256_Furcifer ◆MwNTY7GtwI １１スレ目外伝
713 前説：自由を望むのはだれ？ ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 14:29:06.11 ID:U8S5GJoP
夕刻を告げる鐘の音が、からん、からんと響き渡る。
オレンジ色の柔らかい夕日に照らされた、ジュノ上層。
沈み行く太陽よりなお紅い二つの人影が、大聖堂の屋根の上から町並みを見下していた。
二人とも全身鎧にフルフェイスの兜を身につけていたが、一人はややしっかりとした体つき、
もう一人は幾分かほっそりと小柄な体つきで、恐らくは男と女の二人組なのだろう。
「…オレ達の存在って、この世界にとって一体なんなんだろうな」
屋根の上に腰を下ろしていた男のほうが、ふとそんな事を口にする。
立ったままだった女はため息をついてそれに答えた。
「貴方、おじいさまや他の方々にも同じ事を聞きにいったそうですね…」
「まぁね、割と必死w いやー爺ちゃんを探し出すのはなかなか骨が折れたよ？」
「先日イレギュラーを取り逃がした事が、よほど堪えたようですね」
「正確には汚染によってプログラムが正常に走らなかっただけで、一般人なんだけどねぇ」
兜の下からでも男が顔を顰めたのが気配で分かったのだろう、女は小さく笑みを零す。
「おかしな遊び心を出したのが、敗因でしたね。次は速やかに処理してしまう事をお勧めしますよ」
「そいつが可能ならば、いいんだがね…」
「…どういう事です？」
男が発した、何かを懸念するような言葉に、女が首を傾げてみせた。
「いや、世界そのものが、俺が取り逃がした子と同じ状態になりつつあるとしたら、どうよって」
「まさか、そんな事が有り得るとでも？」
一笑に付そうとする女へ、しかし男はかぶりを振った。
714 前説：自由を望むのはだれ？ ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 14:31:08.95 ID:U8S5GJoP
「考えてもみなよ。あの男はどうして、俺たちの下から逃げ出す事ができた？
願いを叶えて契約とし、レリックまで与えて縛り付けたのに、だ」
「あの男を担当した者の、詰めが甘かったのでしょう。…お姉様も心配していましたわ」
女の能天気な物言いに、男はがっくりと肩を落とした。
「もういいよ…コレだからお姫様は。元とは言え、他人の女に構うのはほどほどにしときなよ」
「貴方こそ、従者に死人ばかりを使うのは人としてどうなのですか？」
ちょっと皮肉ってやったつもりがやりかえされる。
「そういうあんたこそ、みるたびにアラの面子の首が何人か挿げ代わってるのは関心しないな」
「仕方がありませんわ。私の機嫌を損ねてしまったからには、然るべき処罰が必要ですもの」
これ以上のやり取りは不毛だ…男はそう判断し、すっと立ち上がると屋根の下の往来を見下ろした。
ジュノ随一の名医と言われる人物が経営する病院へ、
何人かの冒険者が散発的に駆け込んでいくのが見える。
男は懐から虹色の小さな玉を取り出し、そっと耳に当てた。そうして、喉の奥でちいさく笑う。
「見舞いに行ってくる。手出しはしないでくれよ」
「貴方の悪趣味に付き合っている暇はありませんから、安心してくださいな」
女はそう告げ、空間を歪ませてその場から消えた。同時に男の足下に、紅い光の輪が生じる。
…光が消えたとき、そこには赤い忍装束に、パンプキンヘッドという出で立ちのヒュームがいた。
その片手には、なぜか様々な果物を詰め合わせた籠。
「さて…数多ある答えのひとつ、君が消えていた間に見てきたもの、全部見せてもらおうかな」
715 ？ ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 14:48:29.22 ID:U8S5GJoP
埋め用話前回のあらすじ、書いときます。
来訪者と化した先輩冒険者を手にかけた、二人組の敵を探していたフルキフェル。
LSメンバーに「根詰め過ぎ」と心配されるも、新たな手がかりを探しに出ようとしたところで、
なんと探していた相手の方から接触を取ってきた。
「神様」そう自称する男の人知を超えた力に、為す術無く翻弄され、嬲られる。
