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緑茶 ◆vUu2nK2xdY 帰りたい男7

ヴァナ・ディールにやってきた男が子ミスラに振り回されながら
どうにかして現実世界へ戻ろうと試行錯誤の毎日。
果たして報われる日は来るのか?
苦労人の主人公と天真爛漫子ミスラ二人のハートフル珍道中!




第七話


 焼け焦げた扉が内側からの衝撃によって破壊され倒れている。木材で出来た扉は煤となり一部は今も燻り続け
て、その匂いが辺りを包んでいる。
 これが自分の部屋のものでないならば良かったが、悲しいか自分に宛がわれた冒険者用宿泊施設モグハウス
の自室の扉である。事が終った後に自分でこれを直すかと思うと気が重い。
 手にした銃を確認する。一度に装弾できるのは六発、ヘキサガンと呼ばれるタイプの短銃だ。これから対峙する
敵に対しては少し心もとないフォルムではあるが、以前読んだ週間魔法パラダイスの記事に出ていた女冒険者の
愛用の品だけあって信頼性は十分である。
 もう一度扉の方に目をやれば破壊された扉の影からこちらを子ミスラが伺っている。頭上にある猫耳は一定の
リズムを刻み、お尻についている尻尾は場違いのようにフラフラと宙を撫でている。しかし表情は完全に怯えきって
いる。
 彼女がこちらを見つめている眼に映るのは俺――ではなく、室内に居る一つの巨大な影であった。
 そして、その巨大な影と対峙しているのが他ならぬ俺自身である。朝起きたらゲームの世界、Final Fantasy XIの
世界に、ヴァナ・ディールという世界に居た俺は、ただ自分がいた現実世界に戻ろうとしていただけなのに、何故
こんな状況になってしまったのだろうか。
 過去を思い返して今が変わるわけではないが、この均衡が崩れない内にどこに原因があったか思い返してみて
損はないだろう。
 発端は人々がにわかにヴァレンティオンのイベントに浮かれ始めた、そんな朝から始まったんだろう。

……多分な。

 実際問題、ヴァナ・ディールから現実世界に戻るための活動も重要であるが、その基礎となる体力は
日々の生活がままならなくては始まらない。なにより不味い食事よりは、美味い食事のが良い。
 ここウィンダスの国が誇る調理ギルドやレストランの食事に頼ってばかりというのもなんだしで、その日
の朝も自炊の為に漁師ギルドや競売へと食材の調達から始まるはずだったが――。
「遅い……どこで油を売っているんだか……はぁ」
 もはや我がモグハウスの第二の居住者となっている子ミスラが魚を選ぶなら任せておけ、と勇み足で俺
より早くモグハウスから出掛けて行ったのだが、いざ漁師ギルドについてもどこにもおらず、ギルドの人に
聞いても彼女はまだ来ていないらしい。
 どうしたものかと漁師ギルドの前で立ちすくんでいると、何事もなかったかのようにトテトテと子ミスラが
重役出勤してきた。まったく先に出たのにどこいっていたんだか。
「森の区に新しく来た、変わったミスラさんに会いに行ってたんだにゃッ!」
 そういえばこの前にあった嵐の翌日に、この漁師ギルドに打ち上げられたってミスラがいたな。そりゃまぁ、
嵐の日に海水浴する人間、いやミスラが変わっているか変わってないかで言えば、もちろん変わっているだ
ろうな。
「にゃにゃにゃ? そうにゃ! 色々と変わっていたにゃ!」
 そもそも、このヴァナ・ディールやウィンダス国内において現実世界が当たり前の俺にとって、変わって
ない人間の方が遥かに多いぞ。恐竜のような尻尾に上半身が発達して筋肉隆々のガルカ族、首やら耳やら
体のパーツが妙に長いエルヴァーン族、子供のようで実際は子供の外見とは異なるタルタル族、目の前に
居る子ミスラに至っては猫人間と言うしかない容姿、獣人族は完全にモンスターだしな。その中でヒューム族
だけが俺の知っている一般的な人間と同じだと言えよう。
 そう考えると子ミスラから見た変わったミスラというのはどういうものを指すんだろうな?
 いやいや、とにかく寄り道するなよ。
 そんなことより森の区の競売にも行く必要があるんだから、まず漁師ギルドに並んでいる魚をさっさと選ん
でくれ。
「わかったにゃーッ!」
 言わなくてもわかるだろうが、美味いのを頼むな。間違っても季節限定だけど美味くないものや、見た目が
面白いという理由で選ぶんじゃないぞ。
「も……もちろん、わかってるにゃッ!」


