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Kiesel ◆nu123wJPbk 36番目本編

「・・・?」
ふと呼ばれたような気がして、私は顔をあげた。
ウィンダスの街中は、爽やかな風が渡っていく。とても心地よくて、ぐぅっと伸びをした。
と。遠くで、風鳴りを聞いた気がする。
いや、それは
「・・・え?」
頬を、一筋。
つぅと滴が伝う。
遅れて、痛みを感じた。
「な・・・」
それが気のせいでも、あるいは自然によるものでもないとはっきり理解する。
どうしてって、それは、あの、闇のような服装の・・・
「・・・サユキ」
黒髪の男が、私をまっすぐに見つめている。
ああ、嘘だ。嘘。
その手にした刀はなに?どうして私を見つめるの?
「シオン」
そう呼んだ。違う。あなたはいつもそう呼んでくれたけど。
どうして、私に得物を構えるの?
「サユキ・・・」
もう一度、名前を呼ぶ。そう、間違いなければ彼は私の友人。いつも私と一緒にいてくれた。
初めてジュノに行った時も、アーティファクトを取りに行った時も、マートの試練に悩んだ時も。
友人以上に親しく、そして、大切な人。
「どうして・・・」
音もなく、距離が詰まる。金属の触れ合う音を意識する前に、私は剣を抜いていた。
剣と刀が触れ合う。重い。もう片手の刀が振られ、力を逃がすように私は避ける。
どうして、私を?
黒い瞳は何も言わない。殺気もなく、親愛もない。ただ、無がある。
来訪者を狙う存在。そのことを、ふと思い出した。
違う。私は来訪者じゃない。私はこの世界で生まれ、この世界に生きている。だから私は、来訪者じゃない。
「嘘・・・」
私に向けて、媒介が投擲される。
「嘘だ・・・!!」



「キーゼル」
呼ぶ声に、私は身じろがず応えた。
「なに?」
「動いた」
「ここ?」
「ウィンダス」
その名前を聞いて、ゆっくりと手を引いた。
目の前には、上半身裸のエルヴァーン。眠っているように目を閉じているのは、ちょっとした力技で意識を失っているから。
どんな方法かってそりゃあ、背後からの一撃というほかない。
金髪のエルヴァーンは名をファルズンと言い、このエラジア大陸でも色々名の知れた勇者だ。
その胸に差し入れた手を、静かな水面に波を立てないようにそっと引く。血も出ないし、そもそも傷ひとつない。
「狙いは、誰かな」
「さあ?"凶鳥"じゃあないと思うけど」
「・・・ん」
丁寧に畳んでベッドテーブルに置かれたシアーチュニックを適当に取り上げ、
「『起きて』」
言うと、彼は小さく声をこぼして目を覚ます。けれど意識は彼のものではなくて、"私"のものに近い。
彼は視点の定まらないままのろのろと着替え始める。見ている趣味はないから適当にチュニックを放ってクウに言う。
「じゃあ、シオンだ。彼女は"私"だもの」
「・・・シオン?あのミスラ?」
肩をすくめるクウに、私は応えず、考えを巡らせる。
キーゼルとシオンは、"私"という共通項を持つ同一存在だ。そして、カイ。彼もまた、"私"。
キーゼルやシオンと同じ、青い瞳。青い瞳のカッパエルなんて、ハイポリならともかくフェイスパターンにはない。実際に、ミガイフォングやティア兄さんはヘイゼルの瞳だった。
カイも別垢だったっけ?なんだか覚えがないけど。でも多分、シオンとは別垢だったと思う。いやはや、『リアル』の記憶がいい感じになくなってきてるな。
私自身も、私じゃない"私"を受け入れようとしている。それは決して好ましいことじゃない。