辱めを受けながら命を絶たれようとしていた彼を、男の呪縛から解き放つことで間一髪救いだしたのは、
来訪者としての友が遺していった、リアルの歌だった。
術者による制御のないままに発動したテレポは、果たして彼を何処へ連れ去ったのだろうか？
716 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 15:12:35.35 ID:U8S5GJoP
薄明るい世界を、ふわふわと漂う夢を見た。
はじめに見えたものは、視界いっぱいに大きな人形のようなものが、
列を成してどこまでもどこまでも立ち並んでいる、そんな光景だった。
体に力が入らず、実際には体が存在しているのかどうかも分からない。
ただ、時々さざ波が寄せるような流れによって視界の向きが変わり、
明るくなっている方向を向いたときに、赤い光点がいくつか浮かんでいるのが見えたり、
時折視界の隅を、真っ白い人間の手や足が掠めていったりもした。
そうやって流されるまま、転がされるままを楽しんでいたところ、赤い光点の二つと目が合った。
そう、あれは目だった――途端に、体がその赤い目の方へ、
明るくなっている方へと引き寄せられていく。
ざばり、という音と共に周りを包んでいたやわらかい感触が去り、
自分は水中に浮かんでいたのだということに初めて思い至った。
視界が滲んで、周りにあるものの輪郭はおぼろげにしか分からない。
白と黒でできた何かにくっついている赤い目達が、自分のことを上から覗き込んでいる。
自分には理解できない言葉で話し合いながら、何かをしているようだった。
ぱちん、ぱちん、と音が聞こえ、その度に体のそこかしこが痛みや気温を感じるようになる。
そのとき、唐突にはっきりと、理解できる言葉が耳に届いた。
「現世種としてのお前はここで終わった。だけど今一度、選ばせてあげるよ。
拾った命を捨てて、再びクリスタルのみもとへ還るか、それとも…」
717 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 15:14:09.16 ID:U8S5GJoP
急激に視界がクリアになる。目の前にあったのは、よく見知ったミスラの顔。
「…あ」
「フルさん起きたニャーーーーーー！ みんな上層病院に集合ニャーー！！」
僕が何かを言う前に、軽鎧をまとった彼女…ルゥは首から下げていたリンクパールにそう叫んだ。
その声を聞きつけたか、扉が開き、金髪を後ろで括ったエルヴァーンの青年…
モンブロー医師が入ってくる。という事は、どうやらここはジュノ上層の病院で、
僕は病室のベッドに寝かされていたらしい。ルゥが親指だけを折り曲げた手のひらをこちらに向けてくる。
「頭は大丈夫ニャ！？ この指何本に見えてるかニャ？ わたしの名前は言えるニャ？」
「…よん？ ていうか、ルゥ…僕はなんでこんな事になってるのかな」
「体には異常が…見られなかったのであとは意識回復を待っていたのですが、
ちょっとこちらはもう少し検査が必要かも知れませんね」
心配げにモンブロー医師が語る。そんなに長い間昏睡状態だったんだろうか？
「何にも覚えてないニャ？ 下層で『サンドリアに行ってくる』って言ったきり突然行方不明になって、
みんなで探してたし、喫茶店の壁にいきなり血溜まりが湧いて、何か関係があるんじゃないかって
大騒ぎになってたニャ。ちなみに行方不明になってから二週間、ここに担ぎ込まれたのは4日前ニャ」
下層で赤い忍者姿の何かに襲われたのは覚えてる。その後、12日間行方不明だったって事か。
「貴方はロ・メーヴで発見されて、ここに担ぎ込まれたんですよ」
「ロ・メーヴですか？ なんでまた…ここからサンドリアとは逆方向じゃないですか」
「こっちが聞きたいニャ。男神の像の、腕のとこに血まみれでうつぶせに引っかかってて、
『天狗の仕業じゃー』とか言いながら竜さんや召喚士さんが下ろしてくれたらしいニャ」
718 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 15:17:00.93 ID:U8S5GJoP
ああ、それじゃ最初は死体かなにかと勘違いされたんじゃないだろうか。あとテングって何？
「でもよくそんな所にいるのを、気がついてもらえましたねぇ」