 漁師ギルドでの買い物の後、競売に来た俺達は何事もなく食材の買出しを終らせ、そのついでと言っては
なんだが、ウィンダスを護る森の区のガードのラコ・ブーマ隊長に挨拶をしにいった。まぁ社交辞令の一環だな。
「おはようございます。ガードのお仕事ご苦労様です」
「ご苦労様ですにゃ!」
 するとブーマ隊長は、きりっとした笑顔で返してくれた。少し肌寒い日にも関わらず、美しい御御足をあらわに
した脚装備で仕事に就いている。心なしか初めてあった頃よりも肌の艶が良いような気がする。
 いやいや、そんなやましい目で見ていると俺の品格を疑われかねないからな、挨拶も済んだし早々に立ち
去るのが賢い付き合いというものだろう。
「ツヤツヤ脚に、ほっぺたスリスリにゃ〜」
 誰にも気づかれずに近づいた子ミスラがブーマ隊長の御御足に頬を摺り寄せている、羨ましい……。
 いや、そうじゃないだろ!
 あっけに取られていた隊長に謝り、返事を待たず子ミスラの首根っこを捕まえ一目散にその場を立ち去った。
俺は子ミスラに、お願いだから悪戯しないでくれ、と釘を刺しておいたが、当の子ミスラは「にぅぅ」と、わかったん
だか分かってないのか、生返事をしていた。


 買出しが終わり一息ついた俺が街を見渡すと、ヴァレンティオンのイベントがちょうど始まったところであった。
愛する人に気持ちを伝えるイベントか……。ヴァナ・ディールさん愛しています、お願いですから俺を現実世界に
戻してください。と告白しても、きっと聞く耳すら持たないだろうな。今までもそうだったし、これからもそうだろう。
だからこそ俺は自力で、この世界から脱出するべきと考え行動しているのだ!
 っと、まぁ、買い物袋をかかえた姿で言っても説得力ないか。
「説得力ないにゃ!」
 無邪気とは言え、子ミスラに言われると何故か心にグサリと来る。そんな自分が悲しくもある。
「しかし、バレンタインのイベントはあるのに、節分、豆まきのイベントはヴァナ・ディールにはないんだな」
「にゃにゃにゃ!? 節分? 豆まき?」
「知らないか。……あたりまえか。簡単に説明すると、棍棒を持った悪い鬼に豆を投げて厄払いする、
ちょっとした季節の行事だな」
 きっとこの台詞がいけなかったんだろうな、誰とは言わないがたまたま後を通りかかった彼女の耳に入り。それが
巡り巡って俺のモグハウスの扉を焼いた原因になったわけだ。時既に遅しってやつだったな。
 彼女はウィンダスという国に名を連ねる博士の一人で、魔法はもとより鈍器の扱いにも長け、破壊と人を足蹴
にすることをこよなく愛する、傍若無人な人間であった。もちろん誰とは言わないし口にも出来ないが……。
 そんな彼女の家まで招待され、節分とは何たるか、豆まきとは何たるかを説明することになってしまったの
は言うまでもあるまい。


