みどり・市民派をめざす 井奥まさきが収集した情報、書き込んだ情報を整理して公開するために作った公開用のウィキです。

                       2006年2月20日

医療制度改革について みどりのテーブルの意見

                 みどりのテーブル 共同代表
                     稲村和美・小林一朗

小泉政権が閣議決定した医療制度改革関連法案は、小児医療や地
域医療、疾病予防などの充実もうたっていますが、高齢層を中心と
する患者の金銭的な負担を増やし、医療費の抑制を目指すことがそ
の根幹になっています。
 患者の金銭的な負担を増やすことは、そのための備え、すなわち
どのような民間保険会社の医療保健に加入しているかによって、受
けられる医療の質が変わることを意味します。所得の高い人は、高
額の医療費を負担することもできますし、高額の医療保険に加入す
ることもできます。しかし、所得の低い人は、保障が十分ではない
安い医療保険に加入するか、あるいはそもそも加入できず、医療費
も払えないということになります。
 つまり、小泉政権の医療制度改革策は、「医療の市場化」と「所
得格差医療」に向かうものだと言わざるを得ません。よって、わた
したちはそれに反対します。けれども、主として次の3つの理由か
ら、現状の医療制度を無批判に肯定することもできません。
 現行医療制度の最大の問題点は、職業や世帯構成などによって、
加入する健康保険と負担が異なることです。そのため、健康保険自
体が、大企業の健康保険組合のような「勝ち組」と、国民健康保険
のような「負け組」とに分かれてしまいました。例えば、生まれて
から亡くなるまで単一の制度の下で一人一枚の保険証を持つという
ような、フェアな公的医療保険制度が必要だと、わたしたちは考え
ます。
 第二に、財源の問題があります。小泉政権は公的負担の重さと医
療費の抑制を強調していますが、既に日本の医療費の約45%を家計
(患者負担額+保険料)が負担しています。この家計負担は、世界
トップクラスと言われています。公的負担と医療費の安易な抑制は、
さらなる家計の負担増と医療格差の拡大を招くことになります。わ
たしたちは、こうした点も考慮して、公的負担額の増大も視野に入
れ、医療費財源に関する広範な議論を始める必要があると考えます。
 最後に、現行医療制度への不信感を助長している医師をめぐる構
造的な問題があります。それには、大学の医局をトップとする医師
の人事システム、都市と地方あるいは診療科目における医師の偏在、
診療報酬などをめぐる不正事件、多発する医療過誤事件とその隠ぺ
い、医師と看護師や保健師など他の医療従事者(パラメディカルス
タッフ)との大きな待遇・地位格差などがあります。また、医療の
質の確保ためにも、医療施設におけるこれらパラメディカルスタッ
フや若手医師・研修医の労働条件などについても依然改善の必要が
あります。
 わたしたちは、こうした構造的な問題を解決するため、医療現場
の実態や制度上の問題点を明らかにしながら、患者を含む当事者を
巻き込んだ広い論議が必要だと考えています。
 以上のような観点を踏まえ、QOL(Quality Of Life;生活の質)
やインフォームドコンセントなど患者の人権や尊厳の尊重、予防医
学の重視や福祉政策との連携など、医療の基本的理念や今後のあり
方も含め根本的な議論と検討を重ねていく必要があると考えます。
 そして、お金のある人だけが優遇される社会から、誰もが安心し
て暮らせる社会に向けて政治の進む方向を変えるために、わたした
ちはこれからも努力していきます。

「市場原理と医療  米国の失敗を後追いする医療改革」

  李啓充 (医師・コラムニスト)
・「小さな政府」と医療制度改革

 現在、日本では、「小さな政府」を実現することが、あたかも自
明の公理のごとくに唱えられ、医療制度改革も、その範疇で議論さ
れることが多い。医療についても「小さな政府」を実現することが
大義であると信ずる人々は、「国民負担率」(国民所得のうち、租
税と社会保険料の占める割合。なお、国民負担率に財政赤字分を加
えた数字を潜在的国民負担率という)なる指標を基に、「潜在的国
民負担率は50%以内に抑えなければいけないし、そのためには、
医療費の公的給付も抑制されなければならない」と主張する(ちな
みに、国民負担率が50%を超える先進国は多く、「50%以内」
という数値目標に必然的根拠があるわけではない)。
・「国民負担率」は国民負担の実際を反映しない

