PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:11-260氏


「はあ、京ちゃん、今日も寝るんだね」
自分の机に座ると同時に、いつもの様に腕を枕にして眠りにつこうとする。
学校に来てもすぐ寝ちゃうなら、もう少し遅くに来ればいいのに、と思う。
その京ちゃんに毎朝起こしてもらってる私が言えることじゃないんだけど。
私も自分の席に座る。そして京ちゃんの横顔を眺める。いつもの日課だ。
「あっ」
また傷が増えていた。もしやと思い、腕とかにも目を向ける。……こっちもだ。
何か月か前からか、京ちゃんは急に怪我が増えだした。
前に傷のことを聞いたところ、「こけた」と返ってきた。
しかしこの頻度でこけると言うのは、ちょっと考えづらい。運動神経はいい方だし。
だから、一時期は喧嘩でもしたのかな?と思ったりもした。でも、それもあまり納得のいく考えではない。
京ちゃんはどちらかというとめんどくさがりな性格だし、それにそういった噂を耳にすることはなかった。
「ほんと、何なんだろうねえ」
気にはなるが、聞いてもはぐらかされる。なので、今はもう理由を聞くのを諦めてしまっている。
「まったく、何を隠してるんだか。この、この」
指先で頬を突く。反応がないところを見ると、もうすっかり熟睡してしまっているようだ。
「ふぅ」
何となくむなしくなり、指を引っ込ませる。
一旦京ちゃんから目を離し、教室を見渡す。
部活の朝練が終わったのか結構な人数がすでに揃っている。
みんな楽しそうに笑ってる。
好きな子同士、机を囲って。
………………そこに、私たちの居場所は、無い。
いやちがう、正確には、私の、だ。
いつからだったか、私の周りには人は集まらなくなっていた。
性格?容姿?言動?
とにかく、何かが他の皆からは好ましく見えるものではなかったらしい。
積極的に嫌われる、まではいかなかったのが幸か不幸か、小さい頃の私はその事を大して重要視しなかった。
――京ちゃんがいればいい。
その言葉だけを胸に、大きくなってきた。
さすがに今は、もう少し何とかするべきだったと思っているが。
しかし、何がいけないのか未だにわからず、途方に暮れている。
助言を聞けそうな相手は居ないかと考えた事はある。
だが、両親は万年出張。京ちゃんのお母さんは人間関係に疎いタイプ。……だから私を嫌わないでくれるのだろうが。
そして、頼みの京ちゃんは、言葉で説明するのが苦手なタイプ。
念のため聞いたこともあるのだが、散々どう伝えればいいか迷った末「お前のままでいろ」と言う、ありがたいお言葉を頂戴した。

「はぁ……」
暗い事ばかり考えていたからか、自然とため息が漏れる。
友達が数人増えたからって、何かが劇的に変わるわけでは無いとわかってはいるのだが……。
しかしこのまま大学に行くと少し大変だろう。
京ちゃんは(勉強をしてるとこを見たことないのに)頭がよく、私はその反対。
付っきりで勉強を教えてもらったおかげで何とか同じ高校に通えてはいるが、さすがに大学まで付いて行ける気がしない。
いや、後1年半近く。再び勉強を教え続けてもらえば何とかなるかもしれないが、そんな事で京ちゃんの足を引っ張りたくない。
優しい京ちゃんのことだ、そんな事は言うなとか言ってくれると思う。嫌われる事もないはず。
だけど……。
「寄生虫の駆除はお早めに、ってね」
そう、それが私と京ちゃんの関係。
京ちゃん一人だと、立派な人間。私は一人だと生きることもできない寄生虫。二人を合わせてしまうと普通未満の人になる。
だから、早く離れた方がいいと思っている。
京ちゃん一人ならみんなに好かれる人なのだから。私に使う力を他に回せば京ちゃんはもっといろんな事ができる。
でも中学の時、私は恐れてしまった。京ちゃんが自分のそばからいなくなってしまうことに。
覚悟が足りなかった。離れた方がいいと思い始めてからそう経ってなかったから。……言い訳でしかないことはわかってるが。
なので後3年。3年だけ京ちゃんの時間を奪って、それで全部お終いにしよう。これが高校に入った時決めた私の目標。
……ここまで言ってあれだが、別に私だって死にたいわけでは無い。
3年間の内に自立できるようになろうと、自分なりに色々やってみたりしている。
しかし、勉強はできるようになるどころか授業からも置いてかれ、友達を作ろうとクラスメイトに話しかければ距離が広がり、
家事に至っては京ちゃんから「……オレがやっとくから」と言われるレベル。
泣きたくなるぐらい悲しい結果たち。何がいけないのかもわからないまま、時間が過ぎていく。
やる気が空回りを続け、もう制限時間は半分しか残ってない。
焦りが生まれる。恐怖がよみがえる。自分は何もできない半端物のまま、一人きりになってしまうのだろうか。
京ちゃんに縋りたくなる気持ちがわき出る。褒めて欲しい、助けて欲しい、優しくしてほしい。
しかしこの気持ちは、悟られてはダメだ。絶対に。ばれてしまったら京ちゃんはきっと悲しんでくれると思う。
そして、私が転ばない様、先回りして石を拾ってしまう。私に気づかれない様に。私が一人でできたと思えるように。
それではダメなのだ。私の目標はあくまで京ちゃんからの自立。だからばれた時点で私の決意は破たんする。何もなせないまま。
キーコーンカーンコーン。
チャイムが授業の開始を告げる。思いのほか長く考え事にのめり込んでいたようだ。
扉から数学の先生が入ってきて、教科書を開くよう指示をする。
軽く息を吐いてから教科書を開き、ノートを準備する。
これ以上遅れないよう頑張んなきゃ。やる気で体を満たし、先生の声に耳を澄まし始めた。

