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Kiesel ◆nu123wJPbk 33スレ目外伝

213 名前: ◆nu123wJPbk 投稿日: 2008/06/06(金) 13:30:00.44 ID:S8u3MIBI
「この世界に、『本当』なんてあるんですか?」


                                       「本当?」


     「だって、ほら。ぼくたちは、」


                            「本当だの嘘だの、何をもって証拠とするんだ」



   「それは……でも、じゃあ、どうして」


                            「『本当』なぞ、てめぇすら分かっちゃいねぇのさ」



214 名前: ◆nu123wJPbk 投稿日: 2008/06/06(金) 13:45:10.57 ID:S8u3MIBI
虚実入り混じる、と言う言葉がある。
では、虚とは何なのか。実とは。


「何で割れるんだよ」
舌打ち。目の前には、ぐっしょりと濡れた黒髪の兄弟。
おかしい。ゆで卵を作ろうとしていたはずなのに、どうして鳥の卵しか目の前にないのか。
「素人レシピで何で割れるんだ!!1ダースも用意したんだぞ、1ダースも!!」
「そんなこともある」
「あるとかないとかじゃねぇッ!!」
怒鳴っても、ゆで卵はできない。
これなら普通に鍋に湯を沸かして作ったほうが早かった。少なくとも失敗はしないし材料も無駄にしない。
夕食までの間食に、と思い立ったのはいいのだが、合成にかけた時間と材料と空腹感はプライスレス。……ちょっと違う。
「あーあ、ったく。これなら≪不死鳥の止まり木≫亭か競売まで行ってきたほうが早かったぜ」
「出来合いは嫌うだろう」
「……変なところで『昔』の記憶を引っ張り出すな」
溜息をつき、銀髪の彼はふと小さなリンクパールを取り出した。作れないなら頼むまで。
「悪い、今どこにいる?……ああ、それなら頼みたいことがある。簡単なものでいいんだが」
出前一丁。餅は餅屋に。そう言えばあのちびも料理が苦手だったっけ。
即席の料理教室を開くとは思いたくもなかったが、せめてジュースくらい絞れるようになってほしい。理想はヤグードドリンク。

215 名前: ◆nu123wJPbk 投稿日: 2008/06/06(金) 14:05:47.24 ID:S8u3MIBI
「今エティに頼んだから、来るまでに片付けとけよ。……壁とか」
そう言いながら示した先には、べったりと卵の黄身が張り付いていた。よく見ると、執務室の壁や床にはそうした汚れが残っている。
合成というのはイメージだ。そしてゆで卵はイメージしにくいものではない。が、どうして1ダース分もの材料を用意しておきながら、ひとつとして成功させることができないのか。
ゆで卵は、『リアル』では朝食から夜食、果ては付け合せにまで使われる、料理と呼ぶのもおこがましいほどに簡単でポピュラーなものだ。
いや、もしかしたらサンドリアではあまりゆで卵を食べないのかもしれない。
……でもやっぱり、ゆで卵くらいは普通に作れると思う。水を入れた鍋を火にかけてその中に卵を入れるだけのことをできないわけがない。
それともそんな質素なものを食することはないのだろうか。誇り高い騎士の国のサンドリアだし。でも清貧がどうとか言ってたしな。
そんなどうでもいい考えを適当に切り上げ、釣りで拾ったバケツを兄弟に押し付ける。タオルと雑巾もおまけした。
「あと、着替える!濡れた服着て書類なんか触んじゃねぇぞ」
「……ひとつずつ指示をしてくれないか」
あれこれと畳み掛ける相手に、黒髪の兄弟は溜息をついた。
この野郎、一体誰のせいだと。言いたかったが、言うだけ無駄なのでやめておいた。代わりに書類を一枚取り上げる。
「不思議だよな」
「何が」
「いや。オレたちがいた世界じゃ、合成なんて理屈が理解できなかったからな」
「『そちら』では、どうやって物を作っていた?」
「んー、道具を手作業で作るってのは滅多にないな。大体が工場で、機械が作ってる」
「……バストゥークがやっているようなあれか。あれは自然を破壊するだろう」
「ま、そうだな。木を伐り鉱石を掘り、……ああいや、でも植樹とかしてケアもしてるんだぜ」
採るのは一瞬だが、育てるのには何十倍もの時間がかかる。そういう意味では、焼け石に水なのだろうか。

