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緑茶◆vUu2nK2xdY プロローグ5

プロローグ


冴えない中年男「鍵屋」はゲームの世界ヴァナ・ディールで何を思うのか?
幾人もの来訪者を巻き込んで淡々と進む物語をお楽しみください。



◆◆◆第十三話:悪運ははこばれるなり――


 車を運転する者ならば一度は経験があるだろうか、鍵を車内に残したまま扉を閉じてしまいオートロックが
掛かり、所謂鍵の閉じこみをしてしまったことが。その男も昔、開錠の専門業を呼んだことがあるのだが、鍵
を開けにきた仕事人の袖にさり気なく「開錠魂」と書いてあったのを何故か強烈に記憶していた。
 ヴァナ・ディールに来た男が鍵屋と名乗ったのは、その開錠魂に憧れていたのかもしれない。実際に彼には
このゲームの世界で設定された正規の鍵を使わない、ピッキングツールを使っての開錠ライセンスはあった
のだが、皮肉にも才能がこれっぽっちも無かった。
 しかし、鍵屋の男はある特殊な能力を手に入れていた。彼が<パーフェクト・ドッジAT>と名付けたその能力
は、本来ゲーム上で設定されていた<絶対回避>という能力に似て非なるもので、自動的に彼に降りかかる
危険を回避するというものだった。この能力の所為で、男は開錠が必要な扉の前まで無事に辿り着くことが出来、
さらには至近距離から撃たれた銃弾すらも彼に当たることはなかった。
 一見完全無欠に見える能力も、危険回避という曖昧な尺度が彼の意思を介さずに発動するため、湿った天井
から時折滴り落ちる冷たい水滴が首筋に落ちる事もあれば、ちょっとした段差に躓く事もあった。試しに彼が落ち
ていた小石を真上に投げてみたところ――

