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2007.5.7
兵庫県高砂市議 井奥まさき
相談は 079-444-2343
e-mail: ioku3@yahoo.co.jp
ステップ1 基本的な流れを身につけよう!
基礎知識の収得、予算の流れ
ステップ2 あなたの自治体の財政的な姿を知ろう
決算カードを使って
ステップ3 自治体予算の問題点を把握し、弱点を補う議論を
減価償却がない 年度を超えた視点がない
ステップ4 「議員」のできること
何ができるのか 議会改革と密接につながっている
ステップ1 基本的な流れを身につけよう!
1)地方自治体の会計は年度で区切られる(図1)
3月当初予算→6月補正→9月補正→12月補正→3月補正
3月31日までが会計年度。ただし、5月31日までを「出納閉鎖期間」とし、支払いなどをその間に行う。
議会では 3月、6月、9月、12月に議会を行い、この予算を審議する
(補正は全部を審議しないところもある)
多くの自治体は9月に前年度の決算を行う
予算書の中身
1条1項 総額を規定
2項 歳入歳出予算 款項目節に分かれる
歳出 1款 議会費・・・
2表 債務負担行為
3表 地方債
4表 継続費
5表 繰越明許費
ポイント1 予算書を実際に読みこなし、議会に提出された予算の中身を知る
2)会計にもいろいろある
一般会計が一番の基本となるが、それと区別して「特別会計」をほとんど全部の自治体が設けている。また、「企業会計」もある。この間でお金をやりとりしている点が把握を困難にしている。ちなみに「企業会計」は貸借対象表、いわゆるバランスシートである。
さらに、市が出資している法人もある。一部は年1回の報告を義務づけられている。(6月議会に報告する)
例えば高砂市では
一般会計 一般会計
特別会計 国民健康保険特別会計
老人健康保険特別会計
介護保険特別会計
下水道特別会計
企業会計 水道事業会計
病院事業会計 など
出資法人 土地開発公社
施設利用振興財団
勤労福祉財団 など
ポイント2 決算カードなどを活用し、あなたの自治体の会計区分を知る
あなたの自治体の会計間のやりとりも把握しよう 図を書いてみよう
(一般会計からの繰り出しには法的な基準もあります。国保会計のように法的な基準以上の繰り出しをしている場合もあります。これがゆきすぎると「本体はおかゆなのに、特別会計では焼き肉」という事態になります)
3)財源構成に敏感になる (図3)
例えば1億円の学校を建設するとする。
通常のパターンでいえば、「補助金」「補助裏起債」「一般財源」という構成になる。補助金のない場合は「起債」と「一般財源」になる。
パターン1
補助金(4分の1=25%) 2500万円
補助裏起債(上を引いた残り4分の3に対する9割=67.5%)
6780万円
一般財源(全部の残り)720万円
パターン2
起債(8割=80%) 8000万円
一般財源(全部の残り)2000万円
補助金に関しても、国の場合、県の場合と違いがある。上のモデルのように通常は補助金がついた方が起債充当率も有利である。そのため、「補助金がつきました!」と誇らしげに行政は言います。
チェックポイントとして、
1)補助金がついたからといってその事業そのものが必要かどうか
2)一般財源と起債の比率
3)起債に対する地方交付税の算定
ポイント3 予算書の「財源構成」に敏感になる
歳出に目がいきがちですが、歳入の「国庫支出金」「県支出金」と財源構成は合わせてチェックすべきです。(行政にも説明を求める)
ステップ2 あなたの自治体の財政的な姿は?
各種指標の意味を把握する
たくさんの財政指標があるが、「指標のための指標」も多い。
個人的には「財政力指数」「起債制限比率(最近は実質公債費比率)」
「経常収支比率(特に人件費比率)」を見ればいいのではないかと思う。
ポイント1 決算カードを読みこなし、あなたの自治体の姿を知る
チェックポイント1 地方交付税交付金団体かどうかを知る(図4)
この範囲において「財政力指数」は意味がある。1.0を大幅に切る自治体に関しては「財政力指数」はほとんど意味がない
自力と言うよりは国からの動向(地方財政計画)に左右される
地方交付税交付金とは
国が必要と思われる事業費を積み上げたもの=基準財政需要額(A)
自治体が持つ独自の収入の一定割合(基礎自治体は75%)(B)
(B)―(A)が赤字の場合、国がそれを補填してくれるのが地方交付税交付金
(全国どこでも同じ暮らしができるように もともとは地方のものですけどね)
最近は臨時財政対策債という「現金の代わりに借金してもいいよ」というお金も増えている。
※こうした前提抜きに「お金が足らないのなら、儲ける手段を考えればいい」という話は成り立たない。
チェックポイント2 起債制限比率が15%、20%を超えないか 将来にわたっても大丈夫か 最近は「実質公債比率」も重要
一般的に15%が黄信号、20%が赤信号という。
長期財政計画も出させてチェックが必要
ちなみに20%を超えると「赤字再建準用団体」
最近は他の会計も入れた「実質公債費比率」も重要になってきた。
この場合は18%が黄色信号
チェックポイント3 経常収支比率をチェックする
これが高い自治体は、特に「削る」議論が必要。多くは人件費が原因。
チェックポイント4 他の自治体と比較する
基準財政需要額、収入額、起債制限比率、実質公債比率、人口、面積
といったポイントを見れば、その自治体の姿が見えてくる
チェックポイント5 年度ごとの変化に敏感になる
比率の伸びをチェックする。特に借金関係は注意が必要。
ステップ3 自治体予算の問題点を把握し、弱点を補う議論を
1)地方自治体の会計は年度ごとの「大福帳」である