216 名前: ◆nu123wJPbk 投稿日: 2008/06/06(金) 14:31:00.58 ID:S8u3MIBI
「バストゥークは好かない」
タオルで髪を拭きながら、兄弟がぽつりと口にする。
サンドリアは、ウィンダスに劣らぬ緑豊かな国だ。古くから自然との共生を望んできた。
工業大国であるバストゥークは違う。火を燃やすには木が必要だ。それは自然を破壊していく。
あの国のシンボルカラーである青は水を表しているそうだが、あの国で使用している動力は決して水だけではない。
小さな島国の生まれであり、今はサンドリアに身を寄せている彼にしてみれば、バストゥークをただ毛嫌いすることができなかった。
「しょうがない。……でも、資源がないならそれを大切にする方法も見つけられる。代わりを見つけることも」
「そうして世界を食い物にしていくんだろうな」
「…………ああ」
無限に得られるものなどない。いつかは枯渇する。耳が痛い話だった。
だが、こんなところで環境問題について議論する気もない。目下のところ、武具の損耗率のほうが問題だった。
どれだけ攻撃を受けずに戦うか。ゼロは無理でも、少しでも減らせないことには意味がない。
尽きない悩みを労わるように腹がひとつ鳴る。茶で空腹を紛らわすのも辛くなってきた。
おなかがすくと怒りっぽくなるからちゃんと食べないと。
誰かが昔言った言葉を思い出し、決して空腹からではない苛立ちを抑え、所有する装備品の一覧を眺めた。
『向こう』では、装備なんてデータ上のものだった。手触りも重さも存在しない。なのに今、この世界でこうして触れている。
知らず己の着ている王国制式礼服の腹を撫でた。服飾関係はさっぱりだが、それでも上質の素材が用いられているのは分かる。
『リアル』ではデータでも、『ヴァナ・ディール』では確かに存在しているのだ。

217 名前: ◆nu123wJPbk 投稿日: 2008/06/06(金) 14:45:35.65 ID:S8u3MIBI
『リアル』。Realとは、『真実』という意味だ。リアルが現実を意味するのも、現実こそが真実だからでもある。
では、この世界が現実である今、リアルとはどちらを指すのか。
「……オレにとってのリアル、か」
独白し、面倒になって書類を放る。仕事をしたい気分はどこかへ行ってしまった。
濡らした雑巾で壁を拭っている兄弟を見やり、ふと問いかけた。
「この世界での『オレ』って、どんな奴だった?」
さり気なく、けれど実際には感情を押し殺した問いに、問われた側は少しの間をおかずに応える。
「もう忘れた」
「忘れた?」
「今のお前が最初からあいつだったような気がする」
つまりそれは、もう本当の『彼』はいないのだ。『彼女』がもういないように。
「人の記憶とはそんなものだ。ましてや、あいつとまったく同じお前がいる以上、どうしてあいつの記憶を維持できる?」
「……じゃあ、あいつって、あいつは、お前を、」
「私たちは双子の兄弟だ。私はあいつの写しで、あいつは私の写しだ。ならばお前もまた、私の写しだろう」
じゅぶり、と、音を立て、雑巾からしずくが落ちた。
オレたちは双子じゃない。反論しようとしたが、彼らは双子だ。『彼ら』は双子なのだ。
「ひどいよな。……何で、オレと、お前だったんだろう」
「神も知らぬ意志だ」
短い応えは納得ではない。

218 名前: ◆nu123wJPbk 投稿日: 2008/06/06(金) 15:12:12.21 ID:S8u3MIBI
「もう返らないし、戻らない」
その言葉は、喘ぐように発せられた。
何を?誰を?あるいは、どこへ?その問いは、あまりにも空虚すぎた。もはやどこへも、誰も、何も返せない。
返せるなら、戻れるなら。できるなら……
「CG……コンピュータグラフィックスってのがあってさ、仮想現実で、どれだけ現実を表現できるか、って、そういうのがあった。
どれだけ本物に近付けるか。笑っちゃうよな、どうせ偽物なのに」
苦笑。
彼以外に笑う気配はない。
「どう見ても本物にしか見えないのに、偽物なんだぜ。偽物なのに、本物に見えるんだ。技術ってすげぇな、って思ったよ。
だけどさ、思うんだ。偽物でも、本物に見えるなら、それはもしかして、本物になるんじゃないか?どこまでも本物に似せた偽物なら、それは偽物なのか?」
それは会話ではなかった。独白に近い、あるいは願望に似た。
「『こっち』に来てしばらくは、ゲームの中に来ちまったんだと思った。だけど違う。1時間は3分じゃないし、1日は1時間じゃない。1時間は1時間で、1日は1日なんだよ。
じゃそれって、ゲームじゃないよな?ゲームの中の世界じゃなくて、世界そのものにいるってことだよな?だったらここにいるオレは偽者でも何でもないし、この世界だって偽物じゃない。
なあ、だったらオレにとっての本物って何なんだ?今まで本物だったオレって何なんだ?本物って何なんだ?」
「……ケイ」
「その名で呼ぶなッ!!」
感情を叩きつける。
不安も、恐怖も、ありとあらゆるおぞましい感情が雑じり合っていた。その感覚すらも本物。
にせものなど、どこにもない。