こんこん。

不意に扉がノックされる。
さり気なく腰の剣に手をやったクウを手だけで制し、私は言葉で入室を許可した。
静かに扉を開けて現れたのは、律儀にもメガスアタイアをきっちりと着込んだヒュームだった。
室内を不安げに見渡した相手のその顔を覆い隠すメガスケフィエを透かして、まるで幼子のように無邪気な笑みが浮かぶのが見えた。
「リシュフィー?」
「こんにちは、シオンさん」
お邪魔します。と丁寧に断り、戸口からいそいそと歩み来る。その仕草から、何か急ぎの用があるように思えた。
どこからともなくクウが取り出したチャイを嬉しそうに受け取り、口を付ける。ああ、この幸せそうな顔はどこかで見たっけなぁ・・・
やっぱり金髪の誰かを思い浮かべ、まあ問題なかろうと振り払う。あれだけ護衛がついてるんだし。
「で、何しに来たの?」
テーブルにジンジャークッキーやらアップルパイやらを並べだし、お茶会を始めようとしている2人を伝家の宝刀ハリセンで叩きながら訊くと、リシュフィーは頭を抱えながら応えた。
「う、うん・・・えっと、アフマウさまを知らないかと思って」
「アフマウ?マウがまた抜け出したの?」
かわいらしいヒュームの少女を思い出し、ふぅん、と声を漏らす。クウは肩を竦めて見せた。
彼女はいつも、すぐにあっちこっちに行ってしまう。世間知らずで無茶苦茶だけど、決して我欲だけで動いてはいない。
「マウの姿が最後に確認されたのはいつ?」
「ええと・・・昨日の皇都防衛戦の前かな。まさか巻き込まれたんじゃないかって」
それにしては、あまりにも静かすぎる。ビシージが始まる前にも最中にも、そして終わった後にも、アトルガン皇国は変わりない。
恐らく最後に彼女が目撃されたのは白門だろう。アルザビではない。
彼女はどこへ行ったのだろう?なぜ行ったのだろう?
そうだ。彼女が行ったのは、
「リシュフィー?あなたが白門を離れたのはいつごろ?」
「え?・・・えっと、僕が離れたのは・・・皇都防衛戦の前・・・」
「分かった」
彼女は影響下にはない。
それならどうにかなりそうだ。
私はリシュフィーへにっこりと笑いかけ、なだめるように言った。
「大丈夫。見つけたら保護するよ。誰よりも先に」



「ッ・・・」
刀を跳ね上げ、間合いを取る。
速い。魔法を唱えている余裕がない。ストンスキンはおろか、ファランクスだけで精一杯だった。
もちろんプロテスもない。だからというわけではないけれど、
痛い。
足が震えそうになる。なぜだか涙が出そうで、けれどそれよりも早く次の攻撃が来る。
怖い。
どうして。
どうして?
それすら問うことも許されない。
すっ、と一瞬構えが変わる。得物に闘気が込められ、・・・まずい。
受け流そうとするのを急いで姿勢を変え、風鳴りしか感じられないほどの早さで叩き込まれたウェポンスキルをかわした。
エラントウプランドの裾が揺れたのは、私が動いたからだけじゃない。
ああ、もう。動きづらい。着替えたいけど・・・
一瞬。脳裏にパレットが浮かぶ。いくつかのパネルからひとつを選ぶイメージ。
「!」
瞬きをするだけのわずかな間に、ウプランドからワーロックアーマーに着替える。今のは、マクロのイメージ・・・?
[前を見て]
高くもなく低くもない、中性的な声が聞こえた。
[これは私のイメージ。ウィンドウ越しに見る世界]
一瞬白い枠が幻に見えた。そこに映る姿は私で、つまりそれは、"彼女"の記憶?
[システムがきみをサポートする。落ち着いて。きみは、]
「・・・私は、」
サユキが私を見つめている。感情も、殺気もなく。
ああ、そうか。知っているんだ。私が、"彼女"だってこと。
マナが紡がれる。サユキはわずかに身構えた。来る。遅い。魔法が発動した。
マナの鎖が彼を拘束する。まるでその場に釘付けにされたかのように動けなくなる。バインドの魔法だ。
舌打ちが聞こえた気がした。間を取り、連続魔。プロテスといつの間にか切れていたファランクス、ヘイストを自分に、スロウとサイレス、グラビデを相手にかける。
リフレシュをかけてから、私はそっと手を振る。白銀の刃を持つ剣・・・嘘、これは
「持たない武器を選んだね」
中性的だけど低く落ちた声が言う。サユキの声じゃない。誰の?
疑問が浮かんだその時、すっと私の前に人影が現れた。変わったデザインの、ローブともタバードともとれない衣装。
シャジュブルだ、と理解するよりも先に、エラントカフスをはめた手がサユキに向けられる。
「『あれ』は、『敵』でしょう?」
聞き覚えのある声が、私を動かした。
軽く背を押されたように、するりと体が進む。剣を両手で構え、一息に踏み込む。
大地に絡めとろうとする重力に抗いサユキが防御姿勢を取ろうと、いや、
取らない。
その瞳に浮かんだ感情は
                ただ、優しくて。



