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緑茶◆vUu2nK2xdY プロローグ3

プロローグ


冴えない中年男「鍵屋」はゲームの世界ヴァナ・ディールで何を思うのか?
幾人もの来訪者を巻き込んで淡々と進む物語をお楽しみください。



◆◆◆第七話:真昼の夜に出会うなら――


 鍵屋は危機に瀕していた。
 しかし落ち度はなかった。彼に足りないもの、それは運であった。彼は今懸命にその足りない運を補うべく
現状把握とこれからの対策を危機と直面しながら考えていた。その思考が巡り終え体が初動に入り事態の
結末までは数秒もなかったのだろう。
 その発端も数秒前の出来事だった――

 アラパゴ暗礁域を歩く数分前の鍵屋の周囲には蠢くモンスター達の感覚から逃す特殊な薬品が問題なく
展開されていた。注意すべきはパウダーの粒子すら感知し使用者を見破ることが出来る上級モンスターとも
呼べる存在であり、彼の往くべき道に生息するインプと呼ばれるデーモン族がそれに該当していた。
 本来デーモンと呼ばれる種族よりもインプは体力、体格的には劣る種類ではあるが小さな羽根を使い空中を
飛ぶことが出来、小柄だが悪意を感じさせる澱んだ茶色の体に秘める魔力は強大である。鍵屋の彼が真っ向
に相手をすれば最下級のインプ族ですら手におえる相手ではなかった。
 インプ族が生息する地帯を抜ける際に彼は知覚遮断アイテムに頼らず息を潜め注意を払う。その視覚の影を
縫うように移動し、その場は事なきを得た。そして、その先の彼が向かう人質が居る道中には見破るタイプの
敵はいないはずだった。居ないはずだったのだ……
 だが、彼が気付いた時には既にその存在を何物かに見破られていた。
 危険な地帯を抜けて安心していたのか、俯き加減に何事か考えながら歩いていた彼の首が驚愕と共に
上がり、正面に飛ぶモノを両目で捉えていた。
 姿とシルエット自体は先ほども見かけたインプに間違いはなかったが、鍵屋を睨み付けるその瞳は底の知れぬ
鈍い光を湛え、小さな体の至るところに仰々しく飾られた宝石は知と欲を象徴するかのようである、中でも首にかけ
られた赤い大きなルビーのような宝石が異彩を放っている。そして、何より目を引くのが全身に纏う色が通常のそれ
と異なり、それは仄暗い青、沈む闇とも形容できるその悪鬼を彼はこう呼んだ。
「夜色のインプ……とでも言うのか?」
 見たことも聞いたこともないそのインプを前にして彼は思わず呟いてしまう。
(だがしかし何故ここに? こんなところにインプは来ないはず……)
 その答えは彼がその場にいることが自体が"居ないはずの場所にいる可能性"を示唆していた。現実世界の人間が
そこに居ること自体が本来起こりえない状況なのである。
 これはゲームの世界の仮想現実が彼に襲い掛かろうとしている状況に他ならない。畏怖さえ感じる相手。言わずも
がな絶体絶命と言える場面が鍵屋の男に与えられた現状であった。
 後方には逃げられない。そこには今渡ってきた朽ちかけの吊り橋があり、その上をクトゥルブと呼ばれるミイラの
モンスターが徘徊している。後方に逃げれば確実に敵が増えることになる。しかし、眼前に居る夜色のインプ一体すら
相手にして無事で済むとは思えなかった。思考を巡らせていれば体は否応なしに硬直してしまう。この時間は窮地の
鍵屋に取っては一秒ですら自らを危険に追いやってしまう。
 鍵屋の男は早急に結論を出し行動に出ねばならなかった。