「……君、その額の傷、大丈夫かい?」
 重力の法則を無視することなく鍵屋の額に小石は当たり、そこに小さな赤い傷跡が出来ていた。
「ええ……ちょっとした実験の成果と言ったところでして……」
 今から助け出す人間に心配されるとは何とも面目の無い話ではあった。
「そうか……しかし、ここらへん、何やら不穏な空気を感じないか……? 『真の闇』が迫っているというか」
 鍵屋の男に鉄格子越しに荒唐無稽な内容を話しかけている男はスルディラン(Suldiran)という名のアルザビ
市民であった。
 敵の捕虜となり不安なのはわからないでもないが、不穏な空気もなにも魑魅魍魎の住まう敵勢獣人達の
本拠地に居るのだし、当たり前なのではないかとも鍵屋は思っていた――が、一方的な長話に付き合わされ
ている原因はいつまでたっても解錠が成功しない自身の腕によるものであり、如何ともし難い状況ではあった。
 スルディランが言う「真の闇」には具体性が現れてこない。本人は冒険者達からインプの翼を集めて対抗し
ようとしているらしいが、鍵屋の男に翼集めの興味があるわけではない。それでも頭の片隅ではどんなもの
だろうかと考えていた。
(人が無意識的にもつ暗闇への恐怖、その闇の向こう側から来る何かそのものの事を「真の闇」と形容している
のだろうか。それとも、もっと具体的な「真の闇」に相当する何かがあるのだろうか……例えば、あの夜色のイン
プの様な……)
 ここまで思考が巡り鍵屋の男は自分が生きていることに疑問を覚える。
 敵対すべきモンスターを目の前にして、理由がどうあれ気絶してしまったという事実は揺るぎがない、しかし
自分は生きていた。疑問ばかりが積み重なるだけで彼が答えに行き着くはずもなかった。
(……ならば、あの夜色の……)
 インプは何処へ行ってしまったのだろうか、と思った瞬間、彼の指先は確かな重みを感じた。
 潮風に吹かれ腐り錆付いた牢が軋んだ音と共に開かれる音、それはアラパゴ暗礁域に囚われていた捕虜が
助け出される音でもあった。
「感謝する! これでまた、闇の侵攻を抑える活動ができるよ。また会おう」
 呪術結界が解かれマジックアイテムが使えるようになったスルディランは鍵屋の男に礼を言うと、早速帰還の
道具を使い彼が居るべき場所アルザビへと帰っていった。
 内容は兎も角、彼の活動の直向さは尊敬するに値する、と鍵屋は少し羨ましくもあった。
「僕も捕虜救出活動、残る最後の一人の下へ向かいますか」
 自らに活を入れなおすと、鍵屋もまた牢獄が置かれた暗く湿った部屋を後にした。
 部屋の外の回廊窟はラミアと呼ばれる獣人が徘徊している。悪鬼たる彼奴らに見つかってしまえば、身体能力
も劣り、戦闘経験も皆無な彼はひとたまりも無い。
 鍵屋の男の懐には暗礁域に入った時に使用したプリズムパウダーとサイレントオイルの余りが残っている。それ
を使って敵の目を誤魔化し進んできたのだが、今の彼にはそれらは必要でなかった。
 何もなしに彼が歩み進めても敵に教われない理由は簡単なものだ。それは徘徊するラミアの視界に彼が入らな
い、たったそれだけだ。普通の人間ならば、索敵を続けるモンスター達の目から逃れ続けることなど不可能なのだ
が、彼の<パーフェクト・ドッジAT>はそれを可能にさせていた。
 能力の発現中に気をつける事は、立ち止まってはいけない事。確信や理由はないが、彼はそう感じていたのだ。
まるで二輪車が進み続けていないと倒れてしまうような感覚である。
 洞窟を抜けると再びアラパゴ暗礁域特有の雲と霧に覆われた白い空が広がっていた。青い空の見える事が無い
鈍よりとした空の下を歩く鍵屋の男だったが、その心境には以前にはない変化があった。
 つい先ほど出会い別れたヘキサガンと名乗った女の子は「現実世界へ帰る気はない」と云ったのだ。
 彼女はこの世界で生きる決意をしていた。それは彼女の意思ある瞳からも十分感じ取れた。ならば自分はどうだ
ろうか、このファンタジーたる世界、現実とは逸脱した世界から元の世界へと帰りたいのだろうか。
 現実世界との決別に未練がないと言えば嘘になる。
 離れて暮らす娘の心配をしないほど男は不甲斐なくはない、だがそれでもヘキサガンの女と出会い、彼女の
言葉を聞いた今ではヴァナ・ディールで生きる事への興味が湧いてきていた。
(しかし、彼女につられてやけにアッサリと別れてしまったが、もうちょっと色々聞いておけば良かったかな)
 彼の脳裏にはヘキサガンの彼女に訊くべき言葉が――
(何も思い浮かばないな……少なくともインプの事も、気絶に至った原因のハンマーの事も知らないようだったし
……それに――)
 今思えば良くあんな立ち回りが彼女に対して出来たと、彼は冷や汗半分に感じていた。
(どうもあの年頃の娘を相手にすると駄目だなぁ……まぁ、残りの捕虜救出って約束は果たさないと、か)
 確かな足取りで鍵屋の男はアラパゴ暗礁域を西へと進む。