ガララッ。
最後の授業が終わり、先生が出て行く音がする。
私は脱力し、ぐてーっと机に伏せる。疲労感が体に満ちている。
「ダメかー……」
今日もまた、少しずつ授業のペースから遅れてしまった気がする。前の所を理解できてないんだから、当たり前かもしれないが。
勉強は嫌いではない。嫌いではないんだけど……。
「やればやれるだけみじめになっていくのは、気のせいなのかな……」
はあ〜、っと思わずため息が漏れる。やるせない。
体を起こし、京ちゃんの方を見る。相変わらず寝ていた。
私の朝食とかお弁当とか作って貰っておいて、こんなこと言っちゃいけないかもしれないけど、正直寝すぎだと思う。
朝は別として、学校はほとんど寝て過ごし、放課後もやる事なかったら寝てるらしいし、夜も早かったはず。
これだけ寝れば京ちゃん見たくみんなうまくいくんだろうか?そう思える程寝てる。
教室にいる人も少なくなってきた。今日も寝続けるだろうが、念のため起こす。
「京ちゃん、京ちゃん。もう授業終わったよ。今日も寝てから帰るの?」
声をかけるとすぐに目を開けた。眠りが浅いのか深いのかよくわからない。
「……ああ。もうしばらく寝てから帰る。先帰っといて……」
喋り切る頃には再び夢の中。気楽すぎて若干イラッとくる。八つ当たりなのは百も承知である。
「まったく、せめて家とか冷房きいてるところで寝ればいいのに……。じゃ、また明日ね」
寝てる京ちゃんに別れを告げて帰路につく。友達はいないので当然一人だ。
外に出て空を見上げると、嫌な感じがする黒い雲が浮いていた。




「よかった、降る前に帰れて」
天気予報は晴れだったので傘を持ってなかったのだ。
今にも降り出しそうな雲。運が悪い私にしては珍しくついてた。
「ただいま〜」
玄関のドアを開け、誰もいない自宅に入る。
昔は家に帰っても誰もいないことが苦痛で、家にいるのを嫌っていた。
少しでも早く家を出て、京ちゃんの所に行ったものだ。
さすがに今は何ともない。手洗いをし、お茶を飲んでから、自室に向かう。
宿題をしないといけないし、予習や復習もしなくては。
「さ、がんばろ!」

