(読み方:ばんりょくやわがぬかにあるてつごうし)

多佳子は8年前に亡くなった杉田久女を大宰府に偲びます。
大宰府を訪ねた多佳子は己の死を感じているのでしょうか。
この句を詠んだのは多佳子55歳の夏、青葉の萌える時期。
57歳で亡くなった久女に並ぶのに多佳子はあと2年です。
もはや、死は他人ごとでなくて、己の切実な現実なのです。

久女を思い出す度、人の死を深く考えてしまうのでしょう。
自然は見わたすかぎり草木の緑・緑・緑に覆われています。
小鳥や小動物や昆虫たちは子孫作りに忙しく勤しんでいる。
多佳子の生理は止って、性の悩みも漸く癒えた頃でしょう。
役割を終えた冬の草木のように今は朽ちるのを待つだけか。

一般世間の裕福な主婦であれば、余暇活動を楽しむのかも。
生きている限りは遊ばなければ損だと思い勝ちなものです。
多佳子も自分の子作りを終え、生活に憂いなく過している。
多佳子の場合も人並みに「死」を考えたに違いないと思う。
だけどその後で多佳子は「生」を得るために行動を起した。

手さぐりの多佳子は毎日をのた打ち回りながら走り続ける。
作句は、いつでも多佳子に青春の血潮を蘇えらせてくれた。
大宰府の地を踏んだ多佳子を眼前の緑が迎えてくれている。
虚子が多佳子をモデルに詠んだ落椿から早や32年が経過。
しかし自然はあの当時のままに、青々と大地を包んでいる。

心の鉄格子

嗚!
今、大地は万緑に覆われている。
多佳子の青春が始まったのも今の季節だった。
いつだって鉄格子の中で暮していたけれど、
鉄格子は己が手で開けて出られると知った。
最初の鉄格子を開けたのは櫓山荘。
そこでは久女に手伝って貰った。
次に「ホトトギス」の鉄格子を誓子と開けた。
疎開先の「奈良俳句会」で堅い鉄格子が破れたし、
多佳子はこうして鉄格子をいくつも破って自由になった。
そうして今、あなた!
久女さんに話し掛けているの!
今からでも遅くないわよ!
誰だって自由になって好いの!
あなたが自由になれた時に、
私の最後の鉄格子が開くのだわ!

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