 過ぎる景色の中で、彼は古鏡という遺物を巡り獣人と戦闘をしている冒険者達を眼にした。戦況は些か冒険者の
彼らに不利で、一人二人が地に伏せ戦闘不能になっているのが遠目にも見えた。
 しかし、鍵屋の男は助けには行かない。一般の冒険者は戦闘不能になったとしても蘇生魔法やホームポイントと
呼ばれる場所への帰還が出来るが、現実世界から来た来訪者である彼にそれが出来るという保障はない。
(ヘキサガンの彼女は護身のために僕に銃を突きつけていた。それは少なくとも彼女の判断では死亡に何らかの
リスクがあると考えている、もしくは知っているからだ……)
 文字通り突きつけられた現実に反証の出来ない鍵屋の男が、その結論に背くはずもなかった。
 そもそも戦闘能力が皆無な彼が加勢した所でどうとなるものでもなく、身の安全を考えても遠巻きに見過ごし、
その場を後にするしかなかったのだ。
 淡々と岩場や船の残骸の中を歩く。
 視覚で冒険者を感知し襲ってくる敵の視界の外を歩く。
 聴覚で冒険者を感知し襲ってくる敵には、R0現象と思える彼我停止状態になり襲われることなく歩みを進む
ことが出来る。出来る理由など彼には要らない、それこそ現代科学の深理論まで熟知した博学なものならば
何かしらの説明は出来るのかもしれないが、万人がそれぞれに持っている脳味噌に説明書が無いように、彼に
もそんなものは必要ではなかった。
 やがて彼の男はアラパゴの西端に位置する捕虜収容地域の入り口まで辿り着く。そこには暗礁域の至る所に
設置された錠付きの鉄格子の扉が鎮座していた。
 その扉の前に来て、やっと鍵屋は先ほど出会った来訪者の台詞の真意を汲み取った。そして彼女は何をしに
アラパゴ暗礁域に居たのかを。何故、自分は彼女にその約束をしたのかを。
 ――捕虜救出にあたって何か手伝う事はありますか?
 と彼女はそう言ったのだ。
「なるほどヘキサ君も捕虜救出に来ていたのか……あの娘も無茶な開け方するなぁ……」
 扉の錠部分が強引に壊されて、地面には新しい空薬莢が散らばっていた。恐らく彼女の持っていた銃で無理
矢理に開けたのだろう。なるほど、「鍵屋」たる自分には思いつかない扉の開け方である。呆れて笑いさえ込み
上げてきていた。
 先のビシージで捕虜になったアルザビ市民は三人であった。二人は自分が助けている、そして残る一人はこの
扉の先に捕まっていたはずである。この扉が開いているという事は、つまり残りの一人は既に助け出されていると
いう子供でも分かる計算であった。
 それでも念の為に、彼は牢が置かれている部屋へと移動する。
 捕虜が居たであろう牢屋の扉は、やはり入り口の扉と同じように壊されていた。程よく肩透かしを食らった鍵屋の
本日のアラパゴ暗礁域における彼の救出活動はそこで終了である。
「ま、こんな日もあるか。帰りは……ドゥブッカ監視哨が近いかな」
 帰り道を思索する鍵屋の男。<パーフェクト・ドッジAT>と名付けた能力を手に入れた彼だが、忘れては
ならないのは、彼が元来運の悪い男であるという事、計都の凶星の元に居るという事である。
 無人の牢屋を後にし、帰路へ着こうとした鍵屋だったが、彼が部屋の扉を開けるより早く向こう側から何者
かによって扉が開かれる。
 見るからに瀕死状態で部屋へ入って来たのは、先ほど古鏡付近で戦闘していた冒険者の一人であった。
 鍵屋の男はその冒険者の顔を見て、恐怖にも似た言いしれぬ不安を感じざるを得ない。
(なんだ……この顔は、目と鼻と口があるだけだ。表情が全くない……何なんだ?)
 アルザビの街中にいる、ゲーム上ではノンプレイヤーキャラだった人間にも表情はあった。もちろん接触や
会話こそしなかったが行き交う冒険者にも間違いなくあったのだ。しかし、それが目の前の、あまりに表情が
なさ過ぎて男女の区別すらし難い人間にはなかったのだ。
 その人間が鍵屋を見て一言口にしていた。
「……是机会的坏人」
 鍵屋の男は冒険者の言葉が理解できなかった、日本語ではない、英語ですらなかった。彼の居るヴァナ・
ディールという世界は実際のゲームでは世界各国からログインされ多種多様な言葉を使う人々が遊んでいる
のだ。英文ならまだしも、ナチュラルな発音の英語でさえ聞き取れない鍵屋の男である。ゲーム中のログ文章
ではなく、発音として対峙した目の前の冒険者が何語で何を喋ったのかなど分かるはずもなかった。
 そして再び部屋の扉が開く、冒険者に深手を負わせた者が止めを刺しに来たのだ。
 鍵屋が眼にしたのは、今まで彼が出会った事の無かったナンバーズと表されるラミアの一体であった。しかし、
妖艶たるそのラミアが纏っている特徴には覚えがある。彼はその特徴をこう表現していた――「夜色」と。

投稿日: 2008/04/09(水) 06:53:38.90
2008年08月28日(木) 19:21:37 Modified by hexagun




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