勉強を始めてからいくらか経って、ポツン、ポツンと水滴が落ちる音が聞こえ始める。
手を止め、窓の方を見ると小雨、とまでいかない様なレベルだが、雨が降り始めていた。
「……あ、京ちゃん傘持ってるのかな?」
朝一緒に登校した時には、持ってなかった気がする。
自分のことにはズボラな彼が、折り畳み傘を持ってるとは考えづらいし……。
持って行ってあげようかな?
たまには役に立ちたいという気持ちもある。
「そう決めたら、さっそく行動に移そう」
玄関に向かい適当に傘を見繕う。
その後、念のため帰宅していないかを確認。
徒歩10秒ぐらい。お隣さんだ。
インターホンを押し、出てきた京ちゃんのお母さんに挨拶。やっぱりまだ帰ってなかったらしい。
別れ際、あの子と仲良くしてやってね、と頼まれる。あなたがいないとあの子、何にも興味持たないから、とも。
ごめんんさい。私が京ちゃんと一緒にいるから、京ちゃんが他の何かに向けるべき物を独占してるから、そうなっちゃうんです。
ごめんなさい。でも、あと少し、少しだけでいいので京ちゃんを貸してください。
心の中で頭を下げ、謝る。
もちろんそんな事をいう訳にもいかないので、「こちらこそ」と返した。笑って言えたはず。
「じゃあ、また」と別れを告げ学校に向かう。
大した距離じゃない。本降りになる前につけるだろう。……こういう時の予想は当たった事がないが。
早歩き気味の歩調で歩みを進める。少し前、軽く走ったら思いっきりこけてしまったので、走るのには若干抵抗があった。
「っと」
案の定予想は外れ、半分も行かないうちに本格的に降り出してきた。
「傘、傘……」
2本持っていた傘の片方を広げる。男ものだったのか少し私には大きいようだ。
「……前が見にくい」
少しじゃなかった、だいぶだった。しかし、使えないわけでは無いし妥協することにする。
「京ちゃん、帰ってくる途中じゃないといいな」
こっちの予想まで外れたら悲しくなってくる。そうならない様、さらに歩調を速めるようか。
……そんな事したら、水たまりに突っ込みそうだ。運動神経がないのか、運がないのかはわからないが。
安全策を取るしか最初から選択肢に無い様だった。
せめてすれ違いにならないことを祈ろう。

最後の角を曲がり、あとは正門まで一直線。とりあえずここまでに京ちゃんはいなかった、はず。
帰宅する生徒がちらほら見える。部活が休みになった人たちだろうか?
「あっ」
こちらに向かってくる二人組、片方が知った顔だった。
クラスメイト。私の顔を見ると露骨に嫌な顔する人。話したことはほとんどないが、どう考えても嫌われてるだろう。
傘を深くかぶる。さっきの失敗がこんな所で役に立つとは。これで向こうからは顔を見られなくて済むはず。
嫌われてるのがわかっていても、こちらからも好きでなくても、嫌な顔をされれば傷つく心くらい持っている。
「でもさー、ほんっと京一の奴、あったまおっかしいよなー!」
大声でギャーギャー話しながら歩いているので、嫌でも話が聞こえてくる。しかも京ちゃんの悪口。ムッとする。
しかし言い返すような度胸はない。早く通り過ぎてしまおう。





――――――あいつに手を出さないなら、何をされても構わない!、とかかっこつけちゃって!
――――――毎日毎日、ボロボロになるまでにボコられてさ!しかも本当に無抵抗でやんの!マジウケる!




……えっ?



――――――あの天才バカを足蹴にできるとかホント爽快の一語につきるな!
――――――最初は女子も「けなげに頑張るのがまたカッコいい」とか言ってたけど、今になっちゃ全員ドンビキだしな!
――――――なーにがあいつにそこまでさせんのかね?……ただのマゾだったりして!うお!これ当たりじゃね?
――――――まー、でもさすがのアイツもそろそろ根を上げんじゃね?あの女見捨てるの、見ものだな!
――――――なんにせよあんなクズ女に惚れたのが運のつきだよなあ。それさえなければ完璧だったのにな!あははははは!
――――――そういえばあの女、愛しの彼があんなことになってるのにまだ友達作ろうとしてるらしいぜ?全員敵だっての!
――――――マジ死んでくれねーかな、あいつ?あ、死んじゃったら京一ボコれなくなるじゃん!おい、価値あったぞあの女に!
――――――あははははははは――――――それでさー――――――マジで〜――――――ウケる〜――――――




雨の音が、遠い。

「――――!――――っ!――――るっ!透!」
「……え?……あ、京、ちゃん……?」
肩を揺すられて初めて気づく。いつの間にか眼前に京ちゃんの顔が。私は何をしていたんだっけ?
「こんな土砂降りの中傘も差さずに何やってんだっ!ずぶ濡れじゃないか!」
「……な、なにやってたんだったかなあ……?え、えへへへ……」
曖昧に笑ってごまかす。まだどこかフワフワしている感じがぬぐえず、夢の中のようだ。
え〜と、確か雨が降り始めて、京ちゃんのお母さんに挨拶して……。
「あ、そうだ。はい、京ちゃん、傘。雨降ってきたから持ってきたんだ」
手に持った傘を差しだす。喜んでくれるかな?
「…………ハァ。二人ともこんなびしょ濡れじゃ使う意味ねーよ……。風邪ひく前にとっとと帰るぞ」
「……あれ……?ほんとだ……。またダメだったね、私。エヘヘ……」
本当に私はダメだなあ……。
「どうした?ボーっとして」
「んー?何か、京ちゃんいてくれて幸せだなーって」
自然と言葉が出てきた。素直な気持ち。覚悟を決めてからは、決して表に出さないと誓った言葉。
何で今出しちゃうんだろう?
………………ダメだ、頭が回らない。
何なんだろう。何か、考えたくないことがあるような感じが……。
「変なこと言ってんじゃねーよ。ほら、あったかいもん作ってやるから、行くぞ」
京ちゃんが私の手を引いて歩き出す。雨で冷えてる中でも少し暖かい。
小さい頃はその価値がわからなかった。けれども大好きでいつも手を繋いでた。
もう少し大きくなると京ちゃんが思春期で、繋がなくなってしまった。少し寂しかった記憶がある。
価値がわかったのはあの離れられないことが分かった中三の時。比喩ではなく宝物に思えた。
その手はとても暖かく手放したがい物で、だからこそ私なんかが独占しちゃいけないと強く感じた。
あの優しい手は私なんかじゃなく、もっと京ちゃんにふさわしい人を守るものなのだと。
だから、今傷つけられるものじゃ――――――