「節分というのはですね、季節の変わり目の前日の事を指していて、ここでは冬から春にかけての境目の事
を言って。その日に悪い鬼に見立てた厄を、炒った豆を使って追い払うってのが豆まきで――博士聞いてます?
え、鬼って何かって? んー。角があって、赤い肌や青い肌をしてたり、怖い顔をして、手には棍棒をもっていて
……他に何か特徴あったかな……。兎も角、悪い奴の象徴みたいな、そうですね。モンスターといっても良いと
思います」
 俺が説明している横で、子ミスラは口を四角に開けてカタカタと震えていた。どんな鬼の想像をしているんだろ
うか。
 最近悪戯がすぎるから、後でこれを使って少し脅かしておいても良さそうだな。
 その後も、鬼の説明に続き、豆まきの時の掛け声や、魔除けの品に関しての説明を余すことなく説明するに至
った。人間自分では無駄なことだと思っていても自分の文化を説明することにより、異文化コミュニケーションが
成立するとは良く言ったものだ。中学校だか高校だかに習った遣隋使の小野妹子を今なら尊敬できるね。あんた
は良くやったよ。言葉が通じる相手でこのプレッシャーだからな、ほとんど言葉の通じない相手に異文化コミュニ
ケーションを成功させたんだ、その大変さが今なら良くわかるぜ。
 ひとしきり説明が終ると某博士も満足したのか、やることが出来たから帰れとのお達しがあった。ええ、日も傾い
てきましたし、なにより昼飯ヌキで喋り通しましたし帰らせてもらいます。とは流石に口には出来なかったので、
愛想笑いと共に帰路へついた。


 日が落ち夕飯を食べ終わった頃には漁師ギルドで選んだ2匹のバストアサーディンは仲良く頭と骨だけ
の存在になっていた。新鮮な海の幸を毎日のように食べられるのは至極幸福ではあるのだが、ここヴァナ
  • ディールにきて時折、現実世界が恋しくなって……か、どうかはわからないが、ハンバーガーなどのジャン
クフードを炭酸飲料で喉に流し込みたくなることがある。誰か俺に現実世界から差し入れしてくれるなら、
安いセットメニューで良いからよろしく頼む、毎日はいらないけどな。
 腹が膨れたことをバストアサーディンに感謝しつつ俺が食器を片付けている横で、子ミスラは帰り際にどこぞ
で拾ってきたホリー原木の枝を両手に持って振り回して遊んでいた。目に当たったり、食器に当たったりしたら
危ないから振り回さないで下さい。葉っぱが軽く凶器です。
 二刀流は忍者のジョブ特性が必要らしいが枝を振り回すのには必要ないのかと頭の隅で考えつつ、俺は
子ミスラをちょっと驚かせてみることにした。
「ほらほら、危ないことや悪戯ばっかりしている悪い子は、明日の節分の日をすぎると家の中に入れなくなって。
おまけに、悪い鬼に連れ去られるからな。お前も気をつけろよ」
 子ミスラの全身が思考と共にゼンマイの切れたブリキの玩具のように止まり、その手からは持っていた枝が
カサリと落ちる。
 しばらくして、彼女の口の開いた頭だけがカタカタとこちらを向いた。
「オ、オニさん、こここ……、ここにも来るかにゃ?」
「そうだな。夜更かししている悪い子の所には来るかもしれないな」
 あわわわわ、と挙動不審なロボットダンスを数秒やったあと、思い出したかのように寝支度をし始め、
「ももも、もちろん今から寝るところだったにゃ! おやすみにゃッ!」
 猛禽類に狙われたプレーリードッグが地面にある巣に帰るが如く、危険を察知したウラグナイト族が
自らの殻に閉じこもるが如く、子ミスラはベッドに潜り込んでいた。俺のベッドなんだがな、そこは。
 兎にも角にも、思いつきの軽い躾は子ミスラの夢想の中の鬼も手伝い成功に終った。しかし、彼女の
善行もむなしく夢想の中ではない、紛いもない鬼の来訪の準備が、我がモグハウスへと某博士の手に
よって着々と行われていたのもその時だったのだろう。