胸に突き込んだその感覚は、なぜか、綿にそうするかのように呆気なかった。



音もなくその体が倒れる。私の手を離れた剣は光の欠片になり消えた。
伏せたままサユキは動かない。いや、わずかに呼吸するのが分かった。
「・・・サユキ」
応えない。足から力が抜けて、そばに座り込んでしまう。どうして。
ふ、と、か細いけれど息を吐き、サユキはわずかに視線を動かし私を見た。
「・・・強くなったな」
私へ向かって言ったのか、それとも私の後ろへ向かって言ったのか。それは分からなかった。
そっと手を差し伸べ、力ない彼の手に触れる。
「・・・どうして、」
意味をなさない私の言葉にサユキは溜息をつき、目を閉じる。
「別に・・・お前に会いたかっただけだ」
「だからって、どうして」
「冒険者は、止まらない」
「止まらない?」
「止まるのは、『終わり』だ」
終わり。いつか、聞いた気がする。終わりって何だろう。終わり。
脳裏に言葉が浮かぶ。
[『終わり』は、存在しない存在。劇における退場者。舞台から去った人物は、語られることはない]
酒に溺れようが、病に臥そうが、戦で死のうが、その様が語られることはない。
私たちは、脚本のない劇の登場人物だ。意志があるように見えても意志はなく、けれど劇の中でなら私たちは意志を持つ。
舞台から退場した人物のことなど語られることはない。だから、どうとでもなれる。
[そこに付け入り、存在を改変された存在が"狩人"。来訪者を狩り、『鍵』として新たな扉を開こうとする]
「・・・あなたは、そこまで理解したのか」
[何人目だと思うのさ]
笑う気配。私は顔をあげて、私の側に立つ彼へ言った。
「お前も・・・"彼女"を知っていたのか?」
「そうだね」
小柄な姿が視界に混ざる。彼は少し寂しそうに両手を後ろで組み、いくらか視線を落とした。
「ごめんなさい。でも、これっきり。『これ』を『媒体』にはしないから。あなたに返すから。ごめんなさい。私も、私は、"彼女"の"欠片"を守っているから」
純白のノーブルチュニックの背が、何だか小さく見える。まるで、親に叱られた子供のようだ。
「シオン」
不意に、サユキが私を呼ぶ。
彼は苦しそうにゆっくりと起き上がり、それから私をまっすぐに見た。
「お前は、お前の役目を果たせ。・・・あいつとは違う、お前の役目を」
「私の役目?あいつって・・・」
「門番を」
唸りにも似た声が告げる。私が、門番?
"彼女"が"鍵"、"キーゼル"が"騎士"、そして私が、"門番"。
"騎士"は何を意味する?門を守るなら、"門番"がいる。ならば"鍵"を守るのが"騎士"か。
でも、それだとしたら、他の"欠片"の立場が分からない。特に彼が。
最後に一度大きく息を吐き、サユキは力なく倒れる。地面にぶつかる、と思ったわずかな間に、彼の姿は消えた。