 実は、「国民負担率が高くなるといけないから、医療費の公的給
付も減らさなければならない」とする議論は詭弁以外の何物でもな
い。なぜなら、そもそも、「国民負担率」は、語感が与えるイメー
ジとは裏腹に、「国民負担の実際」を反映する数字ではないからで
ある。たとえば、先進国中、日本の36%(2005年)よりも国
民負担率が低い国は米国(33%)だけであるが、実際の米国民の
医療保険料負担は、日本よりもはるかに重いものとなっている。
「自営業者、年収700万円、世帯主の年齢50歳、4人家族」と
いう例で年間医療保険料負担を比較した場合、日本での負担が61
万円(国保保険料上限額。国民負担率に含まれる)であるのに対し、
米国での負担は214万円(マサチューセッツ州最大手の保険会社
ブルー・クロス・ブルー・シールド社からもっとも一般的な保険を
購入したときの価格。国民負担率には含まれない)と、日本の3倍
を超えるのである。
・公的給付削減の果てに待つ米国型医療保険制度

 高齢化の進行(医療に対するニーズの量的増加)、日進月歩の医
療技術の進歩(医療サービス単価の上昇)を考えた場合、今後、社
会全体の医療費支出が増加せざるをえないことは論を待たない。医
療費全体が上昇せざるを得ない状況の中で、公的給付を削減すれば、
その果てに待つのは、民間医療保険を主体とする米国型の医療保険
制度に他ならない。「『公』を減らして『民』を増やした」医療制
度が具体的にどのようなものになるのか、以下、米国の実態を紹介
しよう。
・「市場原理」に基づく米国型医療保険制度の失敗

 「民」の医療制度は、換言すると「市場原理」に基づく医療制度
に他ならないが、市場原理によって運営される米国の医療制度の
「失敗」の数々の中でも、際立っているのは、以下の4点であろう。

1)財力に基づくアクセス差別:市場原理の下で弱者が排除される
ことは避け得ず、医療保険を購入する財力のない者は「無保険者」
となり、医療へのアクセスを閉ざされてしまう。市場原理から落ち
こぼれた弱者(高齢者・低所得者)を救済するために、米国政府は、
巨額の税を投入して公的医療保険制度を運営しているが、巨額の税
支出にもかかわらず、国民の7人に1人が無保険と弱者を救済しき
れず、無保険社会となっている。「『公』を減らして『民』を増や
す」という主張は、「(米国式に)財力に基づくアクセス差別を導
入する=無保険社会になっても構わない」という主張と同義なので
ある。

2)医療費の止めどない上昇:「民」主体の医療保険制度は社会全
体の医療費を押し上げる特性を持つ。たとえば、米国の保険会社の
経営用語に「医療損失」という言葉があるが、これは、加入者から
集めた保険料100のうち、どれだけの割合を実際の患者の医療費
に使うかという数字である。現在、医療損失が85を超えるとウォ
ール・ストリートで「経営が下手」と評価され株価が下がってしま
うので、保険会社にとって、医療損失を下げる(=患者の医療に使
う金をできるだけケチる)ことが経営の一大目標となる。その結果、
現在、米国における営利の保険会社の医療損失は平均「81」と言
われ、公的医療保険(高齢者医療保険「メディケア」)の医療損失
「98」と比べると、サービスの受け手にとって、格段に効率の悪
い医療保険制度となっている。さらに、営利の保険会社は株価を維
持するためには常に高収益を維持しなければならないので、たとえ
ば、保険料値上げ等で顧客の負担増を強いることをいとわない。実
際、ここ数年、米国の保険会社は、毎年10%程度の保険料値上げ
を繰り返している。

3)負担の逆進性:市場原理の下では、大口顧客に対する割引など
強者が優遇される反面、弱者ほど負担が重いという「負担の逆進性」
の問題が発生する。たとえば、有保険者の場合は、保険会社があら
かじめ病院・医師などと値引き交渉をすませているので「割引価格」
で医療が受けられるのに対し、無保険者がひとたび病気になった場
合は、全額自己負担となる上に、有保険者よりもはるかに高い「定
価」で医療費が請求されることが普通となっている。その結果、無
保険者が医療費負債を返済できないために破産するという事例が急
増、現在、米国では、医療費負債は個人破産の直接原因の第二位と
なっている。「公的保険の給付削減」が行き着く果てには、「医療
費負債による個人破産」が常態化する危険が待っているのである。