219 名前: ◆nu123wJPbk 投稿日: 2008/06/06(金) 15:30:56.67 ID:S8u3MIBI

こんこん。

控えめに扉がノックされた。
「お、遅くなりましたっ……」
恐る恐る、室内に向かって声がかけられる。
入室を許可しようとする彼へ黒髪の兄弟が手を掲げて制し、少し待つように扉の向こうへ言う。
恐らく扉の向こうでは、彼らがよく見知った相手がお行儀よく待っているだろう。そういう子だ。
「もし、それが分かったとして、お前は変わるのか?」
静かに問う。問われた側は、灰青の瞳を揺らして応えた。
「変わる……?変わら、……いや……」
「分かっても分からなくても変わらないなら、どうでもいいだろう」
それは非常に簡単な理屈だった。
そして、もうひとつ。
「お前は本物だろう?この世界が本物なら」
たったそれだけの言葉。結局のところ、たったそれだけだ。
本物も偽物も嘘も真実も。
わざわざそんなものを追究しなくても、変わらない。少なくとも今は。そしてこれからも変わらない。
どっちでもいい。どうでもいい。単純明快で、恐らくそれが真実だ。
もしかしたら、本当は『向こう』が現実ではないのかもしれないのだから。

220 名前: ◆nu123wJPbk 投稿日: 2008/06/06(金) 15:59:52.20 ID:S8u3MIBI
どれほど考えても分からないようなことを考えても無駄だ。ただ分かるのは、彼らは互いに空腹だということ。
「無駄なことを考えるためにエネルギーを使うのは感心しないな。余計に腹が減る」
「……お前が合成に失敗しなけりゃ腹も減らねぇよ」
さらりと言い放つ相手に悪態をつき、首を振る。
ああ、駄目だ。やっぱり空腹だと余計なことをしてしまう。怒るのも、考えてしまうのも。
「あの、まだ、入ったらダメですか?もう少し待ったほうがいいですか?」
扉の向こうから声が聞こえた。銀と黒の兄弟は、声を揃えて入室を許可する。
先程から、狂おしいほどに香ばしく鼻腔をくすぐる料理の匂いがわずかに香っていた。
多分クァールサンドとタブナジア風タコス、それに食後のデザートとしてパイあたりだろうか。軽くつまむにはちょっと重い気もするが。
いつかは一抱えもある鍋を持ってきたこともあるから、……まあ、多少は妥当な判断……だと思いたい。
そこまで考え、机の上を見やる。片付けようと思っていた書類がちっとも片付いていない。
もしかしてこれを見越していたのかな、と思いつつ、そぅっと扉を開けて入ってきた青年へ席に着くように手振りで示した。
珍しくダブレットを着た彼はバスケットを抱え、ふいと首を傾げる。『手伝うんですか?』との問いも含めて。
双子の兄弟は同時に頷き、その前にバスケットの開封をまず望む。望まれなくても、バスケットは開けられた。
どうせすぐに片付けても、あとで片付けても、最終的に片付けばよいのだ。3人でやれば、今日中に片付かないわけでもないだろう。
仕事の優先順位は問題ではない。っていうか腹が減った。そう、我々は腹が減っている。
不安も悩みもとりあえず隅に押しやり、双子はそれぞれのカップに茶を注ぐ。
美味い食事を前にして、一体何をためらうことがあるだろう?いやここでためらう奴はただの馬鹿だ。
我々は馬鹿ではない。よって食事をとることを最優先とする。

221 名前: ◆nu123wJPbk 投稿日: 2008/06/06(金) 16:22:59.44 ID:S8u3MIBI
「……ほんとにおなかすいてたんですね」
茶を一口含み、新たな来訪者は顔をしかめて呟いた。
いつ淹れられたのか定かではない茶はひどく渋く、それが茶による安息効果を求められたものではないと容易に判断できた。
丁寧に調理されたクァールのソテーに野菜とソースをあわせて白パンで挟んだサンドウィッチを頬張る黒髪の兄弟の代わりに、魚と野菜たっぷりのタコスをかじっていた彼が頷いて応える。
「考えてみりゃ、ブランチを軽くとったっきりだったしな。……駄目だな、飯はちゃんと食わないと」
自嘲気味に言い、もう一口。


結局のところ、どうでもいいのかもしれない。
多分どうでもいいんだろう。
この世界が本物でも、むこうが偽物でも。
何ひとつ本物と変わらない偽物は偽物ではないのだから。
本物と信じられた偽物は本物となりうるのだから。


「食い終わったら仕事やるぞ」
「……明日でもいいだろう」
「あ?なんか聞こえた気がすんな」
「ぼくも手伝いますから……」
2008年11月21日(金) 18:02:16 Modified by feathery_snow




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