 夜色のインプは困惑していた。
 全てのモンスターはゲーム上で狩られる立場にあると言っても過言ではない、鍵屋から見て手に負えないこのインプ
も例外ではなかった。
 彼はペリキアを根城としアトルガン軍の将兵七十九名をたった一人で返り討ちにし、黒い男爵「ブラック
バロン」ともあだなされたインプである。
 そして彼は偶然に"仕様外の力"とも言うべき本来持つ力から逸脱した力を手にしてしまい、それが元で
追われる身となっていた。
 それを手放せば何のことは無かったのかもしれないが、一度力に魅入られてしまった彼は頑なに手放
そうとはしなかったのだ。ついには彼が住まうべきペリキアという仕切られた枠から逸脱し、短距離では
あるが瞬間移動の術を繰り返し使い逃げていたのである。
 そんな彼の逃走経路におそらく無関係であろう人間が立ち塞がっているのである。相手にしている暇は
ない、追っ手はすぐそこまで迫ってきていた。
 魔法を唱える魔力は十分残っている。拘束の呪文を使い目の前にいる人間を盾か人質にでもするかとも
考えたが、すぐその選択肢を振り払った。何故なら、なりふりを構わないあの追跡者たちにそんなものが
通用すると思えなかったのだ。
 ならば目の前にいる弱そうな人間を強大な魔力でねじ伏せてしまうか……だが、そんな些細な事をして
いる余裕さえ夜色のインプにはなかった。手にした力は本来持ち得なかった焦りや恐怖などの感情を、
知と欲と共に彼に与えていたのだ。
 以前の何倍もの聴覚になっている彼の耳には確実にこちらへと向かっている足音が聞こえている。自分
は確実に相手の視界外に瞬間移動をしていて、間違いなく追っ手を撒いているはずだった。それなのに
奴らは見えない糸を手繰り寄せているかのように差を詰めてくる。
 得体の知れぬ者を相手に、未だかつて感じたことのない焦燥感が夜色のインプを包んでいる。目の前に
現れた彼にとってどうでもよさそうな人間の存在ですら彼の思考にノイズを走らせているほどだった。
 鍵屋と夜色のインプ。
 そこに居るはずのない二人の邂逅は互いの存在がそれぞれにとって目障りなものであったのだ。

 先に決意を固めたのは鍵屋の方であった。
 目の前の夜色のインプから瞬時に距離を取り、そして切り札を使えばこの場は凌ぎきれるはずだ。決めた
のならば、あとは行動するだけだ。全力で走るために一呼吸の後、息を止める。
 張り詰めた空気を切り裂いたのは鍵屋の踏む足の音ではなかった。彼が踏み出す一歩よりも早く彼の耳
には重い打音が聞こえた。場違いなほどに低く短い音。まるで頭蓋骨を揺らすような鈍い音。
 インプが何かしたのだろうかと思ったが彼は視界から夜色のインプを外してはいない、動いてもいない。
 再び鈍い音が続いた。二度目の音は足元に何かが落ちる音。そこには棘付ハンマー、モーニングスターとも
モルゲンステルンとも呼ばれているものが落ちて来たのだ、彼の足元に。
 視界に居るインプがユラユラと飛び回り始める。何故か地面が先ほどより近く見え、そして近づいてきた。
 ここまで達して鍵屋は理解した。一つ目の音は何だったのかと。まるで頭蓋骨を揺らすような鈍い音ではなか
ったのだ。それは"頭蓋骨を揺さぶる鈍い音"そのものだったのである。
 側頭部から鈍痛が広がり意識が沈む。未だ目の前にインプが居るというのに沈む体を静止できない。闇に
意識が沈み、トドメを刺され二度と目覚めない死が訪れようとしていた。
 理解不能な状況、そして薄れゆく意識の中で鍵屋の男は全く自らの危機とは関係ないことを考えていた。
(……さっき助けた将軍、ウチの娘と同じぐらいの年頃だろうか。どうにもあの年頃の女性と話すのは苦手だ。
今度娘に会ったらゲームの世界に行って来たなんて自慢してみるかな……はは、馬鹿にされるだろうな――)
 アラパゴ暗礁域に静かに響いた三度目の鈍い音は、意識を失った彼の体が地面に落ちる音であった。