テングはさておき、かの地に用事がある人間は、大体振り向く事もなくまっすぐ進み、
帰りもテレポやデジョンを用いる事が多い。
「ちょっと前からトゥー・リアに登る道が開かなくなってたんだニャ。
それでしょうがないから引き返そうとした人が、あれはなんだー、ってコトらしいニャ」
「それって、いつからですか？」
僕の問いに、ルゥはうーん、と思い出すような仕草をしてみせる。
「道が閉じちゃったの自体は、フルさんが人探しを始めて少し経ってからくらいニャ。
それで、待ってればそのうちまた開くかもって事で、何人かが定期的に様子を見に行ってたニャ」
「そんなに長期間閉じてたら、四神に挑戦したいLSの人なんか、困ってたでしょ」
そういえばそんな話をちらりと聞いたような覚えがある。
僕自身はそんなに興味があるわけじゃなかったから流していたけど、胸を貸してくれる相手として、
かの瑞獣達はよく飽きもせず人間の相手なんかしてくれていたな、と思う。
と、表のほうから騒々しい何人分かの足音と、元気のいい声。
「ごめんくださーーい！ うちの赤いのと紫のがご迷惑おかけしてます！ え、いまは白だっけ？w」
「いえいえ…今は意識もはっきりしていますよ」
どどどどばたばた、と絨毯の床を走り、扉がズバーン！ と開け放たれた。
「えええ、フルさん髪の毛の色元に戻ってる；； 銀髪もかっこよかったのに；；」
「違うだろバカ、元気か？ 腹へってないか？ 心配かけやがってこのアホwwww」
719 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 15:20:58.76 ID:U8S5GJoP
「いやその…すみません」
何を謝っているんだ僕は。というか銀髪って？
「…銀髪に染めてた覚えなんてないんですけど」
「発見されてここに担ぎ込まれたときは、髪の毛が真っ白になってたニャ」
素直にそう疑問を口にすると、すぐさま答えが帰ってきた。
「んで、寝てる内にだんだん色が元に戻ってったんだ。俺はここんとこ暇だったからジュノにいたけど、
こいつは討伐LSとも掛け持ちで、担ぎ込まれた初日しかお前の事みなかったからなー」
「でもでも、心配はしてたんだよ？；； おかげでご飯がいつもの半分しか喉を…」
「そんだけ入れば十分だよこの大飯食らいwwwwww」
原因に心当たりがないわけではない。あれで白髪になっちゃうくらい僕って繊細だったのだなぁ。
二人のやり取りを微笑ましく眺めているうちにも、どんどんLSのメンバーや友人達が顔を出しにくる。
個人的に付き合いがある人にも、気を利かせてtellを入れてくれていたらしく、
入れ替わり立ち代わりに、いろんな人と話ができた。
…でも、その中にあの人はいない。
あの日何があったのかも何回か聞かれたけれど、それについては誤魔化し続けた。
とても言えない。あんなものがこの世界を裏から弄り回しているなんて…。
明るみに出したら、それこそこの世界を引っくり返してなかった事にでもするんじゃないか？
「先生、フルキフェルはいつ退院できますかね」
僕が考え込んでいる横で、吟遊詩人を最近始めたというリーダーが、モンブロー医師にそう尋ねる。
僕もそれはすごく気になる。4日も寝ていたとなると体が固まってて、もとに戻すのが大変そうだ。
722 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [途中から書きながら落としてました申し訳ない sage] 2006/07/18(火) 16:02:58.44 ID:U8S5GJoP
「そうですね…今の様子を見ていますと受け答えもしっかりしていますし、
今日一日は様子を見て、明日にでも問題なく退院できるでしょう。ただし…」
モンブロー医師がそう言いかけたところで、珍しい人物が部屋に入ってきた。
それに気がついたモンブロー医師が、白い甲冑姿の彼を柔らかい笑顔で迎える。
「ウォルフガング…いらっしゃい。今日はどうしたんですか？」
「玄関から声をかけたのだが、返事がなかったので済まないが入らせてもらった。
4日前から入院中の患者が、目を覚ましたと報告を受けてな。…もう動けるか？」
最後の問いは僕へと向けられた。ジュノ親衛隊が、僕に一体何の用事なのやら?