死んだりしたわけじゃない。なぜかその確証があった。
そぅっと、彼が私の側に座り込む。
「シオン、あのね・・・あなたには、分からないかもしれない。この『世界』のこと。"私"たちは、繰り返される『世界』を見てきた。・・・ううん、私たちじゃなくて、"彼女"は見てきた」
たどたどしく、とりとめなく、彼は話し出す。
「今の"彼女"はまだ繰り返しのはじめ。だけど、だから、繰り返しから離さなきゃいけない。ごめんなさい。私たちは"彼女"を助けられなかった。
私たちも、がんばってきた。何度も何度も繰り返し"彼女"が集めてきた、少しずつの情報をまとめて・・・今度は大丈夫、って、そう、大丈夫だって思って・・・
でも、いつもダメだった。どうしてだろう?って考えて・・・"彼女"の"欠片"が足りないことに気づいた。私たちは、ずっとキースのこと勘違いしてた。信じてあげなかった」
彼の手には、華奢な色糸細工の指輪があった。"彼女"が、『彼女』に贈ったのだろうか。
「"彼女"は赤魔道士で、彼女は黒魔道士。あの方が戦士。私は白魔道士で、彼が暗黒騎士とナイト。だから、それが正しかった。"彼女"と彼女だけじゃ足りなかった。ようやく揃った。"彼女"の"欠片"」
「・・・それで、キーゼルだけでなく私とカイが?」
「ごめんなさい。過去の"彼女"が残した封は、それぞれに置いてきた。サンドリアはソルニエに。バストゥークはシドに、ウィンダスはシャントットに。
ロラン・・・リュシアンが教えてくれた。多分"彼女"はひとつの場所にいたがらない。冒険者はそういうものだと思うから、って。
"欠片"は、みんな同じ封を持ってる。"彼女"が『リアル』から持ち込んだもの」
ふと襟元に手を差し入れ、華奢な鎖を通した円柱のペンダントを取り出した。
「私には分からないけれど、この子が持っているなら、これがサンドリアに残した封。"彼女"はサンドリアとバストゥークを回ったのかな」
「・・・だとして、何の意味が?」
「揃えないといけないの」
ふと、ペンダントをはずして掲げる。ちらちらと光を反射して、ペンダントはまるで星のようだ。
その光を見つめ、灰青の瞳を細めた。
「揃えたら、彼女に会わないと。あの子はきっと怒るけど、"鍵"の対の"門番"、『こちら側の"鍵"の預かり手』が待ってる」
そこまでを聞いて、私はようやく疑問を口にした。
「なぜ、私に言うんだ?直接キーゼルに言えばいいじゃないか。私よりも"彼女"を案じている」
「"キーゼル"?」
すぅ、と目が伏せられる。悲しそうに、あるいは困惑するように。
ペンダントを再び身に付け、それから私を改めて見た。
「あなたは不思議なことを言う。"キーゼル"なんていないよ?あなたとこの子、それに"彼女"。"欠片"はそれだけ。
あなたの言う、"キーゼル"は誰?仮に"キーゼル"を名乗れるなら、"彼女"しかいない」