投稿日: 2008/02/19(火) 04:22:26.96



◆◆◆第八話:兎角浮世は儘ならぬ――


 太陽のなぞる弧が今し方その頂点を迎えた頃、活気付いたアルザビの街の一角にある茶屋シャララトに一人の
ミスラが嘆息を洩らしながら入って来た。
「はあぁぁぅ……駄目だったわ。今日はもうゲームオーバーだわぁ……」
「……やられたか」
「ええ、やられたわ。まさか、あそこで……って普通思わないわよね。ありえないわ」
 人事のようにミスラの嘆きに友人のタルタルが応える。そしてコーヒーを一啜りして尋ねた。
「敗因はなんだったね?」
「そう……一言で言うならば運が無かったわ。これっぽっちも運が無かったわ。実に運がなかったわ」
 高らかに胸を張り異議は認めずと言わんばかりの彼女にタルタルは溜息し、一瞥してこう言った。
「いいや違うね。事前の情報収集、現地の状況確認、そして過去のデータとアクシデントを加味して始めて勝ちが
見えてくる。そういうものだろ?」
 確かな正論に彼女は詰まらなさそうな顔で切り返す。
「たーしかに、そうなんだけどさぁ。第一印象で決めて賭けてみるっていうのも中々オツなものでね……」
「乙でも甲でも、勝手に遊ぶのは良いけれど。まずは自分で散らかしたものぐらいは片付けてから行ったらどう
だい? 現実世界でもここでも、そういうのは一般常識ってやつじゃないのかい?」
 コーヒーの香りを味わうタルタルの周囲には未だにミスラの彼女が散らかした羊皮紙がそのまま残されてあり。
それこそシャララトの店の床の半分弱を羊皮紙が占めるほどに散らばっていた。
 痛いところを突かれバツの悪い彼女は視線を泳がせながら、
「ほら、なんていうの? 気分転換にさ……ちょっとフラフラ〜っと……遊びたく……ね?」
「ね? じゃない。これから初めて会う人が来るんだろ? 第一印象が重要だと言うなら片付けなさい。というか
そもそも、ここは公共の場所なんだから、自分のモグハウス感覚で散らかしたままどっか行かないように」
 返す言葉もないミスラは肩を落とし観念したかのように散らかった羊皮紙を片付け始めた。
「面白いと思うんだけどなー……チョコボレース」
「そんなことでため息つくよりも、少しはアラパゴに行ってる娘達の心配でもするべきじゃ……」
「ん? あぁ……そうねぇ」
 その時、あまりにも場違いな電子音が鳴り響く。それはミスラの彼女が現実世界から持ち込んだ携帯電話から
の着信音に他ならなかった。彼女は携帯電話を手にしてディスプレイを見る。そこには件の人物の名前が表示
されていた。
「噂をすれば何とやら、ってやつね……はいはい、もしもし?」
 何か予想外の面白い事でも起こったのかと期待の表情で電話の向こうの言葉を聞いていたミスラだったが、
次第にその表情が解けていくのがタルタルの男にも見て取れた。
「いや……そもそも、あなた料理できたっけ? え、食材をってこと? んー、まぁ、知り合いに……知り合いの
弟クンが料理上手かったから調理してくれるとは思うけど……はいはい、んじゃあね」
 タルタルからの"どんな内容の話だったんだ?"という視線がミスラの彼女には痛かった。
「ホントどーでもいー話だったわよ……まッ、心配は要らないってことね。そうだ、さっき言ってた"冴えない男の
物語"でも読んでみる?」
「そうだね、そうしようかな。君がしっかりと片付けをしている間に、ね」
 暫くするとシャララトに張られた天蓋の縁から淡い日差しが漏れ始め、ゆっくりと午後の時を刻み始めた。