 翌朝目覚めるとポストに水晶玉と二丁の銃と、前日に会った某博士からの手紙が入っていた。
 パジャマ姿で起きてきた子ミスラが透明に輝く水晶玉の魅力に取り付かれている横で、俺は手紙を
読むことにした。その内容を掻い摘んで説明するとこんな感じだ。
 ――昨日、異国の風習を聞かせて貰った礼にアトルガンで手に入れたキメラの胚のレプリカを使って
作った鬼を水晶玉に封じ込めたので、ここウィンダスに来ても豆まきが出来ることを感謝するが良い
――と、礼を言っているのか、感謝して欲しいのか良くわからない内容だった。
 銃がついているって事は、これで鬼に豆を当てるということだろうか? あの博士は豆まきを何かゲーム
か何かと勘違いしているのではないだろうか……。
 そして、注意書きにはオーブを割ると中から鬼が出てくるので指定区域で使うようにと書かれていた。
バルガの舞台やワールンの祠などの専用バトルフィールドがあることは、現実世界でゲームをやっていた
時から知っていたので、恐らくその場所の事を指していることは容易に想像がついた。
 それはモグハウスを借りるような冒険者に取って当たり前のことでもあった。
 さて、ここで問題だ。冒険者にとって当たり前の事は子供にも当たり前か否か。今その取扱危険物
であるオーブを誰が持っているか? 答えは一行後。
 一つの物体であったものが細かく破砕される甲高い音を俺の耳は確かに聞いていた。
 振り向かなくても、状況は如実にわかることではあったが、このような場合どうしても人間振り向いて
しまうものだ。そして案の定、俺の視界にはその手から落としたであろう子ミスラと、その足元で派手に
砕け散っているオーブがあった。俺の心の中でもきっと何かが砕け散ったはずだろうな。
「かかか、勝手に手の中から石ころころりんなのにゃッ! ホントにゃ……ちょっとだけツルっと……
したかもしれにゃいけど……」
 必死で言い訳をしようとする子ミスラに対し、俺は頭脳を活動停止すべく頭を垂れるはずだったが――
 なんだこれは!?
辺り一面、部屋中を隈なく虹色の霧が充満している。吸い込んでも大丈夫なのかこれは……そして出所は
……そりゃ、今割れたオーブが一番怪しい。すぐさま眼を移すと海水浴などで時折見かける目隠しされた
人間に叩き割られたスイカが見事に役目を終えたような姿をしている元水晶球が現在二つの半球状の塊がある。
 問題の霧はやはりここから出ていた。何なのだ、このアストラル的な何かのような霧は? 混乱した頭を
落ち着かせろ、問題はこの霧自体ではない、この後に起こることなのだ。
 虹のような霧が役目を終えたように晴れてゆき、そして一つの影が浮かび上がる。
 そうだ、さっきの注意書きには何と書いてあったか? 今、俺の両目はそいつを捉えていた。
「――なんだこいつは?」
 マンティコアと呼ばれるモンスターをご存知だろうか、有翼獅子とも呼ばれる何とも凶暴そうなモンスターな
のだが……何を間違ったのかそいつをベースに体は赤色に、頭には申し訳ない程度の角が、知性の
かけらも無さそうな顔に似合わず片手には棍棒が握られている。
 どうやら昨日、某博士との異文化コミュニケーションの意思疎通は失敗だったようだ。一般的な鬼と
これっぽっちも似ていない。同時に小野妹子を賞賛したが、考えてみれば俺の置かれた立場は異国
どころではなく異世界だ。誰か異世界に飛ばされた偉人を知らないだろうか? その人の著書が在る
ならば凶器になりそうな書籍で百巻あろうが読みきってみせるから。
「あ、ああああ、あれはもしかして鬼かにゃ?」
 俺の服の裾をひっぱり、今出てきたマンティコア……いや鬼を指差して、今にも泣き出しそうな表情
の子ミスラが訊いてくる。
 取り敢えずフレンドリーな関係を作れそうな感じではなさそうだな。となればゲーム内ならばオーブを
使ってやることは一つしかない。戦闘である。この場合、敵に名前をつけるなら――。
「やっぱり鬼なんじゃないか?」
「はわわわわ。どうするにゃ、どうしようにゃ。やっぱり……」
 何やら必死うろたえる子ミスラは、ジリジリと後ずさりし始める。二、三歩動いた所で床が軋み、鬼が
反応する。
 ――まずい、気付かれた。
 鬼は口内に炎を溜め込み一度大きく空気を吸い込む。この動作は火炎の息。そしてターゲットは俺で
はなく子ミスラの方。
 大きく動き出した鬼に対して驚いたのか子ミスラは本格的に外にモグハウスの出口に向かって走りだ
す。このままでは後から狙い撃ちである、どうにかして避けさせなければ。
 走り出した子ミスラの肩を掴むことは、もう火炎の息が吹かれるまで間に合わない。仕方が無い。もし取れて
しまったら責任取るから怨むんじゃないぞ。俺は体を捻って上体を低くし子ミスラの尻尾に腕を伸ばし掴む。
間髪をいれず引っ張る。すると子ミスラは、「にゃッ!?」に濁音が混ざったような奇声を発したあと、見事に
前のめりに鼻の頭を打ちそうに転んだ。鼻は打ったかもしれないが尻尾は取れてないようだ。いや、よかった。
 立っていれば子ミスラの頭があった部分を火炎の息が熱気を伴いながら走り、火炎はその先にある扉を衝撃
と共に包み込み焼かれ破壊された。
 俺と子ミスラは壊れた扉と扉を壊した鬼をシンクロナイズドスイミングのように見比べた。流石半年間近く一緒に
居るだけあってタイミングもバッチリだ。合わせる必要はもちろん無いがな。
 しかし、その後の行動は子ミスラは壊された扉の影に逃げ、対して俺は手に持った銃を構えなおした。


