今の不況は「100年に1度」ではない
2009年05月21日(木)19時46分


Bookmark本の1〜3月期の実質GDP(国内総生産)成長率が年率マイナス15.2%となり、戦後最悪の記録を更新した。こうした事態を「100年に1度の大不況」と呼ぶことが多いが、本当に現状はそれほど悪いのだろうか。

 この言葉は、昨年10月にアラン・グリーンスパン元FRB(米連邦準備制度理事会)議長が、議会で「100年に1度の信用の津波に襲われている」と証言したことが発端だ。彼が比べたのは1930年代の大恐慌だから、100年というのは正確ではなく「70年ぶり」というべきだった。しかし今週の本誌でファリード・ザカリア氏も指摘しているように、これも誇張である。

 大恐慌では、アメリカの名目GDPは半分になり、失業率は25%に達した。その最大の原因は、FRBが不況の最中に金融を引き締め、銀行が連鎖的に倒産したことだと考えられている。こうした失敗を反省して、戦後は金の保有高に制約されずに中央銀行が通貨を供給できる管理通貨制度になった。今回の危機でも、各国の中央銀行は最大限に通貨を供給しており、金利はゼロに近づいている。中央銀行が危機を増幅した30年代とはまったく違うのだ。

 特に日本の場合はアメリカのような金融危機ではないので、問題はそれほど深刻ではない。輸出が大幅に減ったことは確かだが、これは基本的には単純な売り上げの減少であり、人員や設備の削減で対応できる。このような実体経済の調整は、日本企業は得意だ。70年代の石油危機のときもGDPが年率マイナス13.1%になったが、日本は世界経済に先んじて回復し、80年代には高い成長率を実現した。

 90年代に日本経済が泥沼に陥ったのは、バブルの崩壊によって金融システムが大きな打撃を受け、その損失の処理を先送りしたことが原因だ。この点でもアメリカ政府は日本の教訓を学び、迅速に処理を進めているので、大恐慌のような長期にわたる世界的な不況になることは考えられない。「100年に1度」という言葉は「非常事態だから何でもありだ」という思考停止をまねき、非常識な政策を正当化しやすい。もうそろそろ冷静になり、中長期の「成長力」を高める政策を考えてはどうだろうか。
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