投稿日: 2008/03/04(火) 20:27:12.46



◆◆◆第九話:やがて白き魂、降ろうとも――


 時刻が昼を迎えようとも、アラパゴ暗礁域は重い霧と厚い雲のような霞に遮られ、太陽の位置すら把握できない
程の一様な薄暗さを作り上げている。そんな時間の感覚を狂わせる空の下で、その日も寥寥とした岩礁は何事も
なく静かな波打ちの音だけを響かせていた。
 そして幾らかの静けさの後に、コツ――、コツ――と一組の足音が新たな人の気配を知らせる。
「足取りが重くなってきたぜ? 流石のヘキサガンも草臥れたか?」
「疲れてはいないけどさ、何となくわかったよ。捕虜救出なんて事をする人が少ない理由がね」
 一つの足音と二つの声の主はヘキサガンを持つ来訪者と、彼女が持つ喋るリンクパールであった。
「ほーう。どんな理由だそりゃ」
「思ったより時間がかかる……頼まれたその足で来たから、昼食の準備してきてないんだ」
 彼女もまた捕虜救出の為にアラパゴ諸島へ来ていたのだが、それは自発的な己の意思からのものではなく、街で
出会ったタルタルからの依頼であった。
 依頼内容は『アラパゴ暗礁域に囚われている捕虜と、それに関係する冒険者を助けろ』という何とも要領を得ない
ものではあったが、提示された報酬額は底をついてきた彼女の財布を満たすに十分であった為、その仕事を引き受け
今に至るのである。
「腹が減ってはなんとやらってやつだな。その点、俺様は飯いらずだ。ここは格好良く『トークが主食』とでも言っておく
かな。へへへ」
「まったく羨ましい限りだね」
 台詞とは裏腹に、彼女の口調には欽羨の欠片もなかった。
「それにしたってよ。眼も鼻もない、ついでに手や足もないな。んまぁ、真珠な体の俺としては詰まるところ音しか
聞こえないわけで、こんなアラパゴくんだりまで来られた日にゃ延々と波と風の音で飽きてきちまうぜってこと
なんだが、そこんとこどうなのよ?」
「そんな事は無いよ、この風の音も波の音も、他では聞けないここだけのものだしね。愉しむ価値はあるさ」
 この時、もし真珠の体の彼に口があったとしたら、呆然として口をパクパクさせていたことだろう。
「……っかー! ナチュラリストにも程があるぜ。元々インドアな、このゲームやっていたとは思えないな」
 それまで受け流すように耳に飾られたアクセサリーの真珠から聞こえてくる台詞を返していた彼女の口が止まり、
まるで昔の失態を思い出し苦笑うように、
「ふふふ……インドアはもう十分に、それこそ死ぬほど満喫したからね」
 と意味深な言葉を返した。
 そんな彼女の台詞にパールの方は相手の『リアル』を詮索しないのがネットゲームの暗黙の了解と言わんばかり
に呆れ半分で「さいですか」と言うに止まった。
 会話をしながらも進む彼女の足元が湿った岩場から今にも朽ち果てそうな吊橋に変わった時、パールは彼女の
歩調が変わった事に気付いた。
「どうした? 何か面白いモンでも見つけたか? 俺は大歓迎だぜ。へへへ」
「人が……倒れているね」
「なんだ死体か。つまらないな」
「まだ分からないよ、ここから見た限りじゃ外傷はなさそうだ」
 だが、まったくの無事で倒れているということはないだろう。何かしらのモンスターか獣人に襲われたかでもしたの
だろうが、付近には獣人はおろかクトゥルブと呼ばれるミイラの不死生物すら徘徊してはいなかった。
 しかし、それが逆に獣人本拠地にあって異質であるということは彼女も既に感じ取っていたが、それ以上の
詮索が現時点では無意味だということもこれまでの経験から分かっていた。
 それを知って知らずかパールは変わらぬ口調で喋りかける。
「じゃあ、死体だったらどうする?」
「いつものように、お金になるものを拝借して――そうだな、水葬にでもしようか?」
「そこらへんの海に突き落とすだけってやつだな。逆に生きてたら?」
「その時は……相手次第」
 彼女の二つ名ともなっているヘキサガンと呼ばれる銃に手をかけ、うつ伏せに倒れている人間を靴の先で数度
揺さぶる。すると、見慣れないコートの下からチャリチャリと金属音が聞こえた。それはコインの類が鳴らす音で
はなく、例えるならば一括りに束ねられた鍵が擦りあうような音であった。
 彼女は倒れた人間そのものが獣人の仕掛けた新手のトラップかとも警戒したが、そうではなかったようで、喉の
奥から搾り出された呻き声をきっかけに倒れている人間は心身を覚醒しはじめたようであった。
「どうやらカネにはならなさそうだな。へへへ」
 パールが茶化すも彼女は銃から手を離さない、倒れていた時の体躯や靴先で感じた重量を見れば、この人間が
