「メイドくん、メイドくん!」
「なんでしょうかご主人様」
「突然だが、金の力で困っている女の子を助けたくてしかたない」
「そうですか。それは大変素晴らしいことと思います」
「しかし金に困っている助けたいと思わせる女の子を知らんのだ」
「……左様でございますか。先に心当たりがおありなのではないのですね」
「ああ。しかし助けたい。なるべく早く。自分の目で見つけ手を差し伸べたい」
「下調べをさせて候補者のリストを作らせますか?」
「うむ……。いやしかし、それではこう、運命的なものがなくて味気がないな」
「運命、ですか」
「ああ。こう、まるで前世の恋人が出逢った瞬間お互いに惹かれるような」
「……」
「いや、さすがに我侭だな。ここはむしろ発想を転換し、作為的な介入を楽しむべきかもしれん」
「と、おっしゃいますと?」
「ふむ。例えばこうだ。まず少女を見初める」
「はい」
「そして少女が裕福な場合は金に困らせる」
「えっ」
「そこを金の力で助ける。と、こういうわけだ」
「ん? どうしたメイドくん」
「まさか、まさかご主人様は私の時も……」
「!? 馬鹿な! そんなはずがあるわけないだろう!」
「ですがあの時、ご主人様はまるで計ったようなタイミングで」
「いや、あれこそが言うなれば運命的なものであってだな」
「……あのようなことをおっしゃるご主人様は信用できません」
「ああ、気の迷いだった、許してくれ。退屈なあまり些か精神が堕落したようだ」
「本当に、反省していますか?」
「勿論だ」
「私を助けてくださったのは、作為によるものではないですか?」
「ああ。当然だとも。神に誓う」
「私を助けてくださった時、運命を感じてくださいましたか?」
「ああ、ああ、感じたとも。だからこそこうして道を外れてまで再現を求めて……む」
「安心致しました、ご主人様」
「……メイドくん。キミは些か主人をだな……」
「幸運に恵まれすぎた者は、時として不安になるのです」
「……やれやれ。私は気分を害したぞ。紅茶のひとつも淹れて貰おうか」
「かしこまりました」
「それはそれとしてリストは一応作って貰おう。既に困窮している者限定でな」
「かしこまりました。新たに幸運に恵まれる者があると嬉しいです」
「助けるとは限らんぞ。所詮は刹那の道楽なんだからな」
「ご随意に」
「本当だぞ? そもそも選別している時点で純粋な善意じゃないんだ」
「ええ。知っています。手をお付けになって、自分のモノになさるのでしょう?」
「む、必ずとは限らんが、まあ概ねは全くもってその通り。……なのになぜ笑う」
「私はご主人様のモノになれて幸せですので」
「…………っ、ええい、紅茶の紅茶は甘すぎるな。ストレートに淹れかえてくれ」
「かしこまりました」
おわり。人助けって難しいよね。