 と、まあ、回想も終ったんだが、勝利の方程式が見えるでもなく現状を打開する道が見つかるわけでもなく、
やはりこの手にした銃で応戦しなければいけないようだ。子ミスラの方は後ろの方で竦みあがっているし、自分と
子ミスラと自分のモグハウスがこれ以上破壊されないように目の前の敵を倒すのは俺以外に居ないだろう。
 手にした銃のグリップ感を再度確かめる、博士から送られてきた鬼なのだから、同時に送られてきたこの
ヘキサガンならば倒せない道理はないだろう。
 どれだけの知能があるのか知らないが、未だ様子を伺っているマンティコア改め鬼に銃口を向ける。勝負の基本は
先制攻撃、この一発で仕留められるようなことがあれば、それこそラッキーである。むしろそうなってくれ。
 それほど重くもないトリガーに力を込める。この距離なら外しはしないだろう。トリガーを引ききると劇鉄が落ちる音に
鬼が反応した。
 なぜだ? 発砲音が全くしない!? それどころか銃口からは、コロンと豆が落ちてきただけだ。どうなって
いるんだこれは、確かに節分は豆を鬼にぶつけるのがセオリーだが、発射するものが何であれ銃口から飛
び出ないなら銃の形状である意味がないだろ。何考えているんだ、あの博士は。
 それよりも、鬼が今まさに片手にもった棍棒を振りかざしている。まずい。あの豪腕と棍棒から繰り出される
ホームランアタックでも食らおうものなら、俺の体と意識が場外へ飛んでいくこと請け合いだ。
 避けなければ。既にスイングの開始した鬼に対し俺はバックステップで距離をとる。駄目だ。まだ距離が
足りない。こうなったら銃弾を避けるミスターアンダーソン君が如く、荒川静香のイナバウアーの如く、上半身を
反らせて避けるしかない。間に合え。
 仰け反って天井を向く俺の鼻先を棍棒がかすめていく。間に合った。しかし俺は氷上の女神でも、電脳空間を
自在に活躍するヒーローでもない。そのまま一人バックドロップを敢行することになったが、それでも助かったと
言えよう。見事に頭を打ったがな。
 それが功を奏したのかもしれない。俺はこの世界が持つ特殊性と、豆まきに欠かさずしている事が頭の中で
関連付けられた。ヴァナ・ディールの世界には一般的テレビゲームと同じく魔法がある、それは言葉という媒介で
発動される。そして豆まきをする時に必ず言う言葉がある。そうだ、それしかあるまい、このナマクラ銃を使い物に
する可能性は。
 体勢を立て直し、銃口を鬼に向ける。発する言葉はヒラケゴマでも、テクマクマヤコンでも、うはwwおkwwでも
ない。俺は引き金を引くと同時に言葉を発した。
「オニハソトッ!」
 力ある言葉と共に銃口からは、魔力を帯びた豆が吸い込まれるように鬼に向かっていきヒットした場所で破裂
する。見事に巨大な体を大きく仰け反らしダメージを負わせることが出来た。
 鬼のヘイトもどうやら十分に貯まったらしく本格的に攻撃を仕掛けてくる。しかし、攻撃モーションが元々
大振りなモンスターである、そのことごとくが俺の力ある言葉と共に撃たれる銃によって攻撃そのものが
スタン状態になり、こちらの一方的な攻撃を続いた。
 一発撃つ毎に体力を減らされていき次第に動きの悪くなるのが見て分かる。あと一発で仕留められるか、
と思った時にそれは起こった。
 ――弾切れである。
 最初に一発無駄打ちした分が今となって悔やまれる。床を見渡してみても、さすがに運よく転がっては
