みどりのテーブル 共同代表
稲村和美・小林一朗
小泉政権が閣議決定した医療制度改革関連法案は、小児医療や地
域医療、疾病予防などの充実もうたっていますが、高齢層を中心と
する患者の金銭的な負担を増やし、医療費の抑制を目指すことがそ
の根幹になっています。
患者の金銭的な負担を増やすことは、そのための備え、すなわち
どのような民間保険会社の医療保健に加入しているかによって、受
けられる医療の質が変わることを意味します。所得の高い人は、高
額の医療費を負担することもできますし、高額の医療保険に加入す
ることもできます。しかし、所得の低い人は、保障が十分ではない
安い医療保険に加入するか、あるいはそもそも加入できず、医療費
も払えないということになります。
つまり、小泉政権の医療制度改革策は、「医療の市場化」と「所
得格差医療」に向かうものだと言わざるを得ません。よって、わた
したちはそれに反対します。けれども、主として次の3つの理由か
ら、現状の医療制度を無批判に肯定することもできません。
現行医療制度の最大の問題点は、職業や世帯構成などによって、
加入する健康保険と負担が異なることです。そのため、健康保険自
体が、大企業の健康保険組合のような「勝ち組」と、国民健康保険
のような「負け組」とに分かれてしまいました。例えば、生まれて
から亡くなるまで単一の制度の下で一人一枚の保険証を持つという
ような、フェアな公的医療保険制度が必要だと、わたしたちは考え
ます。
第二に、財源の問題があります。小泉政権は公的負担の重さと医
療費の抑制を強調していますが、既に日本の医療費の約45%を家計
(患者負担額+保険料)が負担しています。この家計負担は、世界
トップクラスと言われています。公的負担と医療費の安易な抑制は、
さらなる家計の負担増と医療格差の拡大を招くことになります。わ
たしたちは、こうした点も考慮して、公的負担額の増大も視野に入
れ、医療費財源に関する広範な議論を始める必要があると考えます。
最後に、現行医療制度への不信感を助長している医師をめぐる構
造的な問題があります。それには、大学の医局をトップとする医師
の人事システム、都市と地方あるいは診療科目における医師の偏在、
診療報酬などをめぐる不正事件、多発する医療過誤事件とその隠ぺ
い、医師と看護師や保健師など他の医療従事者(パラメディカルス
タッフ)との大きな待遇・地位格差などがあります。また、医療の
質の確保ためにも、医療施設におけるこれらパラメディカルスタッ
フや若手医師・研修医の労働条件などについても依然改善の必要が
あります。
わたしたちは、こうした構造的な問題を解決するため、医療現場
の実態や制度上の問題点を明らかにしながら、患者を含む当事者を
巻き込んだ広い論議が必要だと考えています。
以上のような観点を踏まえ、QOL(Quality Of Life;生活の質)
やインフォームドコンセントなど患者の人権や尊厳の尊重、予防医
学の重視や福祉政策との連携など、医療の基本的理念や今後のあり
方も含め根本的な議論と検討を重ねていく必要があると考えます。
そして、お金のある人だけが優遇される社会から、誰もが安心し
て暮らせる社会に向けて政治の進む方向を変えるために、わたした
ちはこれからも努力していきます。