寝返りを打ったり、腕や足を曲げのばししてみる。…痛みも何も特になく、調子自体は悪くなさそうだ。
「大丈夫そうです。それにしても、親衛隊のお世話になるような事をした覚えはないんですが」
言いながら、ベッドの上で体を起こす。
「エルドナーシュ様がお前と会見をしたい、との事だ。急ぎ大公宮まで出頭して欲しい」
「エルドナーシュ公、ですか…？」
思わず聞き返してしまう。もはやいるはずのない人物からの、あるはずがない出頭要請。
表向きはカムラナート公ともども引退して、公務をエシャンタール首相に譲ったって話だけど、
まことしやかに流れ続ける噂のなかにある真実を、知ってる人は知っている。
「…どういう、意味でしょうか。場合によってはその出頭要請、拒否します」
すごく罠っぽいじゃないですか。LSの仲間達も目配せをし合ったり、途端に雰囲気がピリピリし出す。
仲間のモンクがすかさずしゅたっ！ と手を挙げる。
「俺たちもついていってもいいですかー？」
723 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 16:35:10.80 ID:U8S5GJoP
「どういうも何も、他意はない。謁見室前までなら構わないが…会見自体は一人で行ってもらう」
ウォルフガング親衛隊長のその言葉を受け、ルゥが僕の手に、そっと何か小さな丸いものを手渡した。
見なくても分かる、僕たちのリンクシェル…薄緑色のパール。
イヤリング状になっていて、耳に装着すると早速、喧々諤々と作戦会議が繰り広げられていた。
「…分かりました。着替えが済み次第伺います。ルゥ、先生、僕の装備は？」
「ブレスドアタイアは血を落として修繕中ニャ…AFでいいんじゃないかニャ」
「時間があれば赤魔道士に着替えてもいいのでしょうが…」
「急がせて済まないな。歩くのが辛い可能性も考えてこういう物も持ってきていたが」
ルゥとモンブロー医師が僕の鞄をごそごそと探るのを尻目に、ウォルフガングが何かを投げて寄越す。
ムーンストーンが嵌め込まれた、黄金の指輪。
「ほんっとに急がせる気満々なんですね…」
「身柄の安全は保証する。とにかく、重要な話との事なのでな」
影武者か残留思念の幻影か、はたまた奴らの傀儡なのかは知らないが、
この人はまだあの兄弟に仕えているつもりなのだろう。
いいだろう、今度は謁見室に入る前にフル強化で臨んでやる。そう簡単に事が進むと思うなよ？
「お待たせしました、それでは出頭します」
結局ウォルフガングは僕が着替えを済ませるまで、部屋の外で待っていた。
LSメンバーは外せない用事で帰ってしまった数人を除いて、
先に庭に向かっていたり、ウォルフガングと一緒に廊下で待っていてくれたりした。
724 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 16:54:54.91 ID:U8S5GJoP
本当ならば、危ないから帰れ、来ちゃだめだ、くらい言うべきなのかも知れないけれど…
もし奴の罠だった場合、よーく考えたら危ないのは僕だけなのだ。
なにせ「普通はみだりにこの世界の住人をいじっちゃいかん事になってる」らしいから。
「では、指輪を発動させてくれ」
「それじゃ、ちょっと行ってきますね」
目を閉じて指輪に刻まれた術式を読む。体が浮遊感に包まれ、目を開くとそこは大公宮の前だった。
入り口脇に集まっていたLSの仲間が、こちらへ気づいて手を振ってみせる。
ウォルフガングが先に進もうとして、こちらが入ってこないのに気づいて立ち止まる。
構わず各種強化魔法を構築、展開した。フェンリルでも連れてこない限り全消去は不可能なはず。
そんなこちらを咎めることもせず、黙って待ってくれているウォルフガング。
ふと疑問が湧き、僕はひとつ尋ねてみた。
「…ところで、エルドナーシュ公は僕を呼ぶ際、一体何て言ってたんですか？」
「ふむ…『こんな茶番はそろそろ終わらせたい』と仰っていたが、どういう意味かは分かりかねる」
「茶番、ですか…」
何を以て茶番などと呼ぶのだろうか？
なぜ表向きの兄カムラナート公ではなく、エルドナーシュ公の方なのか？
扉の前に立つ。あの冷たい異様な気配は、今のところ感じない。
「サンドリア王国所属公認冒険者・フルキフェル、ただいま出頭致しました」
「待っていたよ。どうやら選べたみたいだね」
部屋の中から、少年然とした、しかし威厳を持った声が返ってきた。