いないだろう……いや、あった。どうやら天も俺を見放していなかったらしい。入り口からこちらを覗く
子ミスラの足元に転がっていたのだ。
「そこの足元に転がっている豆を取ってくれ」
 優勢になりつつある戦況からか怯えた表情が少し抜けた子ミスラは、俺の呼びかけに視線を落とし足元に
ある豆に気付いた。
「お豆さん? ころころコロリンにゃ〜ん」
 足元に転がっていた豆を子ミスラが手に取る。よし、その一発を撃ち込めば、この馬鹿馬鹿しい豆撒きも
終焉を迎える。これでジ・エンドってやつだ。
「おいしそうにゃ〜」
 まぁ、炒った豆だからな、そりゃ食べられ――まて……。
「あ〜ん。パクッ……おいしいにゃ〜」
 どうやら天は見放してなくても、子ミスラは現状を理解していなかったらしい。窮地に逆戻りである。
 どうするよ俺? 使える物を探せ、頭を回転させろ。そうだ、豆自体は食べられる普通のものなのだ、
昨日競売で買った豆でも問題ないかもしれない、武器の一つでもあれば応戦できるんだろうが、今あるのは
昨日寝る前に子ミスラが振り回していた棒切れぐらいだ、刃物なんぞ置いておいて子ミスラの玩具になるのは
危険だと収納家具の奥へと入れてしまった。今から出している暇はない。
 未だに鬼の方はダメージが抜け切らず怯んでいる。俺は豆の入った袋に手を乱暴に突っ込み、ヘキサガンに
装填しようとするが……基本的に銃というものは決められた口径に合う弾丸を用いる必要があるのだ。言うまでも
あるまい、今手にしている豆では大きすぎて詰められないのだ。
 こうなったらもうヤケクソだ、いや伝統的な方法とも言えるか、この際どっちでもいい。そのまま投げつけてやれ。
装填することが出来ず行き場が無くなった手の中の豆を鬼に投げつけた。もちろん例の言葉もセットでだ。
「オニハソトッ!」
 意外だった。どういう原理かは分からないが。手から放たれた豆は先ほどよりは力なくだが、放物線を描かず
魔力の篭った独特の射線を描いて鬼に当たり、そして同様に銃から撃たれたものよりも軽い破裂音ではあったが
ダメージを与えることが出来たようだ。
 未だに薄く残る虹色のアストラル霧(仮)の効果なのだろうか、そう考えるとヘキサガンの方はブースターの役割が
あるのだろうか、思考を巡らしても答えは出ない。ならば目の前にいる鬼を倒して、気が向けば某博士を問い詰める
までだ。気が向く日は来ないだろうがな。だってそうだろ? 誰も死にたくはないからさ。
 そうなのだ、目の前にいる息も絶え絶えな鬼も例外ではなかった、俺が出会って早々に知性の方を疑ったが、
どうやら満更でもなかったようだ。偶然かもしれないが、軽い破裂では止めることの出来なかった火炎の息が豆の
入った袋を焼いてしまったのだ。鬼の顔の向きが自分とはずれていたので大丈夫だと安心しきっていた。
 まったく、どうしてこうトドメの一撃が刺せないか? 思考を巡らせ! ……どうやら敵とこの場の設定は俺が昨日
博士に説明したものから作られているようだ、俺は昨日何を話した?
 鬼の説明を俺は博士にした。そして今目の前にどこで勘違いしたかマンティコアベースの鬼がいる。
 豆撒きの説明もした。そのおかげで魔力を伴い銃口からでも発射できる豆撒きが出来ている。
 あと一つ。魔除けの説明をした。節分に使う魔除けは……鰯の頭を柊の枝に刺したものが節分の魔除け
アイテムだ。鰯を英語で言うと? 柊を英語にすると? サーディンとホリーである。そうだ昨日の夜に俺が