あ。
思い、出した……。

「着いたな、ってどうした。寒いのか?」
手が、足が、体が、震える。歯の根が合わない。
怖い。
怖い。
怖い。
「少し待ってろ、ホットミルクか何か作っといてやるから。その間に着替えて来い」
京ちゃんが手を離しそうになる。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「やめてっ!………………お願い、離さない、で。」
思わず声を張り上げてしまった。でも、どうしても、嫌だ。
「……。わかった、俺もついてってやるから。ほら行くぞ」
京ちゃんは何も聞かず手を握り直してくれた。優しさがありがたい。
手を引かれ、弱弱しい足取りで自分の部屋に向かう。
……あの話を聞いてしまったとき、最初に浮かんだのは、京ちゃんが傷ついているという悲しさではなく、
そこまでして京ちゃんが私を守ってくれたという暗い喜びと、このままでは京ちゃんを失ってしまうという恐怖。
思い浮かんだのは全部自分のこと。私はなんて醜いんだろう。
京ちゃんの為に自立するなんてほざいておいて、実際にその時がこようとしたらまた縋ろうとしてる。
でも、我がままだとしても、理性じゃどうにもできないこの恐怖。京ちゃんを失いたくない。
一人ぼっちは。
だから……。
「着いたぞ。さすがに着替えは一人でやって「京ちゃん、きて」
さっきとは逆に、京ちゃんの手を引く。そしてベッドの方へ。
「お、おい、透……?」
私が上になるよう京ちゃんと一緒にベッドに倒れると、さすがに京ちゃんも狼狽える。
「京ちゃん」
「……どうした」
「私に何をしてもいいから、どんな事でもするから」
一呼吸置いて、続ける。
「あなたのモノにして」
その言葉を言い切るのと同時に口付をした。

「……ん……ふっ……ちゅ……ぷはっ」
しばらく京ちゃんの息をむさぼってから唇を離す。
二人とも荒い息を吐く。
京ちゃんが何かを言う前に再びキス。
「……ちゅる……んんっ……うくっ……ごくっ。はっ、はっ……」
顔を話す。酸素が足りなくて頭がもうろうとする。
でも止まってはいられない。早くしないと。
少し体の位置を下げ、シャツのボタンに手をかける。
はずれない。
あせる。あせる。あせる。
あせりのせいで手が上手く動かず、さらにあせりが増していく。
はやく、はやくしないと――!
そんな私の手に、そっと京ちゃんの手が被せられる。
ビクッ!と自分でもわかるぐらい肩が震える。
「ご、ごめんね!こんな事もできなくて……。す、すぐするから!京ちゃんの手を煩わせたりしないから!」
はあ〜、と京ちゃんが息を吐く。ダメなんだろうか。私はもういらないのだろうか……。
「……押し倒した側がこんな震えてて、普通逆だろうが。で、どうしたんだよ。何があった?」
「怒って……、ないの……?」
恐る恐る聞いてみる。
「お前の奇行には慣れてる。今更これ位じゃ驚かねえよ。……誰かに何か言われたのか?」
京ちゃんが怖い顔をする。でも向けてるのは私じゃないみたいだ。私はまだ、守ってもらえるの?
「私はまだ……、京ちゃんと一緒に……、いられるの……?」
「当たり前だ。俺がお前から離れるなんてことは、ない。絶対だ」
嬉しい。
京ちゃんと一緒にいられる。
当たり前のことがこんなにも嬉しいなんて。
「あ、あはっ、あはは」
京ちゃんの言葉で何もかも救われた感覚に陥る。
とす、っと力が抜け思わず京ちゃんに倒れ込んでしまう。
何も言わずぽんぽんと背中をたたいてくれる。心が氷解していく。
もう止めることはできなかった。

