心の方で、こればかりは畏怖か愛情でしか得られない。畏怖はシンプルで手っ取り早いが、義体に疎外感と混乱を与える。愛情はなかなか手が届かないだろうが、強い絆を生む。義体とどう接するかは、すべておまえに任せる」

 ジャンのフラテッロ関係力学における見識の高さに感銘を受け、アドバイスをありがたくは思ったものの、トリエラはむしろその概念に絶望を覚え、静かに告白した。「私たちは重大なミスを犯しかけていると思います。私は彼女たちの抱える個人的な問題について相談に乗ることはできますが、でも殺し方を教えるのはできる範疇を超えています。今となってはもう自然に体が動くことなので、私自身さえ、どうやって殺しているか分からないんです。どんな風に教えてもらったかも忘れてしまいました――覚えているのは、何を教えられたかと、どうしてそんなことを教えられたのかと、その知識の使い方を教えられたこと、それだけです」

 二人は歩みを止めた。知らずのうちに、もう双子の義体の待つ病室の前に来ていた。中から物音も聞こえなければ、ドアの外から人の気配を感じ取ることもできない。ジャンは自分が部屋に入ることをせず、トリエラにここだと教えた。何より先に、張詰めた彼女の神経をほぐしてやるのが先だと感じていた。
「おまえならできるさ」 じゃんの言葉は、彼の口から出たにしては驚くほどの慰めに満ちていた。「担当官は皆、最初は怯える。今までの来歴なんて関係なく、誰にも馴染みがないし、得体の知れない仕事だからな」

「ありがとうございます、ジャンさん」 トリエラが呟いた。少しだけ安心させてもらえた気がしたが、ジャンは彼女の不安を緩和するために嘘をついたのかもしれない。そんなの、どっちだっていいか――誰が何を言おうが、どうせ自分は怯えるのだから。もう一つだけ、質問しよう。「担当官にとって、一番難しいことは何ですか?」

 ジャンは一瞬考え込み、ゆっくりと明確に答えた。「二つある。一つ目は分かりやすく、別れだ。妹を失うようなものだからな。二つ目は予想外だろうが、最初の対面だ」 彼は言いながらドアを開け、言い終わると同時に、トリエラを部屋の中に押し込んだ。彼女の背後で無慈悲にも、ドアがばたりと閉められた。

「ちょ…… 待ってください!」 叫びながらドアの方を振り返ったが、もちろん遅すぎた。だから、トリエラはとうとう未知との遭遇に向き合う決意をし、周囲を素早く観察した。
 ブラインドがぴったり閉じられ、明かりがほとんど入ってこないせいで、部屋中が恐ろしげで不気味な空気に浸されていた。普通の病室にあるような最低限の家具さえないため、余計殺風景だった。中央には、左右の壁にくっつけられた形で、二つのベッドが鎮座している。ベッドの上に、半身を起こした姿勢の二つの人影がある。二対の虚ろな紺碧の瞳が、悪夢に成り代わりそうな視線をトリエラに投げかけている。入った瞬間から、彼女はじっと見つめられている――

「こ、こんにちは……」 トリエラは緊張して口ごもった。もしこの落ち着かない雰囲気と凍てついた碧い視線の洗礼さえなかったら、彼女は普段どおり、もっと温かく挨拶できていただろう。しかしながら、何かが違っていた――とりわけ、目の前の二人の少女たちは。トリエラの知る他の仲間たちとこの双子は、何かが決定的に違う――

「私は…… トリエラね」 彼女は無理に言葉を繋いだが、返事も反応もなかった。「しばらく二人の世話をすることになったから。よろしく」
 突然、虚ろな紺碧の睥睨が変化を見せた。僅かに、だが確かに双子が目が細め、さらにしかめ面がきつくなったのだ。間違いなく、トリエラは二人に威嚇されていた。

 それに気付いた時、彼女は思わず尻込みしていた。こ、怖っ……




COSCA 第四章 豹変




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