食べたものと、その後子ミスラが振り回していたものである。これは奇跡と言うしかあるまい。
 先ほどの火炎の息が最後の足掻きだったのだろうか鬼の方も虫の息である。俺の方もこんな茶番は
さっさと終わりにして現実世界へ帰る方法の一つでも考えたいんだ。これで終わりにしようぜ。
 ごみ箱に駆け寄り、ホリー原木の枝を手に取りバストアサーディンの頭を刺す。ボスにトドメを刺す聖剣と
しては、未だかつて無いほどのダメっぷりだろうが見た目に拘っている必要はない。使えるならばそれで
いいのだ、効果が本当にあるのかが一抹の不安ではあるが、最早これに賭けるしかない。
 鬼の懐に飛び込み。生臭聖剣をアゴ下から力ある言葉と共に突き上げる。
「もう逝けや! オニハソトォッ!」
 どうやら鬼のヒットポイントゲージもゼロに達したらしい。巨大な体躯が沈み込み倒れる。まずい、押し潰さ
れる……しかも、先ほどのアクロバティックイナバウアーの腰の痛みが今頃になって恐ってくる。やばい、本当
に押し潰され――る前に、どうやら鬼の巨体は霧の様に四散したらしい。俺は一人、所々破損し散らかった
モグハウスの中で倒れ天井を見上げていた。
「……やっと終った」
 込み上げてくる疲労感と共に溜息も溢れてきた。子ミスラはどうしているだろうか、鬼も消えてはしゃいでいる
かな。俺は見上げるように首を動かし扉の方を見る。予想に反して、天地が逆になった視界の中で立ち竦んで
いる子ミスラの表情は未だに浮かないものであった。
 流石に足にきているらしい、起き上がり子ミスラの方へ近寄る足も我ながら力なく情けない。
「どうしたんだ? 鬼もどっかいったのに元気ないじゃないか?」
 視線を合わせるように膝立ちになった俺は子ミスラに問いかける。表情からは不安が見て取れ、今にも
涙が溢れてきそうだ。俺の中のハテナマークは依然消えない。
「にぅぅぅ。悪い子のところには鬼がやってくるって――」
 そういや、そんな事も言ったな。
「そしたら悪い子は、お家の中に入れなくなるって言ってたにゃ……だから、だから……もしかしたらお家の
中に入れないかも知れないにゃ……」
 そうか、だから扉のあった内側には入って来ないのか。よっぽど信じていたらしいな。
「お家の中に入れなかったら、一緒に遊んだりゴハン食べたりも出来なくなっちゃうと思うと……うう……」
 とうとう子ミスラの瞳からは涙が溢れてきて頬を濡らした。
 ああ、そうだ。悪い子の所には鬼がやってくる。だが悪いのはお前じゃない。悪いのはこのヴァナ・ディールに
一人現実世界からの来訪者として孤独に佇むはずだった俺に笑顔を振りまいてくれるお前を泣かしてしまった
俺自身だ。
 それに鬼を退治できたのも、お前が選んだ魚のおかげであり、お前が拾ってきた枝のおかげだ。言うなれば
子ミスラは俺の福の神である。
 そうだ、節分には対になっている二つの言葉がある。その言葉にも魔力が宿っていたのかは分からないが、
抱擁と共に子ミスラに云ったその言葉は、彼女の表情に笑顔を取り戻し、一歩を踏み出させる呪文でもあった。

 なんて言ったかって? そりゃ一つしかないだろ? ――「フクハウチ」ってな。


投稿日: 2007/02/23(金) 01:28:17
2007年06月06日(水) 22:12:41 Modified by ID:ZQCwcnVLDQ




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