「・・・え?」


私の中にあった何かが壊れた気がした。
嘘だ。"彼女"と、"彼女"を守るキーゼル。まるで双子のようなふたり。
同じだから。そうだ、"彼女"とキーゼルは同じだから、・・・違う。
同じなら、存在できるはずがない。
「・・・でも、キーゼルは、ソルニエのことを・・・そうだ、あいつは自分で自分の過去を話した。昔バストゥークにいて、獣人に母親を殺されたって」
「そんなはずはないよ。だって、キーゼルは子供が産まれる前に死んでいる。子供が産まれたのはサンドリアでの話・・・
待って、母親が死んだ?獣人に殺されて?」
そっと唇に指先で触れ、わずかに視線をさまよわせた。
「嘘。彼女が死んだのは確かだけど、彼女は病死だよ。マダムはその『キーゼル』の話をそのまま聞いていたの?それならその『ソルニエ』は誰?
マダム・ソルニエなら、そんな馬鹿げた話を最後まで聞くはずがない」
ふいとうつむいたその横顔を、白銀の髪が隠す。最前までそれは、月光細工の金に見えていた。
しばらく目を閉じ、それからゆっくりと開く。顔をあげ、私へ言った。
「あなたの会った人たちは、本物?本当の人たちだった?・・・あなたは、それを確かめていない。あなたは『冒険者』なのに」
冒険者。
サユキも言った。冒険者。
ざわりと体の内側のどこかが震える。ああ。何てこと。
私は私を信じていない。誰かのことばかり信じていた。
あの日、石造りの街並みの中で誓ったじゃないか。『もう一度始めよう』って。
『もう一度、世界を見よう』って。
それは誰の『もう一度』?諦めたのは誰?
「ありがとう、助かった!」
たったそれだけを伝え、私は背中を押されるように駆け出す。けれど、あることに気付いて足踏み。
「えっと・・・伝える!"キーゼル"に!」
「キーゼルに?」
小さな反芻を確かめるよりも早く、私は再び駆け出していた。



だから、その呟きは聞こえなかった。
「ねえ、アリア。今度の"キーゼル"は、随分元気なんだね。それとも、私が本当のあの子を知らなかっただけかな?」





「暗くてじめじめして、なんだか嫌な気分になってしまいそう・・・」
「・・・・・・」
「ええと、こういう時は気を紛らわせるといいのよね。何をして気を紛らわせようかしら?」
「・・・・・・」
「そうだ、歌を歌ってみよう。どんな歌がいいかな」
「・・・・・・」
「そう言えば、この間誰かが歌っていたのよね。えっと、どんなリズムだっけ・・・」
「・・・・・・」
「確か・・・せかーいでーいちーばんお姫様ー♪」
「・・・少しは静かにできんのか」
あくまでも自分のペースを崩さない相手に知らずこぼれる。
それにしても暇だ。檻に閉じこめられている以上、何かできるわけでもないのだが。
内側から鍵を開けることはかなわない。誰かが解放してくれるまで待たなければならない。
脳天気な歌声が周囲のトロウルどもの気を引きはしないかと懸念したが、幸いにも気付かれてはいないようだった。
調子外れの歌を口ずさむ少女を視界から外し、ふと表情を引き締める。
濃緑のチュニックを着た男が、悠然と歩いてくるのが見えたのだ。
トロウルのすぐそばを通っても恐れる様子もなく、トロウルもまたそいつを無視するように気をやらない。
武器も盾も持たず、供を連れもせず、まるで歩き慣れた散歩道を進むかのようだ。
奴は敵か味方か。いや、たとえ味方だとしてもいかなる存在か。仕草からは判断がつかない。
男はゆったりと歩を進め、彼らの捕らわれた檻に辿り着く。
男にしてはいささか細い指で触れると、静かに鍵が外れる音がした。
それから、衣服が汚れるのもかまわずゆっくりと膝を突き頭を垂れる。
「我が主の命により、お迎えにあがりました」
中性的だがいくらか低く落とした声に、最前まで歌っていた少女が首を傾げた。
「あなたは、山猫の傭兵ではありませんね」
「はい。我が主はいずこにも属さぬ御方。言うなれば、『ここではないどこか』へ旅をされておられる御方」
「それは、中の国のどこにもないのね?」
その言葉への問いは、一瞬の間があった。
「道行きの先はただひとつ、『リアル』と」
「リアル・・・」
短い単語を口にし、差し出された手を取った。
2009年12月02日(水) 03:41:46 Modified by feathery_snow




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