企業などの会計は「貸借対照表」いわゆるバランスシートになっている。
自治体は「年度」ごとに縛られている「大福帳」である。
例えば、起債=借金をしても歳入=収入 となる
企業の場合は、「貸借対照表」と「損益計算書」に分かれている。
借金をすれば「カネ繰り」では収入になるが、「負債」は増える。
そして、その増減は一致する。
別の観点から言えば、土地を売り払うとする。
これは企業会計から言えば、「資産」が減り、現金収入が増える。
ところが、行政では「収入増」だけである。
そして、1年ごとである(長期的展望が建てにくい、駆け込み消化がある)
また、ハコものを作る場合、企業会計には「減価償却」という考えがある
1億円のものを作った場合、20年後に建て替えるのならば、 500万円ずつ資産価値が下がり、その分お金(減価償却費)を置かね ばならない。 (実際はこんな単純ではなく、除却などの処理があるが) 退職金に関しても、企業ならば「退職金積み立て」をおいている。 しかし、行政は「財政調整基金」「各種基金」という形をとり、 上のような明確な観点を持っていない。 多くの自治体でこの点で問題を抱えている。 例えば…団塊の世代の大量退職に基金が底をつき、手当債を発行 学校が古びているのに、建て替え費用がない
ポイント1 企業会計の視点をさらに加えてチェックしてみよう
例 減価償却の観点から建て替え用の基金を積むことを提言 借金返済をした額以上の借金をしない
2)自治体財政と言いながら、国の動向に大きく左右される
・ 借金も自由にできない
「協議制」あるいは「許可制(実質公債費が18%以上)」により、実は借金が自由にできない →新指標を導入し、少しずつ「市場原理」に移行中
・ 国のメニューに左右されやすい
ハコモノ(例えば下水道)は借金しやすいが、図書の購入はダメなど 地方の実情やニーズに合わない国の誘導策がある
「後で面倒を見る」という約束で借金まみれ 例えば「ハコモノを借金してジャンジャン作りなさい」といい、 「その代わり、後で面倒を見る(交付税算入する 図4参照)」という
他にも「減税ほてん債」や「臨時財政対策債」など約束をたくさんする 確かに「計算上」は入っているが、結局他の部分でつじつまを合わせ、 結局は自治体財政を苦しめる
・ 地方分権は「仕事はくるが、人と財源はこない」
国も借金まみれの中、「地方に負担を押し付けて逃げ切り」を図っている 例えば、建築確認申請の仕事がそうである。仕事はくるが、能力のある人材や財源はこないので基礎自治体は苦しい思いをする3)実際の議論にあたっての予算の読み方
1)前年度と比較する(予算書を見比べる)
2)政策重点項目についてチェックをする
増額を要請する(例 学童保育の充実…など)3)市の目玉事業をチェックする
基本的には「削る」議論となる(例 ダム建設調査費の削減…など)4)事業の財源構成をチェック(補助金があるのかないのか…など)
5)財政議論をする(長期的展望、市のビジョン)
ポイント2 予算を読むのは「視点」が必要
どうしても行政も含めて「細部」「個別」に流されがち、「視点」を心がける
ステップ3 議員のできること
基本的に議会全員が一致してようやく「大統領」たる首長に対決できる程度。現状では議会の多数を取ることすら不可能に近い。
1)情報をわかりやすくする=資料をくわしくする
地方自治法は「款項」までとしている。「説明」には義務がない。 まず、「説明」を詳しくさせる。(口頭、あるいは書き込みで) さらに「説明の資料」を丁寧にわかりやすくさせる。
これは議会だけでなく、最終的に市民にもわかりやすい。
多分、この攻防でエネルギーの大半は費やすと思われる。 ポイントとして まず所属した委員会で粘ってみる 閉会中に職員と議論をし、準備をしておいてもらう 委員長や議長につぶされないように根回しをする (場合によっては文書で申し入れ) 「口頭より文書提出させること」を心がける2)予算執行に注文をつける
執行にあたって裁量権がどれだけあるのかがポイント。例えば高砂市ではバス路線に注文をつけ、当初予算の資料から変更があった。
ハコ物なら部屋や備品の追加などは可能
執行注文の究極の形が「付帯決議」 それ以外でも「行政側の答弁を引き出す」(専門用語で担保を取る) 「委員長報告に盛り込む」(これも「一部の委員から」と「委員会全体が一致して」とでは重みが違う)
という形で注文をつけることが可能
3)予算の根拠となる条例を否決、修正あるいは継続審議する
水道料金などが典型。通常はそれに伴い、後の補正予算で修正。
4)予算を原案撤回、あるいは議会で修正する
減額修正も「款項」議決の問題 増額修正は「首長の予算提出権を犯す」かどうかの問題
さまざまなテーマと力関係にそって、1)〜4)を使い分け、一歩でも前進を勝ち取っていく 2)でもいろいろなレベルがある
その時の武器は…「理」をみがくしかない! 地方自治法を徹底的に勉強すること コンメンタール、自治六法 その自治体の状況を把握すること 例規集を読みこなす 申し合わせ事項・前例の把握 ネットワークで対抗する 「他の自治体で行っていた」「議長会でも提言している」「議員必携にも書いてある」
■ 最後に…なぜ財政問題の議論が必要か
1) 国の「地方おしつけ」の中、自治体財政が苦しくなっている
2)「理想」を言っていても金がないと何もできない
教育も福祉も財政問題から そして「金にならない」教育や福祉は行政改革のターゲットになりがち 守るためにも知識が必要
3) 今までの「国が面倒を見る」時代からルールが変わり「市場原理」へ
指標が悪いと「お金も借りれない」時代へ
新しい指標(実質公債比率、フロー指標)導入でごまかしが聞かなくなっている (情報公開としてはいい面もある)
より「経済(金融市場など)」の視点が大事
(日本経済新聞を読もう、経済小説を読もう)