泣いて、泣いて、泣いた。
力の限り今までため込んでいたものを吐き出した。
京ちゃんから離れようとしたこと。
京ちゃんが私の代わりにいじめられてると知ってしまったこと。
京ちゃんが傷つく悲しみよりも、自分を守ってくれた喜びの方が大きかったこと。
どうでもいいような些細なことから、隠し通そうとしたことまで全部。
吐き出し終わった後に「がんばったな」と声をかけられ、また涙があふれた。



「ぐすっ……あり……がとっ……もう、大丈夫……ぐすっ……」
まだしゃくり上げていたがだいぶ落ち着いてきた。
「そうか。…………体、冷えてないか?」
「そう、いえば……」
私は雨で濡れ、私が抱き着いていた京ちゃんの服も濡れていた。たぶん、ベッドも。
「ひぐっ……、ちょっと冷えちゃったかも……ぐすっ……しれない……」
そう告げたらブルっときた。今まではいっぱいいっぱいで気が回らなかっただけのようだ。
「風呂、沸かすから入れ。このままだと風邪ひく」
「京ちゃん……」
「……………………はぁ。そんな目すんな。一緒に入ってやるから」
「えへへ、ありがと」
やっぱり京ちゃんは優しいなあ。
お風呂を沸かしてる間さっきまで聞こえていた音を思い出していた。
トクン、トクンという周期的なリズム。
京ちゃんの心臓の音。
ありふれた音。たぶんだけど、別段他の人と変わった音をしてるという事はないだろう。
でも、それでも。
私にはそれだけで安心を与えてくれる救いの音。
だから、私には京ちゃんから離れるなんて最初から無理だったのだろう。
だって、私の人生は京ちゃんとイコールで結ばれるのだから。
今日までの私の稚拙な考えに思わずクスッと笑ってしまった。

「あったかいねえ〜」
「ああ」
久しぶりの二人でのお風呂。
さすがに向かい合う訳にはいかないので背中合わせに浴槽につかっている。
決して大きくない背中。でも温かい。気分が安らぐ。
「ねえ、京ちゃん」
落ち着いて、頭の中を整理して、頃合いを見計らった後、言葉を切り出した。
「なんだ」
京ちゃんの方も落ち着いたのか、いつものぶっきらぼうな言葉使いに戻ってる。
「あのね。さっき言ったこと、落ち着いたからもう一回ちゃんと言いたいんだ。聞いてくれる?」
「……ああ」
「私、京ちゃんのことが好きなんだ。昔っから、ずっと。好きで好きでしょうがないの」
告白してると言うのに、私の中は酷く落ち着いていた。今ならありのままをそのまま出せるだろう。
「でも私は嫌われ者で、何にもできないから、京ちゃんには相応しくないと思ってた。
京ちゃんが輝いて見える程、私自身は暗く、醜く感じられたの。だから、諦めようって思ったの」
でも……、と続ける。
「今日、私の代わりにいじめられてるって偶然知った時、怖かった。このままじゃ京ちゃんに嫌われる!って。
……落ち着いて、少しうぬぼれも交えて考えれば、守ってきた相手をすぐ捨てるわけはないってのぐらいわかるのにね。ははっ。
まあ、でも。怖かったんだ。自分がいじめられるぐらい嫌われてることなんかより、ずっと。
それと同時に嬉しかった。私なんかを身をていして庇ってくれることが。それも京ちゃんが傷ついてる悲しみを上回る程。
酷い女だよね。結局自分なんだって実感したよ。京ちゃんのために離れる!なんて考えてたけど結局は縋り付く事しかできない。
私は寄生虫。宿主から養分を吸い取るだけ吸い取って、返せるものは何もない。京ちゃんにとっての害悪。
でも、それでも、私は京ちゃん無しじゃ生きられないの。京ちゃんが居なくなった時のことを考えると、
目の前が真っ暗になって、頭の中ぐちゃぐちゃになって、息もまともに吸えない。
だから、どうやったら一緒にいられるか考えた。考えて考えて考えて、私なりの答えを見つけたの」
すぅ、っと息を吸う。ここから正念場。
「私を、あなたの所有物にしてください」
「お前!それはさっき!」
京ちゃんが怒気を含んだ声を上げる。当然だ、さっき止めてもらったばかりなのだから。でも、ここは譲れない。
「最後まで聞いて、ね?私、何も返せないのは嫌。でも私は何もできないから……、京ちゃんに何をすればいいか決めてもらう。
京ちゃんが私を好いてくれるなら、喜んで恋人になる。癒して欲しいなら、お母さんみたいにマッサージとか何でもやるよ。
家事はまだ苦手だけど、望むなら家政婦さんみたいにもなる。イラついたら殴られるし、性欲がたまったら、エッチな事もする。
あなたの望む事なら何でもするから……、都合のいい道具としてでいいから……、あなたのそばにずっと置いてください」
懇願する。私の心からの願い。京ちゃんに私の全てを捧げられるのなら、私は他に何もいらない。
背後から息を吐く音がして、そして。
「……絶対に、粗末になんか扱わないからな」
「うん。ありがとう」
こうして私は京ちゃんの『モノ』になった。