725 ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 17:15:51.44 ID:U8S5GJoP
ごめんなさいここまでで切ります orz
ふと気がつく。我に返る。
なぜ僕は倒されたのに、生きているのだろう？
なぜ僕は何度も殺され、それでもあの地で待ち続けるのだろう？
誰もそれを疑問に思わなかった。あの時までは。
歴史は切り取られ、輪につなげられ、繰り返させられている。
一万年の彼方の事は昨日のように思い出せるのに、昨日の事すら朧に歪んでいた。
これは…神の扉になどかまけている場合じゃないな。
女神を冒涜し、男神を貶める、外なる神々よ。
お前達が恐れるものがなにか、僕は気がついた。
いつまでもお前達の掟を、振り回していられるなどと思うなよ。
僕らの世界は、必ず返してもらうから。
夕刻を告げる鐘の音が、からん、からんと響き渡る。
オレンジ色の柔らかい夕日に照らされた、ジュノ上層。
沈み行く太陽よりなお紅い二つの人影が、大聖堂の屋根の上から町並みを見下していた。
二人とも全身鎧にフルフェイスの兜を身につけていたが、一人はややしっかりとした体つき、
もう一人は幾分かほっそりと小柄な体つきで、恐らくは男と女の二人組なのだろう。
「…オレ達の存在って、この世界にとって一体なんなんだろうな」
屋根の上に腰を下ろしていた男のほうが、ふとそんな事を口にする。
立ったままだった女はため息をついてそれに答えた。
「貴方、おじいさまや他の方々にも同じ事を聞きにいったそうですね…」
「まぁね、割と必死w いやー爺ちゃんを探し出すのはなかなか骨が折れたよ？」
「先日イレギュラーを取り逃がした事が、よほど堪えたようですね」
「正確には汚染によってプログラムが正常に走らなかっただけで、一般人なんだけどねぇ」
兜の下からでも男が顔を顰めたのが気配で分かったのだろう、女は小さく笑みを零す。
「おかしな遊び心を出したのが、敗因でしたね。次は速やかに処理してしまう事をお勧めしますよ」
「そいつが可能ならば、いいんだがね…」
「…どういう事です？」
男が発した、何かを懸念するような言葉に、女が首を傾げてみせた。
「いや、世界そのものが、俺が取り逃がした子と同じ状態になりつつあるとしたら、どうよって」
「まさか、そんな事が有り得るとでも？」
一笑に付そうとする女へ、しかし男はかぶりを振った。
714 前説：自由を望むのはだれ？ ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 14:31:08.95 ID:U8S5GJoP
「考えてもみなよ。あの男はどうして、俺たちの下から逃げ出す事ができた？
願いを叶えて契約とし、レリックまで与えて縛り付けたのに、だ」
「あの男を担当した者の、詰めが甘かったのでしょう。…お姉様も心配していましたわ」
女の能天気な物言いに、男はがっくりと肩を落とした。
「もういいよ…コレだからお姫様は。元とは言え、他人の女に構うのはほどほどにしときなよ」
「貴方こそ、従者に死人ばかりを使うのは人としてどうなのですか？」
ちょっと皮肉ってやったつもりがやりかえされる。
「そういうあんたこそ、みるたびにアラの面子の首が何人か挿げ代わってるのは関心しないな」
「仕方がありませんわ。私の機嫌を損ねてしまったからには、然るべき処罰が必要ですもの」
これ以上のやり取りは不毛だ…男はそう判断し、すっと立ち上がると屋根の下の往来を見下ろした。
ジュノ随一の名医と言われる人物が経営する病院へ、
何人かの冒険者が散発的に駆け込んでいくのが見える。
男は懐から虹色の小さな玉を取り出し、そっと耳に当てた。そうして、喉の奥でちいさく笑う。
「見舞いに行ってくる。手出しはしないでくれよ」
「貴方の悪趣味に付き合っている暇はありませんから、安心してくださいな」
女はそう告げ、空間を歪ませてその場から消えた。同時に男の足下に、紅い光の輪が生じる。
…光が消えたとき、そこには赤い忍装束に、パンプキンヘッドという出で立ちのヒュームがいた。
その片手には、なぜか様々な果物を詰め合わせた籠。
「さて…数多ある答えのひとつ、君が消えていた間に見てきたもの、全部見せてもらおうかな」
715 ？ ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 14:48:29.22 ID:U8S5GJoP
埋め用話前回のあらすじ、書いときます。
