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有隣会:社福法人が「身売り」 不動産業者に2.8億円、法の想定外−−兵庫

 ◇厚労省「許されぬ」
 兵庫県内で特別養護老人ホームや介護施設などを運営する社会福祉法人「有隣会」(神戸市西区)の前理事長(62)が、大阪市内の不動産業者に法人を譲渡し、2億8000万円を受領していたことが分かった。税逃れなどのため、休眠状態の財団法人や宗教法人が売買されるケースはあるが、多くの利用者を抱えるなど公共性が高く、多額の補助金を受ける社福法人の金銭譲渡が明らかになるのは初めて。

 厚生労働省は「非営利目的の社福法人を売買の対象にする行為で許されない」との見解を示す。ただ、売買禁止を明記した法律はなく、許認可権限を持つ兵庫県の担当者は「認可取り消しなどはできない。法整備を急いでほしい」としている。

 有隣会によると、前理事長は昨年(2010年)9月10日、兼務する医療法人の業務が多忙なことを理由に有隣会の理事長を退任。後任に大阪市内の不動産業者が就任し、残りの理事全員(5人)も一斉に入れ替わった。全員が福祉関係の経験はない。その後、県の指導で特養の施設長を理事に加えたという。

 理事長交代を巡り、前理事長は12月、毎日新聞の取材に応じ、「2億8000万円をもらった」と証言した。

 今回の譲渡では、堺市内の建設業者(現理事)が3億円で購入するという「買付証明書」を発行。兵庫県尼崎市の別の社福法人の理事長も交渉の場に同席していた。2人とも不動産業者の知人で、前理事長は「尼崎の理事長の紹介だったので信用した」としている。

 有隣会関係者によると、不動産業者は、福祉施設や保育所などを併設した開発を計画している。一方、前理事長は「借金返済などに充てた。やむをえなかった」と話した。

 有隣会は92年設立。神戸市などに特養(定員100人)や通所介護施設など5施設を運営。09年度の事業収支は約4300万円の黒字。特養建設時、神戸市から約13億2000万円の補助金を受けている。【藤田剛】

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 ■視点

 ◇悪用される危険も
 社会福祉法人が“ヤミ”で売買される要因の一つは、法律に明確な禁止規定がないことだ。企業における株式のような売買手段がなく、金銭授受があっても表面化することはない。この結果、税逃れ目的で悪用されたり、反社会勢力が介入する危険性が生じる。早急な法整備が必要だ。

 介護保険事業計画などと密接に関連した社福法人は行政の監督が厳しいことなどから、売買対象として敬遠されてきた。一方で、社会の高齢化で安定収入を得ることができる「うまみ」がある。宗教法人や財団法人などに加え、社福法人までもがターゲットになった今回のケースは法規制がない中、事態の深刻化を浮き彫りにした。

 自治体担当者は「社会福祉法は“性善説”で作られた法律。そもそも法人売買は想定外」と困惑する。現状の放置は現場を混乱させるだけでなく、大勢の利用者にも影響を及ぼすことになる。【藤田剛】

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 ■ことば

 ◇社会福祉法人
 特別養護老人ホーム(特養)や保育所、障害者施設、児童養護施設などの社会福祉事業を行う非営利目的の法人。社会福祉法に基づき、都道府県や政令指定都市が認可し、広域にまたがる場合は国が認可する。理事に社会福祉の関係者や学識経験者が含まれていることなどが要件。特養などの施設建設時に補助金が支給される。公益事業収入は学校法人や財団法人と同様に非課税となる。一方、収益事業の収入も社会福祉事業や一定の公益事業に充てることとされる。

毎日新聞 2011年1月1日 大阪朝刊