「えへへ。あらためてってなると、ちょっと気恥ずかしいね」
お風呂を出て体を拭いた後、私たちは部屋に戻った。
今は二人並んでベッドに腰掛けている。
もちろんこの後の行為のために服は脱いだまま。
ただ二人とも経験がないからか、どう始めたらよいかいまいちわからずさっきまで無言が続いた。
「そう、だな。…………スマン、あんまこういった経験なくてどうしたらいいかわかんねえ」
「ううん、気にしないで。むしろそっちの方が嬉しいよ」
私なんかが京ちゃんの初めてになれるんだ。『モノ』には過ぎた幸福だ。
京ちゃんの手を握る。そして自分の胸に当て、告げる。
「こうしないと雰囲気が、とかそういうのは考えなくていいよ。私は京ちゃんがやりたい事をやってくれることが嬉しい」
「……じゃあ、キスして、いいか?」
「うん!」
お互いに顔を近づける。一回目はそっと触れるだけで離れた。そして一瞬視線を交差させ再び近づき、今度は長いキスを。
「ん」
唇を軽く舐められた。それに応え口を少し開ける。そして恐る恐ると言った様子で伸ばされてきた舌を舐め返す。
驚いたのかビクッとちょっと戻されたが、追いかけて今度は大胆に絡ませた。
しばらく舐め続けていると慣れてきたのか、京ちゃんも舌を積極的に動かしてくるように。
じゅる、じゅるる。
口から溢れた唾液がたれ始める。それが勿体無くて極力飲むように努める。
美味しい、そう感じる。実際には味なんてないんだろうが、特別なものだと頭が反応し、錯覚を生みだす。
一滴体内に入るたび、幸福感が体に沁み渡り満たされた。もっと飲みたい。貪欲にそう思ってしまう。
「ん……ちゅー……、プハっ!、はあ、はあ」
しかしいつまでも息が続くものではなく、必然的に離れないといけなかった。
二人とも軽く息を切らし、呼吸を整える。
「なんか……、幼馴染の一線を超えたって感じがするな。今更だけど実感わいてきた」
二人ともが落ちついた後、ぼふっとベッドに倒れ込んだ京ちゃんがそう告げてくる。
「私は、前からただの幼馴染だとは思ってなかったよ?」
色々含んだ笑みで返す。良くも悪くもその線はずっと前に通り過ぎたから。
「いや、俺もそうだけど……、あー、くそ、何て言っていいかわかんねえ」
相手に伝えるための言葉を探せず、ガリガリと頭をかいてごまかしている。
それを見て嬉しくなった。
今まで大変な思いをさせて、今日は今日で方向が違うが無理をさせてしまった。
だけど京ちゃんは変わってない。昔のままの、私が大好きな京ちゃんのままだ。
胸がポカポカしてきて、思わず京ちゃんに重なるように倒れ込んだ。

「おっと」
「えへへ」
ぽすっとベッドをきしませながら受け止められる。
驚かせてしまったようだが、引き離されはしなかった。
まあ当然か。これから肌を重ね合せようとしているのだし。
「随分と嬉しそうだな」
「関係が変わっても、私の大好きな京ちゃんのままだってわかったから」
「……そうか」
「あ、少し照れてる」
「うるせー」
穏やかな空気。実際の関係からは似つかわしくないほどの。
「京ちゃん、そろそろ」
「わかった」
抱きしめられたままベッドに垂直だった体を、平行に。その後私が下になるようくるりと反転した。
「胸、触るぞ」
「うん」
正直大きいとは言えない私の胸。初めて触るであろう胸がこれだと思うと、色々と申し訳なくなる。
「胸ってこんなに柔らかいんだな」
「……追い撃ちをかけられた気分」
「?なに言ってんだお前」
「ううん、気にしないで」
そんなことを言ってる間にも胸への愛撫は続いている。
初めは恐る恐ると言った感じだったが、少しずつ激しくなってきている。
人に触られるというのは異聞でするのとだいぶ感覚が違うようだ。好きな人が触ってるってのもあるかもしれない。
体がポカポカし始める。
それと同時に少しずつ声が漏れる。
「んっ」
「痛いか?」
手を止め心配してくる。私なんかに気を使わなくてもいいのに。
「大丈夫、気持ちいいよ。……できれば、下もお願い」
「やってみる」