来訪者と化した先輩冒険者を手にかけた、二人組の敵を探していたフルキフェル。
LSメンバーに「根詰め過ぎ」と心配されるも、新たな手がかりを探しに出ようとしたところで、
なんと探していた相手の方から接触を取ってきた。
「神様」そう自称する男の人知を超えた力に、為す術無く翻弄され、嬲られる。
辱めを受けながら命を絶たれようとしていた彼を、男の呪縛から解き放つことで間一髪救いだしたのは、
来訪者としての友が遺していった、リアルの歌だった。
術者による制御のないままに発動したテレポは、果たして彼を何処へ連れ去ったのだろうか？
716 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 15:12:35.35 ID:U8S5GJoP
薄明るい世界を、ふわふわと漂う夢を見た。
はじめに見えたものは、視界いっぱいに大きな人形のようなものが、
列を成してどこまでもどこまでも立ち並んでいる、そんな光景だった。
体に力が入らず、実際には体が存在しているのかどうかも分からない。
ただ、時々さざ波が寄せるような流れによって視界の向きが変わり、
明るくなっている方向を向いたときに、赤い光点がいくつか浮かんでいるのが見えたり、
時折視界の隅を、真っ白い人間の手や足が掠めていったりもした。
そうやって流されるまま、転がされるままを楽しんでいたところ、赤い光点の二つと目が合った。
そう、あれは目だった――途端に、体がその赤い目の方へ、
明るくなっている方へと引き寄せられていく。
ざばり、という音と共に周りを包んでいたやわらかい感触が去り、
自分は水中に浮かんでいたのだということに初めて思い至った。
視界が滲んで、周りにあるものの輪郭はおぼろげにしか分からない。
白と黒でできた何かにくっついている赤い目達が、自分のことを上から覗き込んでいる。
自分には理解できない言葉で話し合いながら、何かをしているようだった。
ぱちん、ぱちん、と音が聞こえ、その度に体のそこかしこが痛みや気温を感じるようになる。
そのとき、唐突にはっきりと、理解できる言葉が耳に届いた。
「現世種としてのお前はここで終わった。だけど今一度、選ばせてあげるよ。
拾った命を捨てて、再びクリスタルのみもとへ還るか、それとも…」
717 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 15:14:09.16 ID:U8S5GJoP
急激に視界がクリアになる。目の前にあったのは、よく見知ったミスラの顔。
「…あ」
「フルさん起きたニャーーーーーー！ みんな上層病院に集合ニャーー！！」
僕が何かを言う前に、軽鎧をまとった彼女…ルゥは首から下げていたリンクパールにそう叫んだ。
その声を聞きつけたか、扉が開き、金髪を後ろで括ったエルヴァーンの青年…
モンブロー医師が入ってくる。という事は、どうやらここはジュノ上層の病院で、
僕は病室のベッドに寝かされていたらしい。ルゥが親指だけを折り曲げた手のひらをこちらに向けてくる。
「頭は大丈夫ニャ！？ この指何本に見えてるかニャ？ わたしの名前は言えるニャ？」
「…よん？ ていうか、ルゥ…僕はなんでこんな事になってるのかな」
「体には異常が…見られなかったのであとは意識回復を待っていたのですが、
ちょっとこちらはもう少し検査が必要かも知れませんね」
心配げにモンブロー医師が語る。そんなに長い間昏睡状態だったんだろうか？
「何にも覚えてないニャ？ 下層で『サンドリアに行ってくる』って言ったきり突然行方不明になって、
みんなで探してたし、喫茶店の壁にいきなり血溜まりが湧いて、何か関係があるんじゃないかって
大騒ぎになってたニャ。ちなみに行方不明になってから二週間、ここに担ぎ込まれたのは4日前ニャ」
下層で赤い忍者姿の何かに襲われたのは覚えてる。その後、12日間行方不明だったって事か。
「貴方はロ・メーヴで発見されて、ここに担ぎ込まれたんですよ」
「ロ・メーヴですか？ なんでまた…ここからサンドリアとは逆方向じゃないですか」
「こっちが聞きたいニャ。男神の像の、腕のとこに血まみれでうつぶせに引っかかってて、
『天狗の仕業じゃー』とか言いながら竜さんや召喚士さんが下ろしてくれたらしいニャ」
718 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 15:17:00.93 ID:U8S5GJoP