男だというのはすぐ分かった。なにより倒れていたというだけで『中身』が善人とも限らない。彼女が警戒を怠る理由
はなかった。
 静かだが素早く男との距離を開けたその間は、彼女の持つヘキサガンのリーチの中でベストポジションとも言える
距離である。彼女は気付いていたのだ、相手が何者かであるかということに。側頭部を押さえながらゆっくりと立ち
上がる男の表情は痛みがそこに残ることを示していたが、それよりも肝心な事は、男の顔を彼女はヴァナ・ディールに
来てから一度も見たことがない、無精髭の生えた中年顔だったということだった。
 先刻、彼女が持つパールは言っていた『フェイスタイプは幾つかの種類の中から限られている』と、しかし、目の
前にいる男にはそのどれもが当てはまらない。それはゲームの規格外。外から持ち込まれたものとなる。
 ――つまり、この男は"身体的特徴"をこの世界に持ち込んだ彼女と同じ来訪者の一人であった。
「……同業者のようだね」
 緊張を細く交えて呟く彼女の言葉に、パールはトーンこそ低いが感心実溢れる一言で応えた。
「ほぅ」
 呟きが届いたのか男が彼女の存在に気付く。しかし彼女はじっと男を見据えたままだった、それは観察と言って
もいい程である。
 一方、男は彼女を見て驚愕していた。混乱する頭を整理しようと彼女に対し質問をしようとしているのだろうが、上
手く言葉が出ないらしく「あー……、あー……」と意味を成さない言葉しか口から出なかった。
「やれやれ――まだ気が動転しているようだね。依頼に関係ないなら無視したいところだけど……」
「お前さん、変なところで律儀なやっちゃな」
 まるで困った友人を語るようにヤレヤレと肩を竦め、軽くため息をつく。
「他人に興味はないんだけど……こういう人なんだよ。ヘキサガンの女ってのはね」
「……はぁ? ……いやいやいや、ヘキサガンの女ってお前、自分の事だろ? 何言ってるんだ?」
 パールの質問を無言であしらい、彼女は仕切りなおすように気を張りなおす。未だ白黒つかない来訪者に対して
最大限の注意を払い、あらゆる状況に対応できるよう敵対心を張り詰めて問い始めた。
「さて、オジサン。そこを動かずに答えて欲しい、ここアラパゴ暗礁域で何をしているんだい?」
 一寸の間があったのかもしれない、その後、彼女は男が確かにこう言っているのを聞いた。
 何があったのかは知らないが、どうやら思い出したことがあったらしい。考えてみれば、どこか間の抜けて
いそうな顔の、事実こんなところで気絶していた中年男が自分に危害を加える可能性は限りなく低い。
 銃に添えた手をおろすはずだったが、彼女の目が捉えた異変がそうはさせなかった。
 男から目は離さなかった、確実に一歩も動いていない。だが何故か今は目と鼻の先で男が自分を覗き込む
ように考えている。距離は十分にあり、一瞬で詰められる距離ではなかった。
 あまり背の高くない、どちらかと言えば小柄な彼女にしてみれば、上から覗き込むぐらいは出来る背の高さ
の男が目の前に詰め寄ればプレッシャーを感じずにはいられない。
「ッ……いつの間に!?」
 驚愕の理由の如何は目の前にある現実に比べれば些細なことである、相手を危険と判断した彼女の体は
既に行動していた。それは自分に危害を加える敵がいる世界ヴァナ・ディール、そこで彼女が生きるために
条件反射レベルまでに培ってきた事の一つである問答無用の先制攻撃であった。
 昔どこかで見たような現象とも感じたが、瞬間移動の出来る人間が居るわけがない、彼女は記憶の回想を
払拭する。最早相手の善悪の判断は必要なく、ワンステップで距離を開けると銃口がぴったりと男に向けられた。
 そして躊躇などはなかった。彼女の脳裏に過ぎったものがあるとすれば――
(動くなとは警告したし、それにこの男が着ているコートは高く売れそうだ)
 ――程度のものであった。
 トリガーが引かれ撃鉄が落ち一発の銃弾が放たれる。瞬くようなマズルフラッシュの後に硝煙があがり周囲
には発砲音が響いた。それらの全てが男の末路を物語る。
 残響が岩に染み入り辺りに静けさが戻った時、アラパゴ暗礁域に垂れる雲からは死者の魂のような白い雪が
降り始めていた。積る事のない雪が降ったという事実は、その空の下に生きて立つものだけが証人であった。

投稿日: 2008/03/07(金) 21:47:46.17

>>続きを読む第十話 
2008年04月09日(水) 23:38:23 Modified by hexagun




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