京ちゃんが体を下へずらす。
そして少し湿っている私の秘部をなぞり始める。ゆっくり、慎重に。
「そんな優しくしなくていいよ。触りたいように触って」
「わ、わかった」
動きが少し大胆になる。それでももどかしさが残ってるけど。それでも触ってるのが京ちゃんだからか、それすらも心地いい。
「はっ……あっ……」
声が熱を持ち始める。自分で聞いても色っぽさは感じないけど、京ちゃんにはどう聞こえるのかな?
下を見て見る。
ほんのり顔を赤くしていた。真剣で真面目そうな顔で私の大切なところを、いや今は京ちゃんのモノだけど、を見つめてる。
あんまり感情を表情に出さない京ちゃんだ。珍しい物を見てしまった。
面白くてそのまま見ていると、京ちゃんが顔を下ろし私に口付た!
「きょ、京ちゃん!?汚いよ、そんなとこ!ダメだって!」
「落ち着け、透。お前は俺の“モノ”なんだろ?なら俺が何しても問題ないはずだ」
「で、でも……」
「それに、お前の体を汚いなんて思った事はないよ」
「うっ」
テンプレート的な恥ずかしいセリフを言われてしまった。
立場上言い返すわけにもいかないし、ここで拒否したら京ちゃんが恥ずかしくなってしまうだろう。
……甘んじて受けるしかない。
「……わかった。続けて、ください」
「おう。ようやく主導権を取れたって感じだな」
京ちゃんが再び顔を埋める。ぺちゃぺちゃっと音を立てながら私を舐める。
今たぶん私の顔は真っ赤になっているだろう。今までで一番恥ずかしいかもしれない。嫌ではないのだけれども。
羞恥心による感情の高まりを性的興奮と脳が取り違えているのか、さっきより感じやすくなってる気がした。
舐められるたびつま先が、ピクン、ピクンと動く。
シーツを思わず握ってしまう。
余裕を失っていくのを感じた。さっきまではもう羞恥心とは無縁だろうなあとか思っていたのに。まだ普通の人だった。
――――こんなんじゃだめだ。私は“モノ”なのだから。
「京ちゃん。もう準備はいいから、さ」
「わかった」
ここでがんばらなきゃ。

「入れるぞ。痛かったら言えよ。無理はするなよ」
「うん、大丈夫。京ちゃん言われたことなら守るよ」
ウソだけど。ここでひとつ、京ちゃんに都合のいい反応を返して道具としての名誉を挽回しよう。
京ちゃんのモノが私に触れた。
喜びと期待と、若干の恐怖。
つぷっとそれが私の中にいいいいいいいっっ!?!?!?!?
「先、入ったけど……、やっぱり怖かったりするか?」
「うん……、実を言うとちょっと、ね。でも、大丈夫!京ちゃんだからね」
ホントの実のところは痛みが酷過ぎて、この後が怖いなんて考える余裕もなくただただ耐えるのみだった。
愛する人と一つになれた喜びが無いかと聞かれると、違うとはっきり否定できるが、痛い物は痛いのだ。
それをよく表情に出さずに会話できたと自分をほめたくなる。
「進めるぞ。……ぐっ」
いたいいたいいたいいたい。小さい穴をメリメリと広げて入ってくる。
京ちゃんもキツイのか時折苦しそうな顔をしている。
「私の、ちょっと狭いみたいだね。京ちゃんも無理しないでね」
「……スマン。心配かけたか?」
「ちょっと苦しそうだった。ゆっくりがツラいなら一回一気に奥まで入れた方がいいんじゃない?」
我ながら恐ろしい提案であった。実行されたら演技がばれる可能性が高い。
だが、違うのだ。
京ちゃんは私から苦痛なんか受けてはいけない。
私は京ちゃんが与えてくれるものすべてを享受しないといけない。
決定的な違い。
そしてこれがボーダーライン。私が“人”か“モノ”か、の。
とても重要な線引き。これを超えれて初めて私は京ちゃんの“モノ”になれるのだろう。
あと一歩。
それだけで。
だから……。
「だから……、私は大丈夫だから……、来て?京ちゃん」
「わかった、いくぞ」
さあ踏み出せ私。
一つ、息を飲み覚悟した。