4)公的負担の増加:はなはだ逆説的な結果ではあるが、米国の実
例を見る限り、「『公』を減らして『民』を増やす」努力は、逆に
公的負担を増やす結果となっている。たとえば、民間保険が常用す
るコスト抑制法として「サクランボ摘み(『いいとこ取り』の意)」
があるが、これは既往疾患を有するなどハイリスクの患者を排し、
健常者ばかりを集めて医療保険を設定する手法である。健常者ばか
りを集めることで民間保険が容易にコスト抑制を達成する一方で、
民間保険への加入を断られたハイリスク患者が公的保険に集中する
ために、公的保険のコストが逆に増大するという結果を招いている
のである。
・「市場」のメカニズムが医療では有効に機能し得ない理由

 以上、医療費の公的給付を減らした後に生じ得る問題点を4点だ
け列挙したが、こと医療に関しては、「市場」のメカニズムが有効
に機能し得ないことは米国の実例からも明らかである。なぜ「市場」
のメカニズムが有効に機能し得ないかというと、それは、医療以外
のサービス・消費財については、「財力がなければ購入を諦める」
という選択が比較的容易になし得るのに対し、医療のサービス・消
費財については、「購入を諦めることは死ぬことを意味する」とい
う状況が容易に生じ得る、という決定的な違いがあるからである。
市場のメカニズムが有効に機能し得ない上、市場のメカニズムに委
ねることが不平等だけでなくコスト増さえもたらすのであるから、
医療については、公的給付を削減することを目指すほど愚かな政策
目標はないと言ってよい。換言すると、社会全体の医療費を抑制し
たいと思えば、闇雲な市場原理主義を振り回す前に、いかにして公
的給付を充実させるかを考える方が、はるかに賢明な戦略と言える
のである。
・規制改革/民間開放推進会議の危険な主張

 日本の医療制度改革議論の中で、規制改革/民間開放推進会議が、
特に「民を増やす」=「ビジネスチャンスの創出をめざす」観点か
ら、日本の医療制度を変えようとしているので、同会議の主張につ
いても検証する。

1)混合診療全面解禁の危険:混合診療(保険診療と保険外診療の
混合を認めること)が解禁された場合、自由診療部分の拡大により、
広大な民間医療保険マーケットが出現することが予想される。その
場合、民間医療保険を追加購入することができない低所得者には、
「実質的無保険者」とならざるを得ない宿命が待っている。
 混合診療全面解禁後の医療がどれだけ悲惨なものとなるか、以下、
中国の実情を紹介しよう。中国では、公的保険は「基礎的医療」し
か給付を認めず、最新の検査・治療は、軒並み「保険外」となって
いるため、病院は「保険外」診療で売り上げを確保しなければ経営
がなりたたず、医師の給与も保険外診療の「セールス」に基づく
「歩合制」となっている。医師にとっては、患者に高い治療や検査
を押しつけないと自分の収入が確保できなくなった上、患者にとっ
ても、入院・手術に際し「キャッシュによる前払い」を要求され、
前払いができない場合は診療を拒否されるという、悲惨な状況が日
常化しているのである。

2)株式会社による病院経営解禁の危険:先進国の中で株式会社立
の巨大病院チェーンが存在するのは米国だけであるが、株式会社病
院の方が非営利病院よりも「患者にとって料金が高いうえに、安全
性も含めた質が劣っている」ことがデータにより明らかとなってい
る。それだけでなく、大病院チェーンは、例外なく、診療報酬不正
請求など、種々の医療「犯罪」を繰り返していることでも知られて
いる。
・目指すべき方向は社会保障のさらなる充実

 以上、「国民負担率を減らすために医療費の公的給付を削減する」
という主張の危うさを検証してきたが、そもそも、租税や社会保険
料負担について日本で問題にすべきは、その負担が「重い」ことに
あるのではなく、納めた税や保険料が国民に対するサービスとして
還元されていない、「取られっぱなし」の状態にあることにある。
たとえば、納めた租税や社会保険料のうちどれだけの割合が社会保
障給付として国民に還元されているかを比較した場合、日本の還元
率42%は、「小さな政府」の「先輩」である米国の53%にさえ
劣り、先進国中最低となっている(ドイツ59%、スウェーデン7
6%)。納めた税金や保険料が、今でも、「取られっぱなし」であ
るのにもかかわらず、政府・財界は、今後ますます「公的医療費の
給付を抑制する=自己負担分を増やす」と主張しているのだから呆
れる他はないが、高齢化がますます進行する下での日本の医療の将
来を考えた場合、「公的給付のさらなる充実」をいかにして達成す
るか、そのための医療制度改革をこそ議論すべきであろう。

以上、第26回日本医学会総会ポストコングレス公開シンポジウム
(2006年3月)抄録より転載
〜〜〜〜〜〜〜〜(出所明記しての転載転送歓迎)〜〜〜〜〜〜〜
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