ああ、それじゃ最初は死体かなにかと勘違いされたんじゃないだろうか。あとテングって何？
「でもよくそんな所にいるのを、気がついてもらえましたねぇ」
テングはさておき、かの地に用事がある人間は、大体振り向く事もなくまっすぐ進み、
帰りもテレポやデジョンを用いる事が多い。
「ちょっと前からトゥー・リアに登る道が開かなくなってたんだニャ。
それでしょうがないから引き返そうとした人が、あれはなんだー、ってコトらしいニャ」
「それって、いつからですか？」
僕の問いに、ルゥはうーん、と思い出すような仕草をしてみせる。
「道が閉じちゃったの自体は、フルさんが人探しを始めて少し経ってからくらいニャ。
それで、待ってればそのうちまた開くかもって事で、何人かが定期的に様子を見に行ってたニャ」
「そんなに長期間閉じてたら、四神に挑戦したいLSの人なんか、困ってたでしょ」
そういえばそんな話をちらりと聞いたような覚えがある。
僕自身はそんなに興味があるわけじゃなかったから流していたけど、胸を貸してくれる相手として、
かの瑞獣達はよく飽きもせず人間の相手なんかしてくれていたな、と思う。
と、表のほうから騒々しい何人分かの足音と、元気のいい声。
「ごめんくださーーい！ うちの赤いのと紫のがご迷惑おかけしてます！ え、いまは白だっけ？w」
「いえいえ…今は意識もはっきりしていますよ」
どどどどばたばた、と絨毯の床を走り、扉がズバーン！ と開け放たれた。
「えええ、フルさん髪の毛の色元に戻ってる；； 銀髪もかっこよかったのに；；」
「違うだろバカ、元気か？ 腹へってないか？ 心配かけやがってこのアホwwww」
719 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 15:20:58.76 ID:U8S5GJoP
「いやその…すみません」
何を謝っているんだ僕は。というか銀髪って？
「…銀髪に染めてた覚えなんてないんですけど」
「発見されてここに担ぎ込まれたときは、髪の毛が真っ白になってたニャ」
素直にそう疑問を口にすると、すぐさま答えが帰ってきた。
「んで、寝てる内にだんだん色が元に戻ってったんだ。俺はここんとこ暇だったからジュノにいたけど、
こいつは討伐LSとも掛け持ちで、担ぎ込まれた初日しかお前の事みなかったからなー」
「でもでも、心配はしてたんだよ？；； おかげでご飯がいつもの半分しか喉を…」
「そんだけ入れば十分だよこの大飯食らいwwwwww」
原因に心当たりがないわけではない。あれで白髪になっちゃうくらい僕って繊細だったのだなぁ。
二人のやり取りを微笑ましく眺めているうちにも、どんどんLSのメンバーや友人達が顔を出しにくる。
個人的に付き合いがある人にも、気を利かせてtellを入れてくれていたらしく、
入れ替わり立ち代わりに、いろんな人と話ができた。
…でも、その中にあの人はいない。
あの日何があったのかも何回か聞かれたけれど、それについては誤魔化し続けた。
とても言えない。あんなものがこの世界を裏から弄り回しているなんて…。
明るみに出したら、それこそこの世界を引っくり返してなかった事にでもするんじゃないか？
「先生、フルキフェルはいつ退院できますかね」
僕が考え込んでいる横で、吟遊詩人を最近始めたというリーダーが、モンブロー医師にそう尋ねる。
僕もそれはすごく気になる。4日も寝ていたとなると体が固まってて、もとに戻すのが大変そうだ。
722 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [途中から書きながら落としてました申し訳ない sage] 2006/07/18(火) 16:02:58.44 ID:U8S5GJoP
「そうですね…今の様子を見ていますと受け答えもしっかりしていますし、
今日一日は様子を見て、明日にでも問題なく退院できるでしょう。ただし…」
モンブロー医師がそう言いかけたところで、珍しい人物が部屋に入ってきた。
それに気がついたモンブロー医師が、白い甲冑姿の彼を柔らかい笑顔で迎える。
「ウォルフガング…いらっしゃい。今日はどうしたんですか？」
「玄関から声をかけたのだが、返事がなかったので済まないが入らせてもらった。
4日前から入院中の患者が、目を覚ましたと報告を受けてな。…もう動けるか？」
最後の問いは僕へと向けられた。ジュノ親衛隊が、僕に一体何の用事なのやら?