「――――――――――」
声、出ない。苦しい。酸素が欲しい。
だが、そんなものは後だ。もっと大切なものがある。
「京ちゃん、気持ち、いい?」
笑えているだろうか。
私はモノに近づけたのだろうか。
京ちゃんに、喜んでもらえているだろうか。
「ああ、透。お前の中、すごい気持ちいい」
「嬉しい、嬉しいよ。京ちゃんに喜んでもらえて。本当に」
狂喜。狂喜。狂喜。
京ちゃんからの言葉、感情、痛みさえも全て私を満す祝福となる。
もっと。もっと。もっと!
「京ちゃん、動いて。もっともっと激しく!……一緒に気持ち良くなろ?」
「ああ、いくぞ!」
ズチュッ!ズチュッ!
血が潤滑油になっているのか、それとも痛みに反応して愛液が出てきたのか結合部からは液体交じりの音が生じていた。
「――――はっ――――がっ!――――っ」
「くっ、きっつッ!」
何度往復しても痛みが引いてく方には進まず、むしろ増していった。
だけど、これでいい。これがいい。
もっと体に刻み込んで欲しい。この一瞬を決して忘れない思い出に!
体は本能的に京ちゃんの一部を締め付け続ける。決して離さないように。
「あっ、んんっ、ひゃ!」
とうとう頭が痛みを快楽と取り違える様になったのか、私の声にもなまめかしい物が混じり始めた。
京ちゃんから与えられる甘味はこれ以上ない熱を持っていた。
その熱をエネルギーに更に甘味をむさぼろうと私の体は半場自動的に突き動かされる。
「くっ――あっ――とお、る!も、う我慢できねえ!」
「いいよ!出して!中に、出して!」
私の声が届いたのか、それとも無意識か。
最後に京ちゃんは腰を思いっきり叩き付け、私の最奥へと自身の物を注ぎ込んできた。
「あっ……つ……い!京、ちゃん……」
「透……」
バタッ
京ちゃんが重なるように倒れ込んできた。
二人とも息切れ切れだ。
しかし、それでも最後に私達は。
キスを
   し
    た
     。

「……ん、ちょっと眠っちゃった……かな」
目を覚ます。目の前には京ちゃんがいた。
眠ってる私の髪を撫でていてくれたようだ。
素直に心地よかった。
「起きたか」
「こういう時は眠らないんだね」
「うるせー。」
撫でる手が強くなりガサガサっと髪をかきたてられた。
「わっ、わっ!」
ちょっと驚く。
「まったく、心配させやがって」
あきれ顔で溜息をつかれる。
「ごめん」
「いいよ」
あっさり許しが出る。やっぱり京ちゃんはどこまでも私に甘かった。
そんなぬるま湯につかっていたんだ。自立できなかったのも当然か。
「やっぱり京ちゃんは優しいね〜」
「なんだ、いきなり」
「なんでも〜」
私がモノになりたいと言った時、真っ当な人なら怒って突き放していただろう。
こんな重すぎる女、誰がしょい込みたいなどと思うのか。
……もし、あそこで拒絶されていたら。私は現実を直視できなかっただろう。できても気が狂う自信がある。
だが、京ちゃんに近づく事だけはそれ以降しなかったと思う。それ以上嫌われるのが怖いから。
だからあそこが私を切り離す事ができる最後の一線だったんだろう。
もうこれからは離れることはできない。
だって知ってしまった。京ちゃんの優しさを、体を、この世で最も至福であろう時間を。そして余すことなく味わった。
戻れないのだ。愚かにも独り立ちをしようとしたあの頃には。どうやっても。
――どんな事があっても京ちゃんの傍にいる。
これが私の今後の人生における唯一の望みになるだろう。
あとの物は全て切り捨てても構わない。そう言い切れる。
「透、落ち着いたんならさっきの言葉を取り消しとけ」
「さっきの?」
「モノがどうのってやつだ。お前は人間で、俺の彼女だ。モノになるなんてもう二度と言うな」
真剣な顔で、少し怖い顔で、怒られる。
でも、それは……。
「うん、わかった」
口だけ。心は変わらず。だって今後京ちゃんがどう心変わりするかなんてわからないのだ。
いざって時に対応できないと困る。二度と言うなって言われたから表には出さないけど。心に秘める。決して忘れない様。
「京ちゃん、私を人間にしてくれてありがとうね!」
さあ、この世で一番幸せなモノとしての時間を始めよう。

このページへのコメント

素晴らしい…!
とても続きが気になります。

この際京ちゃんも徹底的にご主人様として覚醒してほしいところ。
でも彼女がどれだけ人権放棄しても、絶対に愛情だけは忘れないでほしいなぁ。

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Posted by 新参者 2013年01月11日(金) 17:23:50 返信

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