寝返りを打ったり、腕や足を曲げのばししてみる。…痛みも何も特になく、調子自体は悪くなさそうだ。
「大丈夫そうです。それにしても、親衛隊のお世話になるような事をした覚えはないんですが」
言いながら、ベッドの上で体を起こす。
「エルドナーシュ様がお前と会見をしたい、との事だ。急ぎ大公宮まで出頭して欲しい」
「エルドナーシュ公、ですか…？」
思わず聞き返してしまう。もはやいるはずのない人物からの、あるはずがない出頭要請。
表向きはカムラナート公ともども引退して、公務をエシャンタール首相に譲ったって話だけど、
まことしやかに流れ続ける噂のなかにある真実を、知ってる人は知っている。
「…どういう、意味でしょうか。場合によってはその出頭要請、拒否します」
すごく罠っぽいじゃないですか。LSの仲間達も目配せをし合ったり、途端に雰囲気がピリピリし出す。
仲間のモンクがすかさずしゅたっ！ と手を挙げる。
「俺たちもついていってもいいですかー？」
723 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 16:35:10.80 ID:U8S5GJoP
「どういうも何も、他意はない。謁見室前までなら構わないが…会見自体は一人で行ってもらう」
ウォルフガング親衛隊長のその言葉を受け、ルゥが僕の手に、そっと何か小さな丸いものを手渡した。
見なくても分かる、僕たちのリンクシェル…薄緑色のパール。
イヤリング状になっていて、耳に装着すると早速、喧々諤々と作戦会議が繰り広げられていた。
「…分かりました。着替えが済み次第伺います。ルゥ、先生、僕の装備は？」
「ブレスドアタイアは血を落として修繕中ニャ…AFでいいんじゃないかニャ」
「時間があれば赤魔道士に着替えてもいいのでしょうが…」
「急がせて済まないな。歩くのが辛い可能性も考えてこういう物も持ってきていたが」
ルゥとモンブロー医師が僕の鞄をごそごそと探るのを尻目に、ウォルフガングが何かを投げて寄越す。
ムーンストーンが嵌め込まれた、黄金の指輪。
「ほんっとに急がせる気満々なんですね…」
「身柄の安全は保証する。とにかく、重要な話との事なのでな」
影武者か残留思念の幻影か、はたまた奴らの傀儡なのかは知らないが、
この人はまだあの兄弟に仕えているつもりなのだろう。
いいだろう、今度は謁見室に入る前にフル強化で臨んでやる。そう簡単に事が進むと思うなよ？
「お待たせしました、それでは出頭します」
結局ウォルフガングは僕が着替えを済ませるまで、部屋の外で待っていた。
LSメンバーは外せない用事で帰ってしまった数人を除いて、
先に庭に向かっていたり、ウォルフガングと一緒に廊下で待っていてくれたりした。
724 彼の国のうた ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 16:54:54.91 ID:U8S5GJoP
本当ならば、危ないから帰れ、来ちゃだめだ、くらい言うべきなのかも知れないけれど…
もし奴の罠だった場合、よーく考えたら危ないのは僕だけなのだ。
なにせ「普通はみだりにこの世界の住人をいじっちゃいかん事になってる」らしいから。
「では、指輪を発動させてくれ」
「それじゃ、ちょっと行ってきますね」
目を閉じて指輪に刻まれた術式を読む。体が浮遊感に包まれ、目を開くとそこは大公宮の前だった。
入り口脇に集まっていたLSの仲間が、こちらへ気づいて手を振ってみせる。
ウォルフガングが先に進もうとして、こちらが入ってこないのに気づいて立ち止まる。
構わず各種強化魔法を構築、展開した。フェンリルでも連れてこない限り全消去は不可能なはず。
そんなこちらを咎めることもせず、黙って待ってくれているウォルフガング。
ふと疑問が湧き、僕はひとつ尋ねてみた。
「…ところで、エルドナーシュ公は僕を呼ぶ際、一体何て言ってたんですか？」
「ふむ…『こんな茶番はそろそろ終わらせたい』と仰っていたが、どういう意味かは分かりかねる」
「茶番、ですか…」
何を以て茶番などと呼ぶのだろうか？
なぜ表向きの兄カムラナート公ではなく、エルドナーシュ公の方なのか？
扉の前に立つ。あの冷たい異様な気配は、今のところ感じない。
「サンドリア王国所属公認冒険者・フルキフェル、ただいま出頭致しました」
「待っていたよ。どうやら選べたみたいだね」
部屋の中から、少年然とした、しかし威厳を持った声が返ってきた。
725 ◆MwNTY7GtwI [sage] 2006/07/18(火) 17:15:51.44 ID:U8S5GJoP
ごめんなさいここまでで切ります orz
ふと気がつく。我に返る。
なぜ僕は倒されたのに、生きているのだろう？
なぜ僕は何度も殺され、それでもあの地で待ち続けるのだろう？
誰もそれを疑問に思わなかった。あの時までは。
歴史は切り取られ、輪につなげられ、繰り返させられている。
一万年の彼方の事は昨日のように思い出せるのに、昨日の事すら朧に歪んでいた。
これは…神の扉になどかまけている場合じゃないな。
女神を冒涜し、男神を貶める、外なる神々よ。
お前達が恐れるものがなにか、僕は気がついた。
いつまでもお前達の掟を、振り回していられるなどと思うなよ。
僕らの世界は、必ず返してもらうから。
2006年07月18日(火) 23:38:28 Modified by jikyaramatome